中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

「『バブル警戒論』花盛り」 - たしかに東証1部のPERはこの半年を見ても高くないです

3月期決算企業の第3四半期の決算発表が始まりました。私は40社程度の決算短信を日中の昼休みと週末に読むのですが、読むべきポイントはQ3(10月~12月)の3ヵ月の業績がQ1、Q2と比べてどのように推移しているか、また、2020年度の業績予想の上方修正があるか否かといったところかと思います。

さて、本日の日経新聞に「『バブル警戒論』花盛り」という記事がありました。世間では、最近の株高を受けバブル警戒論が花盛りですが、本当にそうだろうかという内容の記事です。

たしかに日・米・欧とも株価は上昇していますが、過去半年間を見るとほぼ横ばいであり、その中で株価が上昇しているということは、企業業績というファンダメンタルズの裏付けがあるということです。

PER=株式時価総額÷当期純利益です。企業のファンダメンタルズが現状維持又は低下する中で株価だけが上昇すれば、たしかにPERは高くなります。何故ならばPERの分子のみが上昇するからです。しかし、この半年間PERは横ばいで、株価が上昇しているということは、分母である当期純利益も増加しているということになるのです。

東証1部企業のPERのヒストリカルを拾うと、おおよそ2020年1月から5月までが15倍程度、6月~10月が20倍程度、11月~12月が22倍程度といったところです。ちなみに、2019年は年間を通じて15倍~16倍、2018年は15倍~20倍です。2013年及び2014年は20倍~21倍といったところです。これを見る限りにおいては、現在の直近の22倍という数値はバブルと言えるほど高くはないのです。

ここ数日の日本電産安川電機などの決算発表を見ると2020年度の見通しの上方修正を加えております。このまま業績上方修正を企業各社が続ければ、日経平均株価やTOPIXが上昇してもPERは割高とは言えないということになります。

ということでバブル警戒論もあるようですが、さほど気にすることはないと言えるようです。勿論、2021年度が企業業績が本年度より落ち込むとなると話は変わりますが、今年の5月以降はコロナワクチンも日本で始まることを考えると2021年度が落ち込むということは考えにくいでしょう。

日本製鉄によるTOBについて東京製綱は意見表明を留保 - 対抗措置の準備に入るか?

日本製鉄による東京製綱へのTOBですが、本日、東京製綱が意見留保を表明いたしました。テレビ東京のニュースでは、反対意見が確実のような報道でしたが、反対ではなく意見留保にしたようです。テレビ東京の報道も東京製綱のどのレベルの関係者に裏を取ったのか知りませんが、結構いい加減ですね。

それはさておき、東京製綱の本日付の「日本製鉄株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(留保)のお知らせ」に次のとおり記載されています。

当社は、公開買付者から、対質問回答報告書が提出され次第、速やかにその内容を精査し、公開買付届出書の内容その他の関連情報とあわせて慎重に評価・検討を行った上で、本公開買付けに対する当社の賛否の意見を最終決定のうえ、表明する予定です。株主の皆様におかれましては、当社から開示される情報に十分にご留意いただき、慎重に行動していただきますよう、お願い申し上げます。

東京製綱は日本製鉄に質問を投げています。その内容も本日のプレスに記載されており、10個の質問事項がありますが、その中でいくつか取り上げます。

(2) 本公開買付けに関して、貴社がファンドや当社株主、当社の協業会社その他の第三者との間で、何らかの連絡、協議、合意、その他の意思連絡等をなされたか、なされた場合にはその具体的な内容をご教示ください。また、今後このような連絡、協議、合意等を行う予定がある場合は、その相手先及び内容等について、具体的にご教示ください。
(4) 貴社は、本公開買付けを実施せずに、本公開買付けの買付予定数の上限である1,625,500 株の当社株式を市場で買い進む方法もあったはずですが、その方法を採用せずに敢えて本公開買付けを実施した理由及び目的についてご教示ください。
(5) 事前に当社に対して当社株式の買付けについて何らの協議も申し入れることなく、突然、本公開買付けを開始することが、当社のステークホルダーの皆様(当社の取引先様、従業員、他の株主等を含みます。)にもたらす不安・混乱等の影響、ひいては、当社の企業価値に及ぼす影響について、いかなる評価・検討を行われたのかにつき、具体的にご教示ください。
(6) 実際に、本公開買付けの公表後、当社の顧客等から懸念の問合わせが来ております。具体的には、本件に対する当社の意見表明の内容によっては、貴社が当社への材料供給等に関して何かしら不利益を課すことを考えておられるのではないかとの懸念であります。このような懸念に対し、当社の主要サプライヤーである貴社は、どのようなお考えをお持ちか具体的にご教示ください。 

個人的には太字でハイライトをした記述が興味深いのですが、特に(2)などはどういう意図で質問したのかなと想像をすると、日本製鉄が他の第三者と共同して、つまり意思を通じてTOBを実施するのであれば、その者の保有分も含めて20%超ということで東京製綱は買収防衛策を発動することを念頭に置いているのかなとついつい想像してしまいます。

また、(5)や(6)の質問なども日本製鉄の行為が東京製綱の企業価値ひいては株主共同の利益、株主以外のステークホルダーの利益を損うことの証拠作り、つまり買収防衛策の対抗措置発動の下準備のためのような質問にも思えてしまいます。「買収防衛策の発動=企業価値ひいては株主共同の利益の確保」は常套文句です。

今回は東京製綱は意見表明を留保しましたが、反対表明に近い留保表明で、東京製綱は既に戦いの準備に入っているかも知れません。万一、買収防衛策の発動などとなった場合にはとても面白い事案になると思います。引き続き注視して行きたいと思います。

ヨロズ(7294)の臨時株主総会の株主提案が否決 - しかし、株主提案の賛成率はなんと48%でした!

村上ファンド系のアクティビストのレノが自動車部品メーカーのヨロズ(7294)に対して、買収防衛策の廃止にかかる定款規定の新設を求め臨時株主総会の招集を請求したことは以前に次のとおりブログで紹介させていただきました。

その後、1月22日にヨロズの臨時株主総会が開催され、株主提案は否決されたのですが、昨日、ヨロズがこの臨時株主総会での議案の反対率を公表しましたが、それによると株主提案の反対率は51.83%であったということです。つまりアクティビストの株主提案に対する賛成率が48.17%もあったということでした。

定款変更議案は株主総会の特別決議事項ですので、66.7%の賛成が必要であるため、レノの株主提案が可決されるにはまだまだ数が足りないのですが、株主提案に対する賛成票が48%もあったということはなかなか凄いことと思います。アクティビストであるレイに賛同する機関投資家が大勢いたということかと思います。たしかレノ側の株式保有比率が11%程度あるので、37%近いアクティビスト以外の株主が株主提案に賛同したということです。

普通決議事項であれば、場合によっては株主提案が可決される勢いであったとも言えます。ヨロズはかなり焦っているのでないでしょうか。法的には否決されましたが、株主提案に対する賛同がこれだけあったというのは大きな問題かと思います。

ヨロズは1月22日に「臨時株主総会決議ご通知」で株主提案は総会で否決されましたと一言書いた結果だけを開示していますが、これだけで単純に済ませてはいけないでしょう。株主に対する説明責任をつくす必要があるかと思います。アクティビストもヨロズには引き続き色々と株主提案をしていくのでしょうが、興味深いのでまた進捗などあればアップデートしたいと思います。

日本製鉄による東京製綱へのTOBが開始 - 日本製鉄が19.91%の株式取得にとどめる理由は?

先日、日本製鉄による東京製綱へのTOBについてブログに書きましたが、日本製鉄はTOBを開始したことを本日公表しました。今回のTOBでは日本製鉄はTOB後の東京製綱の株式所有比率を19.9%としています。20%超を取得しないのです。理由として、日本製鉄のプレスリリースでは次のような記載があります。

当社としては、対象者の企業価値の回復・向上のためには対象者の経営体制及びガバナンス体制の再構築が不可欠であると考えており、これらの実現のため、株主として対象者の経営陣との間で、新たに社内人材を対象者の取締役として選任することや独立性及び多様性を確保した取締役会の構成等について協議を行った上で、当該協議を踏まえた必要な提案を行っていく予定であり、まずは本公開買付けによる対象者株式の追加取得を通じて、対象者の企業価値向上へのコミットメントを高めることを目指すものです。他方、上記のとおり、対象者の経営の独立性を維持し、対象者の本来の技術力やブランド力を十分に発揮することができる経営体制及びガバナンス体制を整えることで、現経営方針が適切に見直され、対象者の企業価値を回復・向上させていくことができると考えております。そこで、対象者株式の追加取得により対象者の企業価値向上へのコミットメントを可及的に高めるという目的を踏まえつつ、対象者を当社の持分法適用会社としないことで対象者における経営の独立性を維持し、また、当社において本公開買付けのために必要となる投資金額の合理性等の観点等も総合的に勘案し、・・(途中省略)・・買付予定数の上限を所有割合が 19.91%となる株式数(1,625,500 株)に設定することといたしました

20%以上になると持分法適用会社になるのでこれを避けるためと理由に書かれていますが、これは「本当の理由であるのかな?」と少し疑問に思えるところもあります。東京製綱の代表取締役会長がガバナンス不全の元凶であるのであれば、この者を解任できる程度の議決権を持つ必要があります。19%程度取得しても役員の選任に必要となる50%にはほど遠いのです。つまり、19%を取得しても東京製綱のガバナス体制に容易には踏み込むことが出来ないのです。ここが素朴な疑問です。

そこで私が先ほどふと想像したのは「ひょっとして東京製綱の買収防衛策の発動を懸念しているのかな」と思いました。買収防衛策の対抗措置の発動は、通常は取得後の議決権行使比率が20%以上になる場合とされているケースがほとんどです。とすると、もし、日本製鉄の保有比率が20%超になると東京製綱は対抗措置を発動する可能性もああるのです。勿論、有事導入型の買収防衛策の有効性を裁判で争うことはできます。

しかし、日本製鉄も2019年までは買収防衛策を有していたのであり、2019年5月9日の廃止のプレスでは最後の段落で東京製綱と同様の文言を開示していることを考えると、東京製綱の買収防衛策に基づく対抗措置(新株予約権の無償割当)の有効性を裁判で争うことは普通に考えるとしたくはないだろうと想像します。ので、19.90%にとどめたのかも知れないのかなとふと思ったりしました。もっとも真意のほどは一切不明です。日本製鉄の人に「お前の妄想だ」と言われるかも知れませんし、あくまで私の勝手な想像ではあります。

東京製綱はプレスを公表して以来、本日時点で意見表明していません。金融商品取引法上、対象会社はTOBの公表からたしか10営業日以内に意見を表明することとされておりますので、法的な意見表明の期限はまだ先です。東京製綱がどういう方策を公表するのか少し興味深くなってきました。

グンゼが政策保有株式を23銘柄売却 - グンゼの有報の記載は開示の好事例

1月22日の日経新聞に「政策保有23名銘柄 グンゼが売却」との小さい見出しの記事がありました。グンゼのプレスリリースを見ると昨年6月10日から12月29日の期間に23銘柄の売却を実施したようです。売却の理由については、次のとおり記載されています。

コーポレートガバナンス・コードに基づく政策保有株式の見直しによる資産効率の向上と財務体質の強化をはかるため。なお、2020 年 12 月末時点で、当社は政策保有株式縮減の方針に掲げておりました政策保有株式時価残高の 2018 年3月末対比 30%削減目標を達成しております。

 2020年3月末でのグンゼ保有する政策保有株式は36銘柄(上場株式に限定)です。グンゼの有報では政策保有株式の縮減方針について次のように記載されています。

保有継続可否の判断基準) これらの政策保有株式の保有継続可否および保有株式数の適切性については、保有に伴う便益やリスク、資本コストを勘案した株式保有基準に基づき、毎年、取締役会で個別に検証しております。なお、保有意義の経済的合理性の検証は取引事業部門の加重平均資本コストを基準とした個社別のROIC(税引き後事業利益÷保有株式時価により実施しております。

(政策保有株式縮減の方針) 株式保有リスクの低減、資本効率向上の観点から、取引先企業との十分な対話を経た上で、政策保有株式時価残高を2021年3月末までに2018年3月末対比30%削減を目標に縮減を進めております。なお、上記記載の保有継続可否の判断基準に基づき、保有の妥当性が認められた銘柄についても、残高縮減の基本方針に即し、市場環境や財務戦略を勘案して売却する可能性があります。

ここまで踏み込んだ縮減方針を開示する企業はかなり少数の企業しかありません。勿論、政策保有株式の縮減を求める機関投資家にとっての好開示例の1つと言える開示かと思います。

政策保有株式は、この3年間変わらず、機関投資家から縮減の要請がとても強い印象を受けます。というか年々この要請は強くなっている印象です。東証の上場区分での流通株式数でも政策保有株式が関係していますし、確実に今後数年以内に政策保有株主という言葉、ひいては安定株主という言葉はなくなるのだと思います。そういう観点からも、有報で政策保有株式の保有目的について「取引関係の維持のため」等と開示している多くの企業(ほとんどの企業はこのレベルの開示)は考え直しが求められるように考えます。

今年の有報での政策保有株式の開示について上場企業各社は、見直しをした方がよいかと思います。勿論、粛々と売却を進めている企業は、「売却しているぞ」という強い事実があるので、開示にこだわる必要はないとは思いますが。

銘柄分析:ベントナイト大手のクニミネ工業(5388)が業績予想の上方修正

本日土曜日は、毎週のルーティンである今週1週間の保有銘柄の株価分析及び銘柄の関連情報の収集・分析、来週の株式投資の方針確認をしています。

東京五輪は開催の是非が揺れているようですが、開催してももはやインバウンドが期待できないことを考えると経済効果も小さく、今更中止決定となっても日経平均へのマイナス影響は限定的と思います。反対に大人数を集めての開催となるとコロナリスクが高まるため、株価は逆に下がるような気もします。

先週ですが、ベントナイト国内最大手のクニミネ工業(5388)が1月21日に2020年度業績の上方修正を発表しました。2020年度の業績予想は売上高144億円(前回予想:135億円)、営業利益 22億円(前回予想:15億円)、経常利益23億円(前回予想:16億円)です。修正の理由は次のとおりです。

2021年3月期の通期連結業績予想につきまして、第2四半期終了時点において新型コロナウイルスの感染拡大により縮小した市場が回復基調にあったため、2020年10月22日に上方修正いたしましたが、さらにベントナイト事業の鋳物関係において国内自動車用途向け需要の回復ペースが想定より速かったこと、土木建築関係において復興関連の需要が想定より高まったこと等により、売上高・利益ともに前回公表した予想を上回る見込みとなったため、再び修正することといたしました。

この業績予想修正発表を受け株価は22日終値が前日終値から+114円の1,248円となりました。クニミネ工業は長期投資銘柄として投資しています。

クニミネ工業の投資のポイントとしては、1つ目は、国土強靭化での土木建築関係、2つ目は再生可能エネルギー原子力関係での高レベル廃棄物、3つ目は、新用途であるガスバリア材料です。ガスバリア材料とは、水蒸気・酸素等のガスの侵入を遮断するための材料です。食品包装での使用、太陽電池・電子デバイス等の用途への拡大が期待されています。ベントナイトは環境にも優しいので、環境投資という観点からもプラスかと思います。

一方、リスクとしては、自動車のEV化での部品点数の減少です。クニミネ工業はタイ、インドネシアの経済成長に伴う自動車生産増による鋳物需要拡大を見込んでいるようですが、タイ、インドネシアでのEV化進展などEV化の業績への影響が気になるとことです。クニミネ工業の長期リスクとしては、このEV化が気になりますので、ここは後日、クニミネのIR部に問い合わせをして確認をしたいと思っています。1月29日がクニミネ工業のQ3の決算発表日です。

なお、ご参考までに過去のクニミネ工業のブログ記事を再掲いたします。

 

日本製鉄による東京製綱へのTOB - 東京製綱の対抗策の可能性

日本製鉄による東京製綱へのTOBについて前回ブログで紹介しました。本日時点ではその後に東京製綱の見解は公表されていませんので、今後どういう対応をするのか分かりませんが、1つの可能性としては買収防衛策の発動もあるかも知れません。

東京製綱は事前警告型の買収防衛策を導入していたのですが、2019年に廃止しているところ、廃止の際のプレスリリースに肝になる記述があります。以下、2019年5月27日に公表の東京製綱の「当社株式の大規模な取得行為への対応策(買収防衛策)の非更新に関するお知らせ」の一部を抜粋します。

第 217回定時株主総会でご承認いただいた本プランの有効期限は、本年 6月 26 日開催の第 220 回定時株主総会終結の時までとしておりますが、当社では、機関投資家をはじめとする国内外株主の皆様のご意向や大量取得行為に係る関連法令の整備状況、当社コーポレートガバナンスの状況等を勘案した結果、本日開催の弊社取締役会で本プランを更新しないことを決定いたしました。当社といたしましては、本プランが終了後においても、会社の支配に関する基本方針である当社グループの企業価値と株主協働利益の維持・持続的発展を実現するために経営資源を最適活用し、株主の皆様をはじめ、お客様、お取引先、従業員や地域社会といった当社ステークホルダーとの適切な協働を維持しつつ、社会基盤整備への貢献を通じて当社の社会的存在意義を高めることに注力いたします。
また、株式会社の支配権の移転を伴う買収提案がなされた場合には、買収者に対し、株主の皆様がそのような買収提案の是非を適切に判断するために必要かつ十分な情報と検討期間を確保することを求めるとともに、独立性を有する社外取締役の意見を尊重したうえで、取締役会としての意見等を公表するほか、金融商品取引法会社法その他関連法令に基づき、適切な措置を講じてまいります。

上記のプレスリリースの中、太字を付した最後の表現が実は極めて重要です。これは何を意味しているかというと、買収防衛策を廃止はするが、有事の場合には買収防衛策と同様のスキームに基づく対抗措置、つまり新株予約権の無償割当をするということを暗示しているのです。

2005年に法務省経産省が公表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」においては買収防衛策の要件として「事前開示の原則」が求められています。つまり、「買収防衛策を当社は持っているぞ!」「当社は発動する可能性があるぞ!」ということを事前に公にしておけというものです。芝浦機械と村上ファンドの買収防衛策を巡る攻防においても、芝浦機械は取締役会決議で導入した有事導入型の買収防衛策の正当性の1つとしてこのような主張をしていました(芝浦機械は、村上ファンドとの攻防前に事前警告型の買収防衛策を廃止しておりますが、廃止の際のプレスリリースに東京製綱のプレスリリースと同じような記述があります)。

東京製綱は買収防衛策を廃止したが、実は買収防衛策と同じスキームを取締役会で決議して対抗措置を発動する可能性もあるのです。とは言え、日本製鉄も2年ほど前に買収防衛策を廃止しており、廃止の際のプレスリリースに東京製綱と同じような文言を入れているので、東京製綱のプレスリリースの意味を十分理解しています。というか、日本製鉄は、歴史的に見て日本でもっとも買収防衛策に詳しい大企業の1つとも言えます。

さて、東京製綱が今後買収防衛策を発動するのか、日本製鉄に対抗するホワイトナイトを探すのか、それとも日本製鉄の買収に素直に応じるのか興味深いところです。

日本製鉄が東京製綱に敵対的TOB実施を公表 - 敵対的買収は今後確実に増えるのでは?

昨日報道のとおりですが、日本製鉄が東京製綱に株式公開買付(TOB)をすることを公表しました。

公表された「東京製綱株式会社に対する公開買付け開始に関するご説明資料」を読むとTOBの目的と背景として、「東京製綱の自律的な企業価値回復・向上の支援」とあり次のことが記載されています。

  • 東京製綱株式会社は、1887年創業のワイヤロープ製造における国内トップメーカー。コア事業であるワイヤロープ製造において、極めて高い技術力とブランド力を有しております。
  •  当社は、前身である富士製鐵当時の1970年より東京製綱に資本参加し、その後2001年に東京製綱から出資拡大の要請を受けて株式を追加取得し、現在は東京製綱の株式9.9%を保有する筆頭株主です。
  • こうした経緯から、当社は、東京製綱の原料メーカー・開発パートナーとして、長年にわたり協力関係を構築してまいりました。
  • 東京製綱は、近年、現在の経営方針に起因してその業績は悪化の一途を辿っております。当社は長年に亘る株主かつ事業上のパートナーとしての立場から対話を継続しつつ、現状の問題点を率直に指摘し、直近数年間の定時株主総会においては取締役の選任に反対を投じるなど、可能な限り警鐘を鳴らしてまいりました。
  • しかしながら、東京製綱は、本来の高い技術力とブランド力を十分に発揮すれば自律的な経営改善が可能であるにもかかわらず、これまで経営上の問題点に対して対応策を講じることができず、また企業価値の回復・向上策についての具体的な協議が進展しない状況に陥っています。
  • この状況をこれ以上放置し続ければ、東京製綱の株主、取引先、従業員を始めとするステークホルダーの利益をさらに害する恐れがあることから、当社は、東京製綱の株式追加取得を通じて株主としてのコミットメントを高め、企業価値の回復・向上に寄与することを目的として、本公開買付け(上限19.9%)の実施を決議いたしました。
  • 今後、当社は、東京製綱が独立した上場会社として適切なガバナンス体制を再整備し、東京製綱社内の人材により経営を再建することが望ましいと考えており、その実現に向けて、東京製綱との間でより踏み込んだ協議を行ってまいります。

東京製綱の競争力の源泉が毀損される可能性として、「東京製綱の業績不振及び財務健全性の悪化を招いた現経営方針及び業績悪化に対し経営方針の見直しを促さない現ガバナンス体制のままでは、当社は東京製綱を信頼に足る事業パートナーとみなすことが難しく、共同研究開発を継続することに支障をきたしかねない」との記載もあります。

1株当たり1,500円でTOB代理人大和証券となっています。東京製綱のプレスリリースには次のとおりです。

 本公開買付けの公表は、当社に対して何らの連絡もなく一方的かつ突然に行われたものです。当社といたしましては、今後、本公開買付けに係る公開買付届出書等の内容その他の関連情報を精査した上で、速やかに当社の見解を公表する予定です。株主の皆様におかれましては、当社から開示される情報に十分ご留意いただき、慎重に行動していただきますようお願い申し上げます。なお、本開示資料は、本公開買付けに関する意見を表明するものではありません。本公開買付けに関する当社の意見は、決定次第改めてお知らせいたします。

 日本製鉄と言えば、10年以上前にアルセロールミタルによる敵対的買収のリスクにより買収防衛策を導入した経緯(2年ほど前に廃止)がありますが、国内の同業を敵対的に買収するとは驚きです。

最近は、文具メーカー、外食や家具業界での敵対的買収も増えていますが、いずれもマイナーな業界ですが、日本製製鉄という日本を代表する業界での敵対的場買収が起こるとは、今後は敵対的買収は普通になるのだと思います。

事前警告型の買収防衛策に影響を及ぼすケースとなるか - ツカモトコーポ(8025)は取締役会決議で買収防衛策を導入し、後日、定時株主総会で議案上程予定

先日、新潮新書出版の「兜町の風雲児 - 中江滋樹 最後の告白」という書籍を買いました。稀代の相場師でしたが、投資ジャーナル事件で暗転した中江滋樹について書かれた本です。

少し余談も入りますが、私の母は高校生の時からずっと株式投資をやっており(かなり高齢ですが今でも元気に個別投資をしています)、私が幼い時から家には株式雑誌が沢山あり、毎日のラジオの短波放送、いくつかの証券会社の営業マンからの電話が頻繁にあったことが今でも鮮明な記憶にあります。そのような環境下、当時、母から中江滋樹の話を聞いたり、雑誌で顔を見たこともあるのですが、中江滋樹は株式投資で巨万の富を得たものの晩年は小さいアパートで死去した方です。まだ読んでる最中ですが、なかなか面白く、後日、機会あればブログでも簡単に触れたいと思います。

先日、最近の機関投資家の関心事項として事前警告型の買収防衛策への反対の声がますます強まっていることを書きましたが、昨日、東証1部のツカモトコーポレーション(8025)が買収防衛策の導入を公表しました。

1月20日付のプレスリリースの内容の一部は次のとおりですが、特徴的なのは、昨年、村上ファンドと芝浦機械の買収防衛策導入に関する攻防を踏まえての建付けにしていると思われる点です。

当社は、本日開催の取締役会において、当社の企業価値及び株主共同の利益を確保し、向上させることを目的として、当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針並びに基本方針に照らして不適切な者によって当社の財務及び事業の方針の決定が支配されることを防止するための取組み(会社法施行規則第 118 条第3号ロ(2))の一つとして、下記のとおり、当社株式等の大規模買付行為に関する対応策(以下、「本プラン」といいます。)を導入することに関して決議を行いましたのでお知らせします。本プランは、当社取締役会の決議により導入するものですが、後述のとおり、株主総会の決議や株主総会で選任された取締役で構成される取締役会の決議で廃止することができるなど、株主の総体的意思によってこれを廃止できる手段が設けられており、経済産業省及び法務省が2005 年5月 27 日に発表した「企業価値・株主共同利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」の定める株主意思の原則を充足しております。さらに、株主のみなさまのご意思をより反映させるという観点から、2021 年6月開催予定の当社定時株主総会において議案(普通決議)としてお諮りさせていただくことを予定しております。また、本プランは、本日付けで効力を生じるものとしますが、本定時株主総会において上記議案につき、株主のみなさまのご承認が得られなかった場合には、直ちに廃止されるものとします。

つまり、取締役会の決議で導入するが、6月の定時株主総会でも議案として諮るというものです。芝浦機械の場合には取締役会の決議で一度導入しましたが、その後、芝浦機械の臨時株主総会でも議案として可決されました(これを受けて村上ファンドTOBを中止。しかし、コロナで株価下落の中、TOBが実施されていたら村上ファンドは大損害が出ていたであろうことは周知のとおりです)。このケースでは、村上ファンドは芝浦機械が臨時株主総会で買収防衛策の議案を上程する時間的余裕を与えました。

今回、ツカモトが買収防衛策を急遽導入したのは、筆頭株主フリージアマクロスがいるからです。フリージアは約7%のツカモト株を保有しているようです。芝浦機械のケースでは村上ファンド株主総会の開催まで時間を与えたわけですが、ツカモトのケースでは、フリージアが仮にツカモトの6月の定時株主総会をまたずに20%以上の株式の取得を進めた場合にはどうなるのでしょうか。

ツカモトは当然ながら株主総会の決議を待つことなく、買収防衛策に基づく対抗措置を発動するのだと思いますが、それに対して今度はフリージアが対抗措置の発動を差止める訴訟を提起すると、取締役会決議で導入された買収防衛策の効力がどうであるのかが論点となります。

そして、訴訟継続中にツカモトの定時株主総会が開催され、買収防衛策の導入が承認された場合には、取締役会決議で導入され、後日、株主総会で承認された買収防衛策の効力が論点になります。このように本件は、ツカモトとフリージア間で法廷闘争に発展するととても興味深い展開になります。

ツカモトのような買収防衛策スキームを裁判所が有効性を認めれば、日本に約250社ほどある事前警告型の買収防衛策はなくなります。つまり、有事の場合に取締役会決議で買収防衛策を導入し、後日開催する株主総会で議題として可決すれば足るということにつながります。証券会社勤務時代を含め2010年から買収防衛策の実務に関わってきた私としては、是非、フリージアにはツカモトの20%以上の株式取得を進めて頂き、ツカモトの買収防衛策の有効性を争って欲しいものです。多くのアクティビストは本件の行方を注視しているかも知れません。

 

最近の機関投資家の関心事項 - 企業が留意すべき点(続き)

昨日、最近の機関投資家の関心が強い事項を紹介しましたが、1つ忘れておりました点があります。それは買収防衛策の廃止への機関投資家の関心度合いが1年前に比べて格段に強くなっているような印象を受けます。

理由は単純でアセットオーナーの買収防衛策に対する反対の声が益々強くなり、アセットマネジャーである機関投資家も議決権行使基準を厳格にせざるを得ないということです。ちなみに何かの公表資料を見たところ、昨年の12月末時点で事前警告型の買収防衛策を導入する企業は約280社程度のようで、導入企業数のピークであった2008年の約570社の約半数程度になっています。

買収防衛策に対する風当たりは強まるばかりです。機関投資家の株式保有比率が高い企業の場合には、買収防衛策議案について株主総会で賛成を得るには、独立社外取締役の取締役会に占める比率を過半数にしないと今年の株主総会での賛成はなかなか難しいと思います。その理由は、社外取の過半数の存在を議決権行使基準での賛成条件の1つにしている機関投資家が非常に多くなっているからです。

また、昨年改正された外資規制の細かいところについて意外に理解していない機関投資家も多いような印象を受けます。「御社はコア業種に認定されたのですね。では、海外アクティビストからは政府が守ってくれるので、買収防衛策は不要ですよね」という考えの機関投資家も多いのではないかということです。しかし、これは完全に外資規制の細かいところが理解できていません。コア業種に認定されても、全ての事業がコア業種の認定を受けているわけではなく、また増配・自己株式取得への株主提案は外資規制の対象にならないなど外資規制の網を外れるケースが実はかなり多いのです。

このあたりは、大手上場企業を顧客にしている大手法律事務所を起用してきっちりと外資規制の詳細分析をしないと分からないところではありますが。外資規制については、昨年の6月頃に過去3回にわたりブログで書いておりますので紹介させて頂きます。

ということで、2008年当時と外部環境や法規制に何ら変化がないのに買収防衛策が廃止の一途をたどることで本当に良いのかという疑問はありますが、上場企業のステークホルダーである機関投資家が反対しているのですから、廃止の流れが増えるのは仕方がないとことでもあります。

ただ、脱株主第一主義の流れの中においては、全てのステークホルダーに対して敵対的買収に関する十分な情報提供と検討の機会を与えるという買収防衛策の趣旨は益々重要になることも事実ではあります。2005年頃に法務省経産省が買収防衛に関するガイドラインを策定して15年が経過しました。資本市場の目線も大きく変わってきている現状に鑑みると、買収防衛策の在り方について世の中でもそろそろ議論が開始されても良い気もしますがどうでしょうか。

最近の機関投資家の関心事項 - 企業が留意すべき点

1月の正月明けから2月初旬まで仕事が多忙を極め、ブログにじっくり記事を掲載する時間がないのですが、本日は簡単に、機関投資家とのディスカッションを通じて私が感じる機関投資家の関心事項と企業が今後留意すべき事項について触れたいと思います。

1つ目はやはり今年春に予定されているコーポレートガバナンス・コードの改訂関連事項で社外取締役の役割に対する機関投資家の関心が高いと思います。プライム市場に移行する企業は、3分の1以上の社外取締役の設置が求められる予定ですが、人数もさることながら、どういう経験を持った人物が社外取に就任するかの関心が高いように思います。株主代表として社外取を取締役会に送り込み、そして社外取を通じて企業価値が高まることを機関投資家は求めているのであり、であれば、どういう事業経験を持つ人が社外取にいるのかへの関心は当然高いと言えます。

2つ目は、やはり環境関連への関心の高さです。グリーン成長戦略で温暖化ガス排出量を2050年に実質ゼロにすることに向け、企業が市場に今後供給する製品はどうなるのか、事業環境がどう変化するのか、環境対応でかかるコストはどうするのか等の関心が高いように思います。TCFDの関心も高いと思います。賛同する日本企業が多いですが、具体的対応に向けて動きだした企業が多く、今後どのような開示がなされていくのか関心が高いと感じます。

3つ目は、コーポレートガバナンス・コードの改訂関連で管理職のダイバーシティー、特に女性活躍にも関心が高いように感じます。コロナの影響で外国人が日本を離れたこともあり外国人のダイバーシティーにはそれほど関心はないです。現実に外国人の管理職を置くことは難しいとこともあります。グローバルな事業展開をしている企業では海外で外国人を採用するにしても人件費を変動費化するため派遣や契約社員として採用することが多く、管理職候補ではないと思います。

1年前には環境や社会に関心のある機関投資家は少なかったのですが、この1年でこの状況が一変した印象を受けます。環境・社会への対応が不十分な企業には、今後投資マネーが流れてこない可能性が高いのでは、と強く危惧されるほど機関投資家の意識が変わった印象を持っています

また、実際のビジネスにおいても環境・社会への対応が強く影響を与えることになるのではと感じています。これまでは良い製品やサービスを安く供給できれば顧客は満足していましたが、今後はこれに環境・社会対応が十分になされていることが購買の条件になっていくのだと思います。ミレミアム世代、Z世代と言われる世代が今後世界人口の中心を占めていくことが背景にあります。彼らはESG評価の高い企業の製品やサービスを購入・利用する傾向にあると言われています。

これまでは、ESGなど一時の流行りと考えたりしていましたが、機関投資家の考えが大きくこの1年で変化したことに鑑みると上場企業は真剣にESGの評価向上に取り組む必要があります。勿論、取り組むだけでは全くダメで「上手に取り組みを見せる」(開示する)ことが肝です。

あと、ガバナンス関係では政策保有株式の縮減は依然として機関投資家の関心も高いところと思います。アクティビストにとっては、政策保有株式の縮減の要求は機関投資家の賛同を得られる企業をつつきやすい材料と言えるので、政策保有株式の多い企業は本当に注意した方がよいと思います。恐らく日本企業の安定株主は今後2~3年でなくなるのではないでしょうか。

京阪神ビルディングに対するTOBが不成立 - 元々成立は想定していなかったと思います

以前に次のようにアクティビストであるストラテジックキャピタルによる京阪神ビルディングに対するTOBについて紹介しました。

このTOBについて不成立になった旨の発表が昨日ありました。TOBの期間を延長したのですが、買付予定数の下限の1,020万6,100株に対して、58万3,191株の応募しかなかったようです。

京阪神ビルディングは、メインバンク出身者の大勢が社内取締役になっているというコーポレートガバナンス上の問題のある企業です。この点も以前にブログで紹介しております。京阪神ビルの株主構成は、有報等で見ると事業法人41.6%、金融機関28.3%、外国人16.9%、個人9.8%です。事業法人=政策保有株主(「岩盤」)と考えてよいので、TOB成立の見通しはかなり低く、低いため外国人の応募も少なかったのだと想像します(計算していないので印象で言っています)。

ストラテジックキャピタルの代表の丸木氏は京阪神ビルディングに対するTOBの成立は想定していなかったのだと思いますが、今後も大株主として色々と提案は続けるのだと思います。京阪神ビルの政策保有株式に縮減は今後進むことはないのでしょう。京阪神ビルの今後の動向も注視して、動きあればブログで紹介したいと思います。

議決権行使助言会社への監視の強化 - 米国では2022年 総会シーズンから規制強化

今週、来週は連日業務多忙のため、気になる記事等を中心に簡潔に紹介したいと思います。1月11日の日経新聞に「『議決権行使助言』に監視の目」といいう記事がありました。

内容はこれまでも言われているところですが、議決権行使助言会社であるISS、グラスルイスへの監視の目が強まっているという内容です。助言会社の影響力が強まる中、助言会社の議決権行使推奨の内容に誤りがあるケースが多いということです。

このような背景の中、米国では助言会社への規制が導入され、2022年総会シーズンより規制対象になるようです。その内容が日経新聞に記載されていますが、次の3点ほどです。

  • 助言会社の推奨は証券取引規制の対象となる「勧誘」であると明確化された
  • 助言会社が推奨を投資家にわたす際には、対象企業にも送付するよう義務付け
  • 企業が反論や補足説明をした際には、投資家に速やかに伝えさせる

このような規制がされると会社提案議案に対して助言会社は反対推奨をすることに委縮する懸念もあるかも知れません。

今回の規制は米国の助言会社への規制のため、日本の基準の規制に適用はないですが、日本のISS、グラスルイスへの規制も今後強化される方向になるかも知れません。ちなみに、スチュワードシップ・コードの2020年3月改訂において、助言会社については、次のような規定が盛り込まれました。

8-2 議決権行使助言会社は、運用機関に対し、個々の企業に関する正確な情報に基づく助言を行うため、日本に拠点を設置することを含め十分かつ適切な人的・組織的体制を整備すべきであり、透明性を図るため、それを含む助言策定プロセスを具体的に公表すべきである

8-3 議決権行使助言会社は、企業の開示情報に基づくほか、必要に応じ、自ら企業と積極的に意見交換しつつ、助言を行うべきである。助言の対象となる企業から求められた場合に、当該企業に対して、前提となる情報に齟齬がないか等を確認する機会を与え、当該企業から出された意見も
合わせて顧客に提供することも、助言の前提となる情報の正確性や透明性の確保に資すると考えられる。

助言会社については、色々と深い論点があるのですが、本日のブログで詳細を記載する時間がないので、本日は簡単に紹介にとどめたいと思います。

 

個人投資家が企業トップの声を聞くツールの紹介

本日は株式投資において企業トップの声を聞くツールを1つ紹介いたします。

企業のファンダメンタルズ分析(財務状況、事業内容、事業の見通し等の分析)をして投資をする個人投資家は、投資先を決めたり、保有の継続の是非を決める上で対象企業の経営トップの生の声は気になるところではだと思います。オーナー社長の場合には、話をする言葉に強い意思や思いが如実に現れるので、私は重視しています。

では、どうすればその声を聞けるかですが、個人投資家の場合、最低でも数十万株以上を有する機関投資家とは異なり企業の経営トップと1対1で面談をすることは不可能で限界がありますが、最近は決算説明会や中期経営計画の説明会をホームページに掲載する企業も増えているので、これが1つの手法になります。しかし、問題は必ずしも本音が聞けないという点です。

説明をする経営トップにもよりますが、決算説明会資料に書かれている範囲でしか淡々と話をしないケースも多く、またそもそもプレゼン能力がかなりとても貧弱な経営トップも多く、視聴するに値しない、つまり決算説明会資料を読めば足るという場合も多いところではあります。

そういう中で、1つ面白いものを紹介します。ラジオNIKKEI第1で毎週水曜日 に放送されている「企業トップが語る威風堂々」という番組です。サブタイトルは、「『場の福の神』藤本誠之さんが毎回独自の視点で厳選した上場企業1社をとりあげます。経営トップをゲストにお招きして事業展望や経営哲学などをうかがいつつ、トップの人となりにも迫るインタビュー番組。「四字熟語」にも注目!」とあります。この「場の福の神」の藤本氏という方の経歴は次のとおりです。

関西大学工学部卒。日興證券(現SMBC日興証券)入社、個人営業を経て、機関投資家向けのバスケットトレーディング業務に従事。日興ビーンズ証券設立時より、設立メンバーとして転籍。マネックス証券から、カブドットコム証券、トレイダーズ証券マネーパートナーズSBI証券を経て、現在は財産ネット 企業調査部長として各メディアで活躍中。

経歴や話の内容から個人向けのリテール営業を専門にやってきた株屋さんといった印象の方ではありますが(外資系証券会社や国内大手証券会社の本流は「投資銀行業務」ですが、これと真逆なのが個人向けリテール部門)、話はそれなりに面白く、ゲストである経営トップの回答を上手く引き出し、いかにも決算短信等の企業財務に疎い個人株主に受けがよさそうなベテランの方です。

ただ、この藤本氏と一緒にこの番組で登場するアシスタントの女性が時々言葉を発するのですが、この女性はタレントらしいのですが、話のレベルがかなり低いような印象を受け、聞いていて結構イライラするのが結構難点ですが(個人株主相手の番組なので株主のレベルにあわせたアシスタントをあえて置いているのだと容易に想像できますが)、これを無視すれば各企業の経営トップの方の話は有意義です。

この対話では決算の話はあまりなく、企業設立の経緯、経営トップの思い、事業の強み弱み、事業の特徴や今後の事業展開について20分程度の生の声を聞くことが出来るので、個人投資家の方には貴重な情報源となるように思います。

今年の株主総会のトピック:気候変動への株主の関心の高まり - TCFDへの賛同表明をした企業は今年の株主総会は要注意

非常事態宣言が出されて昨日は第1日目だったかと思いますが、ニュースを見ると昨日は東京都内では通勤者もだいぶ少ない様子でした。私はJR品川駅の港南口方面に勤務先があるのですが、毎日下車する品川駅の朝の人の数も第1回目の非常事態宣言の時に比べるとかなり少ない印象でした。

本日は3月期決算企業のQ3決算が1月下旬から始まるので、保有銘柄と各銘柄の競合他社の先週1週間の株価、IRニュース、各銘柄のQ3決算発表日の確認などの作業をしています。

1月8日の日経新聞に「気候変動 発言力増す株主」のタイトルの記事がありました。イギリスのフィナンシャルタイムズの記事で、2021年の株主総会では気候変動に関する株主提案が増える可能性があるということです。

環境への高まりに伴い当然の予想かと思います。昨年の株主総会では、みずほフィナンシャルグループに環境関連のNPOが環境戦略に関する開示を求める株主提案をして、これに対して相当数の賛成があったことが話題になりました。以前にブログでも次のとおり紹介しております。

このような中にあって、私は本年の定時株主総会で環境絡みで注意すべき企業は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同した企業であると考えています。TCFDについては、環境省のホームページで次のとおり記載されています。

金融安定理事会により設置された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、年次の財務報告において、財務に影響のある気候関連情報の開示を推奨する報告書を2017年6月に公表しました。企業が気候変動のリスク・機会を認識し経営戦略に織り込むことは、ESG投融資を行う機関投資家・金融機関が重視しており、TCFDの報告書においても、その重要性が言及されています。なお、環境省は、報告書を踏まえた民間の取組をサポートしていく姿勢を明らかにしていくため、TCFDに対して正式に賛同の意を表明しています。

日本でもTCFDに賛同した企業は結構あり、たしか約200社程度だったかと思います。これは、東証1部企業でいうと10%程度といったイメージになります。TCFDの対応に人的リソースを割けていない企業にとっては、「TCFDに賛同するとは先進的な取り組みをしているな」と感心する方もいるかも知れません。しかし、これは良くある間違いです。

TCFDに賛同するのは、実はそれほど難しいことではなく、今現在は求めに対応ができていなくても将来対応していくという心構えがあれば、比較的容易に賛同が出来ると言われています。このため、ひとまずTCFDに賛同したという企業も案外多かったりするようです。私は環境の専門家ではないので、TCFDに精通しているわけではないですが、証券会社時代に仕事を良く一緒にしたあるコンサルティング会社の人と以前に酒を飲んだ時にそんな話を聞きました(勿論、どの企業がどういう対応レベルにあるかは教えて貰えませんでしたが)。

環境への関心が高まる中、本年の定時株主総会において、個人株主や環境アクティビストから、TCFDに賛同した理由、TCFDへの賛同からこれまでの対応行動、今後詳細な対応をするのであればそのスケジュールなどの詳細な質問が出る可能性も高いと思いますので、TCFDに賛同表明した企業はしっかりとした準備が必要かと思います。