先日、新潮新書出版の「兜町の風雲児 - 中江滋樹 最後の告白」という書籍を買いました。稀代の相場師でしたが、投資ジャーナル事件で暗転した中江滋樹について書かれた本です。
少し余談も入りますが、私の母は高校生の時からずっと株式投資をやっており(かなり高齢ですが今でも元気に個別投資をしています)、私が幼い時から家には株式雑誌が沢山あり、毎日のラジオの短波放送、いくつかの証券会社の営業マンからの電話が頻繁にあったことが今でも鮮明な記憶にあります。そのような環境下、当時、母から中江滋樹の話を聞いたり、雑誌で顔を見たこともあるのですが、中江滋樹は株式投資で巨万の富を得たものの晩年は小さいアパートで死去した方です。まだ読んでる最中ですが、なかなか面白く、後日、機会あればブログでも簡単に触れたいと思います。
先日、最近の機関投資家の関心事項として事前警告型の買収防衛策への反対の声がますます強まっていることを書きましたが、昨日、東証1部のツカモトコーポレーション(8025)が買収防衛策の導入を公表しました。
1月20日付のプレスリリースの内容の一部は次のとおりですが、特徴的なのは、昨年、村上ファンドと芝浦機械の買収防衛策導入に関する攻防を踏まえての建付けにしていると思われる点です。
当社は、本日開催の取締役会において、当社の企業価値及び株主共同の利益を確保し、向上させることを目的として、当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針並びに基本方針に照らして不適切な者によって当社の財務及び事業の方針の決定が支配されることを防止するための取組み(会社法施行規則第 118 条第3号ロ(2))の一つとして、下記のとおり、当社株式等の大規模買付行為に関する対応策(以下、「本プラン」といいます。)を導入することに関して決議を行いましたのでお知らせします。本プランは、当社取締役会の決議により導入するものですが、後述のとおり、株主総会の決議や株主総会で選任された取締役で構成される取締役会の決議で廃止することができるなど、株主の総体的意思によってこれを廃止できる手段が設けられており、経済産業省及び法務省が2005 年5月 27 日に発表した「企業価値・株主共同利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」の定める株主意思の原則を充足しております。さらに、株主のみなさまのご意思をより反映させるという観点から、2021 年6月開催予定の当社定時株主総会において議案(普通決議)としてお諮りさせていただくことを予定しております。また、本プランは、本日付けで効力を生じるものとしますが、本定時株主総会において上記議案につき、株主のみなさまのご承認が得られなかった場合には、直ちに廃止されるものとします。
つまり、取締役会の決議で導入するが、6月の定時株主総会でも議案として諮るというものです。芝浦機械の場合には取締役会の決議で一度導入しましたが、その後、芝浦機械の臨時株主総会でも議案として可決されました(これを受けて村上ファンドはTOBを中止。しかし、コロナで株価下落の中、TOBが実施されていたら村上ファンドは大損害が出ていたであろうことは周知のとおりです)。このケースでは、村上ファンドは芝浦機械が臨時株主総会で買収防衛策の議案を上程する時間的余裕を与えました。
今回、ツカモトが買収防衛策を急遽導入したのは、筆頭株主にフリージアマクロスがいるからです。フリージアは約7%のツカモト株を保有しているようです。芝浦機械のケースでは村上ファンドが株主総会の開催まで時間を与えたわけですが、ツカモトのケースでは、フリージアが仮にツカモトの6月の定時株主総会をまたずに20%以上の株式の取得を進めた場合にはどうなるのでしょうか。
ツカモトは当然ながら株主総会の決議を待つことなく、買収防衛策に基づく対抗措置を発動するのだと思いますが、それに対して今度はフリージアが対抗措置の発動を差止める訴訟を提起すると、取締役会決議で導入された買収防衛策の効力がどうであるのかが論点となります。
そして、訴訟継続中にツカモトの定時株主総会が開催され、買収防衛策の導入が承認された場合には、取締役会決議で導入され、後日、株主総会で承認された買収防衛策の効力が論点になります。このように本件は、ツカモトとフリージア間で法廷闘争に発展するととても興味深い展開になります。
ツカモトのような買収防衛策スキームを裁判所が有効性を認めれば、日本に約250社ほどある事前警告型の買収防衛策はなくなります。つまり、有事の場合に取締役会決議で買収防衛策を導入し、後日開催する株主総会で議題として可決すれば足るということにつながります。証券会社勤務時代を含め2010年から買収防衛策の実務に関わってきた私としては、是非、フリージアにはツカモトの20%以上の株式取得を進めて頂き、ツカモトの買収防衛策の有効性を争って欲しいものです。多くのアクティビストは本件の行方を注視しているかも知れません。