中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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日本製鉄による東京製綱へのTOBが開始 - 日本製鉄が19.91%の株式取得にとどめる理由は?

先日、日本製鉄による東京製綱へのTOBについてブログに書きましたが、日本製鉄はTOBを開始したことを本日公表しました。今回のTOBでは日本製鉄はTOB後の東京製綱の株式所有比率を19.9%としています。20%超を取得しないのです。理由として、日本製鉄のプレスリリースでは次のような記載があります。

当社としては、対象者の企業価値の回復・向上のためには対象者の経営体制及びガバナンス体制の再構築が不可欠であると考えており、これらの実現のため、株主として対象者の経営陣との間で、新たに社内人材を対象者の取締役として選任することや独立性及び多様性を確保した取締役会の構成等について協議を行った上で、当該協議を踏まえた必要な提案を行っていく予定であり、まずは本公開買付けによる対象者株式の追加取得を通じて、対象者の企業価値向上へのコミットメントを高めることを目指すものです。他方、上記のとおり、対象者の経営の独立性を維持し、対象者の本来の技術力やブランド力を十分に発揮することができる経営体制及びガバナンス体制を整えることで、現経営方針が適切に見直され、対象者の企業価値を回復・向上させていくことができると考えております。そこで、対象者株式の追加取得により対象者の企業価値向上へのコミットメントを可及的に高めるという目的を踏まえつつ、対象者を当社の持分法適用会社としないことで対象者における経営の独立性を維持し、また、当社において本公開買付けのために必要となる投資金額の合理性等の観点等も総合的に勘案し、・・(途中省略)・・買付予定数の上限を所有割合が 19.91%となる株式数(1,625,500 株)に設定することといたしました

20%以上になると持分法適用会社になるのでこれを避けるためと理由に書かれていますが、これは「本当の理由であるのかな?」と少し疑問に思えるところもあります。東京製綱の代表取締役会長がガバナンス不全の元凶であるのであれば、この者を解任できる程度の議決権を持つ必要があります。19%程度取得しても役員の選任に必要となる50%にはほど遠いのです。つまり、19%を取得しても東京製綱のガバナス体制に容易には踏み込むことが出来ないのです。ここが素朴な疑問です。

そこで私が先ほどふと想像したのは「ひょっとして東京製綱の買収防衛策の発動を懸念しているのかな」と思いました。買収防衛策の対抗措置の発動は、通常は取得後の議決権行使比率が20%以上になる場合とされているケースがほとんどです。とすると、もし、日本製鉄の保有比率が20%超になると東京製綱は対抗措置を発動する可能性もああるのです。勿論、有事導入型の買収防衛策の有効性を裁判で争うことはできます。

しかし、日本製鉄も2019年までは買収防衛策を有していたのであり、2019年5月9日の廃止のプレスでは最後の段落で東京製綱と同様の文言を開示していることを考えると、東京製綱の買収防衛策に基づく対抗措置(新株予約権の無償割当)の有効性を裁判で争うことは普通に考えるとしたくはないだろうと想像します。ので、19.90%にとどめたのかも知れないのかなとふと思ったりしました。もっとも真意のほどは一切不明です。日本製鉄の人に「お前の妄想だ」と言われるかも知れませんし、あくまで私の勝手な想像ではあります。

東京製綱はプレスを公表して以来、本日時点で意見表明していません。金融商品取引法上、対象会社はTOBの公表からたしか10営業日以内に意見を表明することとされておりますので、法的な意見表明の期限はまだ先です。東京製綱がどういう方策を公表するのか少し興味深くなってきました。