日本製鉄が1株当たり1,500円で東京製綱に敵対的TOBを実施しており、直近ではブログで次の記事を書いております。
このTOBですが、期間は1月22日からの30営業日ということで明日3月8日が最終日となっています。TOBでの取得予定株式数は約10%で、取得後の日本製鉄の保有比率は約19%ですので、このTOBは容易に成立するのだと思いますが、明日が期限ということもあり、日本製鉄が1月21日のTOB公表日に開示した資料「東京製綱株式会社に対する公開買付け開始に関するご説明資料」を眺めてみました。この中で、日本製鉄が東京製綱の課題として指摘している事項の中で、一般の事業会社も留意すべきと思われる視点を2つほど紹介します。
まず、日本製鉄は東京製綱の株価水準が低いことを資料の中で指摘しています。具体的な指標は次のとおりで、このいずれも同業他社と比較して低迷していることが問題と日本製鉄は指摘しているわけです。
- TSR(株式総利回り):1年、3年、5年、10年の4つ
- PER(株価収益率)
- PBR(株価純資産倍率)
- PSR(株価売上倍率)
- 営業利益率
東京製綱は当期純損失のためPERの算出が適当でない期間もあるため、PSRを指標として日本製鉄はあげているのだとと思います。上記の視点は、いずれもアクティビストが会社を攻撃する際の視点と全く同じです。事業会社は、自社の上記指標が同業他社と比較してどうか、低いのであればその改善をどうすべきかの留意が必要と思います。
また、日本製鉄は、東京製綱の代表取締役の選任理由の問題もあげています。つまり、東京製綱は、代表取締役の選任理由について2017年~2020年の4年間の株主総会の招集通知で次の記載をしています。
当社取締役副社長、取締役社長、取締役会長を歴任し、その間に当社の抜本的な構造改革を断行するなど、当社グループの企業価値の向上に貢献しています。豊富な経験と実績に基づいた、当社の経営管理及び事業運営を公正・的確に遂行する資質と見識を備えており、今後の当社グループの成長戦略を牽引することが期待できることから選任しました
この太字にある「企業価値の向上に貢献している」という理由が、東京製綱の業績に鑑みると問題ということを指摘しています。
この日本製鉄の鋭い指摘は、多くの事業会社にとっても考えるべき視点です。社長はじめ取締役の選任理由については、「経営者としての高い知識、業務経験、海外経験があるため取締役に選任した」といったようなことを招集通知に記載している企業がかなり多いのが現状です。過去からの前例踏襲、また役員の選任理由などあまり深く考えるべき事項でもないというのがその理由かと思います。
しかし、今回の日本製鉄の指摘を考えると、役員の選任理由には今後気を付ける必要があります。あまりに抽象的な記載、漫然とした記載の選任理由にすると足元をすくわれる材料にもなりかねないと思います。
ところで、結局、東京製綱はTOBに反対と公表しながらも何らの措置も公表しませんでした。日本製鉄の保有株比率が20%以下ということで法的にはたいした意味を持たないことなども1つの理由かと思います。
今後の日本製鉄の動きとしては、東京製綱の会長を解任したいのだと思いますので、東京製綱の今年の6月の定時株主総会で株主提案をする可能性も十分考えられます。いずれにせよ20%未満の株式取得では法的にはたいした意味は持たないので、日本製鉄が他の機関投資家の賛同を得ながら、どういう方策を講じるか引き続き注視したいと思います。ブログでも今後も記事を書いていきたいと思います。