中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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日本製鉄による東京製綱へのTOB - 東京製綱の対抗策の可能性

日本製鉄による東京製綱へのTOBについて前回ブログで紹介しました。本日時点ではその後に東京製綱の見解は公表されていませんので、今後どういう対応をするのか分かりませんが、1つの可能性としては買収防衛策の発動もあるかも知れません。

東京製綱は事前警告型の買収防衛策を導入していたのですが、2019年に廃止しているところ、廃止の際のプレスリリースに肝になる記述があります。以下、2019年5月27日に公表の東京製綱の「当社株式の大規模な取得行為への対応策(買収防衛策)の非更新に関するお知らせ」の一部を抜粋します。

第 217回定時株主総会でご承認いただいた本プランの有効期限は、本年 6月 26 日開催の第 220 回定時株主総会終結の時までとしておりますが、当社では、機関投資家をはじめとする国内外株主の皆様のご意向や大量取得行為に係る関連法令の整備状況、当社コーポレートガバナンスの状況等を勘案した結果、本日開催の弊社取締役会で本プランを更新しないことを決定いたしました。当社といたしましては、本プランが終了後においても、会社の支配に関する基本方針である当社グループの企業価値と株主協働利益の維持・持続的発展を実現するために経営資源を最適活用し、株主の皆様をはじめ、お客様、お取引先、従業員や地域社会といった当社ステークホルダーとの適切な協働を維持しつつ、社会基盤整備への貢献を通じて当社の社会的存在意義を高めることに注力いたします。
また、株式会社の支配権の移転を伴う買収提案がなされた場合には、買収者に対し、株主の皆様がそのような買収提案の是非を適切に判断するために必要かつ十分な情報と検討期間を確保することを求めるとともに、独立性を有する社外取締役の意見を尊重したうえで、取締役会としての意見等を公表するほか、金融商品取引法会社法その他関連法令に基づき、適切な措置を講じてまいります。

上記のプレスリリースの中、太字を付した最後の表現が実は極めて重要です。これは何を意味しているかというと、買収防衛策を廃止はするが、有事の場合には買収防衛策と同様のスキームに基づく対抗措置、つまり新株予約権の無償割当をするということを暗示しているのです。

2005年に法務省経産省が公表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」においては買収防衛策の要件として「事前開示の原則」が求められています。つまり、「買収防衛策を当社は持っているぞ!」「当社は発動する可能性があるぞ!」ということを事前に公にしておけというものです。芝浦機械と村上ファンドの買収防衛策を巡る攻防においても、芝浦機械は取締役会決議で導入した有事導入型の買収防衛策の正当性の1つとしてこのような主張をしていました(芝浦機械は、村上ファンドとの攻防前に事前警告型の買収防衛策を廃止しておりますが、廃止の際のプレスリリースに東京製綱のプレスリリースと同じような記述があります)。

東京製綱は買収防衛策を廃止したが、実は買収防衛策と同じスキームを取締役会で決議して対抗措置を発動する可能性もあるのです。とは言え、日本製鉄も2年ほど前に買収防衛策を廃止しており、廃止の際のプレスリリースに東京製綱と同じような文言を入れているので、東京製綱のプレスリリースの意味を十分理解しています。というか、日本製鉄は、歴史的に見て日本でもっとも買収防衛策に詳しい大企業の1つとも言えます。

さて、東京製綱が今後買収防衛策を発動するのか、日本製鉄に対抗するホワイトナイトを探すのか、それとも日本製鉄の買収に素直に応じるのか興味深いところです。