コーポレートガバナンス、株式投資、企業価値、IRなどに関する投資家目線での実務ニュース ー 強い意志のある投資を目指して

コーポレートガバナンス、中長期での株式投資、企業分析、企業価値評価、IR等について、新聞記事を中心に投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

東京ソワールの臨時株主総会での買収防衛策導入議案の賛成率が公表

東京ソワールの7月30日開催の臨時株主総会にてフリージアマクロスを対象とした買収防衛策導入議案が可決されましたが、本日、次のとおり議案の賛成率について臨時報告書が開示されました。

https://www.soir.co.jp/wp-content/themes/tokyo_soir/pdf.php?postid=22653

議案の賛成率は68.8%でした。フリージア保有比率はたしか13%のはずです。ところで、フリージアは今後どうするのでしょうか。

日邦産業との攻防では、大量買付ルールに違反して株式の買い増しを進めたことに対して取締役会決議での対抗措置発動は有効であると名古屋高裁は判断をしました。このため、フリージアは、東京ソワールの大量買付ルールに則って手続きを進めるように想像します。

東京ソワールの独立委員会は、フリージアが手続を遵守した場合には、原則として、取締役会に対して対抗措置の発動を行わないよう勧告するが、手続が遵守されている場合であっても、当該大規模買付行為等がソワールの企業価値・株主共同の利益を著しく損なうものであると認められかつ対抗措置の発動が相当と判断される場合には、例外的措置として、対抗措置の発動を勧告する場合があるとしています。フリージアは手続きを遵守した後に、東京ソワールに対抗措置を発動させてその効力を争うのでしょうか。

ところで、明日は大江橋法律事務所の「買収防衛策に関する最新判例解説」のオンラインセミナーに参加予定です。大江橋法律事務所は、東京では知名度は低いですが、大阪では最大の法律事務所かと思います。当然、西村あさひ法律事務所、森・濱田松本法律事務所などと比べるとかなり見劣りする印象を私は持っていますが、東京に比べて大阪は上場企業の数が少ないのでやむを得ないところではあります。

日邦産業と日本アジア事件はブログでも記事を書いており、旬刊商事法務での西村あさひの太田氏の記事等でも整理してはいますが、全体情報整理のためセミナー参加予定です。

旧村上ファンド系と日本アジアグループとの攻防(第17回) ー TOBが終了し、投資ファンドが勝利

日本アジアに対するTOBの期限が7月30日となっていましたが、7月31日に日本アジアは次のとおり「株式会社シティインデックスイレブンスによる当社株式に対する公開買付けの結果及び親会社の異動に関するお知らせ」を公表しました。

https://www.japanasiagroup.jp/wordpress/wp-content/uploads/2021-7-31.pdf

TOBは成功し、旧村上ファンドサイドの日本アジアの株式保有比率は15.35%であったのが58.96%となりました。今後はファンド側はスクイーズアウトを予定しているようですね。一連の経緯を更新します。

  • 月 9日 日本ア:取締役会決議により買収防衛策を導入
  • 3月22日 日本ア :取締役会決議で対抗措置(新株予約権無償割当て)発動
  • 3月25日 ファンド:東京地裁新株予約権無償割当差止め仮処分申立て
  • 4月 2日 東京地裁ファンドの申立てについて差止め仮処分を決定
  • 4月 5日 日本ア:東京地裁の決定を不服とし、保全異議を東京地裁に申立
  • 4月 7日 東京地裁日本アの申立てに対し東京地裁の仮処分決定を認可
  • 4月 8日 日本ア :東京地裁の決定を不服とし、東京高裁に保全抗告申立て
  • 4月23日 東京高裁:日本アの申立てを棄却
  • 4月26日 日本ア :新株予約権の無償割当の中止を決定
  • 4月26日 ファンド:日本アへのTOB開始(4月27日~6月11日)
  • 5月14日 日本ア:TOBに対して取締役会が意見表明を留保 
  • 6月 2日 ファンド:TOB期間を延長(6月11日  ⇒ 6月16日)
  • 6月15日 ファンド:TOB期間を延長(6月16日  ⇒ 6月29日)
  • 6月18日 日本ア:TOBに対する意見表明(中立)を公表
  • 6月29日 ファンド:TOB期間を延長(6月29日  ⇒ 7月15日)
  • 7月14日 ファンド:TOB期間を延長(7月15日⇒7月30日)
  • 7月14日 ファンド:TOB価格を変更(960円⇒970円)
  • 7月14日 日本ア:TOBへの賛同の意見表明
  • 7月30日 ファンド:TOBが終了し、日本アジア株58.96%保有

ご参考までに前回の第16回の記事を再掲たします。 

東芝が「当社取締役会からの発表について」を公表 ー たいした内容ではないです

コロナ感染者がかなり増えているようです。世界規模でもインド型の拡大が懸念されているようですが、日経平均株価が今後大きく下げたところで買い増しをするチャンスが到来するかも知れず、いくつかの銘柄を良いタイミングで売却して、買い増しのためのキャッシュを確保したいと考えています。

さて、7月30日に東芝が次のとおり「当社取締役会からの発表について」を公表しています。

https://www.global.toshiba/jp/news/corporate/2021/07/news-20210730-01.html

次の記述があります。

当社の取締役会は、2021年6月25日に開催された当社の定時株主総会(以下、「定時株主総会」)以来、全てのステークホルダーの利益のため、ガバナンス、安定性及び透明性の向上に取り組んでまいりました。これらの取組みは、より充実した株主還元につながるものと考えています。定時株主総会後、当社は取締役全員出席による取締役会を2回開催し、各委員会も多くの活動を行っております。また、取締役会に匿名のフィードバックを提供するため、株主のエンゲージメント調査を開始しました。 指名委員会は、追加の取締役候補者を選定するプロセスにおける支援及び取締役会議長(暫定)兼CEOである綱川智氏の後継者として社内外の候補者を検討するため、今般、エクゼクティブサーチ会社2社を選定しました。取締役会は、日本で最も重要な企業のひとつである東芝の重要性とCEOの役割の重みに鑑み、CEO後継者の選定は幅広くより時間を要するプロセスになるものと考えております。また、取締役会議長(暫定)に代わる社外の候補者を探すことも、優先して取り組むべき課題のひとつです。当面は、定時株主総会を踏まえ、体制強化が必要となっている当社の監査委員会の一員となる候補者選定に注力する予定です。なお、指名委員会は、取締役会に有意義な貢献をするために必要な時間と専門性を有する追加の取締役候補者を選定することもあります。

社長や取締役会議長の選任を進めるため、幹部の紹介を請け負う人材会社2社を選定したようですね。東芝は6月の定時株主総会で、永山治取締役会議長と木林伸行 監査委員会委員の再任が否決され、あらたな候補者の選定をしているところです。前回の東芝の件のブログの記事をご参考までに再掲いたします。 

富士興産と投資ファンドの攻防(第18回)ー アスリード・キャピタルの主張は読むに値します(その2)

前回の「その1」に続き、アスリードの公開資料の中で上場企業の経営トップにとって念頭に置くべきと思われる事項について解説をしたいと思います。念のためアスリードの公表文を再掲します。

https://www.aslead.com/fujikosan/Aslead_Fujikosan_Press_20210728.pdf

この中の「2 公開買付けについての株主の意思は、その応募で判断されるべき」という箇所の次の記述です。

我々は、公開買付けにより(富士興産の)全ての株主の皆様に 1250 円での売却機会を提供しているにもかかわらず、経営陣が自らの勝手な判断でその機会を阻止することがあってはなりません。経営陣が、本公開買付価格が適正かについて意見を述べたとしても、経営支配権維持の目的で買収防衛策を導入し、株主自身の意思による売却機会を妨害するべきではありません。

(富士子興産の)経営陣は、我々が提示している一株当たり1250円という公開買付価格は廉価であると意見表明していますが、それを根拠に本公開買付けを阻止するのであれば、経営陣はこの価格を上回ることにコミットするべきです。 先日の定時株主総会にて、買収防衛策の導入により本公開買付けを阻止することで株価が上がると思っているのかと 保谷社長に問い ましたが、残念ながら株価については意見を差し控えるとの回答しか得られず、買収防衛策導入の公表後、株価が公開買付価格を下回っているにも関わらず、今なお株主価値向上に関する具体的な施策は何ら公表されてい ません。そればかりか、対象者経営陣は、買収防衛策の導入の必要性の根拠として、我々による本公開買付けが成立すれば企業価値が毀損すると根拠の無い主張をしてい ます。

アスリードの主張は極めて合理的と思います。昨日の終値の1042円を大きく上回る1250円のTOB価格について、本来の富士興産のあるべき価格(=理論株価)と比較して廉価ということを富士興産は主張するのであれば、1250円を超えるいくらが富士興産の理論株価であるのか、経営陣としては一定のレンジで示し、それに向けてどう達成するかのプランを示すことが必要なのだと思います。1250円が廉価であるとだけ根拠を示すことなく主張するのは、誰でも出来ます。これが出来ないのであれば、TOBに応じるか否かは株主の判断に委ねるべきなのです。

株価をコミットすると数値が独り歩きする可能性もあり、経営トップは開示したくないという気持ちも良く分かります。また、株価の動きは企業努力だけではいかんともし難く、市場全体の動きとの連動性も大きいので断定的に言えないことも良く分かります。

通常のIR活動や株主総会での回答であれば、それでやむなしかも知れませんが、今の富士興産の局面は有事です。この段階で明確な回答を公表できないのであれば、買収防衛策は経営陣の保身、つまり買収の後、アスリードによってクビにされることを現経営陣は脅威に感じており(現にそうなのだと思いますが)、そのために買収防衛策を導入・発動したと世間から見られると思います。

上場企業の経営トップの方は、今回のアスリードの公表文を一度しっかりと読み、自社に投資ファンドが同様の主張をしてきた場合を想定し、どう回答すべきかを考えておくことが重要になるかと思います。何事も「用意周到、準備万端」が肝要です。

富士興産と投資ファンドの攻防(第17回)ー アスリード・キャピタルの主張は読むに値します(その1)

来週1週間で仕事が終わり、その翌週1週間は夏期休暇に入ります。今年の夏は久しぶりに民法、刑法といった法律書をなにか1冊読もうかと考えています。大学時代(20年以上前になりますが)に民法、刑法、刑事訴訟法などの法律を真面目に図書館で勉強していたこともありましたが、大学卒業と同時にその手の専門の法律書から完全に離れていました。リカレント教育ではないですが、大学卒業から20年以上の時が経ち、あらためて当時の学問内容を振り返りたいなと思った次第です。後日、ブログでも感想を書いてみたいと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、アスリード・キャピタルが7月28日にTOBの意向の追加説明を次のとおり公表しています。

https://www.aslead.com/fujikosan/Aslead_Fujikosan_Press_20210728.pdf

TOB価格を1250円としているわけですが(7月30日の富士興産の株価の終値は1042円)、このTOBに対する富士興産の対応の姿勢を厳しく非難するとともに、富士興産の株主に対してTOBに応じることを呼びかけるものです。

この資料を読むと「なるほど」と思うことが書かれており、上場企業の経営トップの方などはあらためて強く意識した方が良いと思い、該当箇所について紹介と説明をしたいと思います。

1点目は、「1上場会社である以上、経営陣の意思で株主は選べないこと」という見出しの箇所で次の記述です。

- 企業が株式を証券取引所に上場することとは、公開買付けにより株式が取得される可能性も含め、株式を自由に売買されることを大前提として判断することです。経営陣の意向にそぐわない(気に入らない)投資家も株主になりえることを選んだのは、対象者の取締役会です。

- 買収防衛策を導入し、 経営陣が気に入らない株主に20%以上株式を持てないようにしても、その他の「 気に入らない投資家 」に株を買わせないようにしたり、強制的に保有株を売却させたり することはできません。このように、気に入らない投資家には株主になって欲しくないというのは、株式を上場していることと矛盾します。そのような経営姿勢を維持するのであれば上場を維持するべきではありません

至極もっともな意見かと思います。株主の提供するお金はリスクマネーといいます。銀行による貸付と異なり、株主の投資した金(投下資本)は、株主は会社から返還を求めることはできないのです。会社が破綻しても文句は言えないのです。

銀行は1000万を会社に貸し付けた場合、返済期日に1000万円の返還を求める法的権利があります。しかし、株主は1000万円で株を購入しても、後日、払い戻しを会社に求めることは出来ません。その代わりに投下資本を回収する手段として、株式を自由に譲渡することが法的に認められているのです。つまり、公開会社の株主は、保有する株式を自由に第三者に譲渡して、投資資本を回収することが認められているため、リスクマネーを供給するのです。

であれば誰に株式を譲渡され、結果、会社は誰に株式を保有されるようが文句は言えないのであり、それが嫌であれば上場をする必要はないのです。これを端的にずばり言い表しているのがこのアスリードの意見です。言われてみれば当然のことではあるのですが、上場企業の経営者はこの点をあらためて念頭に強く置く必要があるかと思います。

もう1点、アスリードの資料の記述で上場企業の経営トップが念頭に置くべき事項があるのですが、少し長くなりましたので、この点は週末に紹介します。

東京ソワールが臨時株主総会の第2号議案「新株予約権の無償割当」を取り下げ

フリージアマクロスが株式を保有している東京ソワールですが、取締役会決議で導入した買収防衛策(特定標的型・有事導入型)について、本日の臨時株主総会で株主の賛同を求めることになっています(前回のブログ記事は最後に再掲しております)。本日が臨時株主総会日ですが、昨日、東京ソワールは第2号議案である対抗措置発動を取り下げることを次のとおり公表しました。

https://www.soir.co.jp/wp-content/themes/tokyo_soir/pdf.php?postid=22639

理由は、対抗措置の発動はフリージアに手続違反があった場合となっているところ、独立委員会で手続きを精査したところ、フリージアに手続違反は見られないので取り下げたということです。もともと第2号議案には、フリージアマクロス社が本プランに規定する手続に違反をしており、かつ、当社の独立委員会が第2号議案を取り下げるよう当社の取締役会に勧告をしていない場合にのみ、審議及び決議されることが予定されております。」と規定されていましたので、これに従い取り下げたということです。

ちなみに東京ソワールの買収防衛策では、大量買付者がルールを遵守した場合、「独立委員会は、大規模買付者が本プランに規定する手続を遵守した場合には、原則として、当社取締役会に対して対抗措置の発動を行わないよう勧告します。但し、本プランに規定する手続が遵守されている場合であっても、例えば、以下(ⅰ)~(ⅻ)に掲げる事由により、当該大規模買付行為等が当社の企業価値・株主共同の利益を著しく損なうものであると認められかつ対抗措置の発動が相当と判断される場合には、例外的措置として、対抗措置の発動を勧告する場合があります。」と規定されています。

フリージア東京ソワールの買収防衛策ルールに従い、粛々と対応をしているのだと思います。フリージアのことですから、今後も東京ソワールを攻撃していくのだと想像しますので、引き続き注視して行きたいと思います。 

 

日邦産業に対するフリージア・マクロスによるTOB(第28回) ー フリージアがTOBを撤回

長きにわたり争われていたフリージア日邦産業との攻防ですが、フリージア日邦産業へのTOBの撤回を公表したようです。日邦産業が次のとおり公表しています。

https://www.nip.co.jp/news/.assets/20210728-1.pdf

フリージアは次のとおり最高裁に申立てをしていますが、日邦産業は、フリージアが敵対的TOBを撤回したことから対抗措置の発動としての新株予約権の無償割当を今後取り下げ、最高裁の判断が出ることはないということでしょうか。

 

有価証券報告書での気候変動リスクの開示義務化の検討開始 ー 上場企業の経営者はESGアクティビズムを意識する必要あり

7月26日の日経新聞の1面にありましたが、金融庁企業の気候変動リスクに関する開示を義務付ける検討に乗り出すようです。今夏にも検討会議を立ち上げ、有価証券報告書に記載を求める議論を始め、早ければ2022年3月期の有価証券報告書から開示を義務付ける可能性があるようです。

有価証券報告書での開示となるとだいぶ重みがあるところです。国際会計基準をつくる団体を傘下に持つIFRS財団はESGに関する国際的な統一基準を設ける協議を開始する動きもあるようです。色々な動きがグローバルで出ていますね。EUではタクソノミー規則が来年1月から一部適用開始になり、また、企業に対するサステナビリティ情報開示指令案が公表されるなどの動きも加速しています。

日本では、経済産業省が「非財務情報の開示指針研究会」を本年6月に立ち上げており、第1回が6月10日、第2回が7月16日に開催されました。この研究会は、非財務情報の開示及び指針に関する日本の立場を的確に発信し、日本の非財務情報の開示に関する国際的な評価を高めることを目指しており、今後の行方が要注視かと思います。こういう開示情報の動きを注視し、きちんと対応していかないと上場企業はESGアクティビズムの対象となります。

明日から、この研究会の第1回・第2回の資料の精読をする予定ですので、ブログでも「非財務情報の開示指針研究会」のフォルダを作り、研究会の動きを記事で適宜拾っていく予定ですので、ご関心のある方は、今後記事をご覧頂ければと思います。

技術カルテル摘発 ー カルテル違反の疑いを持たれないようにするためには

昨日、技術カルテルの件を書きましたが、では、競合他社とアライアンスを検討する際にはどうしたらよいでしょうか?

まずカルテルの摘発を受けたことのない多くの日本企業は、特に注意を払うことなく、競合会社と会議をしたり、交渉しているのだろうと想像します。少し前にニトリとホームセンターの経営統合があった時に「過去に面談を重ね」というような発言がたしかあったように思いますが、恐らく、カルテルの疑いが持たれるリスクなどはあまり気に留めていないのかも知れません。最終的に買収となったので、交渉の途中で商品価格の話をしていたとしても、今となっては何ら問題はないですが。

カルテルの疑いをもたれることを避けたいのであれば、会議や交渉の場には、都度外部の法律事務所の弁護士を同席させ、かつ会議・交渉の議事録を弁護士に作らせることがお薦めです。この弁護士は中立の立場の法律事務所がよいと思います。特に何かアドバイスを求めるわけではないのですが、さすがに「僕は労働法しか知らない」「交通事故案件が専門」という素人の弁護士だと困りますので、ある程度は独占禁止法に精通している人が必要かと思います。

「そんなことする必要あるの?」と思われることがあるかも知れませんが、海外の企業はカルテルの意識が高いので、競合会社との交渉では法律事務所を同席させることは多いと思います。ただし、かといってあまり過敏になる必要はないと思います。

一度カルテルの摘発を受けた企業は、過度にカルテルのリスクに神経質になる傾向があるということを数年前にある法律雑誌の企業アンケートで読んだことがあります。こういう企業は、コンプライアンス強化のお題目の下、ビジネスを知らない法務部やコンプライアンス部門のスタッフが無駄に厳しいコンプライアンス・ルールを作ることが多いのだろうと想像します。特に、起用している外部の法律事務所に相談すると彼らは決まって「リスクあります」というのが常ですので(自分たちが責任を問われないようにするため)、それを社内の法務部あたりが、伝書鳩のようにそのまま経営陣に伝達して、過剰なルールを作成することになるのだと思いますが、そこまで気にするのはどうかと思います。所詮は、いち民間企業のことをカルテル摘発が済んだ後も当局がずっと気にすることは普通は考えにくいです。

ということで、カルテルに過剰に敏感になる必要はないですが、海外企業がよく行っているように会議・交渉の場には、面倒ですが、リスク回避の観点から独占禁止法・競争法をある程度理解している弁護士を同席させるという習慣はつけた方がよいかと思います。そうすれば、後日、当局から何か求めがあった場合でも議事録を証拠として使えるかと思います。

技術カルテル摘発 ー 技術に関する競合他社との取り決めも要注意

本日は話題を変えて、法務関連のネタを紹介します。本日の日経新聞に「技術カルテル」摘発との記事がありました。

フォルクスワーゲンBMWダイムラーなど5社が定期的に会合を持ち、有害な排ガスを浄化する法令基準以上の技術があるにもかかわらず、競争の激化を避けるために利用を控えるよう合意したと認めて総額約1,140億円の制裁金を課されたということです。要するに技術カルテルとして処罰されたということです。

カルテルとは、合意によって事業者間の競争を制限する行為をいい、日本では独占禁止法、海外では競争法で規制されています。典型は価格カルテルです。具体的にいいますと、例えば化学材料メーカー5社が存在するとして、この5社が顧客への納入製品の価格について1個あたり10,000円とするといったように価格競争を行わないことを合意することをいいます。市場において事業者は競争をして、需要者・消費者に良い製品・サービスをより安い価格で提供することが求められていますが、カルテルはこれを阻害する行為としてグローバルで厳しく規制されています。

1個10,000円という合意があった以上は、実際にはそれより低い値段で売却した場合でもカルテル認定されることもあります。また、具体的な価格でなくても、顧客に対して「3~5%のレンジで値上げ交渉をしようと」ということを取り決めることでもカルテルと認定されるケースもあります。とりわけ、欧米での規制はかなり厳しいと考えた方がよいでしょう。制裁金が巨額になるケースが多いです。

「当社の製品の納入先は日本国内の顧客であり、海外顧客には販売していないから海外の競争法のリスクはない」と考える企業もいるかと思います。しかし、これは間違いです。国内の顧客に販売した製品について、その後、顧客が自社製品に組み込んで海外で販売した場合には海外の需要者・消費者に影響を及ぼしたとして日本国内でのカルテル行為が欧米の競争法違反として処罰されることもあるのです。

いずれにせよ価格について合意するというのがカルテルの典型でしたが、技術に関する合意も欧州ではカルテルとして罰せられたということです。何故カルテルとして処罰さされたかの法律解釈は不明ですが、市場で支配力のある自動車メーカーの生産台数に影響を及ぼし、価格にも影響を及ぼすというような認定がされたのかも知れません。

ちなみに、カルテルは市場の競争を阻害する行為ですので、先の事例で5社がカルテルをしてもこの5社の市場シェア合計が10%もなく市場に影響がない、つまり顧客は値段が高い場合には容易に他の化学素材メーカーから購入すれば足るという場合には、カルテルとして処罰される可能性は小さくなります。

では、こういうカルテルのリスクがある中で競合他社とアライアンスをする際にはどういう点に注意すればよいでしょうか。次回、解説をいたします。

書籍紹介「ずば抜けた結果の投資のプロだけが気づいていること」(幻冬舎新書)

本日はごく簡単に書籍を紹介します。数ヵ月前に読んだ本ですが、「ずば抜けた結果の投資のプロだけが気づいていること」(幻冬舎新書)です。著者は苦瓜達郎氏(1990年東大経済学部卒)で、国内中小型株式部門で過去6年連続で優秀賞等を受賞した三井住友DSアセットマネジメントのファンドマネジャーの方です。

一言でいうと、内容は薄く、プロの機関投資家や財務分析をして株式投資を実践している方は、まず読む必要はないであろう株式投資の初心者向けの本です。要するに中小型株を長期で投資する際の極めて初歩的な注意事項等が書いてあります。株式投資において財務分析などをしたこともなく、チャートだけ見て投資している大多数の個人投資家の方には、参考になる書籍と言えるのかも知れません。ただ、何点か参考になる記述もありましたので、紹介します。

まず、情報源として著者は、会社四季報を薦めています。数値の箇所ではなく、「業績予想・材料記事」を時系列で読み進めることを推奨しています。四季報の記者には、会社の説明を鵜呑みにして記載している者もいるので完全に信頼は出来ないですが、中小型株ですとアナリストレポートが発行されていない場合もかなり多いので、企業について第三者の目線を知る手段として四季報は有用かと思います。

次に、大型株では株価が低い場合、これは割安に評価されているわけではないということです。大型株は多くの人から注目されているにもかかわらず、株価が低いということは市場参加者の総意として企業の評価が低いということです。逆に、中小型株の場合、市場参加者が少ないので株価が適正に評価されておらず、割安に放置されている場合も多いということです。

上場企業の長期・超長期プランには機関投資家は関心ないと思います ー 何事も経営トップの在任期間にフォーカスすべき

7月21日に経済産業省が新しいエネルギー計画を公表しました。既に新聞報道のとおりですが、30年度の比率を①再生エネで36~38%②原子力で20~22%③温暖化ガスを排出しない水素やアンモニアによる発電で1%④火力で41%と提示されました。19年度実績で火力が76%であるのが41%にまで低下させる計画です。

この計画に対して、実現性が乏しいという批判が相次いでいるようで、エネルギー政策に詳しい橘川武郎国際大教授からは、「リアリティーに欠け、大きな禍根を残すのではないか。(電源構成案に)反対する。率直にいって帳尻合わせだ」という意見が新聞に掲載されていました。有識者の反対意見を見ると、多分実現は不可能なのでしょう。しかし、今回の政策を立案した役所の責任者の多くは10年後には、役職定年になっているか定年を迎えているのだと思います。ということを考えると、10年後の実現の可否について、その時点では担当としての責任を負わない立場にありますという現実に鑑みると、責任を負わない10年後の実現の可能性などより、今時点の世の中の動きを踏まえた政策を立案するインセンティブが優先するというサラリーマンである役人の本音だと想像します。

さて、このケースを見て思うのは企業の長期・超長期計画です。ほとんどの企業の中計経営計画は3年~5年ですが、これはとてもしっくりきます。それは、多くのサラリーマン社長の任期は4年~7年というところだと思いますが、社長が責任を負う在任期間内での計画だからです。中計経営計画が未達となると立案した経営トップの能力が問われ機関投資家から批判され、株式が売られます。

しかし、問題は10年、15年といった長期・超長期の計画を公表することです。これは明らかにサラリーマン社長の在任期間を超える、つまり未達でも自分の責任が問われない計画と言えます。従い、長期・超長期計画の実現性を公表したところで機関投資家は軽視するのだと思います。勿論、大きなざっくりとした方向性というか希望を開示するのは良いことなのだと思いますが、それを超えて細かい計画を公表しても意味がないということです。

本年6月のコーポレートガバナス・コードで、企業にはサステナビリティの取組みの策定が求められました。サステナビリティとは、企業の持続的成長です。つまり10年、20年を超えて成長を続ける上での課題への対応の策定が求められました。一方、繰り返しになりますが、オーナー社長とは異なりサラリーマン社長には任期があります。とすると、持続的成長という言葉を額面どおり解釈をして、10年、15年を超える空想を策定したところで資本市場関係者には全く響かないということになります。そもそも10年を超える計画など外部環境がどう変化するか専門家含め誰にも分からないので、全く読めないということもありますが。この点を企業は理解する必要があります。

CSRおじさん・おばさん」「サステナビリティおじさん・おばさん」のような人物が企業によっては存在するかも知れませんが、そういう方には機関投資家の目線ということを理解させることが大事で、その理解が出来ていないと、CSRコンサルタントのような業者にいいように利用され、資本市場に響かない計画を公表し、陰で笑われるという事態になりかねません。何事も経営トップの在任期間を上限としてプランを立案・公表するのが肝要かと思います。

特定標的型・有事導入型の買収防衛策のすすめ ー 事前警告型買収防衛策の代替スキーム

昨日は連休初日でしたが、家族4人で神奈川県にある大きなプール施設に行きました。朝に車で家を出て帰宅が20時と丸1日かかりましたが、屋外で1日過ごすと気分爽快ですね。本日は、メインイベントである家の掃除のほかに、新聞情報整理、ツイッターチェック、読書などをして過ごし、明日は午前中はプールで1時間30分ひたすら泳ぐ予定です。

さて、事前警告型の買収防衛策ですが、ブログでもこれまで何回か記事を書いていますように機関投資家からの反対が益々強く、廃止企業もこの数年でかなり増えています。現時点での導入企業数は200社台かと思います。このような状況下、機関投資家の株式保有比率が一定比率を超える企業では、継続をどうするか悩んでいるところかと思います。

「買収防衛策は継続すべき」と単純に考えている人も中にはいるかも知れませんは、資本市場の最近の動きを知っていればそんな単純なことではないです。事前警告型の買収防衛策はESGの「G」のマイナス要因ともなり、将来的にはESG評価でマイナス評点がつき、投資対象から除外されるリスクもあるのです。株式時価総額1000億円以上の企業は「企業の品格」にも注意を払う必要がありますので、ESG評価は無視できない話かと思います。

では、どうすべきかですが、事前警告型は廃止して、特定標的型の有事導入の買収防衛策とするのです。ブログで連載しております富士興産、東京ソワールなどはこのスキームです。つまり、自社の株式を取得する大量買付者が出現した段階で、取締役会の決議で買収防衛策を導入し、対抗措置の発動準備又は発動をします。そして、その後、速やかに株主総会を開催して、買収防衛策の導入と対抗措置の発動の2つの議案について株主の賛同を求めます。その際には、株主総会で株主の賛同を得られなかった場合には、取締役会決議で発動した対抗措置の効力は遡及的に喪失されるという条件をセットにするのがポイントです。細かいところは色々と検討すべき点もありますが、大きな骨格な以上のとおりです。

このスキームが法的に100%万全かというとそれは断言できません。裁判所の判断が出ていないからです。しかし、日本アジアと旧村上ファンドの攻防においては株主総会を経ていなかったことが、日本アジアの対抗措置が差し止められた大きな要因とされています。このことを考えると、特定標的型・有事導入型の買収防衛策は一定の合理性を有すると言えます。

平時においては、有価証券報告書の「株式会社の支配に関する方針」でこのあたりに少し触れておけば、事前開示の原則という2005年頃の買収防衛策ガイドラインも一応充足すると主張できます。検討されてはいかがでしょうか。

富士興産と投資ファンドの攻防(第16回)ー アスリード・キャピタルがTOB期間を延長

本日、経済産業省がエネルギー基本計画の改定案を公表しました。計画の詳細はまだ読めていないのですが、既に新聞報道されているとおりで特に驚くことはないようですね。2030年度の原発比率は20~22%となっております。私の保有銘柄の1つにクニミネ工業(5388)があり、同社のベントナイトが放射性廃棄物関連の用途で利用されるので、原発の動向は結構気になるところです。原発と地熱が関心があります。

さて、本題になりますが、アスリード・ストラテジックによる富士興産のTOBについてえアスリードTOB期間を延長したようです。TOB期間は8月5日まで、決済開始日は8月13日です。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/5009/tdnet/2002921/00.pdf

明日から連休になりますが、来週以降から3月期決算企業の4-6月期の決算発表が始まりますので、私は保有銘柄と関連銘柄の2020年度の決算内容のおさらいをこの連休に実施する予定です。

日邦産業に対するフリージア・マクロスによるTOB(第27回)ー フリージアはTOB期間を延長(8月5日)

本日は、最近の旬刊商事法務の一連の記事の整理をしましたが、直近の第2268号の「2021年コーポレートガバナンスの現在地(3)」という記事の中で、米国のビジネスラウンド・テーブルのステークホルダー資本主義に対する米国の主要年金基金からなる機関投資家団体の意見が記載されていました。「全てに対して説明責任を果たすことは、誰に対しても説明責任を果たさないことを意味する」ということです。

東芝の問題に光をあてたシンガポール投資ファンドのエフィシモキャピタルも同じようなことを言っています。この旬刊商事法務の記事は是非一読をお薦めしますが、近い中にブログでも紹介したいと思います。

さて、日邦産業に対するTOBですが、フリージアは期間を延長したようです。

https://www.nip.co.jp/news/.assets/20210720-1.pdf

TOB期間が8月5日までで、決済の開始日が8月9日となっています。一体いつになったら終わるのでしょうか。