中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

東証市場区分見直し - 時価総額100億円前後の銘柄は投資対象としてウォッチ

昨年末に東証が市場区分の見直しを公表しました。日経新聞でも大きく掲載されていたのでご存じの方も多いと思いますが、2022年4月から東証市場区分が、プライム市場、スタンダート市場、グロース企業の3つに分かれます。

プライム市場が現在の東証1部に相当しますが、プライム市場に入るための株式時価総額は100億円となっています。現在、東証1部には約2,200社ありますが、100億円以下は600社もあります。

では、この600社はプライム市場に入れないかというと、救済措置がもうけられており、当分の間はプライム市場に残留できますが、基準適合に向けた計画書を東証に出す必要があるということです。つまり、例えば時価総額が80億円でもプライム市場に入れるが、今後100億円をめざすための計画を策定せよということです。また、TOPIX も100億円以上を基準とするが、2022年4月にこの基準を直ちに適用するのではなく、2022年10月~2025年1月にかけて四半期毎にTOPIXに占める構成比率を下げ、2025年1月に除外するということのようです。

この市場区分見直しで一番不安に思っている企業は、株式時価総額100億円前後の企業だと思います。100億円以下の東証1部の企業は、将来、株式時価総額100億円に到達しないと、プライムから除外され、スタンダード市場(現在の東証2部相当)に格下げになる可能性があります。なお、この時価総額とは流通時価総額となっているので政策保有株式は除外されるので要注意です。

とすると時価総額100億円前後の東証1部の企業は、今後、株価上昇に向けて施策を講じてくる可能性があると思います。勝手な想像ですが、オーナー社長の企業より、サラリーマン社長の企業の方がプライム市場に残ることにこだわりがあるかも知れません(上場オーナー社長は、元々超富裕層ですので、プライムにそれほどこだわりはないかも知れません。もっとも資産の多くは自社株に依存することを考えると、逆かも知れませんが)。

また、現在東証2部ですが、時価総額が100億円超の会社は将来プライム市場に入れる可能性があり、TOPIXに組み込まれる可能性もあります。色々と見方はありますが、株式時価総額100億円前後の企業は、今後の中長期投資先としてウォッチすると面白いかも知れません。四季報オンラインで丹念に調べて行こうかと考えています。

株式投資先としてのファミリー企業(オーナー系企業)

本日、1都3県に非常事態宣言が出ました。私の場合、勤務地及び自宅とも東京都内ですので、明日から都内は夜は閑散とした状況になるのだと思います。一方で、本日の日経平均株価終値は前日比+434円の27,490円でした。

昨日ブログで紹介したエムビーエス(1401)は前日比▲6円の703円でした。同社は昨年の8月下旬に本業にあまり関係のないPCR検査装置の開発で株価が600円前後から数日で1,000円まで上がり、その後、短期間で600円台に下がった経緯があります。今回は本業のスケルトン工法での特許取得ですので、このまま上がる気もしたのですが、株価の動きを見ると明日以降も下落する様子ですが、中長期投資としては依然として魅力ありかと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、本日は投資先としての上場ファミリー企業について書きます。上場ファミリー企業とは、同族経営企業で社長がオーナー一族で大株主として支配的株式を保有している企業です。

ファミリー企業については、時々日経新聞でも記事に書かれるように長期で見るとサラリーマン社長の企業と比べて業績面のパフォーマンスが優れていると言われており、実際にそういう研究結果も出ているようです。勿論、私は検証したことはありませんが、そう言われている以上、事実としてそうなのだと思います。では、その理由は何でしょうか?

これも世間で言われていることですが、3つほどあります。1つ目の理由は、オーナー社長はじめ一族は企業経営を監督する強いインセンティブがあるということです。例えば、先日ブログに書いた象印マホービンの場合、社長が830万株の自社株式を有しています(保有比率は12.40%です)。このようにオーナー社長は、「超富裕層」ですが、その富の源泉は自社株式に依存しており、当然、株価に影響を与える事業経営及びその監督に強いインセンティブがあります。サラリーマン社長の場合は、自社株式を保有していても数万株といったケースが多く、発行済株式総数に占める保有比率は0.1%すらないのが普通かと思います。

2つ目はオーナー一族の会社に対する愛着だと思います。これはサラリーマンには生涯理解することができないのだと思いますが、ファミリーで事業を営み大きく成長させたというファミリーの歴史において、会社は一族の分身と言われます。つまり我が子同然です。企業はゴーイング・コンサーンと言われますが、オーナー一族にとっての精神の拠り所が会社の存続なのだと思います。ゴーイング・コンサーンという言葉はオーナーのための言葉の気もします。

3つ目に、社長の在任期間が15年、20年以上となるため真に長期視点で事業を考えることが出来るという点です。

いずれも世間一般で色々な書籍やビジネス誌で言われていることであり、サラリーマンであれば誰でも分かっていることと思います。勿論ファミリー企業の弊害もあります。それは創業社長は優秀ですが、ボンボンで育った2代目社長以降がボンクラの社長であるケースです。

オーナー社長の企業は、取締役といっても実際には部長クラスとほとんど変わらないケースがかなり多いかと思います(勿論お給料は部長より高いかと思います)。オーナー社長に逆らうこと=即クビです。取締役は法的には会社との関係は委任ですので、いつでもクビにできます。とすると、オーナー社長の判断が正しくなくとも、物を言える取締役はゼロです。サラリーマン社長に物を言える人も少ないですが、ましてやオーナー社長になど物を言えるはずがなく、オーナー社長がボンクラの場合、その会社の将来は真っ暗ということになります。

私は中小型銘柄(時価総額1,000億円以下)の投資が専門ですので、投資先企業はオーナー社長の企業が多いのですが、特にオーナーが高齢である場合には、次の社長が誰になるかとても気になるところです。しかし、心の中で気にしていてもどうにもなるものではないので、バーチャル総会、オンライン総会が解禁された際には、投資先企業の株主総会で後継者計画(サクセッションプラン)の状況を質問したいと思っています。

中長期投資としての銘柄分析:エムビーエス(1401)がストップ高 ー 特許取得を公表

最近起床時間が早く、だいたい午前5時前なのですが(20代、30代の頃は遅刻ギリギリに毎日起床していましたが、多分年齢のせいもあるかと思います)、早朝の時間は前日夜のニュースチェック、投資銘柄の株価確認、日経新聞の精読などがじっくり出来き、また出社時間もだいたい始業時間の1時間前となり、朝はとても貴重な時間と思っています。

本日は株式投資で個別銘柄について簡単に紹介します。何度かブログでも紹介しております小型銘柄のエムビーエス(1401)ですが、昨日、同社が特許取得を公表しました。プレスリリースに記載に発明内容と要約は次のとおりです。

〔発明の名称〕 コンクリート構造物、コンクリート構造物の製造方法、およびコンクリート構造物の劣化診断方法

〔要 約〕 コンクリート構造物の劣化診断を目視により正確かつ迅速に行うことができるコンクリート構造物、コンクリート構造物の製造方法、およびコンクリート構造物の劣化診断方法を提供することを目的とするものであります。

また、今後の影響としては次のとおり記載されています。

2.今後の事業に与える影響
今後、建設・土木業界ならびに関連各業界からの需要(反響)が期待できますが、今後、当社の業績に影響を及ぼす事象が判明した場合には速やかにお知らせいたします。

このプレスリリースを受けて、出来高がそもそも少ないこともあるのですが、株価は前日比+100円でストップ高となりました。PTS現在値は809円となっています。同社は、建設コンサル大手のパシフィックコンサルタンツとの業務提携の更新をしており(次のブログを参照ください)、技術力の評価が高い会社です。テレビ東京ワールドビジネスサテライトでも過去複数回取り上げられており、中長期投資として今後の動向は要注視かと思います。

さて、前回はオーナー企業の象印マホービンについてブログで書きましたが、先日「創業家一族」(著:有森隆)という書籍を読みました。以前に野村総研が公表したある資料によれば、日本では超富裕層(資産5億円以上)の資産総額は84兆円で8.4万世帯で全体に占める比率は0.2%ですが、創業家一族に記載の大塚家具、ニトリ等の一族は超富裕層の中の更に頂上にいる一握りの方々です。

こういう「超富裕層の頂上」の一族に生まれたオーナー社長、一族の方は、もはや一般の方とは見る景色や住む世界が全然違うのだろうとあらためて感じる次第ですが、それはさておき、株式投資先としてのファミリー企業について、本日の夜にブログで触れてみたいと思います。

象印マホービン(7965)の今年の定時株主総会は? - 昨年はギャランツが株主提案

昨年12月25日公表の象印マホービン(7965)の決算短信によると定時株主総会は本年2月18日に開催が予定されています(同社は11月期決算)。

象印は、昨年は大株主の中国家電大手のギャランツの創業家が取締役選任の株主提案をし否決されています。昨年、ギャランツは象印が3期連続の減収減益に陥った要因として、象印の市川社長(オーナー社長)の在任期間が19年にわたり、影響力が強く他の取締役が独立した判断を下せていない点などを問題として指摘していました。

象印の大株主の状況を見ると2020年5月20日現在で筆頭株主はCLEARSTREAM BANKING S.Aで保有比率が13.54%となっていますが、この投資ファンドがギャランツと関係があると言われているようです。従って昨年と同様に物言う株主筆頭株主ということです。

では、昨年から1年経過して象印の業績はどうかといいますと、2020年11月期は売上高が749億円で前年比▲5.3%、営業利益は54億円で前年比▲0.1%となっており、4期連続の減収減益です。また、経営指標については、同社のホームページに掲載されていますが、ROAとROEは次のとおりで昨年から更に低下しています。

  • ROA(総資産利益率) 18年 4.8% 19年 4.5% 20年 4.2%
  • ROE(自己資本利益率)18年 6.5% 19年 5.9% 20年 5.5%。

同社の直近の有価証券報告書を見ると政策保有株式(上場株式)は37銘柄でBS計上額が4,335百万円となっています。株主資本に占める金額比率は約6%です。政策保有株式の削減が求められている世の中の動きの中において結構な数を保有していると言えます。議決権行使助言会社のグラスルイスは、純資産に占める政策保有株式の金額が10%を超える場合には経営トップへの反対推奨を方針としていますが、この基準には抵触しないようです。

2月18日開催の象印の定時株主総会の招集通知はまだ公表されていません。昨年は、象印は1月14日に「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」を公表しています。この1年間で業績に大きなプラスの進展も見られないことから、今回の定時株主総会でもギャランツサイドから何らかの株主提案を受けている可能性もあるように想像します。

象印は昨年はギャランツの提案に対して、社外取締役としてサントリーホールディングスの鳥井信吾氏を迎えています。現在の象印の取締役総数は13名中、社外取締役は5名ですが、この鳥井氏以外の社外取は税理士や弁護士等で、大手企業経営の経験者は鳥井氏1名の模様です。

もし、象印は今回もギャランツから何か株主提案を受けているのであれば、他の機関投資家や個人株主を会社の味方にするには、鳥井氏を迎えてのこの1年間での事業面の進展等を説明する必要があるように思えます。鳥井氏の選任理由は、昨年の定時株主総会の招集通知によれば、「当社の企業価値向上のために、グローバルな視点での経営への関与や、客観的、中立的な立場からの経営に対する監督を行っていただくため、社外取締役候補者としています」とあります。であれば、この1年間でグローバルな視点をどう経営に反映したのか、また今後どういうことを考えているかの説明や開示が投資家の賛同を得る上で肝になるように思います。象印の定時株主総会の招集通知が公表されましたら、読んでブログで紹介したいと思います。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

私は本日までが正月休みですが、金融・役所などの方をはじめ本日が仕事はじめという方も多いかと思います。昨年後半から環境に関する新聞報道が増えていますが、本日は昨年12月25日に経済産業省が策定・公表したグリーン成長戦略について、原子力を中心に紹介します。

グリーン成長戦略とは、温暖化ガス排出量を2050年に実質ゼロにする工程表です。詳細は次のとおりです。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました (METI/経済産業省)

14の重要分野ごとに、高い目標を掲げた上で、現状の課題と今後の取組を明記し、予算、税、規制改革・標準化、国際連携などあらゆる政策を盛り込んだ実行計画の大枠を規定しており、今後関係省庁と連携し、目標や対策の更なる深掘りを検討していくというもので、あくまで大枠で詳細は今後詰めていくという位置付けになるかと思います。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、次の内容が規定されています。

再エネについては、最大限の導入を図る。しかしながら、調整力の確保、送電容量の確保、慣性力の確保、自然条件や社会制約への対応、コスト低減といった課題に直面するため、あらゆる政策を総動員してもなお、全ての電力需要を100%再エネで賄うことは困難と考えることが現実的である。エネルギー分野における多様な専門家間の意見交換を踏まえ、2050 年には発電量の約 50~60%を太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等の再エネで賄うことを、議論を深めて行くに当たっての一つの参考値として、今後の議論を進める。また、CO2回収・再利用を前提とした火力と水素・アンモニア発電については、依然、開発・実証段階の技術であり、今後の技術・産業の確立状況次第である。本戦略により社会実装が順調に進むことを前提として、水素・アンモニア発電は 10%程度、原子力・CO₂回収前提の火力発電は 30~40%程度を、議論を深めて行くに当たっての参考値とする。今後、エネルギー基本計画の改定に向けて、上記に限定せず、更に複数のシナリオ分析を行い、議論を深めていく。

2019年度の日本の電力構成は、火力が76%、原子力が6%程度と言われていますが、これを2050年には50~60%が再生可能エネルギー、10%が水素・アンモニア発電、30~40%が従来の火力・原子力発電となるということです。経団連会長が「人類の知恵である原子力をうまく活用しないとまずい」というコメントもあるように、原子力の割合が重要になってくると一般的に言われています。グリーン成長戦略において、原子力発電については次のように記載されています。

2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、原子力を含めたあらゆる選択肢を追求することが重要であり、軽水炉の更なる安全性向上はもちろん、それへの貢献も見据えた革新的技術の原子力イノベーションに向けた研究開発も進めていく必要がある。原子力は安定的にカーボンフリーの電力を供給することが可能な上、更なるイノベーションによって、安全性・信頼性・効率性の一層の向上に加えて、再生可能エネルギーとの共存、カーボンフリーな水素製造や熱利用といった多様な社会的要請に応えることが可能である。現行軽水炉では、中露が政府ファイナンスをバックに市場を席巻しており、米英加を始めとした先進国では小型炉、革新炉に活路を見出し、2030年前後の商用化を目指して大規模政府予算を投入して R&D を加速している。目標として、①2030 年までに国際連携による小型モジュール炉技術の実証 ②2030年までに高温ガス炉における水素製造に係る要素技術確立 ③ITER 計画等の国際連携を通じた核融合 R&D の着実な推進を目指す

私はエンジニアではないので、この原子力の記述について深く語れる知識・経験はありませんが、素人なりに調べたレベルでは、原子力の活用ということは、使用済核燃料の保管ということも今後ますます重要になるかと思います。

使用済核燃料の処分方法は、ステンレスの容器に入れて地盤に埋める地層処分(地下300メートルより深い安定した場所に保管)が最適とされているところですが、容器が地下水と接触すると容器の変化のリスクがあり、これをベントナイトでステンレス容器の周りを埋めることが1つの方策と言われているようです。

問題なのは2050年カーボンニュートラルは30年先のずいぶんと長い話であるという点です。長期目標は、目標が壮大であるほど掲げた時は注目をあびますが、時間の経過とともに担当者も変わり、抵抗勢力も出現し、また世の中の流れも変わり、話題性が薄れることが常です。カーボンニュートラルはグローバルで見ても大枠ではその方向にあるのだと思いますが、グリーン成長戦略で定めた具体的内容がどこまで完全に実現できるのかは、甚だ疑問と思う方も多いのではないでしょうか。

「政策に売りなし」は相場の格言であり、グリーン成長戦略関連の銘柄は今後の投資テーマとなり、テーマ投資は短期では株価は上昇しますが、中長期の株式投資を考えた場合、この成長戦略の今後の進捗について注視する必要があるかと思います。

企業民主化研究会の「企業民主化案」 (1947年公表)

本日は新年の最初のブログになります。はてなブログでは、自分のブログのアクセスの件数が分かるのですが(他のブログもそうだと思います)、昨年は毎日のアクセス件数が相当数あり、このブログを読んで頂いている方には心より御礼を申し上げるとともに、今年はより幅広に実務目線の情報を掲載していきたいと思っています。

さて、1月1日から日経新聞も休みであり、株式市場も動いていないため、コロナ以外のこれといった世の中の動きはないのですが、12月31日に1つ興味深い記事がありましたので簡単ですが紹介させて頂きます。記事のタイトルは「新時代の『企業民主化案』」です。

この企業民主化案というのは、経済同友会の発起人のひとりである大塚萬丈という人(当時の日本特殊鋼管社長)が、同友会が新しい時代の企業のあり方についての議論を集約するために設けた「企業民主化研究会」の委員長となり、1947年秋に発表した案で日経新聞記事などによれば、主張骨子は次のとおりです。

  • 経営、労働、資本の3者からなる経営協議会を中心に企業活動の民主化を進める
  • 資本と経営を分離し、経営機能は経営者が担い、監査機能は資本家が担う
  • 経営の最高意思決定機関として「企業総会」を設置し、経営者代表、労働者代表、株主代表の監査役による三者同数で多数決議する

労働者代表が経営に参画するという点ではドイツの法制に近い内容かも知れません。この民主化案は、修正資本主義的構想と言われ、経営者を著しく制約するものであまりに急進的な内容であったため、保守派からの激しい反発にあい、試案として公表されるにとどまったようです。

私はこの企業民主化案という言葉は、学生時代の会社法の講義では聞いたことがなく、教科書でも触れられておらず今回初めて知ったのですが、こういう議論が今から70年ほど前に出ていたというのは興味深いところです。ネットで検索すると原文も出てくるようです。2019年8月に米国のビジネス・ラウンドテーブルが脱株主第一主義として、ステークホルダー主義に転換をしましたが、その内容とも親和性があるような印象を持ちますので、後日、原文も読んでみたいと思います。

ところで、脱株主第一主義は、その後関連する法制が改正されておらず、あまり進展していないとの一部報道もありますが、最近の脱炭素を中心としたESGの流れを見ても全てのステークホルダーの利益を考慮する議論が益々強まるのだろうと思います。今年は上場企業を取り巻く環境が大きく変わる1年であると感じます。ESGに関しては、昨年12月25日に政府がグリーン成長戦略を公表しているので、週明けにこちらも一度読んでみたいと思います。

来年の予想 - 敵対的TOBの増加、アクティビストの動きの更なる活発化

昨日は日経平均終値が2万7,568円と30年ぶりの高値でした。企業の業績はまだまだ明るくはないと思いますが、世界的な金融緩和等での先行きを期待して海外投資家の買いが進んで株高ということかと思います。

既に報道でご存じの方が多いかと思いますが、12月28日がニトリによる島忠へのTOBの応募期限でしたが、昨日、ニトリと島忠がTOBの成立を公表しました。77%の応募が集まり、今後は島忠はニトリの完全子会社になるようです(当然島忠は上場廃止です)。ちなみに、直近で書いた本件のブログは次のとおりです。

さて、今年は敵対的TOBやアクティビストの提案が多かった年かと思います。これまで敵対的TOBの件数が少なかったのは、これを引き受ける証券会社が少ないことも理由の1つでしたが、三田証券、大和証券など引き受ける証券も増えています。

これ以上に敵対的TOBやアクティビストの提案が増加した大きな理由は、スチュワードシップ・コードの浸透により、機関投資家が敵対的TOBであっても提案に合理性がある場合には賛同するようになったことです。機関投資家は、企業価値の向上・持続的成長を促すことで顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任があり、この目的に沿った議決権行使をすることが強く求められており、これが敵対的TOBの増加の一番の背景にあると思います。今回のニトリによるTOBのケースで島忠の独立委員会が「ニトリの提案の方が妥当」と判断したような場合、機関投資家はこれに賛同せざるを得ません。

さて、来年はどのような動きになるでしょうか。まず2020年春の東証の上場区分見直しに向けて安定株主の解消が進むと思います。今のところ、コーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた金融庁のフォローアップ会議では政策保有株式の解消は論点になっていませんが、上場区分制度の見直しで安定株主の解消が進むと思います。また、東京を世界・アジアの金融ハブにすることを目指す「国際金融都市構想」もあると思いますので、海外マネーを東京に呼び込むには、海外投資家が理解できない政策保有株式等の安定株主の解消もセットになるように想像します。ちなみに、上場区分との絡みでは、時価総額が100億円前後の企業がTOPIXから外されないよう株価向上施策に力を入れることも予想されます。

そして、大きいのが2021年春に予定されているコーポレートガバナンス・コードの改訂です。次のとおり以前にブログで紹介しましたが、社外取締役の3分の1以上、指名・監査・報酬委員会の透明性、ダイバーシティの確保等が今回の改訂の論点になっています。

これらをうまく敵対的TOBに絡めて機関投資家が賛同せざるを得ないような提案が増えたり、敵対的TOBでなくとも投資ファンドによるコードの内容をちりばめた株主提案がかなり増加するように思います。上場企業各社はコーポレートガバナンス・コードをしっかりと読み直した上で、来年春に向けての議論の状況をウォッチする必要があるかと思います。

来年は引き続き、金融庁のフォローアップ会議の議論の進捗を注視するとともにコーポレートガバナンス・コード改訂の内容とそれを踏まえた各社の開示の動き、敵対的TOBの分析、アクティビストの動き、ESGを含めた開示の動き、東証上場区分をはじめ資本市場の動向、株式投資などを中心に紹介していく予定です。私の証券会社時代の経験上、上場企業によっては、こういった類の分析や検討にあてる人材が少ない会社も結構多いかと思いますので、そのような会社のコーポレート部門を総括する役員の方や実務担当者の方にブログの記事が参考になればと思っています。

また、近い将来の副業を見据えて(これはいつになるか何とも言えませんが)、タイミングを見てブログのデザインの刷新も出来たら思っています。次回は年明け1月初旬にブログを更新したいと思います。

役員報酬にESG反映 - 役員報酬総額への寄与割合はとても小さいはずです

コロナの勢いがおさまらない状況下、東京オリンピック開催の慎重論が組織委の複数の理事らから出ているようですね。ヤフーニュースによれば、この理事らは世界中での新型コロナ感染拡大の状況を踏まえ、厳しい見方を示したということのようです。

バッハ会長が11月11日に会見で「中止の議論はない」と断言しましたが、コロナの欧州での勢いを見ると東京五輪はかなり高い確率で中止になるような気もします(または相当に縮小しての開催)。ということで、東京五輪開催に伴い株価上昇を見込んである銘柄を数ヵ月前に買いましたが、五輪中止で株価が下落する前に一旦売却してキャッシュにする予定です。

さて、前置きが長くなりましたが、最近の新聞報道で役員報酬にESGといった非財務情報を反映させる企業が増えているようです。

本日の日経ヴェリタスでは、戸田建設セブン&アイ・ホールディングス丸井グループ、リコー、セイコーエプソンなどがあげられています。海外企業では、スターバックスが2021年度から製造、小売部門の従業員の40%以上を有色人種にするという目標進捗を役員報酬に反映させるということです。

ESGの取組みは企業のリスクを低減することになるので、この取り組みを報酬に反映させるということは、中長期投資をする上で投資家にとって好ましいことだと思います。しかし、ここで投資家が注意すべきことは、このESGの報酬への反映の程度です。つまり、仮に役員の報酬が年収2,000万円とした場合、このESG反映は全体の何パーセントを占めるのかです。上記各社の有報は見ていませんが、恐らく報酬に占めるESG要素の寄与割合を明確にしていない企業がほとんどではないでしょうか。

とすると、ESGを報酬に反映するということを強調しておきながら実態は全く伴っていないということになります。役員報酬企業統治において重要な位置を占めるものですが、ESGを本当に真剣に投資家にアピールしたいのであれば、ESG寄与の詳細な指標、当該指標に基づく当期の実績をきちんと開示するのが本来の姿といえます。個人的には、ESGの取組みを報酬に反映するとしたところでESGの取組みは役員個人の力ではいかんともし難いところだと思いますので、役員報酬の多くは当期の業績、株価に連動させることで足るように思います。

暇なときに、ESGを報酬に反映させていることをアピールしている企業の役員報酬設計を一度調べてみたいと思います。少し前に日経新聞でガバナンス上位企業が掲載されており、上位5社が、荏原、オリンパス花王キリンホールディングス塩野義製薬でしたので、このあたりの企業が対象になります。ちなみに、私が集中投資する中小型銘柄(時価総額30億円~400億円)の役員報酬はESGは全く反映していない設計になっています。ある意味、安心しました。

ところで役員報酬については、以前にブログで書いておりますので以下はご参考までに紹介させていただきます。


中長期投資でみるべき製造業の事業上のリスク - 企業の安全面の取組みを投資家は見るべき

前回、人権リスクを有価証券報告書で事業上のリスクとして開示する企業も増えていることを紹介しました。SGDSあたりを意識して開示しているのでしょうが、こんな意味の乏しいリスクを開示するより、投資家を意識して製造業が開示すべきと考える事項について、本日は紹介します。

この1年間、日経新聞の記事やニュース報道を見て、製造業で工場火災の報道が多いような印象をもっていましたが、12月18日の日経新聞に工場での火災発生の記事が掲載されていました。「続く工場火災、4年で22件」というタイトルです。

記事によれば、2020年の工場火災として、東海カーボン東洋紡旭化成マイクロシステム、ダイハツ工業、日本製鉄の火災概要が紹介されていました。2020年は8件と過去3年の4~5件を上回る火災が発生したようです。

業績低迷は4半期決算数値を見れば傾向が分かりますが、火災のような安全違反に起因するリスクは突然起こるものですから、投資家は予見できません。また、1度発生すると株価へのインパクトもそれなりにあります。上記各社の火災発生後の株価は調べていませんが、私が投資しているノザワ(5237)も数年前に工場火災があり、その後業績へのマイナス影響も一定期間継続し、株価も暫く低迷していました。

新聞記事では、相次ぐ工場の火災の原因として、設備の老朽化や熟練技術者の不在をあげています。「採用抑制で中堅人材が不足し、異常の検知等の技術伝承が不十分になった」とどこかの大学教授のコメントもありました。中長期株式投資で製造業の工場の安全面は注意すべき重要な事項になります。

安全面で製造業が取り組むべき事項は多々あり、私はこの分野は全くの門外漢ですが、いくつかのメーカーのアニュアルレポートでの安全・品質の取組みなどを見ると「重大災害未然防止」「安全意識の向上」が肝のような気がします。特に「安全意識の向上」が大事です。工場火災は単純な人為的なミスにより発生するケースが多く、であれば、工場で危険余地訓練を実施しているか、指差呼称が工場で徹底されているかなどがポイントになる気がいたします。「指差呼称」とは、危険予知活動の一環として、信号、標識、計器、作業対象、安全確認などの目的で、指差を行いその名称と状態を声に出して確認する ことでです。

私はメーカーの工場現場をこれまで数回程度しか見たことがないのですが、20代後半にはじめてある企業の工場を見学した際に、車の通っていない工場敷地内で大勢の作業着の社員が指で左右さしながら歩く姿を見て、私は若くかつ世間知らずであったため、「ブルーカラーの人の世界だな」と馬鹿にして(当たり前ですが工場には大卒もおり、全員が作業着を着ているのですが当時はそれを知らず)、とても滑稽な印象を持ちました。今でも滑稽な動作という認識自体は変わりませんが、この滑稽な動作を愚直に実施する習慣が身についている工場ほど安全災害の発生リスクは低いのだと思います。

安全に対する取り組みは企業にとって開示すべきリスクであり、その未然防止策を有報に記載すべきと考えています。繰り返しますが、安全が損なわれると1発で企業の業績は下がり、株価も大きく下げます。人権リスクなど発生する可能性の乏しいリスクを有報に開示するのであれば、製造業であれば、安全や品質のリスクとその未然防止策を有報で具体的に開示すべきではないでしょうか。また、中長期投資家は投資先銘柄のリスク低減としてこの点をしっかりと見る必要があります。投資先銘柄の安全の取組みが不明の場合には株主総会で質問をするのもよいのかも知れません。

さて、私は昨日が年内最後の仕事で、本日から休暇(正月休み)になります。年明け1月の1ヵ月間は業務が連日多忙を極めるので、本日からの正月休みでは業務の下準備をするとともに、投資済銘柄の2019年度の有価証券報告書や統合報告書を丹念に読み込み、1月下旬からはじまる各銘柄の第3四半期の決算発表に備えたいと思います。休み中もブログは2日に1回程度の頻度で更新する予定です。

人権リスク開示の企業が増加 - 有報に記載するほどの事業リスクと言えるのか?

昨日の日経新聞で主要証券会社の2021年の相場見通しが掲載されましたが、野村證券など4社は企業業績の回復を背景に3万円の大台の回復を予想しているようです。主要証券に限らず、3万円近くまで回復するという予想は多いですね。

さて、昨日の日経新聞で人権リスク開示を有価証券報告書で開示した企業が2019年度は78社と前年より2.6倍に増えたという記事がありました。明治ホールディングス、森永製菓、横河電機の名前があげられていますが、横河電機の有報を見ますと「事業等のリスク」で次のような開示をしています。

(人権に係るもの)

当社グループは、人権尊重についてその方針を定めるとともに国連グローバル・コンパクトへの支持を表明しており、ここで謳われている人権の方針と国際的な人権規範を尊重しながらその取組みを進めています。サプライチェーンにおける人権への取組みについても、強制労働・非人道的な扱い・児童労働・差別の禁止、適切な賃金、労働時間の法令順守や従業員の団結権についての指針を示し、国際的に求められている人権を支持して人権尊重に取り組んでいますが、予期せぬ事態により当社グループで人権問題が発生した場合、賠償責任を課されるリスクや企業価値を低下させるリスク等があり、事業活動全般に影響を及ぼすとともに業績、財政状況に影響を及ぼす可能性があります。

最近流行りのSDGSを意識しての取組みだと思いますが、たしかに人権問題が端緒となり損害賠償への発展する可能性もありますが、どれほどのリスクと横河電機は考えているのでしょうか。

企業活動は全てにおいてリスクはつきものであり、一方、有報に記載するリスクは発生可能性が高く、また、発生した場合の影響が大きいものを優先して記載すべきと思います。とすると、上記程度の若干抽象的な内容を有報に盛り込む意味は低いように考えます。SDGSなどを意識するのも良いのですが、何でもかんでも法定開示書類に開示すると会社の姿勢に機関投資家から疑問が持たれることにもなりますので、注意が必要と思います。SDGSあたりはアニュアルレポートや統合報告書といった「読み物」に記載しておけば足るように思います。

アジア・コンセンサス - ASEAN主要5ヵ国+インドのGDP伸び率予想

本日はコロナウィルスの変異等の報道もあってか日経平均終値は26,436円と前日比 ▲278円でした。一方、12月20日でサンセイ(6307)と光通信の件を次のとおり書きましたが、サンセイの株価は予想どおり急上昇しています。

サンセイが買収防衛策の対抗措置を発動しないことを12月18日に公表したことを受け、光通信がサンセイ株を最大500,000株取得できることになったことをブログで紹介しましたが、予想どおりサンセイ株は上昇し、12月18日の終値は476円でしたが、ブログを買いた翌21日(月)の終値は556円、本日は656円(ストップ高となりました。

私は18日にブログを買いた後、サンセイ株の買い注文を入れておくことも一瞬考えましたが、サンセイは光通信との買収防衛策の攻防の観点で興味があったのでウォッチしていただけで、サンセイの財務分析は全くしておらず、つまり中長期投資の対象の判断は一切していなかったので買い注文はしませんでした。しかし、このようにアクティビストと企業との攻防を丹念に分析し、タイミングを見て売り買いをすることで結構なキャピタルゲインを得ることはできますので、買収防衛策、アクティビストの動向、それに対する企業の対応について、人に説明できるレベル程度まで十分に理解できるよう勉強し、銘柄を分析することは株式投資でもそれなりに重要になります。

さて、前置きが長くなりましたが、本日の日経新聞にアジア・コンセンサスの調査結果として東南アジア主要国とインドのGDP成長率予想が掲載されていました。アジアコンセンサスとは、日本経済研究センター日本経済新聞社が四半期ごとにインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの東南アジア諸国連合5ヵ国にインドを加えた6ヵ国の GDPなどをウォッチしているエコノミストや研究機関などに各国の経済動向についてアンケート調査を実施、結果をまとめたものでです。

この中でインドネシアとタイのGDP成長率について私は注視しているのですが、この2国のGDP成長率は次のとおりとなっています。成長率は前年比です。

  • インドネシア 20年 ▲2.1%  21年 +3.6%  22年 5.0%
  • タイ     20年 ▲6.5%  21年 +3.5%  22年 5.3%

また、経済がコロナ水準前に戻るのは、いずれの国も2022年以降という声が多かったようです。インドネシアは、出生率が2.4人で若い人が多く、人口がピラミッド型です。ピラミッド型とは、子供が多く生まれるが死亡率も高く高齢者が少ないのですが、医療の発展により人口増加の可能性を秘めています。

ベントナイトの国内トップメーカーのクニミネ工業の決算説明会資料を見ると、ベントナイトの用途の1つである鋳物に関して、ASEAN市場の自動車生産増加での鋳物需要増加を予想しているということです。クニミネ工業はブログでも過去に紹介しましたが、個人的にベントナイトに大きな成長の可能性を感じており、ベントナイトは「千の用途を持つ」とも言われており、クニミネ工業は中長期での成長が期待できる銘柄と考えています。

サンセイ(6307)と光通信の攻防(5) - 今後は光通信は遠慮なくサンセイ株を最大500,000株まで取得可能

サンセイと光通信の件でブログで掲載し、前回は次のとおりサンセイが買収防衛策のルールに基づき取締役会評価期間に入ったことを紹介しました。

今回、12月18日にサンセイは同社の独立委員会から、大規模買付行為に関する勧告書を受領し、取締役会の評価・検討結果が確定したことを公表しました。結論としては、サンセイの取締役会は、光通信によるサンセイ株の取得行為は、サンセイグループの企業価値及び株主共同の利益を著しく毀損する行為ではないと認め、対抗措置である新株予約権の無償割当は実施しないということになりました(サンセイは2020年3月末時点でサンセイ株式を19.80%保有)。サンセイのプレスリリースの該当する箇所を抜粋すると次のとおりです。

2. 当社取締役会における評価・検討結果
当社取締役会は、本プラン及び光通信株式会社から提出された大規模買付情報に基づいて、光通信株式会社による大規模買付行為の評価・検討を重ねてまいりましたが、光通信株式会社から提出された大規模買付情報が真実であることを前提とする限りにおいて、光通信株式会社による大規模買付行為が、当社及び当社グループの企業価値及び株主共同の利益を著しく毀損するものであると認められず、光通信株式会社による当社株式の大規模買付の目的が、基本的に長期保有を目的とした純投資のみであり、また、当社の経営方針を評価し、友好的な関係を維持する方針であることから、当社取締役会は勧告書に記載された独立委員会の見解を最大限に尊重し、光通信株式会社による大規模買付行為に対する対抗措置を不発動とすることを決定いたしました。当社は、今後光通信株式会社の投資動向及び事態の推移を注視してまいる所存であります。なお、上記1.(1)に基づき、当社取締役会において、光通信株式会社による大規模買付行為に関して独立委員会に対し再度諮問する旨を決定した場合には、適時かつ適切にその旨を開示いたします。

さて、これはどういうことを意味するのでしょうか?サンセイは買収防衛策を有しており、光通信がサンセイ株を市場内外で20%以上取得する場合には、サンセイに情報を提供するなどサンセイの買収防衛策ルールに従うこと、そして、光通信の株式取得がサンセイの企業価値を損なう場合には、サンセイは対抗措置(光通信保有株式比率の希釈化)を発動するとされています。

今回、サンセイが対抗措置を発動しないという判断をしたことで、光通信は20%を超えて、サンセイの株式を取得することができることになります。光通信は、サンセイ株式を最大500,000株取得することを予定しており、結果、持株比率は26.23%となるようです。今回のサンセイの決定を受け、光通信はサンセイ株式を今後買い増しを行うのだと思いますが、サンセイの12月18日の終値は476円でしたが、明日月曜日の値動きはどうなるでしょうか。

なお、今回のプレスリリースでは、最大26.23%までの光通信による株式取得を認めたのであって、経営権の支配までをサンセイは認めたとはどこにも記載されていないので、33.3%を超えてサンセイ株を取得するといったような事態になった場合には、対抗措置の発動の議論も出てくるかも知れません。

中長期での株式投資のポイント - 個人投資家は投資先企業の参入障壁をどう分析するか

今年は、コロナの影響から、年内の仕事は残すところ来週いっぱいで終わりという方も多いと思います。証券会社に勤務の方は12月30日まで仕事だと思いますが、それ以外の業種では年末は年休取得を奨励する企業も多く、最終日の納会もないのではないでしょうか。

私は、先週はこれまで集中投資をしているある中小型株(株式時価総額120億円)の株式を買増ししたのですが、この企業の製品の用途がとても幅広く、高レベルの放射性廃棄物関連にもなるので、長期投資の観点から高レベルの放射性廃棄物について、新聞記事や関西電力のホームページ(たまたまです)で調べ、短期間でだいぶ詳しくなりました。12月18日の日経新聞でも核燃料について青森の中間貯蔵施設の記事がありましたので、近いうちにブログでも紹介したいと思います。

さて、本日は年末が近いこともあり、切りためた記事の読み直し、株式投資関連情報ノートの整理、銘柄の財務分析などをしていますが、過去に整理したノートで中長期での株式投資のポイントを纏めていましたが、これを紹介したいと思います。紹介といっても私が考えたものではなく、農林中金バリューインベストメントの奥野一成氏が「教養としての投資」で書いていることではあります。

奥野氏によれば、中長期投資での投資先企業は構造的に強靭な企業である必要があり、このためには、①付加価値の高い産業 ②圧倒的な競争優位性 ③長期的な潮流の3つを備えることが重要と言っています。同じようなことは米国の伝説的なファンドマネジャーであるピーター・リンチも指摘しているところです。

奥野氏のあげるこの3つの中で、特に強調しているが、②の競争優位性に関して「高い参入障壁」を築いていることです。参入障壁は、マイケル・ポーターの「ファイブフォース」でもあげられているところですが、次のようなことが参入障壁になるのだと思います。

  • 専門的な技術が必要
  • 事業に必要な初期投資が大きい
  • 規模の経済が働く
  • 法規制が厳しい
  • 参入に対して報復が予想される など

しかし、奥野氏のこの本の良くないところは、機関投資家であれば投資先企業のマネジメント層と面談をして経営陣に参入障壁を質問することが容易ですが、一般の個人投資家ではこれが難しいという点です。本では個人の株式投資を勧め、参入障壁の重要性を説きながら、個人投資家がどうやって参入障壁を把握するのか一切書かれていないのです。商売のために本を書いているので、奥野氏は「だから投資は当社にお任せください」ということ言いたいのだと想像をしますが。

では、個人投資家としては参入障壁をどう確認するかですが、私は投資先企業のみなららず、その同業他社を含めて四半期決算短信ニュースリリースに細心の注意を払い、特に財務数値を分析することにつきると思います。売上高、粗利益率、営業利益率には要注意です。参入障壁が崩れ、新規参入者が出てくるということは、売上高が減るという結果になり、また、広告宣伝費を増やすなど利益にも影響が出てくるかと思います。また、設備投資金額、研究開発費にも注意を払う必要があると思います。

このように四半期決算発表の都度、投資先企業及びその同業他社の財務数値をエクセルに纏め、細かく分析し、必要に応じてIR部門にポイントを絞り電話で鋭い質問をするということが個人投資家ができる参入障壁のチェックであると考えます。

女性役員拡充へ数値目標 - 目標設定もいいけど投資家の最大の関心事は忘れずに

本日は四季報オンラインのデータが更新されました。四季報記者が各社にインタビューをして四季報は作成されると思いますが、インタビューの内容を鵜呑みにして作成する記者もいるので、四季報の内容をそのまま信じることは決して出来ませんが、今後の投資の1つの材料にはなります。

さて、本日の日経新聞で「女性役員拡充へ数値目標」との記事がありました。企業が紹介されており、リコーは女性役員の比率を2030年までに18%と現在の9.8%から倍増するようです。リコーではこの「役員」には会社法上の役員ではない「執行役員」(なんちゃって役員と私は言っています)も含めているようです。リコーはESGに力を入れている会社であると何かの雑誌で見たことがありますが、ESGの「S」を強く意識しての取組みです。また、日本ユニシスは2025年3月期に女性役員比率を20%と2倍にするようです。

新聞記事では海外の主要企業での取締役会に占める女性比率も紹介されており、米国は26%、英国は31%で、日本は9%ということです。記事にはありませんが、たしかアジアの国では韓国は日本よりだいぶ低いはずです。

さて、上場企業において、この女性役員の比率を高めることについて、投資家目線に立った場合どう考えればよいでしょうか?

大手上場企業で役員になるには、50代前半がほとんどかと思いますが、前にもブログで書きましたが、この年代で会社で正社員としてフルタイムで働いている女性は「独身」「既婚+子供なし」「既婚+子供はいるが一人っ子」のいずれかに該当するケースがかなり多く、つまり「役員の選定対象の母集団」の人数がとても少ないのです(あまり正直に書くと怒る方もいるかも知れませんが、これは事実です)。

現状においてこの少ない中高年女性の母集団の中から役員を無理やり選ぶことは、「正直やばい」ということを上場企業の経営陣の多くが思っていると容易に想像できますが、会社では決して口にはできないところだと思います。頭が多少悪くても、また専門性の知識が欠落していても、ひとまず今の中高年の女性を役員にするということが、20代、30代の若い女性のモチベーションにつながり、それが15年後、20年後の会社で働く中高生女性の母集団(=役員候補の母集団)の拡大につながることを期待して取り組んでいるというのが正直なところかと思います。

しかし、ここで1つ考えなくてはいけません。それは投資家にしてみると女性役員を増やすことの関心事項は1点のみで「それで株価は上昇するの?」ということです。投資家としては、役員がプロパー社員であろうが、中途採用社員であろうが、女性であろうがどうでもよいことで、要するに株価やTSRが上昇することの1点にしか関心がないのです。女性を役員に起用することで企業の株価が中長期で見て上昇するのであれば、どんどん女性役員を増やせばよいのです。

ここがESGの中の「S」の評価が特に難しいところです。女性役員を増やす会社は「良い会社」ではありますが、「良いビジネス」をしていると言えるのかというと現状は良く分かっていないのです。上場企業の役目は株価を上げることですので、女性役員の数値目標を高く設定するのも良いのですが、それが良いビジネスになり、ひいては株価が上昇するのかということを強く意識してESGの「S」に取り組むことが重要かなと思います。

生保「物言う株主」に一歩 - 銀行とは違います

明日は会社四季報2021年1集新春号の発売ですね。私の場合は四季報オンラインを利用していますので(月額1,000円)、分厚い四季報を購入する予定はないのですが、銘柄を新規に探す時にはあの分厚い書面の方が探しやすいという利点はあります。

さて、今回は本日の日経新聞に「生保『物言う株主』に一歩」という記事がありましたので、これについて触れたいと思います。新聞記者はうまい見出しをつけるなと思いますが、私の実務感覚でも全くこのタイトルどおりと認識しています。

生保(生命保険会社)は過去は物言わぬ株主であったのですが、ここ最近は議決権行使基準が厳しくなり、投資先企業の株主総会議案に反対票を投じるケースも増えています。記事では2020年4月~6月の期間における生保大手の投資先企業への議案反対率が記載されており、日本生命が4.1%、第一生命が17.0%、明治安田生命が4.0%、住友生命が6.3%となっています。第一生命の反対率の高さに驚きました。

そこで、第一生命の議決権行使結果を調べてみました(同社のホームページに掲載されています)。すると、議決権行使の対象企業数ベースでの反対率が17.0%となっていました。議案種類別ベースでみると反対率は5.7%です。議案数全体が3,951議案あり、このうち227議案に反対したというものです。議案数で見るとそれほど衝撃的な数値ではないものの、反対議案数は多いといえます。では、反対率の高い議案は何でしょうか?

これも議決権行使結果に記載されているのですが、退任役員の退職慰労金の支給議案が13.4%の反対率で、買収防衛策の導入・更新議案の反対率が20.4%、取締役の選解任議案は9.9%の反対率となっています。機関投資家と同じく生保も買収防衛策議案は厳しく見ているようです。

これまで生保とは対話をしてこなかったという企業も多いかと思いますが、私の実務感覚では、機関投資家に準じた投資家として生保と対話をする必要性が格段に高まっていると感じています。大手生保の議決権行使基準をしっかりと読み、その上で対話をすることが重要です。ちなみに第一生命の議決権行使の考え方及び具体的な行使基準は次のとおりです。

ssc_001.pdf (dai-ichi-life.co.jp)

銀行の議決権行使基準も従来と比べてると段々と厳しくはなってきていますが、投資先企業(=融資先企業)に反対票を投じるケースは極めてレアなように思います。融資先企業の多くは、銀行で役員になれなかった人、役員の定年を迎えた人の出向先でもあることから、銀行が融資先企業に反対票を投じるということは考えにくいのだと思います。