コーポレートガバナンス、株式投資、企業価値、IRなどに関する投資家目線での実務ニュース ー 強い意志のある投資を目指して

コーポレートガバナンス、中長期での株式投資、企業分析、企業価値評価、IR等について、新聞記事を中心に投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

中長期投資でみるべき製造業の事業上のリスク - 企業の安全面の取組みを投資家は見るべき

前回、人権リスクを有価証券報告書で事業上のリスクとして開示する企業も増えていることを紹介しました。SGDSあたりを意識して開示しているのでしょうが、こんな意味の乏しいリスクを開示するより、投資家を意識して製造業が開示すべきと考える事項について、本日は紹介します。

この1年間、日経新聞の記事やニュース報道を見て、製造業で工場火災の報道が多いような印象をもっていましたが、12月18日の日経新聞に工場での火災発生の記事が掲載されていました。「続く工場火災、4年で22件」というタイトルです。

記事によれば、2020年の工場火災として、東海カーボン東洋紡旭化成マイクロシステム、ダイハツ工業、日本製鉄の火災概要が紹介されていました。2020年は8件と過去3年の4~5件を上回る火災が発生したようです。

業績低迷は4半期決算数値を見れば傾向が分かりますが、火災のような安全違反に起因するリスクは突然起こるものですから、投資家は予見できません。また、1度発生すると株価へのインパクトもそれなりにあります。上記各社の火災発生後の株価は調べていませんが、私が投資しているノザワ(5237)も数年前に工場火災があり、その後業績へのマイナス影響も一定期間継続し、株価も暫く低迷していました。

新聞記事では、相次ぐ工場の火災の原因として、設備の老朽化や熟練技術者の不在をあげています。「採用抑制で中堅人材が不足し、異常の検知等の技術伝承が不十分になった」とどこかの大学教授のコメントもありました。中長期株式投資で製造業の工場の安全面は注意すべき重要な事項になります。

安全面で製造業が取り組むべき事項は多々あり、私はこの分野は全くの門外漢ですが、いくつかのメーカーのアニュアルレポートでの安全・品質の取組みなどを見ると「重大災害未然防止」「安全意識の向上」が肝のような気がします。特に「安全意識の向上」が大事です。工場火災は単純な人為的なミスにより発生するケースが多く、であれば、工場で危険余地訓練を実施しているか、指差呼称が工場で徹底されているかなどがポイントになる気がいたします。「指差呼称」とは、危険予知活動の一環として、信号、標識、計器、作業対象、安全確認などの目的で、指差を行いその名称と状態を声に出して確認する ことでです。

私はメーカーの工場現場をこれまで数回程度しか見たことがないのですが、20代後半にはじめてある企業の工場を見学した際に、車の通っていない工場敷地内で大勢の作業着の社員が指で左右さしながら歩く姿を見て、私は若くかつ世間知らずであったため、「ブルーカラーの人の世界だな」と馬鹿にして(当たり前ですが工場には大卒もおり、全員が作業着を着ているのですが当時はそれを知らず)、とても滑稽な印象を持ちました。今でも滑稽な動作という認識自体は変わりませんが、この滑稽な動作を愚直に実施する習慣が身についている工場ほど安全災害の発生リスクは低いのだと思います。

安全に対する取り組みは企業にとって開示すべきリスクであり、その未然防止策を有報に記載すべきと考えています。繰り返しますが、安全が損なわれると1発で企業の業績は下がり、株価も大きく下げます。人権リスクなど発生する可能性の乏しいリスクを有報に開示するのであれば、製造業であれば、安全や品質のリスクとその未然防止策を有報で具体的に開示すべきではないでしょうか。また、中長期投資家は投資先銘柄のリスク低減としてこの点をしっかりと見る必要があります。投資先銘柄の安全の取組みが不明の場合には株主総会で質問をするのもよいのかも知れません。

さて、私は昨日が年内最後の仕事で、本日から休暇(正月休み)になります。年明け1月の1ヵ月間は業務が連日多忙を極めるので、本日からの正月休みでは業務の下準備をするとともに、投資済銘柄の2019年度の有価証券報告書や統合報告書を丹念に読み込み、1月下旬からはじまる各銘柄の第3四半期の決算発表に備えたいと思います。休み中もブログは2日に1回程度の頻度で更新する予定です。