中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

外資規制の更なる強化の動き ー 新国際秩序創造戦略本部 中間取りまとめ

8月19日の日経新聞レアアース外資規制のコア業種に追加する予定である旨の記事がありました。

コア業種は、過去に何度かブログでも掲載していますが、政府が海外投資家・企業が投資するに当たって重点審査をする対象業種です。

2020年に外資規制が改正されはじめてコア業種が制定されてから、対象企業数が増えています。2020年6月には対象業種は12業種で518社でしたが、2020年 7月には医薬品と医療機器が追加 され717社になりました。新聞報道によれば、11月からレアアース等の重要鉱物の関連業種が追加予定とのことです。

 この新聞報道では、自民党の新国際秩序創造戦略本部が今後、外資規制の運用強化を検討していくということです。新国際秩序創造戦略本部は、本年5月27日に「新国際秩序創造戦略本部 中間とりまとめ~『経済財政運営と改革の基本方針2021』」に向けた提言」を次のとおり公表しています。

https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/201648_1.pdf

この中で外資規制について、次のような記述があります。

技術の流出経路の多様化への対応の観点も踏まえ、指定業種の見直しを含めた総合的・包括的な対策を講じるべきである。経済安全保障の観点から真に重要な技術基盤や生産基盤に影響のある対内直接投資等について事前届出審査・事後モニタリングを行っていくにあたり、関係省庁の連携強化を進めつつ、執行体制の強化を図るとともに、同志国と連携するための枠組みを拡充し、さらには地方出先機関が持つリソースも活用しつつ、政府が一丸となって、戦略的かつ大胆な審査体制を強化するべきである

CVCキャピタルが東芝を買収する予定との報道が前にあった時に外資規制強化の話がありましたが、海外では中国を買収者に想定して外資規制を強化しているところです。日本の外資規制は、欧米と比べると弱いことは周知のとおりです。しかし、一方で強化をすると海外のマネーを市場に呼び込むことのマイナス要因にもなります。東京の市場を国際金融市場にしたいという金融庁の意図に反することにもなります。国益保護と海外マネーのバランスをどう図るか難しいところです。資料は週末に一通り読みたいと思います。

少子化の中で今後期待されるペット関連市場

夏期休暇も終わり、今週から仕事を開始していますが、休暇明け早々多忙で、定期的なブログの更新がなかなか出来ておりません(代わりに7月中旬からはじめたツイッターには時々ツイートしています)。アウトプットが中心の仕事で多忙な場合、どうしてもテレワークをする気にも慣れず、毎日出社していますが、オフィスには数名しか人がおらず、休日出勤していると勘違いするほど静かですので、家よりオフィスで仕事をした方がはるかに効率的と感じています。唯一、スーツを着なければならないのが面倒なのですが。

さて、先日、テレビ東京のモーニングサテライトで農林中金バリューインベストメンツの奥野一成氏がコメンテーターとして出演しており、その中でペット市場について話をしていたので、保有銘柄でペット市場と間接的に関連する銘柄もあり、気になり少し調べてみました。

グーグルで検索したところ、「矢野経済研究所が2020年2月に発表した2019年度のペット関連総市場規模は、前年比+1.7%増の1兆5700億円の見込み」とのデータがありました。普通に考えても、未婚であったり、既婚ではあるものの子供のいない夫婦が増加していることを考えると、関心の対象がイヌやネコなどに向かうのは当然と言えば当然かと思います

一般社団法人ペットフード協会というのがあるようでこの協会が公表している「令和2年 全国犬猫飼育実態調査」に主要として次のデータが公表されています。

https://petfood.or.jp/data/chart2020/index.html

全国のイヌの飼育頭数は約8,489千頭、ネコの飼育頭数は約9,644千頭で、犬の飼育頭数は減少が続き、猫は横ばいで、飼育頭数は、2020年も猫の飼育数が犬の飼育数を上回ったというようです。ネコの方が多いようですね。東京都内の場合、大多数の人がマンション、アパートや狭い戸建てに住んでおり、外でイヌを飼うスペースもないため自宅で飼育できるネコの方がお手軽なのでしょう。なかなか面白い資料ですので、明日、オフィスで昼休みにでも読んでみたいと思います。

また、ペット関連銘柄ですが、こちらもグーグルでさっと調べた限りですと、次のような銘柄があるようですね。

ユニチャームを除いて、不勉強のため、はじめて聞くばかりの銘柄ですが、こちらも、明日の昼休みにでも各社のホームページからまずは決算説明会資料を読み、業界の情報収集と分析をしてみたいと思います。

自動車部品サプライヤーのFY21業績予想 ー EV化で需要減が予想される自動車部品関連銘柄

以前に日経新聞でEV化により需要が減る自動車部品として、マフラー、変速機、燃料噴射機、ピストンリング、燃料タンク等があげられていました。鋳物関係銘柄の今後の見通しとの関係で上記製品を扱う自動車部品サプライヤーの動向は注視しているところですが、各社のFY21の1Q決算を踏まえた現時点でのFY21通期見通しを簡単に纏めました。売上高、営業利益、経常利益について、前年度(FY20)からの伸び率になります(IFRS基準の会社は経常利益の科目はないので空欄としています)。

             FY21売上高  / 営業利益  / 経常利益

  • フタバ産業 (7241) + 17.2%  + 43.9%  + 39.4%  
  • アイシン  (7259) + 12.0%  + 51.4%  
  • デンソー  (6902) + 12.2%  +183.7% 
  • 愛三工業  (7283) +  7.5%  +101.8%  +100.5%
  • リケン   (6262) + 13.3%  +108.8%  + 48.0%
  • 日本ピストン(6461) + 12.6%     ー     +658.9%
  • 八千代工業 (7298) △  4.6%  + 15.5%

自動車メーカーの業績好調を背景に各社ともFY21は好調のようです。ただし、長期で見ると自動車のEV化の進展如何では大きく影響を受ける可能性もあるので、定期的に状況は要注視かと思います。

上場企業が物言う株主から自社を守るための武器(第5回) - プライム市場の企業の社外取締役の構成比(その1)

このタイトルの記事を久しぶりに書きます。コーポレートガバナンス・コードの6月改訂の目玉の1つは、取締役会の機能強化でプライム市場の企業に社外取締役の割合増が求められたことです。「原則4-8.独立社外取締役の有効な活用」の次の箇所です。

独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、プライム市場上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきである。また、上記にかかわらず、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、過半数の独立社外取締役を選任することが必要と考えるプライム市場上場会社(その他の市場の上場会社においては少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社)は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。

この規定は重要です。まずプライム市場で3分1以上の割合を充たしていない企業は、その理由の説明を求められることになります。コーポレートガバナンス・コードはコンプライ or エクスプレインです。物言う株主は、投資先企業の経営陣に入ることを要求するケースが多いですが、このコーポレートガバナンス・コードの規定を根拠に社外取締役候補者の選定を株主提案として求めてくることが考えられます。

けど、そうはいっても企業側としては、社外取締役を増やすのは簡単ではないでよね。社外取締役には一定の報酬を払う必要があるわけですし、社外取締役は思ったほど役に立っていないケースもかなりあるところ、社外取締役の中には、空気が読めず、やたら頑張ってしまい会社の経営をかき乱す迷惑な方もいると思います。ということを考えると、社外取締役の員数を増やすということは躊躇するところかと思います。

ではどうすればよいでしょうか? 答えはシンプルです、社内取締役の員数を減らせばよいのです。そもそも取締役といっても員数が多い会社の場合には、役職のない「ヒラ」の取締役などは、部長程度の権限しかなく、会社法上の役員の地位を与える必要がない場合も多いと思います。であれば、取締役を退任させて、かわりに「常務執行役員」あたりの役職を与えておけばよいのだと思います。実務上はそれで何の支障もないかと思います。本人も取締役だと会社法上の任務懈怠責任等を問われる可能性もありますが、執行役員であればそのリスクはゼロであり、役員という名称がついている以上は世間体を気にする必要もないかと思います。このように社内取締役の員数を減らせばよいのですが、色々と社内事情もあり、結果、社外取締役3分の1以上を充足できない場合、プライム市場の企業はどうすればよいでしょうか? 

それはこの「原則4-8.独立社外取締役の有効な活用」の趣旨に照らした対応を事前にしておけばよいのだと思いますが、これは次回記事を書きたいと思います。夏休み休暇のため明日から2、3日間自宅を離れるため、次回は8月9日週の半ば頃にアップデート予定です。

今更ではありますが「プライム市場の上場基準」ー流通株式がポイント

最近、いくつかの銘柄について時々ヤフーファイナンス掲示版を見ると、「プライム市場に適合するの?」といった書き込みが多く、個人投資家の多くはプライム市場の基準が理解できていないのだと思います。聞いたところでは、株式時価総額が4000億円ある企業にも「当社はプライム市場に入るのか?」といった拙い質問が個人株主から時々あるようで、個人投資家の方にはもう少し勉強して欲しいところではあります。

ということもあり、上場企業で株式関係の仕事をしている方には百も承知の話ですが、今更ですが、プライム市場の上場基準について簡単に触れたいと思います。分かりやすいのは、東証が開示している次の資料になります。

プライム市場の上場維持基準は、①株主数:800人以上 ②流通株式数:2万単位以上 ③流通株式時価総額:100億円以上 ④売買代金:1日平均0.2億円以上 ⑤流通株式比率:35%以上 ⑥純資産:正であることとなっています。ポイントは流通株式です。発行済株式数の言葉は良く耳にすると思いますが、流通株式の定義が分からない方が結構多いのだと思いますが、流通株式の算定式は次のとおりになります。

流通株式=発行済株式 -(主要株主(10%以上)の所有する株式+役員等の所有株式+自己株式+国内普通銀行・保険会社・事業会社の所有株式+東証が固定的と認める株式)

この中で、今回新設されたのは、「国内普通銀行・保険・事業法人の所有株式」です。大量保有報告書で純投資とされている場合を除き、流通株式から除外されることになりました。政策保有株式の縮減の流れで、「これら政策保有株式は流通株式とは見なさないので縮減を早く進めよ」という金融庁東証のメッセージです。

発行済株式数をベースに株式時価総額を算出すると100億円は超えるが、流通株式をベースに時価総額を算出すると100億円を下回る企業も多いです。となると、プライム市場への上場を希望する企業は、株式時価総額を上げるには、流通株式数を増やすか、株価をあげるかのいずれかを施策を講じることになります。

7月9日に上場企業各社には、東証より各市場への適合が記載されているA4版1枚のレターが東証の窓口担当者宛に送付されてきています。上場企業各社は本年9月から12月末までの間に自社の取締役会でどの市場区分に移行するかを決議し、取締役会議事録を添付して東証に通知することになります。現在の東証1部企業でプライム市場の条件を充足していない場合には、充足する計画を東証に提出すれば、ひとまずプライム市場に入れるので大きな懸念はないですが、基準の充足度合いによっては将来、TOPIXから外れる可能性があり注意が必要です。

東京ソワールの臨時株主総会での買収防衛策導入議案の賛成率が公表

東京ソワールの7月30日開催の臨時株主総会にてフリージアマクロスを対象とした買収防衛策導入議案が可決されましたが、本日、次のとおり議案の賛成率について臨時報告書が開示されました。

https://www.soir.co.jp/wp-content/themes/tokyo_soir/pdf.php?postid=22653

議案の賛成率は68.8%でした。フリージア保有比率はたしか13%のはずです。ところで、フリージアは今後どうするのでしょうか。

日邦産業との攻防では、大量買付ルールに違反して株式の買い増しを進めたことに対して取締役会決議での対抗措置発動は有効であると名古屋高裁は判断をしました。このため、フリージアは、東京ソワールの大量買付ルールに則って手続きを進めるように想像します。

東京ソワールの独立委員会は、フリージアが手続を遵守した場合には、原則として、取締役会に対して対抗措置の発動を行わないよう勧告するが、手続が遵守されている場合であっても、当該大規模買付行為等がソワールの企業価値・株主共同の利益を著しく損なうものであると認められかつ対抗措置の発動が相当と判断される場合には、例外的措置として、対抗措置の発動を勧告する場合があるとしています。フリージアは手続きを遵守した後に、東京ソワールに対抗措置を発動させてその効力を争うのでしょうか。

ところで、明日は大江橋法律事務所の「買収防衛策に関する最新判例解説」のオンラインセミナーに参加予定です。大江橋法律事務所は、東京では知名度は低いですが、大阪では最大の法律事務所かと思います。日邦産業と日本アジア事件はブログでも記事を書いており、旬刊商事法務での西村あさひの太田氏の記事等でも整理してはいますが、全体情報整理のためセミナー参加予定です。

富士興産と投資ファンドの攻防ー アスリード・キャピタルの主張は読むに値します

アスリードの公開資料の中で上場企業の経営トップにとって念頭に置くべきと思われる事項について解説をしたいと思います。念のためアスリードの公表文を掲載します。

https://www.aslead.com/fujikosan/Aslead_Fujikosan_Press_20210728.pdf

この中の「2 公開買付けについての株主の意思は、その応募で判断されるべき」という箇所の次の記述です。

我々は、公開買付けにより(富士興産の)全ての株主の皆様に 1250 円での売却機会を提供しているにもかかわらず、経営陣が自らの勝手な判断でその機会を阻止することがあってはなりません。経営陣が、本公開買付価格が適正かについて意見を述べたとしても、経営支配権維持の目的で買収防衛策を導入し、株主自身の意思による売却機会を妨害するべきではありません。

(富士子興産の)経営陣は、我々が提示している一株当たり1250円という公開買付価格は廉価であると意見表明していますが、それを根拠に本公開買付けを阻止するのであれば、経営陣はこの価格を上回ることにコミットするべきです。 先日の定時株主総会にて、買収防衛策の導入により本公開買付けを阻止することで株価が上がると思っているのかと 保谷社長に問い ましたが、残念ながら株価については意見を差し控えるとの回答しか得られず、買収防衛策導入の公表後、株価が公開買付価格を下回っているにも関わらず、今なお株主価値向上に関する具体的な施策は何ら公表されてい ません。そればかりか、対象者経営陣は、買収防衛策の導入の必要性の根拠として、我々による本公開買付けが成立すれば企業価値が毀損すると根拠の無い主張をしてい ます。

アスリードの主張は極めて合理的と私は思います。昨日の終値の1042円を大きく上回る1250円のTOB価格について、本来の富士興産のあるべき価格(=理論株価)と比較して廉価ということを富士興産は主張するのであれば、1250円を超えるいくらが富士興産の理論株価であるのか、経営陣としては一定のレンジで示し、それに向けてどう達成するかのプランを示すことが必要なのだと思います。1250円が廉価であるとだけ根拠を示すことなく主張するのは、誰でも出来ます。これが出来ないのであれば、TOBに応じるか否かは株主の判断に委ねるべきなのです。

株価をコミットすると数値が独り歩きする可能性もあり、経営トップは開示したくないという気持ちも良く分かります。また、株価の動きは企業努力だけではいかんともし難く、市場全体の動きとの連動性も大きいので断定的に言えないこともとても良く分かります。

通常のIR活動や株主総会での回答であれば、それでやむなしかも知れませんが、今の富士興産の局面は有事です。この段階で明確な回答を公表できないのであれば、買収防衛策は経営陣の保身、つまり買収の後、アスリードによって解任されることを現経営陣は脅威に感じ、そのために買収防衛策を導入・発動したのではないかと一般から見られる可能性があるように思います。

上場企業の経営トップの方は、今回のアスリードの公表文を一度しっかりと読み、自社に投資ファンドが同様の主張をしてきた場合を想定し、どう回答すべきかを考えておくことが重要になるかと思います。何事も「用意周到、準備万端」が肝要です。

有価証券報告書での気候変動リスクの開示義務化の検討開始 ー 上場企業の経営者はESGアクティビズムを意識する必要あり

7月26日の日経新聞の1面にありましたが、金融庁企業の気候変動リスクに関する開示を義務付ける検討に乗り出すようです。今夏にも検討会議を立ち上げ、有価証券報告書に記載を求める議論を始め、早ければ2022年3月期の有価証券報告書から開示を義務付ける可能性があるようです。

有価証券報告書での開示となるとだいぶ重みがあるところです。国際会計基準をつくる団体を傘下に持つIFRS財団はESGに関する国際的な統一基準を設ける協議を開始する動きもあるようです。色々な動きがグローバルで出ていますね。EUではタクソノミー規則が来年1月から一部適用開始になり、また、企業に対するサステナビリティ情報開示指令案が公表されるなどの動きも加速しています。

日本では、経済産業省が「非財務情報の開示指針研究会」を本年6月に立ち上げており、第1回が6月10日、第2回が7月16日に開催されました。この研究会は、非財務情報の開示及び指針に関する日本の立場を的確に発信し、日本の非財務情報の開示に関する国際的な評価を高めることを目指しており、今後の行方が要注視かと思います。こういう開示情報の動きを注視し、きちんと対応していかないと上場企業はESGアクティビズムの対象となります。

明日から、この研究会の第1回・第2回の資料の精読をする予定ですので、ブログでも「非財務情報の開示指針研究会」のフォルダを作り、研究会の動きを記事で適宜拾っていく予定ですので、ご関心のある方は、今後記事をご覧頂ければと思います。

技術カルテル摘発 ー カルテル違反の疑いを持たれないようにするためには

昨日、技術カルテルの件を書きましたが、では、競合他社とアライアンスを検討する際にはどうしたらよいでしょうか?

まずカルテルの摘発を受けたことのない多くの日本企業は、特に注意を払うことなく、競合会社と会議をしたり、交渉しているのだろうと想像します。少し前にニトリとホームセンターの経営統合があった時に「過去に面談を重ね」というような発言がたしかあったように思いますが、恐らく、カルテルの疑いが持たれるリスクなどはあまり気に留めていないのかも知れません。最終的に買収となったので、交渉の途中で商品価格の話をしていたとしても、今となっては何ら問題はないですが。

カルテルの疑いをもたれることを避けたいのであれば、会議や交渉の場には、都度外部の法律事務所の弁護士を同席させ、かつ会議・交渉の議事録を弁護士に作らせることがお薦めです。この弁護士は中立の立場の法律事務所がよいと思います。特に何かアドバイスを求めるわけではないのですが、さすがに「僕は労働法しか知らない」「交通事故案件が専門」という素人の弁護士だと困りますので、ある程度は独占禁止法に精通している人が必要かと思います。

「そんなことする必要あるの?」と思われることがあるかも知れませんが、海外の企業はカルテルの意識が高いので、競合会社との交渉では法律事務所を同席させることは多いと思います。ただし、かといってあまり過敏になる必要はないと思います。

一度カルテルの摘発を受けた企業は、過度にカルテルのリスクに神経質になる傾向があるということを数年前にある法律雑誌の企業アンケートで読んだことがあります。こういう企業は、コンプライアンス強化のお題目の下、ビジネスを知らない法務部やコンプライアンス部門のスタッフが無駄に厳しいコンプライアンス・ルールを作ることが多いのだろうと想像します。特に、起用している外部の法律事務所に相談すると彼らは決まって「リスクあります」というのが常ですので(自分たちが責任を問われないようにするため)、それを社内の法務部あたりが、伝書鳩のようにそのまま経営陣に伝達して、過剰なルールを作成することになるのだと思いますが、そこまで気にするのはどうかと思います。所詮は、いち民間企業のことをカルテル摘発が済んだ後も当局がずっと気にすることは普通は考えにくいです。

ということで、カルテルに過剰に敏感になる必要はないですが、海外企業がよく行っているように会議・交渉の場には、面倒ですが、リスク回避の観点から独占禁止法・競争法をある程度理解している弁護士を同席させるという習慣はつけた方がよいかと思います。そうすれば、後日、当局から何か求めがあった場合でも議事録を証拠として使えるかと思います。

技術カルテル摘発 ー 技術に関する競合他社との取り決めも要注意

本日は話題を変えて、法務関連のネタを紹介します。本日の日経新聞に「技術カルテル」摘発との記事がありました。

フォルクスワーゲンBMWダイムラーなど5社が定期的に会合を持ち、有害な排ガスを浄化する法令基準以上の技術があるにもかかわらず、競争の激化を避けるために利用を控えるよう合意したと認めて総額約1,140億円の制裁金を課されたということです。要するに技術カルテルとして処罰されたということです。

カルテルとは、合意によって事業者間の競争を制限する行為をいい、日本では独占禁止法、海外では競争法で規制されています。典型は価格カルテルです。具体的にいいますと、例えば化学材料メーカー5社が存在するとして、この5社が顧客への納入製品の価格について1個あたり10,000円とするといったように価格競争を行わないことを合意することをいいます。市場において事業者は競争をして、需要者・消費者に良い製品・サービスをより安い価格で提供することが求められていますが、カルテルはこれを阻害する行為としてグローバルで厳しく規制されています。

1個10,000円という合意があった以上は、実際にはそれより低い値段で売却した場合でもカルテル認定されることもあります。また、具体的な価格でなくても、顧客に対して「3~5%のレンジで値上げ交渉をしようと」ということを取り決めることでもカルテルと認定されるケースもあります。とりわけ、欧米での規制はかなり厳しいと考えた方がよいでしょう。制裁金が巨額になるケースが多いです。

「当社の製品の納入先は日本国内の顧客であり、海外顧客には販売していないから海外の競争法のリスクはない」と考える企業もいるかと思います。しかし、これは間違いです。国内の顧客に販売した製品について、その後、顧客が自社製品に組み込んで海外で販売した場合には海外の需要者・消費者に影響を及ぼしたとして日本国内でのカルテル行為が欧米の競争法違反として処罰されることもあるのです。

いずれにせよ価格について合意するというのがカルテルの典型でしたが、技術に関する合意も欧州ではカルテルとして罰せられたということです。何故カルテルとして処罰さされたかの法律解釈は不明ですが、市場で支配力のある自動車メーカーの生産台数に影響を及ぼし、価格にも影響を及ぼすというような認定がされたのかも知れません。

ちなみに、カルテルは市場の競争を阻害する行為ですので、先の事例で5社がカルテルをしてもこの5社の市場シェア合計が10%もなく市場に影響がない、つまり顧客は値段が高い場合には容易に他の化学素材メーカーから購入すれば足るという場合には、カルテルとして処罰される可能性は小さくなります。

では、こういうカルテルのリスクがある中で競合他社とアライアンスをする際にはどういう点に注意すればよいでしょうか。次回、解説をいたします。

書籍紹介「ずば抜けた結果の投資のプロだけが気づいていること」(幻冬舎新書)

本日はごく簡単に書籍を紹介します。数ヵ月前に読んだ本ですが、「ずば抜けた結果の投資のプロだけが気づいていること」(幻冬舎新書)です。著者は苦瓜達郎氏(1990年東大経済学部卒)で、国内中小型株式部門で過去6年連続で優秀賞等を受賞した三井住友DSアセットマネジメントのファンドマネジャーの方です。

一言でいうと、内容は薄く、プロの機関投資家や財務分析をして株式投資を実践している方は、まず読む必要はないであろう株式投資の初心者向けの本です。要するに中小型株を長期で投資する際の極めて初歩的な注意事項等が書いてあります。株式投資において財務分析などをしたこともなく、チャートだけ見て投資している大多数の個人投資家の方には、参考になる書籍と言えるのかも知れません。ただ、何点か参考になる記述もありましたので、紹介します。

まず、情報源として著者は、会社四季報を薦めています。数値の箇所ではなく、「業績予想・材料記事」を時系列で読み進めることを推奨しています。四季報の記者には、会社の説明を鵜呑みにして記載している者もいるので完全に信頼は出来ないですが、中小型株ですとアナリストレポートが発行されていない場合もかなり多いので、企業について第三者の目線を知る手段として四季報は有用かと思います。

次に、大型株では株価が低い場合、これは割安に評価されているわけではないということです。大型株は多くの人から注目されているにもかかわらず、株価が低いということは市場参加者の総意として企業の評価が低いということです。逆に、中小型株の場合、市場参加者が少ないので株価が適正に評価されておらず、割安に放置されている場合も多いということです。

上場企業の長期・超長期プランには機関投資家は関心ないと思います ー 何事も経営トップの在任期間にフォーカスすべき

7月21日に経済産業省が新しいエネルギー計画を公表しました。既に新聞報道のとおりですが、30年度の比率を①再生エネで36~38%②原子力で20~22%③温暖化ガスを排出しない水素やアンモニアによる発電で1%④火力で41%と提示されました。19年度実績で火力が76%であるのが41%にまで低下させる計画です。

この計画に対して、実現性が乏しいという批判が相次いでいるようで、エネルギー政策に詳しい橘川武郎国際大教授からは、「リアリティーに欠け、大きな禍根を残すのではないか。(電源構成案に)反対する。率直にいって帳尻合わせだ」という意見が新聞に掲載されていました。有識者の反対意見を見ると、多分実現は不可能なのでしょう。しかし、今回の政策を立案した役所の責任者の多くは10年後には、役職定年になっているか定年を迎えているのだと思います。ということを考えると、10年後の実現の可否について、その時点では担当としての責任を負わない立場にありますという現実に鑑みると、責任を負わない10年後の実現の可能性などより、今時点の世の中の動きを踏まえた政策を立案するインセンティブが優先するというサラリーマンである役人の本音だと想像します。

さて、このケースを見て思うのは企業の長期・超長期計画です。ほとんどの企業の中計経営計画は3年~5年ですが、これはとてもしっくりきます。それは、多くのサラリーマン社長の任期は4年~7年というところだと思いますが、社長が責任を負う在任期間内での計画だからです。中計経営計画が未達となると立案した経営トップの能力が問われ機関投資家から批判され、株式が売られます。

しかし、問題は10年、15年といった長期・超長期の計画を公表することです。これは明らかにサラリーマン社長の在任期間を超える、つまり未達でも自分の責任が問われない計画と言えます。従い、長期・超長期計画の実現性を公表したところで機関投資家は軽視するのだと思います。勿論、大きなざっくりとした方向性というか希望を開示するのは良いことなのだと思いますが、それを超えて細かい計画を公表しても意味がないということです。

本年6月のコーポレートガバナス・コードで、企業にはサステナビリティの取組みの策定が求められました。サステナビリティとは、企業の持続的成長です。つまり10年、20年を超えて成長を続ける上での課題への対応の策定が求められました。一方、繰り返しになりますが、オーナー社長とは異なりサラリーマン社長には任期があります。とすると、持続的成長という言葉を額面どおり解釈をして、10年、15年を超える空想を策定したところで資本市場関係者には全く響かないということになります。そもそも10年を超える計画など外部環境がどう変化するか専門家含め誰にも分からないので、全く読めないということもありますが。この点を企業は理解する必要があります。

CSRおじさん・おばさん」「サステナビリティおじさん・おばさん」のような人物が企業によっては存在するかも知れませんが、そういう方には機関投資家の目線ということを理解させることが大事で、その理解が出来ていないと、CSRコンサルタントのような業者にいいように利用され、資本市場に響かない計画を公表し、陰で笑われるという事態になりかねません。何事も経営トップの在任期間を上限としてプランを立案・公表するのが肝要かと思います。

特定標的型・有事導入型の買収防衛策のすすめ ー 事前警告型買収防衛策の代替スキーム

昨日は連休初日でしたが、家族4人で神奈川県にある大きなプール施設に行きました。朝に車で家を出て帰宅が20時と丸1日かかりましたが、屋外で1日過ごすと気分爽快ですね。本日は、メインイベントである家の掃除のほかに、新聞情報整理、ツイッターチェック、読書などをして過ごし、明日は午前中はプールで1時間30分ひたすら泳ぐ予定です。

さて、事前警告型の買収防衛策ですが、ブログでもこれまで何回か記事を書いていますように機関投資家からの反対が益々強く、廃止企業もこの数年でかなり増えています。現時点での導入企業数は200社台かと思います。このような状況下、機関投資家の株式保有比率が一定比率を超える企業では、継続をどうするか悩んでいるところかと思います。

「買収防衛策は継続すべき」と単純に考えている人も中にはいるかも知れませんは、資本市場の最近の動きを知っていればそんな単純なことではないです。事前警告型の買収防衛策はESGの「G」のマイナス要因ともなり、将来的にはESG評価でマイナス評点がつき、投資対象から除外されるリスクもあるのです。株式時価総額1000億円以上の企業は「企業の品格」にも注意を払う必要がありますので、ESG評価は無視できない話かと思います。

では、どうすべきかですが、事前警告型は廃止して、特定標的型の有事導入の買収防衛策とするのです。ブログで連載しております富士興産、東京ソワールなどはこのスキームです。つまり、自社の株式を取得する大量買付者が出現した段階で、取締役会の決議で買収防衛策を導入し、対抗措置の発動準備又は発動をします。そして、その後、速やかに株主総会を開催して、買収防衛策の導入と対抗措置の発動の2つの議案について株主の賛同を求めます。その際には、株主総会で株主の賛同を得られなかった場合には、取締役会決議で発動した対抗措置の効力は遡及的に喪失されるという条件をセットにするのがポイントです。細かいところは色々と検討すべき点もありますが、大きな骨格な以上のとおりです。

このスキームが法的に100%万全かというとそれは断言できません。裁判所の判断が出ていないからです。しかし、日本アジアと旧村上ファンドの攻防においては株主総会を経ていなかったことが、日本アジアの対抗措置が差し止められた大きな要因とされています。このことを考えると、特定標的型・有事導入型の買収防衛策は一定の合理性を有すると言えます。

平時においては、有価証券報告書の「株式会社の支配に関する方針」でこのあたりに少し触れておけば、事前開示の原則という2005年頃の買収防衛策ガイドラインも一応充足すると主張できます。検討されてはいかがでしょうか。

明治ホールディングスが中期経営計画で「ROESG」なる指標を開示 ー 投資家に分かり易い開示を心がけていますか?

先日の日経新聞で次の記事のとおり、明治ホールディングが中期経営計画で独自指標の目標数値として、「明治ROESG」という指標を改善する計画を公表しました。

ROESGは、ROE×ESG指標目標値×明治らしさ目標達成で構成されます。

自己資本利益率(ROE)とESG(環境・社会・企業統治)の評価などを組み合わせたものです。この指標ですが、伊藤レポートでおなじみの一橋大学の伊藤邦雄氏が作った指標で彼が商標権を持っています。結論からいいますと良く分からない指標の印象を受けます。

さて、この明治ホールディングスの例を1つの悪い見本として企業は考えるべきことがあります。先日、ある企業の定時株主総会にオンラインで参加をしましたが、そこで、高齢の個人株主の方から意見がありました。その意見とは、中期経営計画を見るとカタカナでスローガン的なことが沢山書かれているが、意味が不明であり、それよりも日本語で分かり易く説明して欲しいと議長へのお願いでした。これを聞いて「なるほど」と私は思いました。

皆さんの会社でも、中計経営計画などで、キーワードとして英語やカタカナでスローガンを掲げている場合も多いかと思います。しかし、これに関しては、機関投資家はじめ株主から一目で見て、意味が通じるかということを常に考える必要があります。社内にいる方は、中計経営計画を策定するまでかなりの回数の議論を重ねているので、シンプルなカタカナでも意味は通じるのですが、投資家にとっては、はじめて見る言葉なのです。ということに鑑みると、綺麗なスローガン的なキーワードに固執するのではなく、多少長くても外部の人に意味の通じる日本語の掲載が肝要です。

文章を可能な限り短く、シンプルにすることにやたらこだわる経営トップの方もいると思いますが、「短かすぎると外部の方には意味が通じない」ということを経営トップの方は念頭に置く必要があります。

出席型のオンライン株主総会はまだまだ少ないですね ー 個人投資家としては今後の増加に期待

7月17日の日経新聞に「オンライン総会浸透」との見出しの記事がありました。オンライン総会とは、株主総会を同時配信するなどオンラインを併用した株主総会のことをいい、映像配信だけの「傍聴型」と質問や議決権行使が可能な「出席型」の2つがありますが、傍聴型は291社、出席型は14社であったということです。

定款に規定すれば、完全オンラインの株主総会も可能になりましたが、記事によれば、武田薬品工業など10社が定款変更議案を諮ったということです。アイアールジャパンが定款変更議案を出したところ、議決権行使助言会社であるISSが反対推奨をしたことは以前にブログでも記事に書きましたが(最後に再掲します)、意外にもISSは反対しているのです。バーチャルオンリーの株主総会は、株主が行う取締役の責任追及に影響を与える可能性があり、経営陣及び株主の間の有意義な交流を妨げる可能性があることなどを反対の理由としています。

個人的には、出席型のオンライン総会を増やして欲しいところです。そうすれば、保有先銘柄の株主総会に気軽に出席でき、それ以上の議長である社長に何の遠慮・躊躇もなく、本質的な質問をいくつも出来るからです。一方、企業サイドの対応はこれまでの倍以上大変になるでしょう。