アスリードの公開資料の中で上場企業の経営トップにとって念頭に置くべきと思われる事項について解説をしたいと思います。念のためアスリードの公表文を掲載します。
https://www.aslead.com/fujikosan/Aslead_Fujikosan_Press_20210728.pdf
この中の「2 公開買付けについての株主の意思は、その応募で判断されるべき」という箇所の次の記述です。
我々は、公開買付けにより(富士興産の)全ての株主の皆様に 1250 円での売却機会を提供しているにもかかわらず、経営陣が自らの勝手な判断でその機会を阻止することがあってはなりません。経営陣が、本公開買付価格が適正かについて意見を述べたとしても、経営支配権維持の目的で買収防衛策を導入し、株主自身の意思による売却機会を妨害するべきではありません。
(富士子興産の)経営陣は、我々が提示している一株当たり1250円という公開買付価格は廉価であると意見表明していますが、それを根拠に本公開買付けを阻止するのであれば、経営陣はこの価格を上回ることにコミットするべきです。 先日の定時株主総会にて、買収防衛策の導入により本公開買付けを阻止することで株価が上がると思っているのかと 保谷社長に問い ましたが、残念ながら株価については意見を差し控えるとの回答しか得られず、買収防衛策導入の公表後、株価が公開買付価格を下回っているにも関わらず、今なお株主価値向上に関する具体的な施策は何ら公表されてい ません。そればかりか、対象者経営陣は、買収防衛策の導入の必要性の根拠として、我々による本公開買付けが成立すれば企業価値が毀損すると根拠の無い主張をしてい ます。
アスリードの主張は極めて合理的と私は思います。昨日の終値の1042円を大きく上回る1250円のTOB価格について、本来の富士興産のあるべき価格(=理論株価)と比較して廉価ということを富士興産は主張するのであれば、1250円を超えるいくらが富士興産の理論株価であるのか、経営陣としては一定のレンジで示し、それに向けてどう達成するかのプランを示すことが必要なのだと思います。1250円が廉価であるとだけ根拠を示すことなく主張するのは、誰でも出来ます。これが出来ないのであれば、TOBに応じるか否かは株主の判断に委ねるべきなのです。
株価をコミットすると数値が独り歩きする可能性もあり、経営トップは開示したくないという気持ちも良く分かります。また、株価の動きは企業努力だけではいかんともし難く、市場全体の動きとの連動性も大きいので断定的に言えないこともとても良く分かります。
通常のIR活動や株主総会での回答であれば、それでやむなしかも知れませんが、今の富士興産の局面は有事です。この段階で明確な回答を公表できないのであれば、買収防衛策は経営陣の保身、つまり買収の後、アスリードによって解任されることを現経営陣は脅威に感じ、そのために買収防衛策を導入・発動したのではないかと一般から見られる可能性があるように思います。
上場企業の経営トップの方は、今回のアスリードの公表文を一度しっかりと読み、自社に投資ファンドが同様の主張をしてきた場合を想定し、どう回答すべきかを考えておくことが重要になるかと思います。何事も「用意周到、準備万端」が肝要です。