中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

上場企業の経営トップが物言う株主から自社を守る武器としてのコーポレート・ガバナンス

最近の新聞報道を見ると物言う株主の記事を頻繁に目にします。しかも、物言う株主を批判するのではなく、擁護する立場の記事です。東芝問題についての日経新聞の報道なども完全に物言う株主である投資ファンドを擁護し、一方で、東芝経産省を批判する内容になっているかと思います。

そのような中にあって、多くの上場企業の経営トップは、物言う株主のリスクをどこまで理解しているでしょうか。物言う株主である投資ファンドに株式を数パーセント取得され、厳しい要求を突きつけられている企業の経営トップを除くと、ほとんどの上場企業の経営トップにとって、物言う株主の動きは未だに他人事のように考えている方も多いのではないでしょうか。特に、同業他社で物言う株主が暴れている状況にはない業界の経営トップは、他人事の意識がとても強いのではと想像します。

しかし、この考えは極めて危険です。物言う株主が出現していないのは「たまたま」と考えるべきです。物言う株主がひとたび出現すると、企業はその対応に忙殺されます。投資銀行でアクティビスト対応をしている部門の担当者の話によれば、物言う株主に狙われた会社は、毎月の取締役会は物言う株主対応の議論に相当の時間を費やすことになり、戦略的な事業戦略を十分に討議する時間はなくなるということです。中期経営計画を策定するにしても、いちいちアクティビストから横槍が入り、そのやりとりだけで、大変な苦労をする企業も多いということです。

このようなことを考えると、平時から上場企業の経営トップは物言う株主の出現リスクを重要リスクとして明確に理解することがとても大事と考えます。具体的に何をどうすればよいかですが、経営トップは、コーポレートガバナンス・コードで規定されている内容とその背景を深く理解することが極めて重要だと考えます。コーポレートガバナス・コードは、第2次安倍政権下の2015年に制定されたものですが、その後、経済産業省コーポレートガバナンス改革の中で策定された色々なガイドラインの思想も織り込まれて、2018年、2021年に改訂されました。企業統治指針であるコーポレートガバナンス・コードは「官製指針」と言えるのです。

従って、物言う株主がコードの趣旨に沿った内容の提案を企業に行う場合、この提案は政府のお墨付きのある極めて合理性があるものと言え、機関投資家もこの提案に賛同をせざるを得ない状況になっています。ということに鑑みると、上場企業の経営トップは何よりもコーポレートガバナンス・コードについてしっかりと理解する必要があります。コードを理解していない経営トップは、資本市場が理解できていないということに等しいかと思います。 

以前に個人投資家の企業を攻撃する武器として、コーポレートガバナス・コードを解説すると書きました。これは見方を変えると、経営トップにとって自社を守る武器がコーポレートガバナンス・コードとも言えます。コードの対応がきちんと出来ていれば、それは企業サイドに武器があると言え、コード対応が出来ていない場合には、投資家サイドに武器があると言えます。6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、上場企業各社は、6月の定時株主総会も終わり、7月以降に改訂コードの対応を本格検討していくのだろうと想像します。

上場企業が自社を物言う株主から守る武器として、コーポレートガバナンス・コードの中で重要と思われる原則・補充原則の考え方について、今後、ブログでも連載していきたいと思います。上場企業の経営トップの方、またはコーポレートガバナンスを管掌するマネジメント層の方にも是非とも興味を持って読んで頂けるよう、実務目線に重きをおいて解説をして行きたいと思います。

エーザイは今年も買収防衛策を取締役会決議で継続更新 ー 「患者と生活者を含む主要なステークホルダーズの安心と安全を守るため」

先日、エーザイアルツハイマー新薬の承認で大きく話題になりましたが、そのエーザイは本年も買収防衛策を継続更新したようです。

https://www.eisai.co.jp/news/2021/pdf/news202147pdf.pdf

エーザイの買収防衛策は、他社の買収防衛策と承認プロセスが大きく異なっています。事前警告型の買収防衛策のほとんどは、定時株主総会で株主の承認を得ているのですが、エーザイは取締役会の決議のみで毎年、継続更新しています。結果、エーザイの経営トップの取締役選任議案に対して、機関投資家の議決権行使の反対が増えます。今年の定時株主総会でのエーザイの社長である内藤氏の取締役選任議案での賛成率は67.27%でした。ところで、このエーザイのプレスリリースの中で、買収防衛策が必要な理由として次の内容をあげています。

  • 本対応方針は買付者が現れた場合に買付者との交渉を通じて大多数の既存株主に有利な条件を引き出すことを可能とする施策になり得るものである一方、その運用において経営陣の恣意性が排除される仕組みを有し、経営陣による濫用的な新株予約権の発行(いわゆる買収防衛策の発動)を防ぐことが可能であることから、株主、投資家にとって、むしろこれを保有していることが望ましいと思われる
  • 当社のビジネス環境や業界動向より、当社の企業価値・株主共同の利益を毀損する恐れのある買収リスクの存在は否定できず、患者様と生活者の皆様を含む当社の主要なステークホルダーズの安心と安全を守るという観点から、リスクに対する十分な備えを取締役会として行うのは必要かつ妥当である。
  • 欧米各国の企業買収を取り巻く法制度と対比した場合、我が国でも金融商品取引法において大量買付時の手続きの整備はなされたものの、未だ当社の企業価値・株主共同の利益を守るために十分とはいえないと認識する。

いずれも合理的な理由かと思いますが、この中でも「患者様と生活者の皆様を含む当社の主要なステークホルダーズの安心と安全を守るという観点」は興味深いです。買収防衛策導入企業のほとんどは、企業価値ひいては株主共同の利益の毀損を防ぐためという文言を用いて、株主の利益のために導入しているということをアピールしています。

これは2005年頃に経産省法務省が策定した買収防衛策ガイドラインに従っているものです。しかし、私はこの説明はもはや時代にあわなくなっていると考えます。株主資本主義ではなく、ステークホルダー資本主義の時代です。前にもブログで買収防衛策の継続に当たっては株主をはじめ企業の様々なステークホルダー(得意先、従業員、サプライヤー、地域社会など)の共同の利益の確保のためにあるということを明示すべき」と書きましたが、このエーザイの理由はまさしくその通りと思います。以前に書いたブログを再掲しますのでご関心のある方はご覧頂ければと思います。

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自動車部品サプライヤーとEV化 ー リケン(6462)の2020年度決算説明資料での開示

ピストンリングで日経向け首位のリケンの2020年度通期決算説明資料(2021年6月15日公表)で内燃機関搭載車のピークアウト等が記載されています。

https://www.riken.co.jp/ir/plan/pdf/setumei_21.pdf

リケンでは、内燃機関搭載車のピークアウトは2030年頃を想定しているということです。また、内燃機関搭載車は2021年には84百万台であるところ、2030年には88百万台と予想しています。

2021年の内燃機関搭載車の比率は95%(ICE:74%、HEV・PHEV:11%)であるところ、2030年には80%(ICE:46%、HEV・PHEV:34%)と低下し、EV・FCVの比率が高まると読んでいますが、今後の動向は注視が必要ということを決算説明会では話をしています。

自動車部品サプライヤーとEV化 ー 日本ピストンリング(6461)の有報(2021年3月期)での開示内容

以前に自動車部品サプライヤーについて次の記事を掲載しました。私の投資先銘柄の中でEV化により影響を受ける可能性のある銘柄があり、中長期での動向を探るべく、まずはEV化でエンジンが不要になったと仮定した場合、大きな影響があると言われている自動車部品サプライヤーの動向を開示資料から分析しています。

この中で、ピストンリングメーカーの日本ピストンリングが昨日、2020年度の有価証券報告書を開示しました。この中に「対処すべき課題」という箇所があり、ここは各企業が今後取り組むべき重要な経営課題について記載する箇所ですが、「エンジンの進化への対応」として次の記載があります。

各自動車メーカーは、燃費効率や環境性能の向上、車体の軽量化を図り、CO2削減をすすめ、地球環境に優しいエンジンへの進化に取り組んでおります。電動化が低炭素社会実現の決め手のように言われる場合がありますが、エンジンもまた、電気自動車のエネルギー源である発電に対し、それを上回るCO2排出量削減の実績を示すことができれば環境負荷低減への有力な手段となるものであり、その大きな目標は達成されつつあるものと認識しております。低炭素社会の実現にエンジンが貢献するためには、エンジンの高熱効率化やクリーン化が必要となります。当グループは、その条件を満たす耐摩耗性、耐久性等に優れた高機能自動車部品を生み出す技術開発をすすめてまいります。また、高精度かつ国際価格競争力のある量産の実現も重要な要素であり、引き続き注力してまいります。加えて、技術提案型営業や開発機能の現地化に取り組んでおり、欧米メーカーや中国ローカルメーカーへの拡販等の成果が現れてきております。今後ともエンジンの深化に貢献し、価格・品質両面で評価を受ける製品の供給に努めてまいります。

太字でハイライトしたようにエンジンでも環境負荷に貢献できるよう取り組みを進めるようですね。

また、有報には「事業等のリスク」の箇所もありますが、そこでは内燃機関搭載車市場の縮小によるリスク」として、次のように記載されています。

今日は、CASEに代表される100年に1度の自動車事業の変革期にあると言われていますが、環境問題やエネルギー問題に対する社会的意識の高まり等から、電気自動車等、内燃機関を使用しない自動車が生産・販売され、その数は増加傾向にあります。電気自動車は、コストや利便性等の面で、まだ課題が多いとも言われておりますが、課題解決へ向けた進展や強い政治的なサポート等により、内燃機関搭載車市場が大きく縮小する程度まで電気自動車等のシェアが伸長する、そしてその時期が早まる可能性があり、その場合には、受注減少を通じて、業績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性がございます。このような市場の方向性につきましては、シナリオ動向の不確実性に加え、社会的目標は飽くまで環境負荷低減であり、電気自動車の導入は一つの手段であるという見方が本質であると考えることから、現状において経営を全面的に方向転換することは寧ろリスクを拡大する可能性があるものとも考えられます。当グループといたしましては、コア技術を背景とした差別化や顧客との適切な連携により、「顧客に選ばれる製品・サービス」を供給することで、内燃機関環境負荷低減に対し責任を持った対応を行うとともに、総量が例え減少する場合でも優位なシェアを確保して行く方針であります。また、内燃機関関連製品に関する設備投資につきましては、費用対効果を吟味し、適正かつ選別的に行ってまいります。

目的は環境負荷の低減であり、これはEV化ではなく、当面は内燃機関であるエンジン搭載でも目的を達成するという強い意気込みが伺えます。

経済産業省が2018年4月に公表した資料では、エンジン搭載車は2030年は91%で、2040年に84%という予測をしていますが(この点も前に書いた記事を西再掲します)、その後に政府の脱炭素化に向けた方針も大きく転換されたので、今後の動向は注視する必要があります。


ゼネコン各社の定時株主総会日 ー 総会後、2020年度の有価証券報告書で政策保有株式数を確認します

来週は上場企業各社(3月期決算企業)の定時株主総会が一斉に開催されます。

ゼネコンの定時株主総会日は、前田建設工業:23日、大林組」24日、東洋建設・鹿島・大成建設若築建設:25日、安藤ハザマ・東亜建設・戸田建設:29日、清水建設西松建設:29日などとなっています。

多くの企業は、定時株主総会の直後に有価証券報告書を公表することになり、有価証券報告書には政策保有株式数が掲載されます。ゼネコン業界ではアクティビストが暴れていますので、各社ともアクティビストからの要求を受けて政策保有株式をかなり減らしているように想像しますが、2020年度の状況はどうでしょうか?各社の有報が出揃ったところでブログで整理したいと思います。

なお、2019年度のゼネコン各社の政策保有株式の保有状況は次のとおりです。

西松建設の幻の6号議案 ー 特定株主グループによる株式買増しの中止等要請に関する株主意思確認の件

本日は5,000株ほど保有しているある小型銘柄の企業の中期経営計画の機関投資家向けの説明会動画を見て、不明な点があったので、その企業のホームページにあるIR質問の箇所からメールでIR部に何点か質問をしました。過去にもこの会社には複数回、決算説明資料を見て質問をしていますが、IR部の担当の方は結構きちんとメールで回答をしてくれています。個人投資家で中長期での株式投資をする方は、何ら遠慮することなく、投資先企業のIR部門に質問をするとよいかと思います。

さて、6月16日の日経新聞で「西松建設 幻の6号議案」「株買増し拒んだ『奇策』」との記事がありました。西松建設が今年6月29日の定時株主総会で上程していた以下の第6号議案に「特定株主グループによる株式買増しの中止等要請に関する株主意思確認の件」についての記事です。

 https://www.nishimatsu.co.jp/assets/upload/ir_meeting/1622588429_002077200.pdf

内容は、旧村上ファンドであるシティインデックスイレブンスが西松建設株を約24%保有しているところ、25%を超える株式の取得をしないことについて株主の賛同を得ようとするものです。 議案の要領を引用すると次の記載があります。

1.本議案の要領
本議案は、当社が2021年5月20日付けで、特定株主グループ(以下に定義します。)によるこれ以上の株式買増し(以下に定義します。)に反対し、特定株主グループに対して、(a)以下の(i)から(iii)に定める当社に対する株券等保有割合又は株券等所有割合の合計が25%を超える株式買増しを行わないこと(仮に既に当該合計が25%を超えている場合には、2021年5月21日以降株式買増しを行わないこと)、及び、(b)仮にこれに反して株式買増しを行った場合には、当該株式買増しに係る当社株式等について、市場における売却(ToSTNeT-1の方法によるものを除きます。)又は当社が別途合理的に指定する方法により速やかに処分することを要請(以下「本要請」といいます。)したことにつき、株主の皆様のご承認及びご賛同をお願いするものです。本議案については、特定株主グループ及び当社の取締役等(以下に定義します。)を除く出席株主の議決権の過半数の賛同によりご承認をいただきたく存じます。本議案は、本要請を行ったことについて株主の皆様のご意思を確認するものであって、いわゆる買収防衛策に当たるものではございません。当社としては、本議案について上記の出席株主の過半数の賛同によるご承認を得られた場合は、特定株主グループにおいて本要請を遵守していただけるものと確信しております。なお、仮に上記の過半数の賛同によるご承認を得られなかった場合には、当社は、その時点をもって本要請を撤回いたします。

本議案は、結局、シティが買い増しをしない誓約書を提出することで西松建設は議案を取り下げることになりました。このよう議案は、株主に株式の売却を法的に制約するものではなく、新聞記事の表現によれば株主の「民意」を背景に対抗するものです。過去にはセゾン情報システムズが同様の決議をしたようでグーグルで検索をしたところ、2012年に次の内容がありました。

https://home.saison.co.jp/company/news/pdf/2012/pre20120612-2.pdf

これは1つの買収防衛策と言えるのでしょうか?この決議を無視して買増しを進めた場合に、会社が対抗措置を発動して裁判になった場合に会社が措置の有効性を高めるための1つの材料にするための決議という印象を持ちます。 

東証がコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)を6月11日に公表 ー 上場企業・投資家は東証のパブコメの結果を読みましょう

金融庁のフォローアップ会議でこれまで議論されてきたコーポレートガバナンス・コードの改訂作業ですが、6月11日に東証が改訂コーポレートガバナンス・コード(CGコード)を次のとおり正式に公表しました。

https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000005ln9r-att/nlsgeu000005lne9.pdf

3月31日にフォローアップ会議で公表されたCGコード案からは、1箇所のみ微修正されています。今回の改訂のポイントは以前にブログで記事を書いていますが(末尾に当時のブログを再掲しています)、「取締役会の機能発揮」「 企業の中核人材における多様性の確保」「 サステナビリティを巡る課題への取組み」の3点になります。まず、「取締役会の機能発揮」は次の内容になります。

  • プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討)
  • 指名委員会・報酬委員会の設置(プライム市場上場企業は、独立社外取締役を委員会の過半数選任)
  • 経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
  • 他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任

次に「企業の中核人材における多様性の確保」は次のとおりです。

  • 管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定
  • 多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表

最後に「サステナビリティを巡る課題への取組み」は次のとおりです。

  • プライム市場上場企業において、TCFD 又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実
  • サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示

今回の改訂では今後どう対応すべきか悩ましい箇所がいくつかあります。今回のCGコードの改訂と併せて東証パブリックコメントに対する東証の見解を公表しています。ページ数が300ページと膨大なのですが、これを読んでいくと改訂の原則・補充原則に対する東証の考えがある程度分かると思います。従い、上場企業各社はこれを踏まえて自社の対応をする必要があります。勿論、CGコードを踏まえたコーポレートガバナンス報告書の提出期限である12月末ぎりぎりまで他社の開示例を待って、それを模倣するという後ろ向きの対応もありますが。

物言う株主も企業の改訂CGコード対応を攻撃するに当たり、この結果を分析するはずです。当然、物言う個人投資家の武器としても、読む価値は高いのですが、いかんせんボリュームが多いのが悩しいところではあります。ので、ブログでも物言う個人投資家の武器の観点から、この結果について複数回に分けて紹介したいと思います。

個人投資家のアクティビズム ー まずは投資先企業の株価が割安かどうかを判断するのが最初のステップ

本日の日経ヴェリタスで「みんなのアクティビズム」というタイトルの記事がありました。上手い表現だなと思います。日経ヴェリタスは勤務先で定期購読しているので、明日、記事をさっと読んで見たいと思います。

さて、前回、個人投資家の武器として次の記事を書きました。

本日から個人投資家の武器として、投資先企業に株主アクティビズムを実施する際のポイントを解説していきます。まずは、投資先企業の市場株価が割安であるかが大前提となりますので、この点を確認します。

その際の視点の1つがPBR(=株式時価総額÷株主資本)です。PBRが1倍を下回る状況が継続しているかを見ます。1倍を下回る場合、どこに原因があるかを見ます。PBR=ROE×PERですので、ROEが低いのか、それともPERが低いのかを判断します。

仮にROEが低いとします(ROEの基準は8%が1つの目安です)。この場合、ROEのどこがに問題があるかを見ます。ROE=当期純利益率×総資産回転率×財務レバレッジですので、この3つの指標のどこが原因であるかを確認します。なお、ROEが低くない場合、PERが低い、つまり株価が低いということになります。

次に、PBRが1倍以上ある場合はどうすればよいでしょうか。この場合には、市場株価が理論株価と比べて割安かどうかを見ます。理論株価の算定が必要になります。

理論株価の分析としては、DCF法もあるのですが、DCF法は将来の見通しに対する会社計画又はアナリストコンセンサスの予想値が必要になりますが、個人投資家には難しいところです。そこで、マルチプル法(PERを使用)や、複数事業セグメントがある場合にはSum of the parts(サム・オブ・ザ・パーツ / SOTP法)により簡易的に理論株価を算定します。Sum of the partsによる理論株価は次の記事を参照頂ければと思います。 

これにより、理論株価より市場株価が低いことを確認します。このように、まずは投資先企業の市場株価が割安である、理論株価を下回っていることを確認するのが最初の取組みとなります。その上で、このような状況になっている原因として、投資先企業のコーポレートガバナンス上の課題を見ていくことになります。ここからは次回以降に書きます。

エンジン搭載車の今後の割合は? ー 「パワートレイン別長期見通し」より(経産省 自動車新時代戦略会議資料)

自動車部品サプライヤーの自動車のEV化に伴うリスクについて整理をしていますが、昨日までにざっと何社か調べた結果を紹介します。手間をかけずに調べたので、各社の決算説明会資料や昨年度の有価証券報告書からの抜粋です。

リケンの2019年度の有価証券報告書には「内燃機関搭載車のピークアウトは2030年代前半と想定」と記載されています。日本ピストンリングの2019年度の有価証券報告書では、内燃機関搭載車の市場宿縮小のリスクとして「電気自動車は、コスト・利便性の面でまだ課題が多いと言われている。自動車生産台数に占めるシェアは今だに2.1%との調査結果」となっています。TPRの2019年度通期の決算説明会資料には、「2030年頃よりEV化が加速」「2050年でも約8割はエンジン搭載車両」とあります。2019年度時点での各社の考えはこのとおりで、EV化の影響はまだ少し先であるとの見通しの印象を受けます。しかし、これらはいずれも、政府が2035年までに全ての新車販売を電動車とするという方針を打ち出す前のものであることに注意する必要があります。本年6月末に開示される2020年度の各社の有価証券報告書では、EV化の見通し、事業リスクに変化があるかも知れません。

少し古いですが、経済産業省の2018年4月18日の自動車新時代戦略会議(第1回)でIEA公表資料をベースにパワートレイン長期見通が記載されています。それによれば、2030年の電動車比率は32%、エンジン搭載車比率は91%、2040年は電動車比率が51%、エンジン搭載車比率は84%となっています。

エンジン搭載車はガソリン車、グリーンディーゼル車、天然ガス自動車ハイブリッド車プラグインハイブリッド車で構成されていますが、この中で大きな比率を占めるのはガソリン車です。2030年のエンジン搭載車比率91%の内訳を見ると、ガソリン車 51%、グリーンディーゼル車 14%、天然ガス自動車 3%、ハイブリッド車 12%、プラグインハイブリッド車:11%となっています。

2035年にガソリン車の販売がなくなることで、ガソリン車の減少分がPHVの増加となれば、エンジン搭載車のシェアは2030年、2040年でも80%以上を占めることに変わりはないが、もし、EVが増えるとなると、エンジン搭載車のシェアは下がるということです。エンジンが不要になると部品点数が減り、自動車部品サプライヤーの業績にも大きなマイナス影響が出るということです。

ポイントは、自動車メーカーが2030年、2050年に向けてHV(又はPHV)、EVのいずれにリソースを割くかによりますね。ということで、今後は、自動車部品サプライヤーに加えて、自動車メーカーの開示資料も十分に注視したいと思います。

自動車のEV化で不要になる自動車部品 ー 今後の各社の決算を注視するのが一番大事

投資先に自動車用の鋳物の材料関連銘柄があり、自動車のEV化に伴い鋳物がかなり減少するリスクがあり気になっていたので、昨日、あらためてEV化により不要になる自動車部品の情報収集をしました。

大きく分けるとエンジン部品、駆動部品、電装品があると言われています。少し前の日経新聞にEV化で需要が減る部品とその企業名が次のとおり記載されていました。

EV化により車の部品点数が大きく減少しますが、その対象製品が上記の部品ということで、単純に考えると、これらの企業の将来はやばいということになります。

問題は、果たしてEV化はどこまで進むのかですが、私は技術の素人ですので正確なところを語る能力はありませんが、国内自動車メーカーはこれまで培ってきた複雑なハイブリッドを当分の間は維持するように思います。

理由は単純でその開発に莫大な開発費を投じてきており、またEV化のインフラもまだまだ十分とは言えない状況を考えるとこの先も当分は、ハイブリッドで行くように想像します。完全EV車が世界の中心になるには、それなりのハードルがあるのではないかなと素人ながらに感じるところです。

日経新聞の記者はエンジニアでもないのに、「EV化時代が到来」のような論調で記事を結構書いていますが、所詮は素人です。従い、記事を鵜呑みにするのではなく、上記にあげた銘柄の決算や中期経営計画を細かく分析することが大事なのだと思います。ということで、明日からは、先ほどあげた自動車部品サプライヤーのIR情報の分析を早速開始し、注意深く継続して見て行きたいと思います。ブログでも時折紹介します。

西松建設が「特定株主グループによる株式買増しの中止等要請に関する株主意思確認の件」の議案を取り下げ ー この議案は何?

本日の日経新聞西松建設が「買増し巡る議案撤回」という記事がありました。村上世彰氏の関わる投資会社であるシティインデックスイレブンスから西松建設株の買い増し中止の同意が得られたので、本年の株主総会で上程予定であった「特定株主グループによる株式買増しの中止等要請に関する株主意思確認の件」の議案を取り下げることを決定したということで、次のプレスを西松建設が公表しています。

https://www.nishimatsu.co.jp/assets/upload/ir_meeting/1622588506_074042600.pdf

西松建設村上ファンドとの間でこんなことが起こっていたことは新聞を見るまで知りませんでしたので、西松建設のホームページで株主総会の招集通知を見ると次のとおり第6号議案にありました。

https://www.nishimatsu.co.jp/assets/upload/ir_meeting/1622588429_002077200.pdf

はじめえて見る議案の名称ですが、要するに投資ファンド側が西松建設株を25%を超えて取得する場合には、株式買増しに係る西松建設株について、市場における売却又は西松建設が別途合理的に指定する方法により速やかに処分することを、2021年5月20日付けで特定株主グループに対して要請したことにつき、株主の承認及び賛同をお願いするというもののようです。

招集通知の全文の詳細がまだ読めていないこともあり、少し良く分からないところもありますが、招集通知には「本議案は、本要請を行ったことについて株主の皆様のご意思を確認するものであって、いわゆる買収防衛策に当たるものではございません。当社としては、本議案について上記の出席株主の過半数の賛同によるご承認を得られた場合は、特定株主グループにおいて本要請を遵守していただけるものと確信しております。」とあり、買収防衛策とは違うことが記載されています。

西松建設は撤回をしたようですが、明日以降に西松建設の招集通知をじっくりと読んで見たいと思います。日本アジアグループとシティインデックスイレブンスの攻防で日本アジアが負けたこともあり、買収防衛策的な対抗措置をとる場合には、株主総会の決議を経ておくのが無難という企業サイドの意思が見えます。ここ最近、投資ファンドの出現に対して買収防衛策又はこれに類する対抗措置を講じることを想定した事案が増えている印象を受けます。

買収防衛策の在り方を巡る議論が法務省経済産業省あたりで開始する動きが近い将来、出てくるかも知れませんね(勝手な想像ですが)。

地熱発電施設を2030年に倍増する考えのようです

本日は週1回の在宅で仕事をする日ですので、細かい資料作成作業ではなく、周辺情報の収集・整理に集中する予定です。昨日、アマゾンで「ずば抜けた結果の投資のプロだけが気づいていること」(幻冬舎新書)を中古で購入しました。著者は苦瓜達郎氏(1990年東大経済学部卒)で、国内中小型株式部門で過去6年連続で優秀賞等を受賞した三井住友DSアセットマネジメントのファンドマネジャーの方です。アマゾンでの評価のとおり文字数の多くない、薄い本ですので’、時間をかけずにさっと読む予定です。後でブログで書評を書きたいと思います。

株式投資関連情報になりますが、本日の日経新聞で「地熱発電施設、30年に倍増」との見出しの記事がありました。以下の内容です。

河野太郎規制改革相は1日、政府の規制改革推進会議の答申とりまとめに合わせ、脱炭素社会の実現に向けて見直すべき規制について報告した。国立公園など自然公園での導入を進め、地熱発電施設を2030年に倍増する目標を掲げた。再生可能エネルギーの拡大につなげる。地熱発電風力発電といった施設の立地を巡る制約を解消するため、関連する規制の緩和も進める考えを示した。荒廃農地の再エネ用地への転用でも要件を緩めて太陽光発電の設置を促す。

 地熱発電については、小泉環境相が、地熱の開発期間が従来は10年以上かかっているころ、最短8年に短縮する意向であること、総発電量に占める地熱の比率を2019年は0.3%であるのを2030年には1%まで引き上げることを4月27日の閣議後の記者会見でたしか発言しています。

地熱はCO2を出さない、日本は世界で第3位の地熱資源量を有するなど、本来地熱発電は期待されるべきエネルギーです。しかし、開発リードタイムが長いほか、国立公園など開発の難易度が高く、環境庁はじめ関係省庁との折衝などが必要になることもあり、なかなか進んでいないのが現状ですが、期待したいと思います。

東都水産の株主総会は6月16日 ー マルハニチロの株主提案に反対しています

香港の投資ファンドのオアシスアセットマネジメントが東洋製罐グループホールディングに株主提案をしました。業績連動報酬制度の導入、相談役・顧問等の廃止、環境エンゲージメントの強化等の株主提案ですが、個人投資家にとっても参考になる内容ですので、今週末以降に整理してブログでも紹介したいと思います。

さて、東都水産ですが、大株主のマルハニチロから株主提案を受け反対しているところですが、定時株主総会の招集通知が開示されました。6月16日が株主総会日です。

https://www.tohsui.co.jp/ja2/wp-content/uploads/2021/05/tdshoshu2021.pdf

マルハニチロの取締役1名選任の株主提案について反対していますが、反対の理由の一部を抜粋すると次のとおり記載されています。

上場企業の経営は、特定大株主だけではなく一般株主も含めた株主共同の利益のために行うことを心掛けるべきところ、次のとおり、本提案は当社の経営方針と相容れないばかりか、当社の企業価値・株主価値にとって具体的なメリットがあるのかに疑問を有し、また、当社の企業秘密が競合他社に流出しかねないことなど、当社にとって大きな不利益が生じることが危惧されることから、賛成はできないとの結論に至りました。全国的に大手水産卸売業者が上場水産会社の資本参加や役員派遣を受けて色分けされる中、当社は創業以来、いわゆる独立系として自由度を保った独立した経営を進めてまいりました。当社取締役会は、このような自由度を保った独自の経営戦略に基づいて、安定した成長路線を歩むことが、企業価値向上にとって最善であると同時に、市場や卸の活気を失わないことにより、流通に携わる方達の創意工夫が生み出される契機の多様性、各家庭や外食業などの施設で水産物を楽しむ魚食文化の発展的育成に資するところがあると考えております。提案株主は本提案で、豊洲市場における水産物流通の変革を進める最も有力な方法として、近い将来の市場再編があり、その検討を加速させるためのものである旨を説明していますが、当社として現時点では主体的にこれに同業者と協働して着手することを考えておりません

提案株主が本提案で社外取締役候補者として推薦している粟山治氏は、マルハニチロ株式会社の取締役専務執行役員であります。マルハニチロ株式会社は、豊洲市場内において当社との競業企業である大都魚類株式会社を完全子会社化しております。本提案が承認され、当社における有形無形を問わないノウハウがマルハニチロ株式会社ないし同社を介して大都魚類株式会社に流出する可能性が生じ得ることは、弊社及び弊社の株主にとって極めて不可逆的な打撃となるため、本提案には受け入れ難いリスクがあると認識をいたします。以上から、当社取締役会は、本議案が当社の企業価値・株主価値の向上にとって有益なものとはいえず、同時に当社の企業価値・株主価値を毀損するおそれが否定できないものと考えております。

要するに独立独歩でやるので、マルハニチロは絡んでくれるなという主張のようです。マルハニチロの株主提案に対してISSがどう判断したのか不明ですが、株主提案はどの程度の賛同が得られるでしょうか。引き続き注視したいと思います。なお、東都水産について前回の記事は次のとおりです。 

 

4月の鉱工業生産指数 ー コロナ前の水準を上回る

株式投資をする上でマクロ経済指標は市場全体の傾向を知る上で重要ですが、5月31日に4月の鉱工業生産指数が公表されました。鉱工業生産指数とは、鉱業と工業の2つでどの程度、モノが作られたかを示う指数であり、鉱業と工業でGDPの約4割を占めると言われています。

4月の鉱工業生産指数(速報)は前月比2.5%上昇と2カ月連続でプラスとなり、生産指数(2015年を100とします)は99.6で、コロナ流行前の水準である2020年1月の水準99.1を上回りました。

12業種の多くで好調でしたが、中でも好調なのは汎用・業務用機械で16.1%、生産用機械で7.8%で、つまり工場で使う機械を作っている業種です。また、昨日は世界経済成長絵率のOECD数値も公表されました。世界経済成長は世界銀行IMFOECDの3つが重要かと思います。

アイ・アールジャパンの株主総会議案にISSが反対推奨 ー アイ・アールジャパンはびっくり?

株主サービスを提供しているアイ・アールジャパンは今年の定時株主総会で次のとおり定款一部変更議案を上程することを予定しています。内容は、場所の定めのない株主総会の開催を可能とするための定款変更になります。

https://www.irjapan.jp/ir_info/release/pdf/notice_20210514.pdf

産業競争力強化法等の一部を改正する法律でバーチャル株主総会が可能となるため、アイ・アールジャパンは自社でも早速、これができるよう定款を変更しようとするものです。ところがこの定款変更議案に対して、議決権行使助言会社のISSがなんと反対推奨をしたようです。この反対推奨に対して、アイ・アールジャパンは次のとおり見解を公表しています。

https://www.irjapan.jp/ir_info/release/pdf/notice_20210528_1.pdf

この中で「ISSが示している懸念点」として次のとおり記載されています。

(1)バーチャルオンリーの株主総会は、株主が行う取締役の責任追及に影響を与える可能性があり、経営陣及び株主の間の有意義な交流を妨げる可能性がある。
(2)株主提案を受けた場合や委任状争奪戦になった場合には、会社と株主の間の交流が重要となるが、バーチャルオンリーの株主総会では、そのような交流が有意義に行われるかどうかは疑問である。
(3)バーチャルオンリーの株主総会に関する公的な議論は日本で始まったばかりであり、現在のところ、ベスト・プラクティスに関する株主や企業の間のコンセンサスは得られていない。産業競争力強化法改正案では、企業は、2年間は暫定的な規制緩和を利用し、定款変更をすることなく、バーチャルオンリーの株主総会を開催することが可能であるから、現時点で定款変更をする必要がなく、ベスト・プラクティスが確立した後に定款変更を行えば足りる

バーチャルオンリー総会の定款変更に水をさされたことになりますが、アイ・アールジャパンには予想外だったのではないでしょうか。株主総会のサービスを飯の種にしているアイ・アールジャパンとしては、法改正とともに自社の定款変更をして、バーチャル株主総会を顧客への営業材料にしたいのだと思います。それに反対されるとは、少し間抜けというか、面白い状況です。一方で、バーチャルオンリー株主総会を否定するISSの判断も少しどうかなとは思います。法律で可能となったことを定款で規定することに反対するというのもおかしな気はします。

アイ・アールジャパンの2021年3月末現在の株主構成は不明ですが、有価証券報告書で2020年3月末の株主構成を見ると、金融機関11.66%、外国法人19.93%、個人その他65.71%となっています。もし、2021年3月末でもこの構成比と同様とすれば、定款変更議案は可決されるでしょう。反対するのは外国法人くらいでしょうから。