最近の新聞報道を見ると物言う株主の記事を頻繁に目にします。しかも、物言う株主を批判するのではなく、擁護する立場の記事です。東芝問題についての日経新聞の報道なども完全に物言う株主である投資ファンドを擁護し、一方で、東芝と経産省を批判する内容になっているかと思います。
そのような中にあって、多くの上場企業の経営トップは、物言う株主のリスクをどこまで理解しているでしょうか。物言う株主である投資ファンドに株式を数パーセント取得され、厳しい要求を突きつけられている企業の経営トップを除くと、ほとんどの上場企業の経営トップにとって、物言う株主の動きは未だに他人事のように考えている方も多いのではないでしょうか。特に、同業他社で物言う株主が暴れている状況にはない業界の経営トップは、他人事の意識がとても強いのではと想像します。
しかし、この考えは極めて危険です。物言う株主が出現していないのは「たまたま」と考えるべきです。物言う株主がひとたび出現すると、企業はその対応に忙殺されます。投資銀行でアクティビスト対応をしている部門の担当者の話によれば、物言う株主に狙われた会社は、毎月の取締役会は物言う株主対応の議論に相当の時間を費やすことになり、戦略的な事業戦略を十分に討議する時間はなくなるということです。中期経営計画を策定するにしても、いちいちアクティビストから横槍が入り、そのやりとりだけで、大変な苦労をする企業も多いということです。
このようなことを考えると、平時から上場企業の経営トップは物言う株主の出現リスクを重要リスクとして明確に理解することがとても大事と考えます。具体的に何をどうすればよいかですが、経営トップは、コーポレートガバナンス・コードで規定されている内容とその背景を深く理解することが極めて重要だと考えます。コーポレートガバナス・コードは、第2次安倍政権下の2015年に制定されたものですが、その後、経済産業省のコーポレートガバナンス改革の中で策定された色々なガイドラインの思想も織り込まれて、2018年、2021年に改訂されました。企業統治指針であるコーポレートガバナンス・コードは「官製指針」と言えるのです。
従って、物言う株主がコードの趣旨に沿った内容の提案を企業に行う場合、この提案は政府のお墨付きのある極めて合理性があるものと言え、機関投資家もこの提案に賛同をせざるを得ない状況になっています。ということに鑑みると、上場企業の経営トップは何よりもコーポレートガバナンス・コードについてしっかりと理解する必要があります。コードを理解していない経営トップは、資本市場が理解できていないということに等しいかと思います。
以前に個人投資家の企業を攻撃する武器として、コーポレートガバナス・コードを解説すると書きました。これは見方を変えると、経営トップにとって自社を守る武器がコーポレートガバナンス・コードとも言えます。コードの対応がきちんと出来ていれば、それは企業サイドに武器があると言え、コード対応が出来ていない場合には、投資家サイドに武器があると言えます。6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、上場企業各社は、6月の定時株主総会も終わり、7月以降に改訂コードの対応を本格検討していくのだろうと想像します。
上場企業が自社を物言う株主から守る武器として、コーポレートガバナンス・コードの中で重要と思われる原則・補充原則の考え方について、今後、ブログでも連載していきたいと思います。上場企業の経営トップの方、またはコーポレートガバナンスを管掌するマネジメント層の方にも是非とも興味を持って読んで頂けるよう、実務目線に重きをおいて解説をして行きたいと思います。