中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

ESG評価と役員報酬 ー アピールするのは良いですが、報酬全体でどの程度の割合を占めるの?

本日の日経新聞で「セブン&アイ、CO2排出量で役員報酬変動」ということで次の記事がありました。

次の内容です。

セブン&アイ・ホールディングスは、役員に支払う株式報酬を二酸化炭素(CO2)の削減目標の達成度合いで変動する方式を採用した。役員報酬の2割を占める株式報酬と連動させ、経営幹部の環境意識を高める。2022年2月期に支払われる分から適用し、中長期的な脱炭素目標の達成につなげる。

最近、役員報酬にこういったESG要素を役員報酬に連動させる企業も少しずつ増えています。2年ほど前にブログで記事にしたときには、報酬にESG目標を組み合わせる主な企業としてオムロンコニカミノルタ日本航空フェイスブックユニリーバ などがありました。今は更に増えているのだとは思います。当時のオムロンコニカミノルタのESG報酬の内容は次のような内容です。

オムロン業績連動部分の株式報酬は、中期経営計画に基づき設定した売上高、EPS、ROEの目標値に対する達成度、および第三者機関の調査に基づくサステナビリティ評価を組み入れる( サステナビリティ評価 Dow Jones Sustainability IndicesDJSI)に基づく評価。DJSIは長期的な株主価値向上の観点から、企業を経済・環境・社会の3つの側面で統合的に評価・選定するESGインデックス)

コニカミノルタ:執行役については、「固定報酬」の他、年度経営計画のグループ業績及び担当する事業業績を反映する「年度業績連動金銭報酬」と中期経営計画の業績達成度を反映するとともに中期の株主価値向上に連動する「中期業績連動株式報酬」で構成。年度業績目標は、業績に関わる重要な連結経営指標(営業利益・営業利益率・ROA等)とし、執行役の重点施策にはESG(環境・社会・ガバナンス)等の非財務指標に関わる取組みを含める

各社ともESGを報酬に絡めることで、ESGへの取組みを世間にアポールしたいのだと思いますが、問題はこのESG評価が報酬の全体割合でどの程度を占めるです。恐らくESGの評価が報酬に占める割合は非常に小さいのだと思います。セブン&アイ・ホールディングスも「役員報酬の2割を占める株式報酬と連動」とあるだけで、この2割の中のどの程度がESGのインパクトがあるのか不明です。

連動させていますといっても、報酬への影響割合が小さいのであれば、全く意味はないですよね。ということで投資家はこういう開示をしている企業には、しっかりと株主総会で質問をして比率を確認することをお薦めします。

個人投資家としての立場からは、ESG評価などを入れるより、TSR(株主総利回り)を役員報酬に入れて欲しいところです。上場企業の最大のステークホルダーである投資家は儲けるために株を買っているのであり、とすれば役員報酬も株価の値上がり等に連動させるのは当然かと思います。

オーケーの関西スーパーへのTOB ー 関西スーパーの株主宛のレター

オーケーの関西スーパーマーケットへのTOBについて、しばらく情報を拾えていなかったのですが、10月11日に次のとおり関西スーパーの株主宛のレターをオーケーが公表しました。 

株式会社関西スーパーマーケットの株主の皆様へ | オーケー株式会社

また、本日の日経新聞によれば、関西スーパーの株主である伊藤忠食品関西スーパーに対して質問状を送付したとの記事がありますが、伊藤忠食品のホームページに掲載されています。

ISC 伊藤忠食品株式会社

要するに、株主としてオーケーによるTOB関西スーパーとH2Oの経営統合のいずれに賛同すればよいか判断が出来ないので、価値評価や算定根拠などを開示して欲しいという質問になります。

本件はあまり詳しく情報収集できていないので、後日、整理したいと思います。

「 今後の知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた取組について」が公表 ー 無形資産が競争力の源泉

10月9日号の週刊東洋経済の特集は「EV産業革命」です。電動化の各国の動きなどが記載されているので、情報整理するには良い材料かと思います。

さて、「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」が開催されているところですが、同検討会が9月24日に次のとおり「今後の知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた取組について」を公表しています。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/pdf/corporate_governance.pdf

この検討会では、無形資産の開示のあり方が検討されていますが、今回は考え方の中間報告のような位置津付けです。今般のコーポレートガバナンス・コードの改訂において、人的資本・知的財産の投資等の重要性が盛り込まれましたが、その背景はご存じでしょうか? それは企業競争の源泉の価値が無形資産にあるからです。この報告書の中でも次の記載があります。

知財・無形資産は、他社の製品・サービスとの差別化を図り、価格決定力を維持・強化し、あるいは破壊的イノベーションによる競争環境の転換をもたらすことなどにより、利益率を維持・向上させていく上で必要不可欠な要素である。企業は、強みとなる知財・無形資産を活かして、市場における価格決定力等を高め、高い利益率につなげ、それを通じて確保した潤沢な原資をさらに再投資し、稼ぐ力をより一層強化していくことで、熾烈な国際競争に勝ち抜いていくことが求められる。

本検討会では、日本企業と欧米企業の利益率に依然として格差が残っている主たる理由の一つとして、欧米の優良企業は、経営戦略・事業戦略において、知財・無形資産の投資・活用を通じて競争優位を確立し、製品価値を引き上げることで、高い利益率に結びつけている点が指摘されている。政府の成長戦略実行計画(令和 3 年 6 月 18 日閣議決定)においても、製造コストの何倍の価格で販売できているかを示すマークアップ率について、日本は 1.3 倍にとどまり、G7 諸国の中で最も低く、米国や欧州企業のマークアップ率が急速に上昇する一方で、日本企業は低水準で推移していることが指摘されている。こうした状況を踏まえれば、今後、日本企業は、知財・無形資産を活用したビジネスモデルを積極的に展開し、製品・サービス価格の安易な値下げを回避して、高い利益率を追求していくことにより、企業価値の向上を達成していくことが重要な課題であると考えられ

伊藤レポートに始まったコーポレートガバナンス改革の最初から言われていることですが、日本は無形資産に対する投資が弱く、これが営業利益率の低下になり、ひいてはROEの低下となっているとされています。これにプラスして、日本人は、欧米企業と異なり、売価アップを顧客になかなか言い出しにくいという生来の気質も利益率が低い要因でもあるのですが。

無形資産への投資はすぐに効果の出るものではありません。企業の研究開発に関しては、日経新聞の「私の履歴書」で旭化成名誉フェローの吉野彰氏が書いているように成果が出るまで長期の年数がかかるし、また、ブランド構築にしても同様に年数を要するし、人材投資もしかりです。企業のこれらの投資には長期に亘りマネーを投じてくれる機関投資家の理解が必要となるところですが、そのためには、企業サイドがきちんと無形資産について考えを整理して、開示する必要があります。

「5年~10年後には必ず成果が出ますから安心して見守っていて下さい」と機関投資家にお願いをしても、その投資が経営戦略や経営課題とどう結びついているのかが明確になっていないと、機関投資家としては投資は出来ません。メーカーの技術開発部門や経営企画部門の経営層の方は、この報告書を一度ご覧になり、今後の検討会の動向に注視することをお薦めします。

SBIと新生銀行の攻防(第13回) ー 新生銀行は独立社外取締役協議会を組成

新生銀行は、対抗措置発動の準備に入った旨の報道を否定するプレスリリースを出していますが、本日、新生銀行は次のとおりTOBの賛否を客観的に判断するため、社外取締役だけでつくる協議会を設置したことを公表しました。

https://www.shinseibank.com/corporate/news/pdf/pdf2021/211006_Announcement_j.pdf

買収防衛策導入企業の多くは買収防衛策スキームにおいて、独立委員会又は特別委員会を設置するケースが多いですが、この新生銀行の「独立社外取締役協議会」も似たようなものです。新生銀行の買収防衛策によれば、独立社外取締役協議会は、以下の事項について評価・検討し、その結果を踏まえ、当行取締役会に勧告又は意見を述べるとあります。

  1. 本公開買付けが、当行の企業価値ないし株主の皆様の共同の利益の最大化を妨げるものでないかについて、調査・検討及び評価を行うこと
  2. 以上の調査、検討及び評価を踏まえた上で、本公開買付けに対する賛否及び本プランに規定する対抗措置の発動の是非について検討を行うこと
  3. 以上の他、独立社外取締役協議会として当行取締役会に対して勧告又は意見すべきと考える事項

ポイントは、検討して取締役会に勧告するということです。つまり取締役会にアドバイスをするのです。

これに対して新生銀行の取締役会は最大限尊重することになります。これは、独立社外取締役協議会のアドバイスに拘束されることなく、最終的には取締役会がどうするか決定するということです。仮に対抗措置を発動して、後日、買収者から対抗措置が経営陣の保身のために発動されたとして裁判になった場合に、恣意性はないという材料にするために独立委員会等は設置されます。

国土強靭化のための5ヵ年加速化対策

最近、株式投資関係の記事の掲載をしていませんが、久しぶりに株式投資関係の情報をごく簡単に掲載します。

少し古いですが、ファンダメンタル投資をされている方はご存じかも知れませんが、2020年12月11日に国土交通省が「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を閣議決定しています。

https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001412022.pdf

この資料は分かりやすく、今後5年間で追加的に必要となる事業規模は、政府全体ではおおむね15兆円程度、このうち国土交通省では、おおむね9.4兆円程度を目途として、所管分野を対象に、重点的・集中的に53の対策を講じるとなっています。「予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策」は12対策で、2.7兆円で、次の内容が記載されています。

【河川・ダム・下水道・砂防・海岸の老朽化対策】現時点で対応が遅れている老朽化施設等の修繕対策を集中的に対応し、コスト縮減につながる投資的取組を推進 【道路施設の老朽化対策】定期点検等により確認された修繕が必要な橋梁・トンネル・道路付属物・舗装等の対策を集中的に実施 都市公園の老朽化対策】予防保全型管理へ移行を図るため、インフラ長寿命化計画に基づく老朽化対策を実施 【老朽化した公営住宅の建替による防災・減災対策】特に老朽化した高経年の公営住宅の建替を重点的に支援 【港湾における老朽化対策】予防保全型維持管理の実現に向けた老朽化対策を推進 【予防保全に基づいた鉄道施設の老朽化対策】耐用年数を超えて使用している又は老朽化が認められる鉄道施設の長寿命化に資する補強・改良を実施 【空港の老朽化対策】老朽化が進んでいる施設について効率的かつ効果的な更新・改良を引き続き実施 【航路標識の老朽化等対策】航路標識の老朽化による倒壊、損壊等を防止するため、長寿命化のための整備を着実に実施 

コロナ禍の中で国土強靭化の新聞報道も暫くみませんでしたが、コロナの収束とともに国土強靭化の施策も進むことと思います。「国策に売りなし」との観点から重要な投資テーマかと思います。

SBIと新生銀行の攻防(第11回) ー 買収防衛策の発動に向けての動きを一時見送り

本日の日経新聞で「三菱商事、政策保有株6割減」との記事が大きく掲載されていました。この10年間で政策保有株式の銘柄数が減った企業の第1位が三菱商事ということのようです。第17位には西松建設があります。西松建設はアクティビストのシティインデックスイレブンスが大株主となり、さんざん圧力をかけられていました。

さて、SBITOB期間を延長したことを受けて、新生銀行の買収防衛策の対抗措置の発動がどうなるか気になっていましたが、本日、新生銀行は次のプレスリリースを公表しました。

https://www.shinseibank.com/corporate/news/pdf/pdf2021/211001_Announcement_j.pdf

これは何かといいますと、株主意思確認総会の議決権行使と暫定措置としての新株予約権の無償割当ての基準日を10月13日としていたところ、新株予約権の無償割当ての実施を見送った、つまり対抗措置発動を見送ったという内容です。

ただし、「10 月 13 日(水曜日)を基準日とする当行の臨時株主総会は引き続き開催をする可能性がありますため、この点はご留意くださいますようお願い申し上げます」とあり、今後、SBITOBの内容を検討した上で、株主総会で買収防衛策の導入・発動を諮る可能性はあり得るということになっています。

なお、これに対して、SBIは次のとおり「当社らからの質問項目に対する株式会社新生銀行証券コード:8303)からの回答状況に関するお知らせ」を公表しています。

https://www.sbigroup.co.jp/news/pdf/2021/1001_a.pdf

9月 24 日付のSBIの質問項目について可及的速やかに新生銀行が回答すること、SBIの要請した4つの事項を新生銀行が遵守することを要請するということです。4つの遵守事項とは次になります。

  1. 新生銀行の株主の皆様がSBIによる本公開買付けに応募するかを判断する上で重要性の低い追加質問等は行わず、いたずらに検討の期間を延ばさないこと
  2. 新生銀行の取締役会が対抗措置の発動について株主意思確認総会で賛否を問う場合には、本公開買付けが「企業価値および会社の利益ひいては株主の共同の利益を著しく毀損する」と判断される具体的な根拠を説明すること
  3.  株主意思確認総会を開催するとしても、実務上可能な限り最短のタイミングで開催すること
  4. 株主意思確認総会を開催するとしても、公正な形で開催すること

4は、株主意思確認総会を開催するとしても、東京機械製作所がしたような特定株主の議決権を算定から除外するといったことは行うなということでしたね。

富士興産と投資ファンドの攻防 ー 久しぶりの動きです。まだまだ続きそうです

本日は久しぶりに富士興産とアスリードキャピタルの記事を書きます。アスリードキャピタルが富士興産にTOBをしたところ、富士興産が株主総会の承認を得て買収防衛策を発動、東京高裁でその効力が争われましたが、結局富士興産が勝ち、アスリードは8月下旬にTOBを撤回していました。

本日、アスリードキャピタルは、次のとおり今後の対話方針を公表しました。

富士興産に関する公開買付の撤回と今後の建設的対話方針について(Cancellation of the TOB and the Constructive Engagement Activities)|Aslead Capital Pte. Ltd.のプレスリリース

TOBは撤回したものの、依然として富士興産の大株主であるので、建設的な対話をしていくという内容です。次のような記述があります。

富士興産より新中期経営計画も発表されましたが、株価は本公開買付価格であった1株当たり1,250円を残念ながら下回ったままとなっています。他の株主の皆様におかれましても本公開買付けに反対意見を表明した経営陣が、その後本公開買付価格を上回る株価を実現していないことに対して不甲斐ない思いを抱いていらっしゃる方も多いことと思います。富士興産は2021年5月28日のプレスリリースの中で、本公開買付価格は当社の企業価値を適正に反映しておらず、アスリード・キャピタル以外の者も募り、内部資料も提供し新中期経営計画に基づくインカムアプローチでの企業価値も含めて企業価値評価をした参加者から、有利な条件を引き出した上で、株式を売却する選択肢もあるなどと主張していましたが、現在までに本公開買付価格を上回る施策は提示されていません。アスリード・キャピタルとしては、富士興産経営陣との対話活動を通じて、今後どのように本公開買付価格の1,250円を上回る施策を講じていくのか説明と適切な新たな施策の検討を求めていきたいと考えています。

先日ブログでも書きましたがTOBを防いだもののTOB価格を大きく下回った株価のケースとして芝浦機械の例をあげました。この時に投資ファンドとの裁判で勝ったからといって企業は安心はできませんと書きましたが、まさしくその典型例かと思います。この時のブログを最後に再掲します。

富士興産はこのままの低い株価が続くとすると、アスリードが今後本格的に攻撃をしかけた際には、他の株主の賛同を得るのは難しいかも知れません。富士興産は株価向上施策を今後講じる必要が高く、また株価が相当程度向上した段階でアスリードが退出する可能性もあるかと思います。本件も今後まだまだ続きそうですので、ウォッチしたいと思います。

知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会 (第4回 )

知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会の第4回が9月22日に開催され、事務局説明資料は次のとおりとなります。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai4/siryou3.pdf

投資家・金融機関の視点とコーポレート・ガバナンスに関する報告書への対応が論点として討議されたようです。

討議の詳細は不明ですが、資料の後半に国際比較で日本企業の営業利利益率等が掲載されており、データとして参考になると思います。日本企業は利益率がまた低下してきており、それがROEの低迷に繋がっているということになっています。財務レバレッジも日本は欧米に比べると低いですね。日本企業は内部留保をためている、負債の積極活用が出来ていないことなどが欧米との差かと思います。11月にガイドライン骨子案が出るようです。

SBIと新生銀行の攻防(第11回) ー SBIがTOB期間を12月8日まで延長

本日の日経平均株価終値は前日比ー639円と大きく下げました。本日は保有するパスコ(9232)を売却する予定にしていたのですが、株価がぱっとしないので売却は見送りました。パスコは親会社であるセコムによるTOBを期待して2年ほど保有していたのですが、セコムによる完全子会社の可能性が低いことが分かり、また保有株数も少ないので売却候補にしています。

さて、本日、SBIは次のとおりTOB期間を延長することを公表しました。

https://www.sbigroup.co.jp/news/pdf/2021/0929_b.pdf

10月25日をTOBの期限としていましたが、12月8日まで延長するようですね。SBIは、新生銀行によるTOB期間の延長要請に対して、新生銀行に4つの事項の遵守を条件に延長に応じる可能性があることを示していました。一方、新生銀行はこの4つの事項の遵守は無視する姿勢でしたが、SBIは延長要請に応じたということです。延長の理由について、プレスリリースに次の記載があります。

当社らは、対象者の買収防衛策は対象者経営陣が自己保身のために導入したものである疑いがより一層強くなったものと考えており、買収防衛策が対象者経営陣の自己保身のために不当に利用され、かえって対象者の企業価値ないし株主の皆様の共同の利益が毀損される事態にならないよう引き続き強く求める所存ですが、対象者らが一方的に提示した期限内に当社らが公開買付期間の延長に応じないことを以て、対象者によって買収防衛策に基づく対抗措置の一部が暫定的に発動される可能性があることから、対象者の株主をはじめとしたステークホルダーの皆様に無用な混乱を生じさせないためにも、止むを得ず対象者からの要請に応じ、公開買付期間の終了日を2021 年 12 月8日まで延長することを決定しました

太字の部分は、SBIが延長要請に応じず、新生銀行が取締役会の決議で対抗措置を発動すると(=株主意思確認総会の前に暫定的に発動しするということです)、新生銀行の株主に無用な混乱を与えることを心配しているようです。SBIが世間から非難されることを懸念しているということでしょうか?また、次のような記述もあります。

対象者の買収防衛策上、当社らが公開買付期間の延長に応じた場合には、対象者取締役会が本公開買付けが「企業価値および会社の利益ひいては株主の共同の利益を著しく毀損する」と判断する場合に限って対抗措置の発動について株主意思確認総会の賛否を問う形になっているものと理解しております。公開買付届出書に既に記載し、また、本回答報告書において追加で情報提供した、本公開買付けが成就した場合における対象者の企業価値の回復・向上に向けた具体的な方策や少数株主の皆様の保護のための具体的な方策の内容等を踏まえれば、そもそも本公開買付けが「企業価値およ
び会社の利益ひいては株主の共同の利益を著しく毀損する」ものでないことは明白と考えておりますが、万が一、対象者取締役会が本公開買付けが「企業価値および会社の利益ひいては株主の共同の利益を著しく毀損する」ため本公開買付けに対して対抗措置を発動すべきであると判断し、株主意思確認総会の開催を決議される場合は、そのように判断する具体的な根拠を明確かつ詳細にご提示いただくよう、併せて引き続き要請してまいります。

株主意思確認総会を開催して対抗措置の発動について株主の賛同を求めるのであれば、SBITOB新生銀行企業価値ひいては株主共同の利益を毀損することを明確に示せということで、株主意思確認総会の開催を牽制しています。

SBIと新生銀行の攻防(第10回) ー 新生銀行はSBIの要請に応じず。買収防衛策は「一般株主利益保護プロトコル」

SBI新生銀行に対して次の4つの項目の遵守を条件にTOB期間の新生銀行の延長要請にこたえる可能性がある旨を先日公表していました。

  1. 新生銀行の株主がSBIによる本公開買付けに応募するかを判断する上で重要性の低い追加質問等は行わず、いたずらに検討の期間を延ばさないこと
  2. 新生銀行の取締役会が対抗措置の発動について株主意思確認総会で賛否を問う場合には、TOBが「企業価値および会社の利益ひいては株主の共同の利益を著しく毀損する」と判断される具体的な根拠を説明すること
  3.  株主意思確認総会を開催するとしても、実務上可能な限り最短のタイミングで開催すること
  4. 株主意思確認総会を開催するとしても、公正な形で開催すること

本日、新生銀行はこの遵守には応じず、SBIに対するTOB期間の延長要請を維持することを公表しました。

https://www.shinseibank.com/corporate/news/pdf/pdf2021/210927_Announcement_j.pdf

SBIに対するTOB期間の延長要請は、株主総体としての意思確認を行うために十分な時間の確保を目的とするものであり、延長要請に当たって、SBIにいちいち条件遵守を求められる筋合いのものではないということです。新生銀行の買収防衛策に関する株主意思確認総会のメリットとして、次のことが書かれています。

  • 日本の公開買付制度の下では、本公開買付けへの応募の判断だけでは、当行株式の保有を継続したいと考える株主の方や本来であれば本公開買付けに賛同しない株主の方も、公開買付けが成立し支配権が変わることによりかえって当行の企業価値が下落することを恐れ、取り残されまいとして売却・応募せざるを得ないと考えてしまう構造的問題(強圧性)があるのに対し、株主意思確認総会では、本公開買付けの是非を株主様総体として何ら制約なく判断可能になります。
  • 当行の買収防衛策は、従来型の買収防衛策と異なり、株主意思確認総会を必須の前提としており、買収防衛策の発動の確定には必ず株主意思の確認が必要な仕組みとなっています。つまり、株主の皆様ご自身が、本公開買付けに応じるよりも優れた選択肢があると判断した場合にのみ発動が確定します。

新生銀行は、SBIによるTOBについて、新生銀行の株主はTOBに取り残されまいとして売却・応募せざるを得ない旨考えてしまう構造的問題(強圧性)があるとしております。そして、これに起因して、一般株主の応募判断が歪められること、ひいては一般株主の利益が毀損されることを防ぐための、いわば「一般株主利益保護プロトコル」とも呼ぶべき仕組みが新生銀行の買収防衛策であると主張しています。

平易にいうとTOBに対して株主に真に応募の意思はなくとも応募せざるを得ないのが新生銀行の株主であり、株主の利益の確保・向上に資するため、対抗措置発動の是非については株主意思確認総会で株主の判断を仰ぐということを言っています。

今後は、新生銀行が4つの項目の遵守要請に応じないため、SBITOB期間の延長要請を拒否し、結果、新生銀行TOB終了前に新株予約権の割当基準日を決定すべく、対抗措置発動という流れになるように想像します。

SBIと新生銀行の攻防(第8回) ー 新株予約権無償割当てに係る発行登録

9月25日号の週刊東洋経済で「ビジネスと人権」の特集記事がありました。人権は昨年の機関投資家とのエンゲージメントで今後のホットな話題になると言われた経緯がありますが、その通りでここ最近、人権への世の中の動きが急速に高まっています。グローバルで事業展開する企業は、サプライチェーンにおける人権の取組みまでしっかり把握しておかないと欧州の顧客から取引を打ち切られるリスクも大です。欧州で事業活動をする日本企業は、人権の最近の欧州の動きをしっかり勉強することがとても大事かと思います。

さて、新生銀行ですが、本日、次のとおり「新株予約権無償割当てに係る発行登録に関するお知らせ」を公表しています。

https://www.shinseibank.com/corporate/news/pdf/pdf2021/210922_Announcement_j.pdf

これは何かお分かりでしょうか? 買収防衛策の対抗措置として新株予約権の無償割当をするには、TOBの期間終了・決済より前を基準日とすることが重要であることは前に記事で書いたとおりです。理由は買収防衛策の狙いは、買収者の株式保有比率を希釈化させることにありますが、TOB終了後には買収者の保有比率が高くなってしまっているため、より高い効果を発揮するには、TOB満了前に基準日を設定する必要があります。

しかし、取締役会で新株予約権の無償割当を決議した後、有価証券届出書を提出する日から新株予約権の無償割当基準日までたしか27日程度を要するとされています。つまり、結構な日数がかかるわけであり、この間にTOBが終了しないようにするため事前に発行登録をしておくことが考えられます。発行登録をしておけば、無償割当の取締役会決議の後、10日程度で基準日を設定できるはずです。新生銀行としては、対抗措置の発動の決定後、基準日をなるべく早く定めることができるよう今回の発行登録をしたということになります。

西松建設が自社株をTOB ー 投資ファンドのシティインデックスが応募

西松建設について昨日の記事でシティインデックスイレブンスが25%の株式を取得しており、「幻の議案」が復活するか否かについて記載しましたが、西松建設は昨日、次のとおり自社株のTOBを公表しました。

https://www.nishimatsu.co.jp/assets/upload/ir_news/1632209585_027181700.pdf

発行済株式数の26.98%にあたる約1500万株を上限とし、1株あたり3626円となります。シティインデックスイレブンスはその保有する1389万株全株をTOBに応募する契約を西松建設と結んだようです。経緯について、次の記述があります。

当社は、村上氏らの意見も株主の意見として参考にしつつ、経営戦略及び資本政策を立案及び遂行してまいりました。しかしながら、当社が 2021年6月2日に公表した「第 84 期定時株主総会招集ご通知」の第6号議案「特定株主グループによる株式買増しの中止等要請に関する株主意思確認の件」及び当社のホームページで公表している「株式会社シティインデックスイレブンスとの対話(当社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた建設的な対話)」にも記載のとおり、開発・不動産事業を始めとした当社の経営方針に対して、当社と村上氏らとの間で、不動産売却金額、売却の期間等の見解が大きく異なる点が少なからず存在しており、その後も書簡やメールのほか、面談により 2021 年6月上旬から 2021 年7月下旬まで引き続き対話を重ねたものの、当社と村上氏らとの間で見解についての相違を解消することはありませんでした。そのため、2021年7月下旬、当社は、当社が 2018 年5月10 日に公表した長期ビジョンである「西松-Vision2027」(以下「西松-Vision2027」といいます。)及び「中期経営計画 2023」の下、当社が持続的成長の維持と中長期的な企業価値向上に向けた施策を円滑に推進していくためには、シティインデックスイレブンスらが、その所有する当社普通株式を売却した上で、当社における経営戦略及び資本政策の立案及び遂行の円滑化により、当社における機動的かつ安定的な事業運営の実現を図ること、並びに異業種のパートナー企業との協業による企業価値の向上を始めとした「中期経営計画 2023」における各施策を着実に遂行することが必要であるとの考えに至りました。  そして、当社は、シティインデックスイレブンスらがその所有する当社普通株式を売却するにあたっては、「西松-Vision2027」及び「中期経営計画2023」に掲げる経営戦略も踏まえ、当社の持続的成長の維持と中長期的な企業価値向上の観点から、様々な選択肢を検討してまいりました。その結果、2021年8月中旬、当社は、「中期経営計画 2023」において3年間で200 億円以上の自己株式の取得を目標としていることを踏まえ、シティインデックスイレブンスらが所有する当社普通株式を当社が自己株式として取得することを、当社の持続的成長の維持と中長期的な企業価値向上の観点からの一つの適切な選択肢として、検討を進めることといたしました。 

シティ社側に退場して頂くための自社株取得ですね。シティ社側の西松建設の株式の取得価額も計算すればおおよその数値は分かるのだと思いますが、シティ社は大儲けだと思います。

シティインデックスイレブンスが西松建設株を買増し ー 西松建設の「幻の議案」は今後復活するか?

シティインデックスイレブンスが西松建設株を買増し、保有割合は25%になっていようです。

シティインデックスイレブンスは、旧村上ファンド系と言われており、芝浦機械や日本アジアグループと買収防衛策の発動を巡り争った投資ファンドです。

西松建設は本年の定時株主総会第6号議案に「特定株主グループによる株式買増しの中止等要請に関する株主意思確認の件」を上程することを予定していましたが、シティ社が25%を超えて取得しないことを理由に議案を取り下げています。けど、結局、シティ社はぎりぎりの25%までは買い増しを進めたということですね。この西松建設の「幻の議案」については、ブログで2回記事を書いていますので、再掲いたします。ご関心のある方はご覧頂ければと思います。

SBIと新生銀行の攻防(第7回) ー SBIがTOB期間延長を拒否との報道

昨日から、ある保有銘柄の買増しを考えて国土強靭化関連の情報収集・整理をしつつ、この3連休は「住友銀行 秘史」という書籍を読んでいます。作者は元住友銀行の取締役であった方で、1990年代後半のイトマン事件を巡って住友銀行の当時の内部の動きについて、磯田一郎元会長(収益至上主義の住銀の天皇ですね)をはじめ幹部の様子が良く分かり面白いです。

全くの余談ですが、私も10年以上前に、以前に勤務していた会社で、日経新聞でも大きく掲載された某経済法違反事件で当局対応の窓口として、某大手法律事務所の弁護士と一緒に1年近くひたすら対応にあけくれた経緯があり、当時の日々の動きは業務の必要性から大学ノートにメモを取り続けていました。1年間で大きいA4サイズの大学ノートでたしか10冊以上になり膨大なメモとなりましたが、今だに捨てずに手元にしまっているのですが(読み返すこともこの10年ないのですが)、この手の話などもノウハウの宝ですので、本にしたら経済法違反事件の企業の実務担当者からのニーズはかなり高いだろうなとふと思いました。

さて、SBIによる新生銀行TOBですが、9月19日のヤフーニュースで次のとおりSBITOBの延長要請を拒否との記事がありました。

SBI、TOB期間の延長拒否へ 新生銀行の要請に応じず(共同通信) - Yahoo!ニュース

SBIホールディングスは19日、新生銀行に対して実施中の株式公開買い付け(TOBについて、新生銀が求めた期間延長に応じない方向で調整に入った。新生銀はSBIが要請を拒否した場合、導入済みの買収防衛策の手続きを進める方針で、対立は一段と先鋭化することになる。 新生銀は17日、SBIが行うTOBの終了日を10月25日から12月8日に延ばすよう要請。9月30日を回答期限に設定した。これに対しSBIは「適法かつ十分なTOB期間を確保しており、単なる時間稼ぎとしか考えられない」と反発し、拒否する方向だ。

黒字でハイライトした箇所ですが、これはどういうことでしょうか?

SBITOB期間は9月10日から10月25日となっています。買収防衛策の狙いは、買収者も含めて新株予約権を自社の全株主に割当てをするが、買収者だけが権利行使できず、結果、買収者の保有株式数は増えない一方で、発行済株式数が増加するので買収者の議決権比率が希釈化し、会社の経営に対する支配力を弱めるという点にあります。とするとTOBが終了し、代金の決済がなされ買収者の議決権割合が高まってしまった後には希釈化の効果は薄れることになります。そのため、TOBの終了前の日を新株予権の無償割当の基準日とする必要があるかと思います。

新生銀行は、現在は買収防衛策を導入したにとどまりますが、今後はSBITOBが完了する前に買収防衛策の発動手続きに入り、新株予約権の割当日を決める必要があるのだと思います。近いうちに新生銀行は買収防衛策の発動を公表するのだろうと想像します。

SBIと新生銀行の攻防(第4回) ー 明日17日に新生銀行は取締役会を開催予定

明日は四季報の秋号の発売日です。四季報オンラインのデータも更新されるので更新され次第、明日と土曜日は銘柄確認の作業をする予定です。

さて、新生銀行ですが、本日、次のとおり公表しています。

https://www.shinseibank.com/corporate/news/pdf/pdf2021/210916_Announcement_j.pdf

ソニーホワイトナイトを打診中というような報道も昨日ありましたが、明日17日の取締役会でTOBへの意見表明を含めた議題について付議する方向のようですので、明日の取締役会の後に何らかの公表があるのでしょう。今回の公表文では、次のような記述もあります。

本公開買付けにかかるSBI  ホールディングスらからの公表内容においては、株主の皆様のご検討・判断に影響し得る主要な事実関係について、当行が認識している経緯に照らして不正確又は異なる内容が含まれているか、又は、重要な経緯が含まれていないことが判明しております。このようなことから、本公開買付けに関する当行の考え方に基づく当行の対応を現在検討しているところではありますが、現段階で判明いたしました主要な事実関係にかかる不正確・不十分な内容について、当行の認識を株主の皆様に本開示資料によりお知らせいたします

こんなことを書いている以上は、TOBに反対という意見表明をするであろうことは容易に想像できますが、恐らく、明日の取締役会では買収防衛策の発動を決議するのかなと思います。ソニー又は他の会社がホワイトナイトとなるのも簡単ではないでしょう。

SBIは40%のプレミムを乗せた価格でTOBをしているのであり、仮にソニーが対抗TOBをするとした場合、株主がソニーの提案に応募するには、ソニーは40%を上回るプレミアムを乗せるTOB価格とする必要があります。しかし、それはソニーの株主が簡単には許さないはずです。

ソニーは、過去にサードポイント等のアクティビストが色々と提案をした経緯もあり、物言う株主の怖さは十分に認識していると思います。高い価格で買収をする場合には、それに見合うリターンを自社の株主に説明し、理解を得ることが必要になります。明日、新生銀行が何らかの公表をした後、ブログでも記事を書きたいと思います。