コーポレートガバナンス、株式投資、企業価値、IRなどに関する投資家目線での実務ニュース ー 強い意志のある投資を目指して

コーポレートガバナンス、中長期での株式投資、企業分析、企業価値評価、IR等について、新聞記事を中心に投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

「 今後の知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた取組について」が公表 ー 無形資産が競争力の源泉

10月9日号の週刊東洋経済の特集は「EV産業革命」です。電動化の各国の動きなどが記載されているので、情報整理するには良い材料かと思います。

さて、「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」が開催されているところですが、同検討会が9月24日に次のとおり「今後の知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた取組について」を公表しています。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/pdf/corporate_governance.pdf

この検討会では、無形資産の開示のあり方が検討されていますが、今回は考え方の中間報告のような位置津付けです。今般のコーポレートガバナンス・コードの改訂において、人的資本・知的財産の投資等の重要性が盛り込まれましたが、その背景はご存じでしょうか? それは企業競争の源泉の価値が無形資産にあるからです。この報告書の中でも次の記載があります。

知財・無形資産は、他社の製品・サービスとの差別化を図り、価格決定力を維持・強化し、あるいは破壊的イノベーションによる競争環境の転換をもたらすことなどにより、利益率を維持・向上させていく上で必要不可欠な要素である。企業は、強みとなる知財・無形資産を活かして、市場における価格決定力等を高め、高い利益率につなげ、それを通じて確保した潤沢な原資をさらに再投資し、稼ぐ力をより一層強化していくことで、熾烈な国際競争に勝ち抜いていくことが求められる。

本検討会では、日本企業と欧米企業の利益率に依然として格差が残っている主たる理由の一つとして、欧米の優良企業は、経営戦略・事業戦略において、知財・無形資産の投資・活用を通じて競争優位を確立し、製品価値を引き上げることで、高い利益率に結びつけている点が指摘されている。政府の成長戦略実行計画(令和 3 年 6 月 18 日閣議決定)においても、製造コストの何倍の価格で販売できているかを示すマークアップ率について、日本は 1.3 倍にとどまり、G7 諸国の中で最も低く、米国や欧州企業のマークアップ率が急速に上昇する一方で、日本企業は低水準で推移していることが指摘されている。こうした状況を踏まえれば、今後、日本企業は、知財・無形資産を活用したビジネスモデルを積極的に展開し、製品・サービス価格の安易な値下げを回避して、高い利益率を追求していくことにより、企業価値の向上を達成していくことが重要な課題であると考えられ

伊藤レポートに始まったコーポレートガバナンス改革の最初から言われていることですが、日本は無形資産に対する投資が弱く、これが営業利益率の低下になり、ひいてはROEの低下となっているとされています。これにプラスして、日本人は、欧米企業と異なり、売価アップを顧客になかなか言い出しにくいという生来の気質も利益率が低い要因でもあるのですが。

無形資産への投資はすぐに効果の出るものではありません。企業の研究開発に関しては、日経新聞の「私の履歴書」で旭化成名誉フェローの吉野彰氏が書いているように成果が出るまで長期の年数がかかるし、また、ブランド構築にしても同様に年数を要するし、人材投資もしかりです。企業のこれらの投資には長期に亘りマネーを投じてくれる機関投資家の理解が必要となるところですが、そのためには、企業サイドがきちんと無形資産について考えを整理して、開示する必要があります。

「5年~10年後には必ず成果が出ますから安心して見守っていて下さい」と機関投資家にお願いをしても、その投資が経営戦略や経営課題とどう結びついているのかが明確になっていないと、機関投資家としては投資は出来ません。メーカーの技術開発部門や経営企画部門の経営層の方は、この報告書を一度ご覧になり、今後の検討会の動向に注視することをお薦めします。