中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

サンケン電気(6707)がTOBに対して中立意見を公表

アクティビストのエフィシモ・キャピタルがサンケン電気(6707)にTOBを実施していることについて、2月9日に次のとおり記事を書きました。

エフィシモは10%のサンケン電気株を有しているところ、プラス20%の取得を目指してTOBを実施していますが、本日、サンケン電気はこのTOBに対して、中立の意見を公表しました。

その理由として、「当社として賛同することは適切でないと考えているものの、反対することが当社従業員や取引先等のステークホルダーに与える影響と公開買付者グループによる経営への影響の急迫性の程度を比較衡量し総合的に検討した結果、本公開買付けに対して中立の立場をとること、及び、本公開買付けの公表後の当社株式の市場株価が本公開買付けの買付け等の価格を上回って推移していること」を理由にあげています。

エフィシモは2月8日に1株5,205円でのTOBを公表しましたが、その後、サンケン電気の株価は上昇し、本日の終値は5,550円とTOB価格を大きく上回っています。従い、このTOBに応じるものはいないであろうということで中立の意見表明となっているということです。野村證券が2月19日にサンケン電気株の大量保有報告書を提出しており、それまで保有株数はゼロでしたが、7.20%を保有するに至っています。取得株数は1,806,357株です。プレスリリースでは中立とした理由がいくつかあげられていますが、その中の1つに次のような記載があります。

第三に、当社は、上記各理由から本公開買付けに対して反対の意見を表明することも検討しましたが、それと同時に、本公開買付け後も大株主にとどまる公開買付者グループとの関係が非友好的になることによって、本業以外の理由で社会の注目を集め、当社の従業員のモチベーションが低下したり取引先との契約交渉等において当社の経営リスクが問題視され契約条件の変更を求められるおそれ等、反対することが当社のステークホルダーに与える影響も十分に考慮すべきであると考えるに至りました。他方で、後記のとおり、当社はエフィッシモに対して純投資目的に沿った活動を行うことに関する確約を要請し、エフィッシモが一定程度協議に応じる姿勢を示していることを踏まえ、公開買付者グループによる経営への影響の急迫性の程度も勘案し総合的に検討した結果、本公開買付けに反対の意見を表明することにより、いたずらに当社のステークホルダーの不安をあおるのは、当社の円滑な事業運営ひいては企業価値の向上及び株主共同の利益の確保の観点からみて避けるべきであり、本公開買付けに対して中立の立場をとるべきであると判断いたしました。

従業員等ステークホルダーに影響を考えると反対はできなかったということが書かれていますが、要するに市場株価が上がっているから反対までしなくても、TOBに応じるものはいないであろうということなのだと思います。TOB期間は、2月9日から3月24日までの30営業日ですが、素朴な疑問としてサンケン電気の株価がこの間にTOB価格を大きく下回ったらどうなるのでしょうか。その場合にはTOB価格の方が高いから賛成意見となるのでしょうか。

株式投資テーマとしての海洋鉱物資源 - 本年2月末に新・国際資源戦略策定に向けた提言のとりまとめが公表予定

2月27日号の週刊ダイヤモンドの特集は「株・不動産・節税で資産1億円」です。個人投資家で100万円の投資から初めて、数億円の資産を築いた方のコメントで「投資銘柄は数銘柄にすべき」ということが書かれていました。これは至極もっともなことで、個人株主で1銘柄当たり100株~300株程度で20銘柄、30銘柄と保有している方もよくいますが、こんな少ない投資単位ですと銘柄の株価が大きく上昇してもたいした儲けになりません。そのため、投資資金にも限りがある中での投資となると、銘柄を5銘柄~10程度に限定して、最低でも1銘柄当たり数百万円の投資が必要になると私は考えます。勿論、株価が下がった時のリスクも大きくなりますが、それは銘柄選定にあたって、過去10年分の財務分析・株式指標分析(投資候補の同業も同様に分析します。PLは四半期レベルでの分析)、市場の将来性分析などの緻密な分析をして、選定の段階でリスクを低減すべきということになるのだと思います。

さて、本日は、最近情報収集を開始した鉱物資産政策について書きたいと思います。数日前にも次のとおり記事を書きました。

経産省の資源・燃料分化会の中の鉱業小委員会が2月15日に開催され、「2050年カーボンニュートラル社会実現に向けた鉱物資源政策」についての議論がされました。今後の大きな流れとしては、資源・燃料分科会において新・国際資源戦略の策定に向けた提言案について議論が実施されてきましたが、本年2月末に新・国際資源戦略策定に向けた提言をとりまとめ、この提言を受け、経産省として3月に新国際資源戦略を発表する予定となっています。

鉱業小委員会では、脱炭素化には、電化に伴う蓄電池やモーターが不可欠であるが、その製造に不可欠なレアメタル等の鉱物資源の必要性はますます高まる見通との指摘されています。私は知りませんでしたが、風力発発電においても「10GWの洋上風力発電機を製造するためには、銅は現在の国内需要の約10%分、レアアースは約20%分程度の資源量が必要」と記載されています。従い、日本が今後、脱炭素化を進める上ではレアアース等の鉱物資産の安定的な確保が課題であり、このサプライチェーンをどうすべきかが議論されているようです。

その中で、鉱物資源の安定供給確保に向けた検討として、「海洋鉱物資源開発に向けた取組」として資料には次のように記載されていいます。

我が国の領海・排他的経済水域EEZ)の広さは世界第6位を誇り、その海底には、海底熱水鉱床コバルトリッチクラストマンガン団塊レアアース泥等の海洋鉱物資源の存在が確認されている。 経済産業省は、「海洋基本計画」に基づき、資源量の把握、生産技術の開発等を推進。
 カーボンニュートラル社会の実現に向けて、鉱物資源の安定供給を強化する上では、国産の海洋鉱物資源開発に向けた取組も進めていくことが必要

また、レアアースの中にコバルトリッチクラフトというものがありますが、これはリチウムイオン電池製造のために不可欠は鉱物資源ですが、これについては次のような記載があります。

コバルトリッチクラスト掘削性能試験】
 令和2年7月、JOGMECは、南鳥島海域において、コバルトリッチクラストの掘削性能試験を実施し、コバルト・ニッケル等のレアメタルを含む鉱石片を試験的に掘削・回収することに成功。 本試験によって取得したドラムカッター性能や鉱石片の回収効率等のデータを元に、今後、掘削機の改良に向けた検討に着手する

鉱物資産の開発は長期的での取り組みが求められるのですが、脱炭素化を進める上でレアアース等の鉱物資産の自給率化を高めるというのは日本の課題ですが、今後は、これに向けて取り組みが急速に進むのだと思います。ということで、海洋鉱物資源の掘削等は今後の投資テーマとして有望と考えます。もっとも、海洋資源の掘削技術には解決すべき技術的ハードルもあるようですので、今後の行方は何とも言えないところですので、今後の政府の動きの情報収集は怠らないようにすることが重要です。

東京応化工業(4186)が買収防衛策の非継続を公表

事前警告型の買収防衛策の導入企業数が減る中にあって、株式時価総額の比較的大きい企業の廃止動向をウォッチしているのですが、本日、半導体製造工程で使用されるフォトレジストで世界首位級の東京応化工業(4186)が買収防衛策の非継続を公表しました。東京応化工業の株式時価総額は本日時点で約3,000億円です。本日公表のプレスリリースの一部を以下抜粋します。

 こうした状況の下、本対応方針の有効期間満了を迎えるにあたり、国内外の機関投資家をはじめとする株主の皆様のご意見、買収防衛策に関する近時の動向、当社を取り巻く経営環境の変化等を踏まえ、慎重に検討を重ねた結果、当社は、本日開催の取締役会において、本対応方針を継続しないことを決議いたしました。なお、当社は、本対応方針の有効期間満了後も引き続き当社の株主共同の利益および企業価値の確保・向上に取り組むとともに、当社株式等の大規模買付行為を行いまたは行おうとする者に対しては、株主の皆様が当該買付行為の是非を適切に判断するために必要かつ十分な情報の提供を求め、あわせて当社取締役会の意見等を開示し、株主の皆様が検討するために必要な時間および情報の確保に努めるなど、金融商品取引法会社法その他関連法令の許容する範囲内において、適切な措置を講じてまいります。 

 太字は私がハイライトしましたが、例によって非継続とする企業が必ず入れている文言です。ブログでも何度か解説していますので、ここでは触れませんが、各社意味が分かって記載しているのか少し疑問の残るところではあります。「右へ倣え」で記載している企業も多いような気もしますが、東京応化工業は非継続とするに当たって、「ステルス型の買収防衛策」を社内できちんと整備しているのでしょうか。

同社の2020年6月30日時点の株主構成は、金融機関38.13%、外国法人24.39%となっています。取締役総数は9名で、うち独立社外取締役は3名となっているので社外取比率は33%ですね。外国法人のほとんどは反対すること、国内機関投家の多くが買収防衛策の賛成の前提条件として、社外取締役過半数としていることに鑑みると東京応化工業の定時株主総会過半数の賛成を得るのは難しいかと想像します。これが非継続の理由です。

今年の3月30日開催予定の定時株主総会社外取締役過半数とする取締役選任議案を上程すれば、買収防衛策の継続議案を上程しても過半数の賛成が得られる可能性も高いと思いますが、そこまでして継続する必要はないという経営判断をされたのだと想像します。

脱炭素と海洋エネルギー・鉱物資源関係の基礎的な情報整理

本日はある銘柄の株式投資の分析関係で、新聞記事及び経済産業省の資料を中心に海洋資源開発に関する情報収集、整理をしました。

2月16日の日経新聞で「国内資源 開発前倒し」との記事がありました。2月15日に経産省の会議で国内の資源開発の時期を前倒しするということで、メタンハイドレードについて、2027年度までに民間企業が主導する商業化に向けたプロジェクトの開始を目指すことになったようです。経産省総合資源エネルギー調査会というのがあり、その中の資源・燃料分科会の下に石油・天然ガス小委員会、鉱業小委員会があり、この小委員会の会議で議論されたようです。

メタンハイドレードは、次世代のエネルギー資源とされており、天然ガスの主成分でエネルギー資源である「メタンガス」が水分子と結びつくことでできた、氷状の物質です。火を近づけると燃えるため、「燃える氷」とも呼ばれています。石油や石炭に比べ燃焼時のCO2排出量がおよそ半分といわれています。2019年2月15日に経産省が「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を改定していますが、その中でメタンハイドレードについて次のように記載されています。

メタンハイドレートとは、低温高圧の条件下で、水分子にメタン分子(天然ガス)が取り込まれ、氷状になっている物質である。メタンハイドレートは、よく「燃える氷」と称されているが、温度を上げる、ないしは圧力を下げるなどの変化を与えると、水分子と気体のメタン分子に分離する。分離されたメタン分子は天然ガスの主成分と同じものであり、メタンハイドレートは、近年北米で生産が拡大しているシェールガスと様に非在来型資源として位置付けられる。また、メタンハイドレートは、世界でも、水深の深い海底面下や極地の凍土地帯の地層に広く分布している。我が国周辺海域に賦存するメタンハイドレートは、主に 2 つの賦存形態が確認され
ている。砂層型メタンハイドレートは、水深 500メートル 以深の海底面下数百メートル の砂質層内に砂と混じり合った状態で存在し、主に東部南海トラフ海域を中心に賦存が確認されている。表層型メタンハイドレートは、水深 500メートル以深の海底面及び比較的浅い深度の泥層内に塊状で存在し、主に日本海側を中心に賦存が確認されている。これらメタンハイドレートは、我が国周辺海域に相当量の賦存が期待されており、我が国のエネルギー安定供給に資する重要なエネルギー資源として、商業化に向けた技術開発に取り組んでいる。

政府は、本年2月末に新国際資源戦略を提言し、3月に新国際資源戦略を公表する予定です。 陸域のエネルギー・鉱物資源に乏しい日本は需要量のほぼ全てを海外からの輸入に頼っており、資源国の政策情勢変化等を背景とした供給不安に直面するリスクを抱えており、エネルギー・鉱物資源の安定供給確保は、我が国が抱える大きな課題となっています。

レアアースは、日本の排他的経済水域にある南鳥島周辺の海底に大量のレアアース泥があると言われておりレアアース泥開発コンソーシアムが2014年11月に設立されており、現状、39の企業・機関(鹿島建設、IHI、三井住友建設など)が参画しています。私の場合は、レアアース、メタルハイドレードの海底資源でのボーリング掘削関連での株式投資で情報収集をしています。簡単にいうと、「海底資源開発=ボーリング掘削が必要」ですので、これに関連する銘柄に期待が出来るということです。

脱炭素化の再生可能エネルギーで洋上風力発電についても本日調べましたが、日本の場合、遠浅の海が乏しいため、浮体式に期待するところが大きいですが、欧州の風力発電のほとんどが着床式で、浮体式は技術的に確立されていないようですね。となると再生可能エネルギーで2050年に洋上風力発電が主力になるというのも不確実がかなり高い気がします。とすると、CO2を排出しない原子力に頼るところが大きくなるような気もします。原子力関連の周辺銘柄も今後期待が出来るのではないでしょうか。

ここしばらく脱炭素化で株式投資の方針をどうすべきか迷っていましたが、整理すべき情報がある程度明確になりましたので、今後は動きをウォッチしていく予定です。

脱株主第一主義と買収防衛策 - 「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」は見直しすべき時期では?

昨日、フリージアマクロスによる日邦産業に対するTOBについて記事を書いている時にふと気になりましたので、本日はこのタイトルで記事を書きます。ブログの記事を書いている時にそもそもの買収防衛策の導入の意義についてあらためて考えてみました。買収防衛策の導入目的は、「企業価値・株主共同の利益の確保」のワードがセットになります。買収防衛策を導入する全ての企業がこの文言を買収防衛策の導入理由や買収防衛策スキームにちりばめています。

では、この言葉はどこから来ているのかというと、これは2005年に法務省経済産業省が策定した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」から来ています。同指針での該当箇所は次のとおりです。

買収防衛策の導入、発動及び廃止は、企業価値、ひいては、株主共同の利益(以下、単に「株主共同の利益」という。)を確保し、又は向上させる目的をもって行うべきである。株式会社は、従業員、取引先など様々な利害関係人との関係を尊重しながら企業価値を高め、最終的には、株主共同の利益を実現することを目的としている。買収者が株式を買い集め、多数派株主として自己の利益のみを目的として濫用的な会社運営を行うことは、その株式会社の企業価値を損ない、株主共同の利益を害する。また、買収の態様によっては、株主が株式を売却することを事実上強要され、又は、真実の企業価値を反映しない廉価で株式を売却せざるをえない状況に置かれることとなり、株主に財産上の損害を生じさせることとなる。したがって、株式会社が、特定の株主による支配権の取得について制限を加えることにより、株主共同の利益を確保し、向上させることを内容とする買収防衛策を導入することは、株式会社の存立目的に照らし適法かつ合理的である。

株主共同の利益とは、「株主全体に共通する利益の総体」と指針に記載されています。この指針が策定された当時は「企業は株主のもの」という考えを日本は米国から輸入した頃の時期で、従い敵対的買収は株主の利益を確保するためのものとされています。

しかし、時代は変わり、米国のビジネスラウンドテーブルで脱株主第一主義が宣言されました。つまり企業の目的は株主の利益の最大化のみでなく、企業に関係する全てのステークホルダーの利益向上も目的とされました。株主利益の確保のために制度設計されたはずの買収防衛策について、株主である機関投資家の多くが反対しているということはもはや買収防衛策は、機関投資家にとっては株主の利益確保のための施策とは見なされなくなっていると言えるのです。

では、買収防衛策は何のためにあるのかというと、株主のためだけでなく、株主をはじめ企業の様々なステークホルダー(得意先、従業員、サプライヤー、地域社会など)の共同の利益の確保のためにあるのです。

指針のフレーズを使うと、「買収者が株式を買い集め、多数派株主として自己の利益のみを目的として濫用的な会社運営を行うことは、その株式会社の企業価値を損ない、『株主を含む株式会社の全ての共同の利益を害する』」ので、これを防ぐため買収防衛策があると今では言えるのです。このことを買収防衛策の導入・継続更新を考える企業は堂々と主張し、開示文や株主総会議案に盛り込んでよいのだと思います。ただ、買収防衛策の導入を株主総会の決議事項としている以上は、株主である機関投資家が反対する以上は導入が難しいという状況に変わりはないのが大きな問題です。

というようなことを考えると、買収防衛策の指針について制定から15年以上が経過し、世の中も大きく変化してきたことを考えると、この指針も根本的に見直しをすべき時期にきているような気がします。経済産業省法務省は何か考えたりしていないのでしょうか。

社外取締役と投資家との対話が必要ないと考える会社は29%

昨日、フォローアップ会議が開催されたことを記事に書きましたが、資料をあらためて読むと事務局資料の中に社外取締役と投資家との対話の記載がありました。これは今回の改訂コーポレートガバナンス・コードの論点の1つでもあります。

事務局資料を見ると、エンゲージメントへの社外取締役等の参加として、社外取締役と投資家との対話について個別に対話の機会を作っている企業は約5%に留まる」との記載がありました。圧倒的に少数ですね。一方、社外取締役と株主の個別の対話は行っていないし、行う必要性を感じない」が29%にのぼります。なかなか凄い数字ですね。必要性は感じて欲しいところです。

社外取締役がエンゲージメントをすると困るという会社は多いと思います。理由はシンプルで勝手にぺらぺらと余計なことを遠慮なく話をされることが困るということだと思います。一方、投資家は、まさしく本音を知りたいのであり、社外取締役が考える会社の課題などについての率直な意見を聞きたいというところだと思います。

会社は自社の課題や恥を秘密にしておきたいし、投資家はありのままの姿を知りたいというところです。私も投資する銘柄の社外取締役の忌憚のない意見は聞いてみたいところです。今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂においてどのような扱いになるのか関心の高い事項の1つです。

ところでいつも思うのですが、このフォローアップ会議で公表される資料に記載の情報は非常に参考になる有用な情報と思います。コーポレートガバナンスについて書かれてた本も書店に行くと沢山ありますが、一番良い勉強の教材は、このフォローアップ会議の資料と議事録であると思います。詳細を読む方はなかなかいないと思いますが、コーポレートガバナンスについて深く勉強したい方は是非お薦めです。私も本日は仕事の帰りに過去3回分の資料と議事録をコピーしましたので、あらためて明日から週末も使いじっくりと読んでいきたいと思っています。

株主総会の準備も近づいてきましたので、最近改正された会社法についても今後、ブログで記事にしていきたいと思います。

金融庁のフォローアップ会議が開催(2月15日) - 気候変動などの開示が今後注目

日経平均株価が昨日は3万円を超えました。3月期決算企業の通期決算の5月の発表内容如何によっては、3万2,000円もあるという報道もあります。大型株の株価上昇が日経平均株価の上昇を牽引しており、私の投資分野である中小型株は必ずしも大きな上昇をしているものばかりではないですが、業績の上方修正に伴い株価も上昇している銘柄もありますので(当然ですが)、しっかりと分析をして、果敢に買い増しをしたいと考えています。

昨日は東証より市場区分の説明会の案内がメールで配信されてきました。3月初旬に各区分の説明会をオンラインで行うようですね。時価総額が数千億円を超えている企業は大きな問題なくプライム企業に移行できますが、手続きを懈怠するとスタンダード市場になるので、一応気を付けて視聴してみたいと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、昨日、金融庁のフォローアップ会議が開催されました。先週金曜日に資料は公表されていたので、週末にざっと眺めてはいたのですが、今回は気候変動の開示等にも焦点が当てられているようですね。なお、直近では次のとおりブログで記事を書いております。

昨日のフォローアップ会議の資料は次のURLのとおりです。

「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第24回)議事次第:金融庁

ESG要素を含む中長期的な持続可能性(サステナビリティ)について議論がされたようです。資料の中で、これまでのフォローアップ会議でのサステナビリティーにかかる議論の意見が次のとおり掲載されていました。ポイントになる箇所を太字にしました。

  • 今後はサステナビリティについても、執行に任せるだけではなく、サステナビリティ委員会を設けるなど、取締役会で議論する機会を持ち、サステナビリティの観点から執行を監督していくことが必要となっている。
  • 多様な人材で意味のある議論が展開されるように、器としてのサステナビリティ委員会といったものをきちんと置くということも、この段階で検討すべき。海外では設置がある程度当たり前になりつつあり、ヨーロッパ型のような監督機関側に置くということにこだわる必要はないが、執行側にもサステナビリティ委員会というものをきちんと置いて、多様な人材で議論する。そのためのサステナビリティ委員会の話もきちんと今回議論の俎上に上げて、明記すべき
  • ステークホルダーガバナンスやサステナビリティが、不適切な経営を覆い隠し、必要な変化を阻害するための隠れ蓑になれば、経済はより広く損失を被る」とのCIIの見解は、その通りである
  •  昨今サステナビリティというと、どうしてもESGの話題、環境問題等にいきがちだが、それに企業が関わっていくためには、そもそも企業自体がサステナブルでないといけないため、企業のサステナビリティというものをしっかり考える必要がある。短期的には財務的な価値として生まれるが、昨今、特に開示の世界において、非財務情報の開示が重視されており、これは何のためにしているかというと、企業の将来の価値、将来的な企業自体のサステナビリティというところにつながってくると思う。したがって、こういう企業自体のサステナビリティを少しプッシュしてあげるような施策、あるいは検討というものがガバナンス・コードでは必要

2月11日の日経新聞では、サステナブルファイナンス有識者会議での意見として有報で気候変動の影響を開示すべきではという意見の記事がありました。気候変動による企業業績に与える影響や取組みを法定書類に開示せよという意見のようです。

企業サイドは有報への開示となると必ず躊躇するのが常ですが、開示情報の一本化という流れの中では有報が今後重視されるので、有報への開示が求められる気がします。プラス、有報の早期開示と英文開示の流れもあります。企業の実務担当者はこのあたりの情報収集には今後留意が必要になります。

ちなみに、今回の金融庁の事務局説明資料は非財務に関する色々な情報が盛り込まれ、短時間で気候変動関係の大きな動きを理解するにはとても良い教材になるので、マネジメント層の方、実務担当者ともに読まれると良いかと思います。

中長期株式投資:自動車のEVシフトによるインパクトはまだ当分先の話です

最近、自動車の電動化についてビジネス誌でも色々と報道されています。今の旬な話題であり、マスコミの金儲けのネタですので競って記事にしています(私などはビジネス誌のいかにも購買意欲をそそる見出しにつられて、電動化の記事の雑誌を購入してしまいました)。

日経新聞でも色々と記事が出ていますが、そのまま鵜呑みには出来ないと思っています。所詮は新聞記者は実務経験がなく、つまり自動車業界の幹部経験者でもなければ、開発経験もない素人です。そういう素人の記者が色々なニュースソースを集めて書いているのが記事ですので、日経新聞とは言え、有用な情報の1つとして参考にはしても、鵜呑みにしてはいけないというのは鉄則かと思います。

さて、私も自動車業界の実務経験はなく、たいして精通はしていないのですが、投資銘柄の中でEVとなると影響を受ける可能性のあるものが2つほどあり、素人ながらに情報収集をしています。その中で気づいた点を整理したいと思います。

現状、電動化の流れは、欧米はEVを方針としており、一方、日本は2035年までに新車販売を全て電動車にするが、この電動車にはEVのほかにHVも含めています。次に中国はどうかといいますと、2035年を目途に新車販売を全て環境対応にすることを検討中ですが、2035年時点での新車販売の半分はHVするという方針です。中国はEV化推進の方策をとってきましたが、その中国が完全EVにしないということは完全EVがいかに現実に困難であるかということの証左かと思います。

で、次に考えるべきは、電動化の考えの違いは「欧米vs日本 / 中国」という構図は分かったが、「自動車の販売台数はどうなのか?」かという点です。グローバルの自動車の販売台数の9割が欧米であれば、これは完全に日本・中国に勝ち目がないからです。

ここで見るべきデータは日本自動車工業会自工会)のデータです。自工会がグローバルの地域別での自動車の販売台数と生産台数を公表しています。2019年の販売台数及び生産台数は次のとおりです。

販売台数:合計9,130万台

  • 中国 :2,577
  • 米国 :1,748
  • 日本 :  520
  • ドイツ:  402
  • インド:  382
  • ブラジル:279、フランス:269、イギリス:268

生産台数:合計9,179万台

  • 中国 :2,572
  • 米国 :1,088
  • 日本 :  968
  • ドイツ:  466
  • インド:  452
  • ブラジル:294、フランス:220

これを見ると、中国の台数がダントツのトップです。そして中国は当分の間はHVも製造することを考えると、EVが自動車販売台数全体に占めるシェアは、将来も決して高くないという予想が出来ます。そもそもとしてEVは値段が高く、インドはじめ東南アジアの新興国の中間所得層が購入できるかという問題があるほか、現実では技術面の課題も多いと言われています。

先日、トヨタ自動車の社長が昨年12月18日に自工会会長として、全面EV移行に懸念を示す意見の動画を見ました。政府やマスコミの報道のレベルの低さを指摘するとともに、HVの課題を分かりやすく説明しています。分かりやすく、またとても説得力のある意見かと思います。

欧米がEV化に取り組んでいるのは、HVでは日本に完全に負けているのが理由でもあります。自動車産業においてアジアのメーカーに負けることが屈辱ということが背景にあります。トヨタ自動車には、HV車を中心に世界を席巻して欲しいところです。

というようなことをつらつら考えると、EVで自動車関連業界には今後変化が起こるでしょうが、それはまだ当分先の話と言える気がします。勿論、この先20年後も銘柄を保有するのであれば、自動車関連銘柄の投資は避けた方が懸命かも知れませんが(HVにより、内燃機関がモーターに置き換わるため、部品点数が確実に減るため)、少なくともこの先10年で考えた場合、EVは何ら恐れるに足らずと言えるのだと思います。

そもそも米国の大統領、日本の首相ともにお爺ちゃんですので、任期を全うできるか疑問であり、仮に任期を全うしても再選はせず、交代するので、後任者次第で脱炭素化の政策が180度変わる可能性もありますので、20年先を見越して、EV関連銘柄を探して先に投資をするということの方がリスクが高いような気もします。

極めてシンプルな開示の戦略方針 - ジャパンディスプレイ(6740)の決算説明会資料より

テレビ東京のビジネスオンデマンドを有料視聴しており(月額500円)、昨夜のワールドビジネスサテライトジャパンディスプレイ(5740)の第3四半期決算説明会資料の紹介がありました。ジャパンディスプレイとは有名な中小型液晶パネル大手企業です。

この会社のホームページにも掲載されているのですが、2020年度第3四半期決算説明資料にある「戦略方向性」について、26ページの資料があるのですが、とても面白いことにA4枚のパワーポイント資料に1つの言葉しか書かれていないのです。決算説明会資料は次のURLのとおりですが、資料に書かれている言葉は次のとおりです。

https://www.j-display.com/ir/library/pdf/Presentation-Slide_20210210_01.pdf

  • GAME CHANGE PersonalTech企業として 新たなJDIへ
  • 当社の現状
  • 世界トップクラスの技術
  • 世界トップクラスの人材
  • 世界トップクラスの顧客信頼
  • にもかかわらず、長年の赤字体質
  • この現状を打破するには何が必要か
  • 1. 原点回帰 社会価値・顧客価値の創出は当社の存在意義
  • 2 唯一無二
  • 3 抜本改革 
  • 徹底的なコストコトロール
  • 身の丈経営
  • 「3倍」のスピード
  • 販売価格の適正化と製品ミックスの改善
  • これらの変革により、2021年度第4四半期のEBITDA黒字転換を図る
  • 4  事業転換
  • 当社が長年培ってきた世界トップクラスの技術を新事業の基盤に
  • ディスプレイを超え
  • 既存の事業モデルを超え
  • 技術の進歩は人間に寄り添うものであるべき
  • 人々の生き方をより豊かにするPersonalTech企業へ
  • 今までにない発想と、限りない技術の追求をもって、人々が躍動する世界を創造し続ける
  • 独自のキーデバイスを軸に、サービス、ソリューション、プラットフォーム等を2021年中に複数事業化小規模でスタートし、成功に応じて迅速に事業拡大
  • ビッグデータを用いた事業展開も視野に
  • 唯一無二の技術 唯一無二の顧客価値 唯一無二のPersonalTech企業

上の言葉が1枚に1つずつ資料のど真ん中に書かれているだけです。以前からこうなのか知りませんが、なかなか面白い説明会資料です。はじめてみました。

将来の事業戦略は投資家にとって投資のモノサシとして重要ですが、資料に細かいことを盛り込みすぎている資料も良く見かけます。それよりも、ずばっとシンプルに記載しているもよいように感じています。ジャパンディスプレスも資料はシンプルですが、説明会で社長が自分の言葉で語るのでしょう。勿論、この資料に書かれている言葉で説明が終わるとなると、さすがにこれではあまりに抽象的でまずいとは思いますが。

そもそも5年先の事業戦略など精緻に描いても、5年後のことなど誰も予想できないのであって、そんな先のことを鉛筆をなめて詳細に書く意味は正直乏しいと思います。私は仕事上、欧米の企業数社の四半期決算を定期的に分析していますが、欧米企業の将来見通しの記載は非常にシンプルでです。骨太の戦略の方向性がずばり書いてあるだけで、将来見通しに関する細かい具体的な数値はざっくりと書いてあるか、もしくは書いていないケースが多いような印象を持ちます。

サラリーマン社長の場合には任期が決まっているので、具体的な数値なり細かいことを開示したいインセンティブがあることは良く分かります。しかし、一方、任期のないオーナー社長の企業の場合には、社長は10年、15年と長期で事業戦略に責任を持つわけなので、あまりに詳細なことは語らずに定性的で結構ですので、大きな事業の方向性を語ることで足るように感じます。中計では大きな方向性を描き、それを説明会で社長の言葉で語ることで、投資家の心に響くかどうかがポイントだと思います。

ということで、このジャパンディスプレイの開示を1つの参考にしてみてはいかがでしょうか。

中長期株式投資の銘柄分析:ベントナイト大手のクニミネ工業(5388)の2020年度業績の上方修正の可能性

昨日、トヨタ自動車が10-12月期決算を公表しました。純利益が1.9兆円で業績予想を上方修正しました。日本車5社が上方修正するなど自動車の回復が見られます。

さて、これまで何度かクニミネ工業(5388)について紹介しましたが、10-12月期の決算を踏まえての今後の見通しについて簡単に説明したいと思います。なお、直近での同社に関する記事は次のとおりです。

同社の2020年度の各四半期の売上高及び営業利益は次のとおりです。単位は百万円でパーセントは前年同期比を示します。

  • Q1 売上高 3,122(▲11.6%) 営業利益 304(▲ 4.4%)
  • Q2 売上高 3,164(▲13.4%) 営業利益 409(+15.9%)
  • Q3 売上高 4,308(+ 3.8%) 営業利益 891(+35.4%)

一方、2020年度の通期予想は、売上高14,419百万円、営業利益2,176百万円となっています。この通期予想から、4月から12月までの9ヵ月間の実績を引くと1-3月期であるQ4の予想値になりますが、売上高が3,825百万円(▲6.8%)、営業利益が572百万円(▲5.1%)となります。同社は過去業績を見るとQ4は営業利益は低下する傾向にありますが、このQ4の572百万円はQ3の891百万円に比べて大きな減益の数値となります。同社の主力事業セグメントはベントナイトであり、鋳物関係、土木建築関係ですが、自動メーカーの業績上方修正に鑑みるとQ4の業績は大きく増えるように予想します。

現在のクニミネ工業のPERは2020年度の通期予想をベースにすると約13倍で、過去10年の同社のPERが6倍~9倍程度であることを考えると少し高いですが(市場全体のPERと比較すると13倍はかなり低いですが)、2020年度の通期予想が上方したと仮定すると高い水準ではないと思います。同社の同社の今後の事業機会、財務の健全性を考えると買い推奨と思います。

バーチャル株主総会が可能になります - 産業競争力強化法の改正が閣議決定

2月に入り本年の定時株主総会の準備を開始する企業もそろそも増えてくる時期かと思います。私は20代の頃に某化学素材メーカーの法務部で商事法務を担当しており、商事法務が株主総会の事務局をしていたことから(20年前の話になりますが)、2月に入ると株主総会の大日程作成から始まり、当時の上司と6月下旬頃まで毎日遅くまで西新宿にある某超高層ビルの49階のオフィスで仕事をして、帰りにJR新宿駅の近くで二人で軽く酒を飲んで帰った日々が今でも総会シーズンになると思い出されます。

2月5日に産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案が閣議決定されました。本法律案の中に産業競争力強化法があり、上場会社のバーチャルオンリー株主総会の開催が特例的に可能となります。

つまり、上場企業は産業競争力を強化することに資する場合、経産省令・法務省令で定める要件に該当すれば、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けて、場所の定めのない株主総会とすることが出来る旨を定款で定めることができるとされました。なお、今年から2年間は特例で定款を変更せずともバーチャル株主総会が可能になるようです。

また、経済産業省は今回、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」を本年2月3日に公表しました。次のとおりです。

「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」を策定しました (METI/経済産業省)

私は個人投資家としての立場では、バーチャル株主総会の開催には大賛成ですが、事業会社の方にとっては大変な作業かと思います。まだこの実施ガイドは読めておりませんので、週末に読みたいと思います。この手の法改正や実施事例集はアクティビストや知識の豊富な個人投資家は確実に読み込んでいるので、企業の株主総会の実務担当者は内容を一読される必要があるかと思います。

アクティビストのエフィシモ・キャピタルがサンケン電気(6707)にTOBを実施

昨日は日経平均株価終値が前日比+609円の29,388円となりました。1990年8月以来となる2,9000円を超え、企業業績の改善などが背景ということかと思います。

さて、昨日、アクティビストであるシンガポール投資ファンドであるエフィシモ・キャピタルがサンケン電気(6707)にTOBをすることを公表しました。プレスを見ますと、エフィシモは既に10%のサンケン電気株を保有しているところ、これにプラス20%の取得(TOB後のエフィシモの保有割合は30%)を目指してのTOBということのようです。

サンケン電気の株主構成について、2019年度の有価証券報告書を見ると、外国法人が38%、金融機関35%、個人が19%となっています。TOB価格は1株について5,205円です。サンケン電気の株価の終値は4,445円です。20%の取得ですので、株主構成を考えると比較的容易に成立しそうです。算定の経緯について、プレスでは次のとおり記載されています。

公開買付者は、本公開買付価格を決定するために、本公開買付けを実施することについての公表日である本日の前営業日である 2021年2月5日の東京証券取引所市場第一部における対象者普通株式終値(4,525 円)、同日までの過去1か月間(2021 年1月6日から 2021 年2月5日まで)の終値の単純平均値(4,838 円)、同過去3か月間(2020 年 11 月6日から 2021 年2月5日まで)の終値の単純平均値(4,309円)、同過去6か月間(2020 年8月6日から 2021 年2月5日まで)の終値の単純平均値(3,422 円)を参考にいたしました。そして、公開買付者は、本公開買付けに対してより多数の応募がなされるように、公表日の前営業日である 2021 年2月5日の東京証券取引所市場第一部における対象者普通株式終値(4,525 円)を基準とした上で、一定のプレミアムを付すこととしました。プレミアムの算出にあたっては、2018 年1月1日から 2020 年 12 月 31 日までに開始された発行者以外の者による株券等の公開買付けで買付予定の株券等の数に上限が付された事例(但し、公表日の前営業日の終値に対してディスカウントが付されている事例を除きます。)の公開買付価格に付与されたプレミアムの平均値(公表日の前営業日の終値、同日までの過去1か月間の終値の単純平均値、同過去3か月間の終値の単純平均値、同過去6か月間の終値の単純平均値に対して、それぞれ、約 31%、約 32%、約 33%、約 30%のプレミアム)を参照しつつ、公開買付者が対象者に対してデュー・ディリジェンスを実施しておらず、対象者の非公開情報を有していないこと、公開買付者が中長期的な企業価値の向上に伴う対象者普通株式の株価の値上がり益や配当を享受することが可能な範囲とすることをも総合的に考慮した上で、本公開買付けの買付予定数まで応募が期待できるプレミアム水準について検討した結果、公表日の前営業日の終値に 15%程度のプレミアムを付すことが適切であると判断いたしました。上記の検討結果を踏まえ、公開買付者は、本公開買付価格を1株あたり 5,205 円と決定いたしました。

最近、投資ファンドによるTOBが活発化しています。個人投資家としては、村上ファンドはじめアクティビストの保有銘柄を買うということは、TOB公表で株価が一気に上昇するので、てっとり早くキャピタルゲインを得ることができますのでいわゆるコバンザメ投資も有用かと思います。

カゴメが買収防衛策の廃止を公表 - 有事導入型の買収防衛策の法的有効性は?

先日、ライオンが本年更新期限を迎える事前警告型の買収防衛策を廃止することを公表しましたが、今度は、2月3日にカゴメが事前警告型の買収防衛策を廃止することを公表しました(私の場合、M&Aニュースでプレスが自動配信されてきます)。カゴメの2月3日付の廃止のプレスの一部を紹介すると次のとおりです。

当社は、当社の企業価値・株主共同の利益を確保し、向上させることを目的として、2018年3月 28 日開催の定時株主総会において、本対応策の更新について株主の皆様のご承認を頂き現在に至っています。本対応策の有効期間は、2021年3月 26 日開催予定の当社第 77 回定時株主総会終結の時までとなっておりますが、それ以降は、本対応策を継続しないことを決定いたしました。これは、買収防衛策を巡る動向や、株主の皆様のご意見などを踏まえ、慎重に検討を重ねた結果、当社の企業価値・株主共同の利益の確保・向上にあたって本対応策の必要性が低下したと判断したことによります。なお、当社株式の大量取得行為を行おうとする者に対しては、当社の企業価値・株主共同の利益を確保・向上する観点から、当該大量取得の是非を適切に判断するために必要かつ十分な情報の提供を求めます。当社は、それに対する当社取締役会の意見等を開示し、株主の皆様が検討するために必要な期間および情報の確保に努めます。また、金融商品取引法会社法その他関連法令に基づき、適切な措置を講じてまいります。当社は、本対応策の廃止後も、中長期的な企業価値の向上に全力をあげてまいります。

買収防衛策を廃止した日本製鉄、東京製綱、ライオンをはじめ多くの企業が太字のような表現をしているところです。これはブログでも何度か書きましたが、敵対的買収者が出現して取締役会決議で有事導入型の買収防衛策を発動した場合でも、法務省経産省の買収防衛ガイドラインで求める「事前開示の原則」を充足することを主張するためにこの文言を入れているのです(芝浦機械が村上ファンドとの有事導入型買収防衛策の導入・発動を巡る攻防で主張したとおりです)。勿論、有事導入型の買収防衛策の法的有効性を示す判例が出たわけではないのですが、事前警告型の買収防衛策の法的有効性も判例が出たわけでないことを考えると、両者とも、つきつめると法的有効性は必ずしもはっきりしていない買収防衛策という点では共通とも言えます。

ところでカゴメは何故廃止するのでしょうか?同社の本日2月7日時点のホームページに掲載の株主構成を見ると、金融機関16.8%、その他法人11.2%、外国法人等7.3%、個人63.6%となっています。買収防衛策に反対するのは、国内機関投資家と外国人機関投資家です。仮に金融機関16.8%の全てが国内機関投資家であると仮定しても反対するのは、24%ですので議案の可決には全く問題ないはずです

個人が63.6%もおり、個人は議決権の行使率が低いのが少し悩ましいのですが、インターネット行使で最近は行使率もだいぶ上がっており、また行使すると基本は議案賛成ですので、いずれにせよ可決の可能性は極めて高いのです。しかし、そういう中で廃止したのは、保有することでのステークホルダーからのレピュテーションリスクと有事導入型の買収防衛策の有効性を期待しているのだと思います。

今年の株主総会で買収防衛策の更新期限を迎える企業の数は分かりませんが、廃止企業は増えるのでしょう。とすると保有する企業に対する風当たりを益々強くなりますので保有する理由のより具体的な理由の開示などが求められるようになるかも知れません。

さて、話は変わりますが、最近機関投資家と会話をするとESG投資関係では今後は人権に関する関心がグローバルでは高まってきているようです。以前にブログで有報で人権リスクを開示する企業が増えているという新聞記事を取り上げ、その必要性に疑問を感じる旨を記事に書きましたが、どうも私が不勉強でその認識には誤りがあるようです。人権は、欧州と日本とで意識が大きく異なるところですが、今後は日本企業も意識していく必要があると思いますので、来週以降でブログでも少し触れたいと思います。

カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 - 原子力産業の扱い

本日は、この1週間の保有銘柄の株価値動き、決算発表分析をしています。日経平均株価の昨日終値は前日比+437円の28,779円でしたが、各社の決算短信を見ていると2020年度通期決算の業績予想の上方修正をする会社が多いですね。なお、東証の発表した1月の東証1部企業のPERは22.8倍です。これは2013年10月~2014年3月の期間のPERと同じ程度です。当時は日経平均株価が1万4000円~1万5,000円程度でした。

今回、業績の上方修正予想をしていない銘柄もありますが、この銘柄の場合、通期の業績予想からQ1~Q3の実績値をひいてQ4数値を予測すると良いと思います。この数値を見ると通期予想を低く予想しており、実績はこれを上回るか否かが予想できると思います。アナリストがカバレッジしていない中小型銘柄の場合、単純ですが、こういう分析を丹念にしていない個人投資家はかなり多いので、今後の株価の動きのある程度の予想が出来るかと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、本日は昨年に公表されたグリーン成長戦略の中で原子力産業に関する記載を紹介します。

(4)原子力産業
2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、原子力を含めたあらゆる選択肢を追求することが重要であり、軽水炉の更なる安全性向上はもちろん、それへの貢献も見据えた革新的技術の原子力イノベーションに向けた研究開発も進めていく必要がある。原子力は安定的にカーボンフリーの電力を供給することが可能な上、更なるイノベーションによって、安全性・信頼性・効率性の一層の向上に加えて、再生可能エネルギーとの共存、カーボンフリーな水素製造や熱利用といった多様な社会的要請に応えることが可能である。現行軽水炉では、中露が政府ファイナンスをバックに市場を席巻しており、米英加を始めとした先進国では小型炉、革新炉に活路を見出し、2030年前後の商用化を目指して大規模政府予算を投入して R&D を加速している。目標として、①2030 年までに国際連携による小型モジュール炉技術の実証、②2030年までに高温ガス炉における水素製造に係る要素技術確立、③ITER 計画等の国際連携を通じた核融合 R&D の着実な推進を目指す。

小型モジュール炉(SMR)の取組みは次のとおりとなっております。

2020年代末の運転開始を目指す米英加等の海外の実証プロジェクトと連携した日本企業の取組を、安全性・経済性・サプライチェーン構築・規制対応等を念頭に置きつつ、積極的に支援する。海外で先行する規制策定を踏まえ、技術開発・実証に参画する。SMR で採用されている革新的技術の技術開発課題の克服について協力を行うとともに、優れた設計・製造技術をもって脱炭素技術である SMR の実現に貢献する。これらの取組を通じて、SMR の設計・製造技術をより高めるとともに、主要サプライヤーとしての地位を獲得し、SMR のグローバル展開に合わせた量産体制を確立していく

高温ガス炉については次の取組みとされています。

世界最高温度を記録した試験炉 HTTR を活用し、安全性の国際実証に加え、2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な技術開発を支援していく。並行して、IS 法やメタン熱分解法等を含む超高温熱を活用したカーボンフリー水素製造方法についても開発を支援する。開発支援に当たっては、安全性・経済性・サプライチェーン構築・規制対応等を念頭に置きながら、技術開発・実証に参画し、海外の先行プロジェクトの状況を踏まえ、海外共同プロジェクトも組成していく。また、試験炉 HTTR の建設・運転・再稼働を通じて、規格基準策定の点でも海外に先行している状況を踏まえ、日本の規格基準普及に向けた他国関連機関との協力を推進する。

核融合についての取組みは次のとおりです。

ITER 計画については、2025年運転開始、2035 年の核融合運転開始を目指している。BA 活動においても 2021 年春の JT-60SA の運転開始やその他の研究開発を核融合原型炉に向けて着実に実施する。これらを通じ、主要機器の工学的実証とエネルギー出力状態の長時間維持技術を確立し、核融合エネルギーの実現を目指す。合わせて日本での核融合原型炉建設計画に向け各種設計や技術開発を行い、21世紀中葉までに、核融合エネルギー実用化の目処を得るべく研究開発を推進。また、核融合エネルギーへの興味喚起と相互理解を目指すアウトリーチ活動等を通じて、核融合の裾野の拡大を図ることにより、長期的な観点でより多くの企業に参加を促すとともに、海外プロジェクトに国内のベンチャー企業等が参画することを目指す。更に、発電にとどまらず、核融合炉の高温を活用したカーボンフリーな水素製造プロセスなど、カーボンニュートラルに貢献する基盤技術の研究開発を推進する。

原子力産業に私は全くの素人ですが、この内容を読む限り、再生可能エネルギーの中でも原子力の活用を政府は考えていると言えるでしょう。風力発電や蓄電池産業が新聞報道では注目されますが、ニッチな原子力関連銘柄を長期で保有することの1つの判断材料になるかと思います。

日本製鉄による東京製綱へのTOB - 敵対的買収に発展。これを契機に今後は確実に事業会社による敵対的買収は増えるでしょう

本日、東京製綱が日本製鉄によるTOBに反対する旨を公表しました。反対の意見の理由について、プレスリリリース(全部で16ページ)に6つほどあげられています。

今週も仕事が多忙で、じっくり読む余裕はないので、週末にでも詳細を読んでみたいと思いますが、ぱっと見て目についたのは、プレスの冒頭に今回の反対意見は取締役全員の一致と付記されている点です。長年トップに居座り続ける日本製鉄出身の会長に反対する人も社内ではいるのではと思いましたが、形式的には取締役会の満場一致で反対ということです。

この東京製綱のお知らせに対して、即座に日本製鉄はコメントをホームページに公表しました。恐らく反対することを予想して準備していたのだと思いますが、一部抜粋すると次のようなことが書かれています。

本公開買付けは、対象者の自律的なガバナンス体制・経営体制の再構築を促し、経営改善による企業価値の回復・向上を支援することを目的としたものです。対象者の取締役会の皆様にそうした本公開買付けの目的をご理解いただけず、対象者の取締役会として、現状のガバナンス体制・経営体制に問題がないとのご判断の下、本公開買付けに対して反対の意見を表明されたことは、当社として残念です。

特に、対象者が、当社が対象者の業績不振やガバナンス体制の機能不全等の経営上の問題に対して有効な対応策を講じられていない状況について問題提起を行っている中で、まずもって当社が対象者の一般株主の皆様と利益が相反する立場にあるとの説明をされていることには、違和感を禁じ得ません。当社としては、これまで母材供給者かつ共同開発のパートナーとして、対象者の顧客を含めた製品共同開発等を通じて「線材と加工技術との掛け合わせ」を深化させることで、対象者の競争力を強化することに貢献してきたと考えており、こうした取組みをさらに強化し、業績悪化によって毀損された対象者の企業価値を回復・向上させていくことが、対象者の株主や各ステークホルダーの共同の利益に適うものと考えております。

また、対象者は、業績悪化に陥っている中で、社外取締役による対象者の経営陣に対する評価や、それに基づく指名・再任のプロセスが適切に機能していないといったガバナンス体制の機能不全の問題に関して、2019年5月に東京証券取引所が発刊したコーポレート・ガバナンス白書2019の統計データに基づき、対象者の社外取締役が取締役9名中2名にとどまる事実のみで直ちに問題があるといえるものではない等としていますが、当社が実質的なガバナンスの機能不全について問題提起を行っている中で、こうした形式的な点のみを指摘する姿勢も、対象者のガバナンス体制が適切な機能を失ってしまっていることの証左の一つと捉えております

さて、今後ですが、どうなるのでしょうか。東京製綱は、日本製鉄によるTOBには応じないで下さいとだけ言ってみたところでTOB価格は1,500円で市場価格を大きく上回ること、また、TOBが10%程度の取得であることを考えると、このまま放置していればあっさりとTOBは成立するのは必至です。

あとは買収防衛策を発動して(東京製綱は「ステルス型の買収防衛策」があるように想像します)日本製鉄の議決権比率を希釈化することも一応考えられます。もっとも、希釈化されても、巨大企業である日本製鉄はまたTOBをすればよいのですが。

ひと昔前であれば、日本を代表する企業である日本製鉄が敵対的買収をするとなると世間で大きな批判を浴びたと思います。しかし、いまやそういう時代ではなくなっています。日本製鉄が東京製綱に敵対的TOBをしたということは、敵対的TOBが完全に解禁されたと言えます。「あの日本製鉄もやっているのだから」ということで、確実に今後、敵対的TOBが増えます。

東京製綱は本気でTOBを止めたいのであれば、TOB価格1,500円の応募を株主に踏みとどまらせる魅力的な施策を提案する必要があります。さて、東京製綱は何らかの施策を打つのでしょうか。