中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

中長期株式投資:自動車のEVシフトによるインパクトはまだ当分先の話です

最近、自動車の電動化についてビジネス誌でも色々と報道されています。今の旬な話題であり、マスコミの金儲けのネタですので競って記事にしています(私などはビジネス誌のいかにも購買意欲をそそる見出しにつられて、電動化の記事の雑誌を購入してしまいました)。

日経新聞でも色々と記事が出ていますが、そのまま鵜呑みには出来ないと思っています。所詮は新聞記者は実務経験がなく、つまり自動車業界の幹部経験者でもなければ、開発経験もない素人です。そういう素人の記者が色々なニュースソースを集めて書いているのが記事ですので、日経新聞とは言え、有用な情報の1つとして参考にはしても、鵜呑みにしてはいけないというのは鉄則かと思います。

さて、私も自動車業界の実務経験はなく、たいして精通はしていないのですが、投資銘柄の中でEVとなると影響を受ける可能性のあるものが2つほどあり、素人ながらに情報収集をしています。その中で気づいた点を整理したいと思います。

現状、電動化の流れは、欧米はEVを方針としており、一方、日本は2035年までに新車販売を全て電動車にするが、この電動車にはEVのほかにHVも含めています。次に中国はどうかといいますと、2035年を目途に新車販売を全て環境対応にすることを検討中ですが、2035年時点での新車販売の半分はHVするという方針です。中国はEV化推進の方策をとってきましたが、その中国が完全EVにしないということは完全EVがいかに現実に困難であるかということの証左かと思います。

で、次に考えるべきは、電動化の考えの違いは「欧米vs日本 / 中国」という構図は分かったが、「自動車の販売台数はどうなのか?」かという点です。グローバルの自動車の販売台数の9割が欧米であれば、これは完全に日本・中国に勝ち目がないからです。

ここで見るべきデータは日本自動車工業会自工会)のデータです。自工会がグローバルの地域別での自動車の販売台数と生産台数を公表しています。2019年の販売台数及び生産台数は次のとおりです。

販売台数:合計9,130万台

  • 中国 :2,577
  • 米国 :1,748
  • 日本 :  520
  • ドイツ:  402
  • インド:  382
  • ブラジル:279、フランス:269、イギリス:268

生産台数:合計9,179万台

  • 中国 :2,572
  • 米国 :1,088
  • 日本 :  968
  • ドイツ:  466
  • インド:  452
  • ブラジル:294、フランス:220

これを見ると、中国の台数がダントツのトップです。そして中国は当分の間はHVも製造することを考えると、EVが自動車販売台数全体に占めるシェアは、将来も決して高くないという予想が出来ます。そもそもとしてEVは値段が高く、インドはじめ東南アジアの新興国の中間所得層が購入できるかという問題があるほか、現実では技術面の課題も多いと言われています。

先日、トヨタ自動車の社長が昨年12月18日に自工会会長として、全面EV移行に懸念を示す意見の動画を見ました。政府やマスコミの報道のレベルの低さを指摘するとともに、HVの課題を分かりやすく説明しています。分かりやすく、またとても説得力のある意見かと思います。

欧米がEV化に取り組んでいるのは、HVでは日本に完全に負けているのが理由でもあります。自動車産業においてアジアのメーカーに負けることが屈辱ということが背景にあります。トヨタ自動車には、HV車を中心に世界を席巻して欲しいところです。

というようなことをつらつら考えると、EVで自動車関連業界には今後変化が起こるでしょうが、それはまだ当分先の話と言える気がします。勿論、この先20年後も銘柄を保有するのであれば、自動車関連銘柄の投資は避けた方が懸命かも知れませんが(HVにより、内燃機関がモーターに置き換わるため、部品点数が確実に減るため)、少なくともこの先10年で考えた場合、EVは何ら恐れるに足らずと言えるのだと思います。

そもそも米国の大統領、日本の首相ともにお爺ちゃんですので、任期を全うできるか疑問であり、仮に任期を全うしても再選はせず、交代するので、後任者次第で脱炭素化の政策が180度変わる可能性もありますので、20年先を見越して、EV関連銘柄を探して先に投資をするということの方がリスクが高いような気もします。