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日本製鉄による東京製綱へのTOB - 敵対的買収に発展。これを契機に今後は確実に事業会社による敵対的買収は増えるでしょう

本日、東京製綱が日本製鉄によるTOBに反対する旨を公表しました。反対の意見の理由について、プレスリリリース(全部で16ページ)に6つほどあげられています。

今週も仕事が多忙で、じっくり読む余裕はないので、週末にでも詳細を読んでみたいと思いますが、ぱっと見て目についたのは、プレスの冒頭に今回の反対意見は取締役全員の一致と付記されている点です。長年トップに居座り続ける日本製鉄出身の会長に反対する人も社内ではいるのではと思いましたが、形式的には取締役会の満場一致で反対ということです。

この東京製綱のお知らせに対して、即座に日本製鉄はコメントをホームページに公表しました。恐らく反対することを予想して準備していたのだと思いますが、一部抜粋すると次のようなことが書かれています。

本公開買付けは、対象者の自律的なガバナンス体制・経営体制の再構築を促し、経営改善による企業価値の回復・向上を支援することを目的としたものです。対象者の取締役会の皆様にそうした本公開買付けの目的をご理解いただけず、対象者の取締役会として、現状のガバナンス体制・経営体制に問題がないとのご判断の下、本公開買付けに対して反対の意見を表明されたことは、当社として残念です。

特に、対象者が、当社が対象者の業績不振やガバナンス体制の機能不全等の経営上の問題に対して有効な対応策を講じられていない状況について問題提起を行っている中で、まずもって当社が対象者の一般株主の皆様と利益が相反する立場にあるとの説明をされていることには、違和感を禁じ得ません。当社としては、これまで母材供給者かつ共同開発のパートナーとして、対象者の顧客を含めた製品共同開発等を通じて「線材と加工技術との掛け合わせ」を深化させることで、対象者の競争力を強化することに貢献してきたと考えており、こうした取組みをさらに強化し、業績悪化によって毀損された対象者の企業価値を回復・向上させていくことが、対象者の株主や各ステークホルダーの共同の利益に適うものと考えております。

また、対象者は、業績悪化に陥っている中で、社外取締役による対象者の経営陣に対する評価や、それに基づく指名・再任のプロセスが適切に機能していないといったガバナンス体制の機能不全の問題に関して、2019年5月に東京証券取引所が発刊したコーポレート・ガバナンス白書2019の統計データに基づき、対象者の社外取締役が取締役9名中2名にとどまる事実のみで直ちに問題があるといえるものではない等としていますが、当社が実質的なガバナンスの機能不全について問題提起を行っている中で、こうした形式的な点のみを指摘する姿勢も、対象者のガバナンス体制が適切な機能を失ってしまっていることの証左の一つと捉えております

さて、今後ですが、どうなるのでしょうか。東京製綱は、日本製鉄によるTOBには応じないで下さいとだけ言ってみたところでTOB価格は1,500円で市場価格を大きく上回ること、また、TOBが10%程度の取得であることを考えると、このまま放置していればあっさりとTOBは成立するのは必至です。

あとは買収防衛策を発動して(東京製綱は「ステルス型の買収防衛策」があるように想像します)日本製鉄の議決権比率を希釈化することも一応考えられます。もっとも、希釈化されても、巨大企業である日本製鉄はまたTOBをすればよいのですが。

ひと昔前であれば、日本を代表する企業である日本製鉄が敵対的買収をするとなると世間で大きな批判を浴びたと思います。しかし、いまやそういう時代ではなくなっています。日本製鉄が東京製綱に敵対的TOBをしたということは、敵対的TOBが完全に解禁されたと言えます。「あの日本製鉄もやっているのだから」ということで、確実に今後、敵対的TOBが増えます。

東京製綱は本気でTOBを止めたいのであれば、TOB価格1,500円の応募を株主に踏みとどまらせる魅力的な施策を提案する必要があります。さて、東京製綱は何らかの施策を打つのでしょうか。