中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

脱株主第一主義と買収防衛策 - 「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」は見直しすべき時期では?

昨日、フリージアマクロスによる日邦産業に対するTOBについて記事を書いている時にふと気になりましたので、本日はこのタイトルで記事を書きます。ブログの記事を書いている時にそもそもの買収防衛策の導入の意義についてあらためて考えてみました。買収防衛策の導入目的は、「企業価値・株主共同の利益の確保」のワードがセットになります。買収防衛策を導入する全ての企業がこの文言を買収防衛策の導入理由や買収防衛策スキームにちりばめています。

では、この言葉はどこから来ているのかというと、これは2005年に法務省経済産業省が策定した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」から来ています。同指針での該当箇所は次のとおりです。

買収防衛策の導入、発動及び廃止は、企業価値、ひいては、株主共同の利益(以下、単に「株主共同の利益」という。)を確保し、又は向上させる目的をもって行うべきである。株式会社は、従業員、取引先など様々な利害関係人との関係を尊重しながら企業価値を高め、最終的には、株主共同の利益を実現することを目的としている。買収者が株式を買い集め、多数派株主として自己の利益のみを目的として濫用的な会社運営を行うことは、その株式会社の企業価値を損ない、株主共同の利益を害する。また、買収の態様によっては、株主が株式を売却することを事実上強要され、又は、真実の企業価値を反映しない廉価で株式を売却せざるをえない状況に置かれることとなり、株主に財産上の損害を生じさせることとなる。したがって、株式会社が、特定の株主による支配権の取得について制限を加えることにより、株主共同の利益を確保し、向上させることを内容とする買収防衛策を導入することは、株式会社の存立目的に照らし適法かつ合理的である。

株主共同の利益とは、「株主全体に共通する利益の総体」と指針に記載されています。この指針が策定された当時は「企業は株主のもの」という考えを日本は米国から輸入した頃の時期で、従い敵対的買収は株主の利益を確保するためのものとされています。

しかし、時代は変わり、米国のビジネスラウンドテーブルで脱株主第一主義が宣言されました。つまり企業の目的は株主の利益の最大化のみでなく、企業に関係する全てのステークホルダーの利益向上も目的とされました。株主利益の確保のために制度設計されたはずの買収防衛策について、株主である機関投資家の多くが反対しているということはもはや買収防衛策は、機関投資家にとっては株主の利益確保のための施策とは見なされなくなっていると言えるのです。

では、買収防衛策は何のためにあるのかというと、株主のためだけでなく、株主をはじめ企業の様々なステークホルダー(得意先、従業員、サプライヤー、地域社会など)の共同の利益の確保のためにあるのです。

指針のフレーズを使うと、「買収者が株式を買い集め、多数派株主として自己の利益のみを目的として濫用的な会社運営を行うことは、その株式会社の企業価値を損ない、『株主を含む株式会社の全ての共同の利益を害する』」ので、これを防ぐため買収防衛策があると今では言えるのです。このことを買収防衛策の導入・継続更新を考える企業は堂々と主張し、開示文や株主総会議案に盛り込んでよいのだと思います。ただ、買収防衛策の導入を株主総会の決議事項としている以上は、株主である機関投資家が反対する以上は導入が難しいという状況に変わりはないのが大きな問題です。

というようなことを考えると、買収防衛策の指針について制定から15年以上が経過し、世の中も大きく変化してきたことを考えると、この指針も根本的に見直しをすべき時期にきているような気がします。経済産業省法務省は何か考えたりしていないのでしょうか。