中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・コンサルティング / 長期での中小型株の割安株投資情報

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買収防衛策の導入・継続に向けて ⑤ - 国内機関投資家が賛成するためのポイント(続き)

前回は第4回目ということで国内機関投資家が総会の買収防衛策議案に賛成するための形式的要件について紹介するとともに、形式的要件以外に注意すべき事項があることを紹介しましたが、本日はこの注意すべき事項について説明したいと思います。

買収防衛策を株主総会に議案として上程する場合には、議案に買収防衛策の導入の理由を記載することが必要になりますが、ここをいかに充実させるかが重要になります。買収防衛策の導入理由として、ほぼ全ての企業が金融商品取引法上のTOB規制の不十分性をあげています。

不十分である理由の1つにはTOB規制は市場内取引は対象とされていないことがあります。市場外で10名以上の株主から5%超の株式を取得する場合にTOB規制の対象となりますが、「市場内」での株式取得はTOB規制の対象となっていません。また、TOB規制では大量買付者に買付目的等の質問をしても大量買付者は回答を拒否することができる点も不十分と言われています。これらの点を指摘して、買収が行われる場合に株主に判断のための十分な情報提供と検討の機会が与えられないことを買収防衛策導入の理由にするケースが多いです。これはこれで正しいのですが、この理由だけでは機関投資家を十分に納得させることができません。

全ての上場企業が同じ前提下にあるところ、買収防衛策がない企業が多く存在する中、自社が買収防衛策を必要とする理由の説得性に乏しいのです。何故買収防衛策が必要であるのかを自社の置かれた事業環境などの特有の理由をあげる必要があります。これに関して参考になる事例を紹介します。住友金属鉱山の買収防衛策の導入理由ですが、一部を抜粋すると次のような内容が開示されています。

我が国は、世界有数の非鉄金属の地金生産国であり消費国です。しかしながら、国内での資源確保は困難であり、そのほとんどを海外に依存しています。世界の非鉄金属資源は、スーパー資源メジャーによる寡占状態にあり、また、新興国の資源、エネルギー獲得意欲も衰えてはおりません。さらに、資源保有国における資源ナショナリズムの高まりや新規有望鉱山の高地化・奥地化・低品位化などによる開発難度の上昇により、資源の確保は難しさが増しています。さらに近年、自動車の急速なEV化の流れにあって、電池材料としての非鉄金属の確保を巡って、各国の間で争奪戦が繰り広げられています。このような「資源」を巡る世界の動向等を勘案すると、国内外に有望な資源を保有する当社の株式について一方的に大量買付が強行されるおそれがないとは言えません。当社は、株式の大量買付であっても、当社の企業価値・株主共同の利益に資するものであれば、これを否定するものではありません。また、株式会社の支配権の移転を伴う買収提案についての判断は、最終的には株主全体の意思に基づき行われるべきものと考えております。しかしながら、株式の大量買付の中には、その目的等から見て企業価値・株主共同の利益に対する明白な侵害をもたらすもの、株主に株式の売却を事実上強要するおそれがあるものなど、当社の企業価値・株主共同の利益を毀損するものもあります。

この他に住友不動産の開示例も参考になります。この住友金属鉱山の理由は説得力があると思います。もっとも導入の理由をいくら充実させたところで、前回紹介した形式的要件(独立社外取締役過半数であるなど)を充足しない限り「反対」という機関投資家が一定数存在するのも現実です。

しかし、形式的要件が比較的緩い機関投資家の場合には、この導入理由の説得度合いを賛成の判断要素とするケースも多いかと思います。従って、買収防衛策の導入を真剣に考える企業は、この導入目的を充実させて、機関投資家との面談で経営トップ又はこれに準じた高い職位の役員が説明するのが大事になってくるかと思います。

さて、買収防衛策に関しては、前にもブログで紹介しましたが、私は証券会社勤務時代には顧客である上場企業に導入提案や導入のアドバイザーをした経験があり、その後も機関投資家と買収防衛策に特化した議論をするなど通算で10年以上実務で関わってきたので、買収防衛策については中堅上場企業から大手上場企業に対してコンサルティングが出来る程度に得意な話題ではあるのですが、ブログでのこの話題も5回目になりましたので、そろそろ終わりにしたいと思います。

買収防衛策を非継続とする企業も最近かなり増えていますが(機関投資家の賛成が得られないためです)、廃止する際にプレスリリースにある表現を用いる場合がとても多くなっています。廃止する場合の1つの「お作法」とも言えます。次回、第6回目ではこの点について簡単に説明して、買収防衛策の導入・継続についての記事はひとまず終わりにしたいと思います。