中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

買収防衛策導入企業数がピークから半減 ー 「投資家との対話重視=買収防衛策は不要」というのは間違っています

本日からは本年の定時株主総会に関連した記事を少しずつ書いていきます。2月22日の日経新聞の夕刊に「買収防衛策導入 ピークから半減」というタイトルの記事がありました。

買収防衛策は、ブログでも何度も記事にしていますが、日経新聞の記事によれば、2020年12月末時点での導入企業数は281社で2019年末から44社減と直近で最も減少した2019年の16%減に次ぐ水準であったということです。

減少の一途を辿っていることはブログでも何度も取り上げており、特に目新しいことではないのですが、新聞記事では上場企業の多くは投資家との対話を重視する姿勢に転換したことを廃止増加の理由としてあげています。企業は機関投資家との対話をするケースが増えており、大量買付者が出現しても投資家は合理的に判断できるので廃止が増えているということを記事は言っているのだと想像します。たしかに、機関投資家と対話をするとそう考える機関投資家もいます。しかし、これは企業サイドの現状を知らない発言・記事であると言えます。

企業は機関投資家の全てと対話が出来ているわけではなく、また、海外の機関投資家との対話となると不十分な企業もかなり多いのが現実です。そのような中、市場内外で株式の大量買付行為が開始された場合、企業が機関投資家の全てと短期間において対話の機会を持つことは不可能で、そうこうしているうちに株式の買占めがなされてしまいます。そういうリスクがあるが故、大量買付者が出現した際に投資家に十分な情報と検討の時間を与えるためにあるのが買収防衛策なのです。恐らく、買収防衛策の実務など分からない記者が書いた記事なのでしょうが、お粗末な内容の記事です。

なお、企業統治指針であるコーポレートガバナンス・コードでは、買収防衛策については次のとおり規定しています。

【原則1-5.いわゆる買収防衛策】
買収防衛の効果をもたらすことを企図してとられる方策は、経営陣・取締役会の保身を目的とするものであってはならない。その導入・運用については、取締役会・監査役は、株主に対する受託者責任を全うする観点から、その必要性・合理性をしっかりと検討し、適正な手続を確保するとともに、株主に十分な説明を行うべきである。

コードでは「廃止せよ」とは規定されておらず、「株主に十分な説明を行うべき」と規定されています。春に改訂されるコードでは、この原則1-5はどうなるのでしょうか。特に改訂の論点にはなっていないかとは思いますが、この原則が改訂されることを見越して日経新聞は記事に取り上げたのでしょうか。