中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

物言う株主(アクティビスト)の視点からのコーポレートガバナンス・コードの読み方(第6回) ー 事前警告型買収防衛策

本日も猛暑が続きますね。このような中でも、マスクを着けて通勤・通学しているサラリーマン、学生が都内では未だに非常に多いですね。何故そこまで自らに苦行を科すのか甚だ疑問ですが(人の密集した飲み屋ではマスクを外して騒ぐが、一歩、店を出た途端にいそいそとマスク着用というのも非常に滑稽な話です)、日本人は本当に周りの人の目を気にする単一民族なのだと思う今日この頃です(真夏にマスクを着けて通勤=真冬に滝に打たれるのとイコールかと)。

さて、本日から久しぶりに物言う株主の視点からのコーポレートガバナンスの連載を開始します。前回の第5回(最後に再掲)までは政策保有株式について触れましたが、今回は、コーポレートガバナンス・コードの第1章の「株主の権利・平等性の確保」にある買収防衛策です。まずはコードの該当箇所を見ましょう。

【原則1−5.いわゆる買収防衛策】買収防衛の効果をもたらすことを企図してとられる方策は、経営陣・取締役会の保身を目的とするものであってはならない。その導入・運用については、取締役会・監査役は、株主に対する受託者責任を全うする観点から、その必要性・合理性をしっかりと検討し、適正な手続を確保するとともに、株主に十分な説明を行うべきである。

これはいわゆる事前警告型の買収防衛策を示しています。最近の事例では、有事導入型の買収防衛策も増えていますが、コーポレートガバナンス・コードが制定された当時は、有事導入型の買収防衛策を導入する企業はほぼゼロですので、これは事前警告型を示していると言えます。

ブログでも買収防衛策はかなりの数の記事を書いていますが(私自身も、証券会社時代から現在の事業会社勤務までの期間で通算約10年、買収防衛策の導入実務を担当)、あらためて基本的なところからまずは説明したいと思います。

買収防衛策とは、株式の大量買付者(通常20%以上)が出現した際に買付者以外に新株を発行して、大量買付者の議決権比率を希釈化するというスキームです。事前警告型というのは、このルールを大量買付者が出現していない時点(これを「平時」といいます)からルールとして導入している場合です。つまり、大量買付者が出現するかどうか全く分からないが、ひとまず導入しておくというものです。この事前警告型が機関投資家からの評判が非常に悪いです。

買収防衛策があることは、買収者の買収意欲をそぐことになります。このため、買収者が出現することで、機関投資家保有株を高い価格で買収者に売却できる機会があるところ、それを喪失することになることが非難される点です。つまり、投資家からすれば、買収防衛策は、機関投資家が金を儲ける機会を喪失させる経営陣の保身のための方策であるということになるわけです。

事前警告型を導入するには、必要性・合理性を検討せよということをコードでは言っているわけですが、プレスリリースで色々と説明しても機関投資家の賛同を得るのは厳しいと言えます。

買収防衛策を導入する企業は、株主に十分な情報を提供し、検討の機会を確保するために導入すると言います。導入企業が100社あれば、100社ともこの理由を使います。けど、機関投資家は企業から情報など提供してくれなくとも、自分たちで判断できるというわけです。投資先企業の理論株価を算定しており、TOB価格が理論株価よりだいぶ高ければ売却するし、理論株価の方が高ければ、TOBには応じないという判断を自分たちで出来るというわけです。その通りかと思います。だから、事前警告型など導入してくれるなというわけです。

ということで、買収防衛策の廃止を提案する株主提案がなされた場合には、今の世の中では、この株主提案に賛同する機関投資家が圧倒的に多いかと思います。特に、ROEや業績が低迷する企業が事前警告型を導入するとなると機関投資家の風当たりはとても強いところです。

政策保有削減の状況の総会招集通知への記載 ー 「記載効果のある企業」のみが記載すればよいです

6月25日の日本経済新聞に次の記事が掲載されていました。

〈株主総会2022〉政策保有株削減の状況、総会前開示が3割に拡大: 日本経済新聞

企業が政策保有株式の縮減の状況や方針を株主総会の招集通知に記載する動きが広がっているということです。この狙いは何でしょうか?

政策保有株式の保有金額の大きい企業は、機関投資家から経営トップの選任議案に対して反対される可能性が大です。具体的には、純資産の20%%又は10%を超える政策保有株式を有する場合などです。そして、機関投資家はその数値基準については、直近の有価証券報告書に記載の金額をベースに判断します。

とすると、本年度に政策保有株式を縮減した場合、その縮減分は議決権行使においては何ら反映されないことになるため、縮減した政策保有株式をベースに議決権行使をして欲しい企業は、総会の招集通知に記載するということになります。

ということから、そもそも縮減した株式数が小さい場合や大きく縮減しても、元々の政策保有株式の金額が純資産の10%以下の場合には、招集通知に記載する必要は全くないかと思います。勿論、記載して問題ということは全くないですが、記載しても何の効果もないということです。

来年の株主総会に向け個人投資家の「株主力」の強化のためには?

来週の6月29日頃が株主総会の集中日かと思いますが、今年は株主提案が非常に多いですね。しかも、株主提案が可決されるケースも出てきました。間もなく改訂される経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針では、投資家を社外取締役に招聘することの有用性も盛り込まれました。

来年以降も株主提案は益々増え、機関投資家のみならず、個人投資家も「物言う株主」になる可能性もあり、そもそも日本の株式市場の活性化のためには、そうなるべきと強く思います。ほとんどの個人投資家は、1銘柄当たり数百株から、多くても1000株~2000株程度しか保有しておらず、株を購入後は株価が上がるのを神頼みするのみという弱者です。

機関投資家と異なり、経営トップとIR面談をする機会もなく、せいぜい工場見学会やIR部門の担当役員クラス程度による個人投資家説明会に参加するくらいです。神頼みをしても株価が上がらないとヤフーファイナンスあたりで愚痴っていても仕方ありません。サラリーマンが同僚との酒の席で、上司の悪口を言っても何も変わらないのと同じです。

考えたことや思いは、個人投資家も企業に働きかける時代になってきているのだと思います。けど働きかけるには、知識・知恵を付ける必要があります。では、個人投資家は何をすべきでしょうか?

企業の決算短信・決算説明会資料を分析して、企業のIR部門に電話やメールで問い合わせることが1つ重要ですが、これに加えて、じっくりと勉強すべきはコーポレートガバナンス・コードです。これは金融庁が2015年に策定し、有識者が集まり、かなりの時間をかけて議論をして、2018年、2021年に改訂しています。

アクティビストの企業への提案のほとんどはコーポレートガバナンス・コードで金融庁が企業に求めていることと方向性があっています。また、この提案に賛同する機関投資家もコードを参考にしています。個人投資家であっても、このコードの要請に沿った提案であれば合理性があると言えるわけです。企業も完全に無視することは出来ないと思います。

企業のIR部門に問い合わせる際に単なる業績見通しの話だけすると、個人株主は軽くあしらわれることが圧倒的に多いですが(保有株数にもよりますが)、このコーポレートガバナンス・コードを武器にした質問は結構ビビらせる効果もあったりします。

というのも、IR部門はコーポレートガバナンス・コードを理解していないことが多く、個人投資家がここを突いてくると身構えます。物事は先手必勝が大事ですから、「この株主は結構勉強しているな。結構やっかいかも」という印象を持たせると、その後、業績や今後の見通しなどの質問を継続する上でも重要かと思います。つまり、個人株主ということで舐められようにするという効果があります。

ということで、本年の株主総会も終わりに近づいていますが、2023年の株主総会に向けて投資先企業を分析するに当たって、コーポレートガバナンス・コードをしっかりと理解して、その上で投資先企業やその競合企業のコーポレートガバナンス報告書や有価証券報告書を読み込むとよいかと思います。

ブログでも過去5回、コーポレートガバナンス・コードの読み方を掲載してきましたが、その後、仕事が多忙であったりして掲載が止まっていましたが、そろそも第6回から連載を再開したいと思います(直近の第5回の記事を再掲いたします)。

東洋建設が株主総会の買収防衛策議案を総会直前で取り下げ

昨日は投資先の某銘柄のIR部門に長々と質問のメールをしました。この企業のIR部門の方には1年以上に亘り、四半期決算の都度、時々質問をしているのですが、毎回、丁寧に回答を頂き、ありがたいことです。株主総会に出席して質問をしたいのですが、平日は休みをとるのもなかなか難しいのが悩ましいところです。IR部門の方には工場見学会の機会を作って欲しい旨も伝えました。

さて、東洋建設の株主総会が明日、開催の予定ですが、東洋建設は買収防衛策議案を取り下げることを決定したようです。

https://www.toyo-const.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/06/20220623.pdf

このプレスリリースの中で次の記述がありますので、一部抜粋します。

当社は、両誓約をも踏まえて、株主の皆様に対して十分な情報を提供し、熟慮に基づき本公開買付けを含む大規模買付行為等の是非をご判断いただくことができる環境をより一層確保するという観点から、本日までの間、YFO との協議を継続してまいりました。その結果、当社としては、上記の各書簡及び本日までの間のYFOとの協議の内容から、YFOグループが、(i)本対応方針所定の情報の提供については最大限の努力を尽くすこと、及び、(ii)当社株式の追加取得についても、2023 年 5 月 24 日までの間、株式公開買付けであると市場内買付け等であるとを問わず、本定時株主総会で新たに選任される当社取締役会が同意しない限りは一切行わないことを、それぞれ誓約したものと理解したため、当社取締役会が十分な交渉力を確保した形で本公開買付けの申込みにつき YFO との間で実効的な協議を行うことを可能とする環境を確保するという本対応方針の目的は一応達成されていると考えられることから、YFO から本議案を取り下げるよう繰り返し強い要請があったことも踏まえ、YFO との間で友好的かつ実効的な協議が行われることを阻害しないよう、真摯にYFO との協議に臨むという当社としての姿勢を示すためにも、本日、当社取締役会において、本定時株主総会においては本議案を上程せず、取り下げることを決定いたしました

もっともらしい理由が記載されてはいますが、本音としては本日まで議案の賛成率の票読みをした結果、厳しい結果に終わったので取り下げたということではないのかなと私は想像します。総会の前日に取り下げていますからね。議決権行使助言会社のISSが反対推奨をしたことが大きかったのかも知れませんね。MOM要件の株主総会決議にもしないのですね。

ということを考えると、買収防衛策は平時に導入しておくことがやはり無難ですね。

北越メタルに対するトピー工業の株主提案が可決 ー 株主提案が可決される時代です

北越メタルに対してトピー工業が株主提案をしていることを以前にブログで書きましたが(前回のブログは最後に掲載)、北越メタルの株主総会が開催され、結果、なんとトピー工業の株主提案が可決されたようです。

https://www.hokume.co.jp/wp-content/uploads/%E7%AC%AC106%E5%9B%9E%E5%AE%9A%E6%99%82%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E7%B7%8F%E4%BC%9A%E6%B1%BA%E8%AD%B0%E3%81%94%E9%80%9A%E7%9F%A5%EF%BC%882022.06.21%EF%BC%89.pdf

取締役に大洞勝義、竹内征規、天川一彦という方々が選任された模様です。北越メタルは株主提案について、従業有志が反対する旨の声明まで次のとおりプレスしていたのですが、残念な結果に終わったようですね。

https://www.hokume.co.jp/wp-content/uploads/%E5%BE%93%E6%A5%AD%E5%93%A1%E5%8F%8D%E5%AF%BE%E6%84%8F%E8%A6%8B%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9.pdf

プレスには、「当社従業員有志一同は、当社従業員を中心に据えた経営を目指す現経営体制を強く支持するとのことです。また、従業員の活躍の場を奪いかねないトピー工業の株主提案は、当社従業員のモチベーションを大きく低下させるおそれがあるものであり、到底賛成することができないとのことです。そのため、当社従業員有志一同は、トピー工業の株主提案及び当社提案に反対するとの議決権行使に対しては、断固反対の意見であるとのことです」というように、従業員が自発的に反対しているような内容にはなっています。そもそもこの従業員有志が従業員全体の何パーセントを占めるのか全く不明なのですが。

北越メタルの3月末時点の株主構成は見ていませんが、トピー工業の株主提案の方が合理性がある、つまりこの選任された3名の方が企業価値を向上させるに適切な能力があると判断されたということになります。北越の安定株主である政策保有株主あたりは賛否のいずれを投じたのでしょうか。気になるところです。

いずれにせよ、株主提案が可決されるということは企業統治の上で結構インパクトのある出来事かと思います。これを契機にこういう株主提案も益々増えるであろうと思います。企業の方は、特に株主が低迷してPBRが1倍を切っている会社などは、万一、株主提案を受けた場合、経営トップの選任が否決されるリスクが大ということを念頭において株価向上に努める必要があるのだろう思います。

「適時開示、日本企業見劣り」 ー 投資家の立場にたって考えることが重要です

本日は簡単に新聞記事を1つ紹介いたします。6月10日の日経新聞電子版に次の記事が掲載されていました。

適時開示、日本企業見劣り 規則の細かさが足かせに: 日本経済新聞

要するに日本企業は、開示にあたっては、開示事項が東証の開示項目に該当するかどうかで細かく判断し、開示がマストでない場合には開示しないケースが多い。一方、欧米企業の場合、開示は企業の自主性に委ねられており、リスクを先に出す文化のため積極的に開示する傾向にあるというような内容です。

日本企業の開示が悪いというわけでもないとは思いますし、何でも開示するとかえって投資家の不安を煽るという考えもあるかと思います。しかし、一方、投資家が不安に思うところは東証開示の該否に関わらず、積極的に開示すべきと思います。理由は投資家は外部者ですので、会社の内情が分からないのです。これって結構大事です。

投資家と会話をすると、会社の内部にいると当たり前に考えていることでも投資家には情報がないのです。例えば、ウクライナ侵攻についても会社の方は、「当社はロシアでの商売はないから問題はない」と考えていても、投資家は「地域別売上高を見ると欧州でも売上高があるようだが、影響はないのだろうか」と不安になるわけです。不安になると当然ながら投資も見送るということになると思います。

そこで、会社としては説教的に開示することが重要になるわけです。東証の開示基準に該当するか否かではなく、投資家が心配する事項がどうかという観点から開示の有無を柔軟に判断することが必要であり、そのように開示に積極的な企業が市場でも評価されるのだと思います。

東洋建設の総会議案について議決権行使助言会社のグラスルイス社も反対推奨

今週も忙しい1週間でした。本日は、久しぶりに株式雑誌の「株主手帳」でも購入して、銘柄検討をする予定です。四季報オンラインを数年前から使用しているのですが、一から検索すると結構面倒なので、中小型株などを探す手掛りとして「株主手帳」が便利かなと最近思っています。

さて、東洋建設の「買収防衛策」(なお、東洋建設は買収防衛策ではなく、「対等な交渉力確保目的スキーム」と言っています)に対して、議決権行使助言会社のISS社が反対推奨をしていますが(前回の記事を最後に再掲します)、グラスルイス社も反対推奨をしたようですね。次のとおり東洋建設がプレスリリースを出して反論しています。

https://www.toyo-const.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/06/20220616.pdf

助言会社は機関投資家に対してアドバイス(=推奨)するだけであり、それを採用するかどうかは機関投資家の判断ですが、議決権行使助言会社2社とも反対推奨をしたことにより東洋建設の株式を保有する海外機関投資家の多くは、東洋建設の買収防衛策の総会議案について反対するのだと想像します。

Yamauchi-No.10 Family Officeが6月15日に公表したプレスリリースを見ると、グラスルイス社は、一般的な買収防衛策の判断基準に従い、反対推奨をしているようですね。東洋建設の株主構成は見ていませんが、あとは国内機関投資家が賛否のいずれの立場に立つのか、安定株主は賛成をするのか(賛成した場合、自社の株主に対する説明責任も考える必要があります)、東洋建設は総会決議を普通決議でいくのか、それとも東京機械製作所で使用したMOM要件での決議とするのかどうか等がポイントですね。面白くなってきました。

東洋建設の買収防衛策についてのYamauchi-No. 10 Family Officeの考えが公表されました

コロナの感染者も激減し、経済復活の動きの中で、未だにマスクを着けて歩いている人がとても多いですね。この休日も暑い中、普通に住宅街を歩くのにマスクを着けている人がとても多くて、どうなっているのでしょうかね?理由は単純で、人の目を気にしてマスクが外せないのだと思いますが。

50年後の日本の中学校の歴史の教科書には、「50年前にコロナが世界で大流行して、海外では終息に向かいつつある中、欧米の国民は早々にマスクを外してコロナ前の生活に戻ったが、日本のみほとんどの国民が、一歩家を出た瞬間からマスクが外せない生活が終息後も数年間続き・・」ということが必ず記載されるのだと思います。それを読んだ50年後の中学生は、「50年前の日本人って、欧米に比べて医学に対する知識がとても遅れていた、かわいそうな方々だったんだね。医学の発達した現代に生まれてよかった」という話にきっとなるのだと思います。とすると現時点の日本人は、とても滑稽な日常生活を送っているということかと思います。満員の通勤電車の中はまだしも、人と肩が触れ合うわけでもない通勤途中の徒歩でマスクを着けるのは、一般常識に照らしてナンセンスの極みですから、そこそこの大学を出た教養のある中流層クラス大人は、そろそろマスク生活はやめませんかといいたいところです。

さて、本題ですが、東洋建設の買収防衛策に対してYamauchi-No. 10 Family Officeが買収防衛策に対する考えを次のとおり公表しています。

東洋建設(証券コード:1890)の買収防衛策についてのYFOの考えについて|Yamauchi-No.10 Family Officeのプレスリリース

「買収防衛策の導入により、YFOによる1株当たり1,000円での買収提案の実現可能性が大幅に減少します。 株主の皆様におかれましては、より魅力的な価格での株式売却機会を確保するため、定時株主総会において、第5号議案に反対していただけますようお願いいたします」という表現が5ページに掲載されています。当然の主張かと思います。株主は1,000円で株式を売れる機会があるのですから、それを妨げるというのが買収防衛策の大きな問題です。

過去に市場株価にプレミアムを乗じたTOB価格で敵対的買収を提案され、企業が買収防衛策を発動した企業が複数ありますが、いずれの企業とも現在の市場株価は、当時のTOB価格を上回っていないと思います。株主がキャピタルゲインを得る機会を奪う点が買収防衛策の最大の問題です。有事で買収防衛策を導入する企業は、株価をいつまでにTOBを上回る状態にもっていくのか、そこを明確にすることが必要と思います。

既存株主に十分な情報と機会を提供するという東洋建設の主張に対しては、7ページに十分な情報提供をしていることが記載されています。機関投資家はYamauchi-No. 10 Family Officeに賛同するところが多いように私は予想していますが、どうでしょうか?Yamauchi-No. 10 Family Officeの買収後の具体的な事業運営方針について、機関投資家がどう判断するかがポイントの1つのようにも思います。

ところで、東洋建設の安定株主の方は、今回のYamauchi-No. 10 Family Officeの提案書をじっくり読む必要があると思います。その上で議決権を行使しないと自社の株主から突き上げをくらうことになるように思います。株主に対する説明責任をなめてはいけません。個人株主といえど牙をむく時代です。

東洋建設の買収防衛策について議決権行使助言会社のISSが反対推奨

東洋建設の買収防衛策に対して、議決権行使助言会社のISSが反対推奨したようですね。東洋建設が次のとおりプレスリリースを公表しました。

https://www.toyo-const.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/06/20220609_1.pdf

ISSの反対推奨理由については次の記載があります’(プレスリリースからの一部抜粋です)

ISS 社は、ISS レポートにおいて、①本議案が、ISS 社がいわゆる一般的なポイズン・ピルの議案に賛成推奨するために必要と考えている複数の要件のうち、(他の要件は満たすとするものの)特定の 1要件(具体的には、招集通知が、株主総会の開催日の 44週間前に開示されていること)を満たしていないとした上で、その場合でも、本件が YFOらによる大規模買付行為等を対象としたものであること(いわゆる特定標的型であること)から、本議案を賛成推奨するに足りる特段の事情があれば賛成推奨することもあり得るものの、②公開買付けにより発行済株式の全てを取得しようとする特定の買主が出現した場合に、当該買主に対抗して、より有利な公開買付価格で応募する潜在的な機会を株主から奪うこととなるポイズン・ピルを導入することは適切ではないと考えられることを理由として、結論的に、本議案につき反対推奨をしております。 

一般的な事前警告型の買収防衛策に対しては、議決権行使助言会社の賛成推奨を得るのはかなり難しいです。ISSの2022年版の事前警告型の買収防衛策に対する議決権行使ポリシーでは、第1段階の形式審査では、次の条件を全て満たすことが必要とされています。

  • 総会後の取締役会に占める出席率に問題のない独立社外取締役が2名以上かつ3分の1以上である
  • 取締役の任期が1年である
  • 特別委員会の委員全員が出席率に問題のないISSの独立性基準を満たす社外取締役もしくは社外監査役である
  • 買収防衛策の発動水準が20%以上である
  • 有効期限が3年以内である
  • 総継続期間が3年以内である
  • 他に防衛策として機能しうるものがない
  • 株主が買収防衛策の詳細を検討した上で、経営陣に質問する時間を与えるために招集通知が総会の4週間前までに証券取引所のウェブサイトに掲載されている

この形式基準を充たした後に個別審査になり、個別審査では「 買収されやすい状況の改善を目的とする具体的な株主価値向上施策に加え、買収防衛策導入により与えられる一時的な保護が、どのようにしてその施策の実行に役立つのかを招集通知で説明しており、その内容が妥当であると結論付けられる」とされています。

約270社ほどが導入している事前警告型の買収防衛策に関していうと、ISSが賛成推奨を出す企業はほとんどありません。東洋建設の今回の買収防衛策は、有事導入型かと思いますので、必ずしも事前警告型のこの要件がそのまま適用されて判断されるものではないとは思います。

ただ、結果としてISSは反対推奨しており、とすると海外機関投資家はISSのレポートを参考にすることが多いので、反対票が増えるかも知れません。東洋建設の外国人株主比率はどの程度あるのか見ていないので影響度は分かりませんが。国内の機関投資家は本件は有事導入型の買収防衛策として、事前警告型とは別物として、個別判断をするのかも知れません。

東洋建設が株主総会専用サイトを開設

東洋建設が6月3日に株主総会専用サイトを公表しました。

https://www.toyo-const.co.jp/topics/shareholdersnews

その中で6月3日付けのYamauchi-No. 10 Family Officeとのやりとりの書簡も次のとおり掲載されています。

https://www.toyo-const.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/06/20220603.pdf

長いので全部は読めていませんが、東洋建設による有事導入型の買収防衛策の導入に大変遺憾である旨も記載されていますね。東洋建設は6月24日の定時株主総会で取締役会決議で導入した買収防衛策の株主の賛同を求める予定です。株主総会の決議要件はどうするのでしょうか?

東京機械とアジア開発キャピタルの攻防では、MOM要件で決議されています。けど、東京機械のケースでは、市場で急速に株式の買い集めが行われたことから特別に認められたのだと思いますので、常に大量株式保有者の議決権が除外されることが許されるものではないとは思います。

Yamauchi-No. 10 Family Officeの保有議決権を含めても普通決議で可決できるなら東洋建設は何も心配は必要ないのかも知れませんが、票読みの結果、否決される可能性が高い場合に、MOM要件での決議を考える可能性も出てくるのかも知れませんね。前回の東洋建設に関する記事を再掲いたします。

日清食品HDが議決権行使助言会社ISS社の反対推奨に反論 ー 政策保有株式の縮減

最近、昼休みに弁当を食べながら投資関連情報を整理することを日課にしていますが、昨日の昼休みはオフィスでYoutubeでジャパンストックチャンネルを聞いていました。各企業のトップの説明や機関投資家の声が聞け、昨日はアムンディジャパンの方がESG投資について説明しておりとても分かりやすかったです。まだご存じでない方にはお薦めです。

さて、日清食品ですが、昨日、次のとおりISS社の反対推奨に対して反論を掲載していました。

https://cdn.nissin.com/gr-documents/attachments/news_posts/10647/0cf3106b3c18e290/original/20220603-2.pdf?1654241616&_ga=2.177899493.1747792849.1654546597-1269544851.1654546597

要するに、ISS社は純資産の20%超の政策保有株式を有する企業の経営トップに反対することになっていますが、日清食品は招集通知に17.5%と記載しており、この最新の数値をISSは見落としているという主張のようですね。

ISSは政策保有株式の判断においては、直近の有価証券報告書に記載の政策保有株式をベースにします。つまり1年前の情報です。企業がその後、1年の間に政策保有株式を売却するなどして変動が生じた場合には、総会の招集通知等に記載することになります。日清食品は「招集通知にきちんと記載しているよ」という主張だと思います。

ISSも短期間に膨大な企業数の招集通知を判断するので、見落としもあるのも当然あり得るのだと思いますが、勝手に誤った評価をされた企業にとってはたまらないですね。ちなみに、他の某議決権行使助言会社は、勝手評価して公表する前に企業に対して、判断の前提に誤りがないか否の確認を求めます。先日、私にもこの評価の前提確認の資料が送付されてきて一応回答しました。

これはこれで評価など依頼もしていないのに、評価の前提に誤りがないか見よということで、万一、評価に誤りがあった場合には企業に責任転嫁するようなもので、個人的にはいかがなものかなとは思います。

北越メタルに対するトピー工業の株主提案 ー 補足説明資料を公表

今週1週間は忙しい毎日でしたが、ようやく金曜日です。コロナで出社する人が増えたせいかオフィスが騒がしく、アウトプットには最適なのですが、インプット業務への集中が少し難しいなと最近感じます。私の近くの部署には、40~50代の中高年の独身女性が数名おり、最近出社回数が増えているようですが、独身者は家に帰っても話の相手がいないせいか、10代の女性のように少し幼稚さがあり騒がしく感じられ(一方、既婚女性は常識人が多いのですが)、独身女性(男性もですが)は独特の進化をして老後を迎えるのだなと感じるところです。こういう方々を見ると、家庭を持ち、子供を2人程度持つことは大人が社会性を持った人として成長する上でとても大事なのだと思います。

さて、どうでもよい余談が長くなりましたが、トピー工業が北越メタルに株主提案をしているところですが、5月31日にトピー工業が株主提案の補足説明資料を公表しました。

https://www.topy.co.jp/ja/news/news/news20220531-2/main/0/link/topy_20220531-2.pdf

トピー工業は北越メタルの筆頭株主(33%の株式保有)です。大株主には、資料3ページによれば、伊藤忠メタルズ、第四北越銀行伊藤忠丸紅鉄鋼損害保険ジャパンがあるようです。このあたりの大株主がトピー工業の株主提案に賛同するかどうかが関心が高いところですね。

ひと昔前であれば、大株主が株主提案に賛同するということは100%なかったのですが、今はそんな時代でなく、株主提案に賛同しないのであれば、上記の株主は自社の株主に対する説明が求められるところです。一方、北越メタルとの取引を考えると、安易に株主提案に賛同もできないところかと思いますが。関西スーパーとオーケーの攻防で関西スーパーの株主が判断に迷ったケースと同じですね。

補足資料の詳細がまだ読めていないんので、週末にでも読みたいと思います。

物言う株主(アクティビスト)の存在が個人株主を潤します

本日は「サラ金の歴史 消費者金融と日本社会」(中公新書)を読んでいます。数ヵ月前に購入したのですが、書棚に放置したままでした。著者は東京大学大学院経済学研究科准教授の方のようですね。戦前の素人高利貸し時代にまで遡り消費者金融の歴史が詳しく書かれており、勉強になります。

5月27日の日経新聞で地銀が業績連動型の株主還元方針を掲げるケースが増えてきたという記事がありました。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61164980W2A520C2EE9000/

私は、地銀株は投資先候補に入れたことがなく、地銀の決算短信は読んだことはなかったのですが、今頃になって業績連動型とはだいぶ遅れていたのですね。それがアクティビストの後押しがあり、コーポレートガバナンス改革が進んだといったところかと思います。

地銀はプライム企業とは言え、地方の中小型企業に過ぎません。多分、機関投資家目線の経営などは出来ていなかったのだと想像されます。自分たちの役目は、地方の優良企業に融資することであり、そのためにはメンツもあり、これまで東証1部に上場しており、新区分ではプライム市場に移行するのが当然ということで、おおよそコーポレートガバナンス改革や資本市場を理解していない企業も結構多かったのではないでしょうか?

ここ数年、アクティビストは地銀への投資を増やしています。アクティビストの影響を考慮して株主還元方針を変更したということかと思います。個人株主は、わすかに数百株を買った後は、株価が上がること、配当が増えることをただ祈るしか出来ないのです。それがアクティビストの出現によって配当が増えるのです。アクティビストは神様ですね。私の保有銘柄もキャッシュリッチ企業が多いので、是非ともアクティビストに入って欲しいところです。

株価の割安性を判断する指標 ー PEGレシオ

本日は保有株式銘柄の期末決算と業績予想について、あらためてエクセル表の整理をしていました。FY21の財務状況から各種株式指標の整理などをして、今後の保有の是非の検討です。特に各銘柄ともに定時株主総会が近付いているので、今後の事業運営についての疑問事項を各社のIR部門に問い合わせをすべく分析作業をしました。

本当は株主総会に出たいのですが、仕事を休んでまで参加するわけにも行かず、そのため、保有先のIR部門には「総会で質問することに代えて質問させて頂きます。満足な回答が得られない場合には総会に出席して質問したいと考えているのですが・・」といったことでメールで質問をすると、面倒な株主が総会に来るのを嫌がる会社の総会担当者も多いので、総会に出ずともそこそこ満足できる回答が期待できるように思います。

さて、前置きが長くなりましたが、株式の割安性の指標を1つ紹介します。PEGレシオです。実は名称だけは前から知っていたのですが、あまり良く分かっていませんでしたが、最近、PERの他にこの指標を使用することにしています。

PEGレシオ=予想PER÷利益成長率(又は売上高成長率)です。

1倍を下回ると割安とされています。要するにPER(この場合、計算式の分母は予想EPSです)が高くとも、利益又は売上高の成長率が高いのであれば、必ずしも割高ではないということですね。3年ほど前の日経新聞にも分かり易い記事が次のとおり掲載されていました

コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(案)が公表

今週も残すところ今日一日ですが、慌しい毎日でした。来週もとても忙しいのですが、来週はテレワークを1日はしようと思っています。昨日は、旬刊商事法務で某4大法律事務所の弁護士が執筆した有事導入型の買収防衛策記事(連載3回)を読み込みました。最近の有事導入型の裁判例の分析、事前警告型と有事導入型の比較など専門的な内容が深く書かれておりとても参考になりました。今年も機関投資家と買収防衛策の議論をすることになると思うので、知識の整理に役に立ちました。後日、ブログでも記事の内容を紹介したいと思います。

前置きが長くなりましたが、経産省のCGS研究会の第5回が5月20日に開催されていたようで「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」の改訂案が公表されていました。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/cgs_kenkyukai/pdf/3_005_03_00.pdf

現行指針からの修正履歴付きとなりますが、結構、改訂されている模様ですね。まだ資料を読み込めていないのですが、週末にじっくりと読みたいと思います。