中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

空間ディスプレイ銘柄の丹青社(9743)の事業等のリスク

昨日のブログで有報の「事業等のリスク」について書きましたが、私の保有するいくつかの中小型銘柄の「事業等のリスク」の開示を紹介したいと思います。本日は、空間ディスプレイ関連の丹青社です。同社の2019年度の有報では、事業等のリスクとして次の内容が記載されています。

<事業等のリスク>

(1)経済動向:当社グループの事業は、国内経済の動向により影響を受けます。例えば、個人消費の低迷により小売業の設備投資が減少した場合及び企業収益の悪化により企業の販促関連投資が減少した場合等は、百貨店、専門店、チェーンストア等の新改装需要が減少し、また、展示会、イベント等も減少いたしますので、商業その他施設事業及びチェーンストア事業の売上は影響を受ける可能性があります。また、政府及び地方自治体の財政状態の悪化により公共投資が削減された場合、博物館・美術館等の文化施設を含む文化施設事業の売上は影響を受ける可能性があります。

(2) 法的規制:(記載省略します)

(3) 設計・施工物件の品質・安全性:近年、建築物の品質・安全性につきましては、一層の配慮が要求されております。当社グループでは、設計・施工物件の品質向上・安全性確保を図る目的から、専任の品質・安全管理部門の設置や社内教育の実施等万全の体制を構築しておりますが、当社グループが設計・施工業務を受託した施設において、欠陥が見つかる可能性を完全に否定することはできません。そのような欠陥が原因となり事故が発生した場合、当社グループに対し損害賠償責任等の補償義務及びその他債務が発生する可能性があります。

(4) 事故による影響:(記載省略します)

(5) 災害による影響:(記載省略します)

(2)、(4)、(5)は一般的な記載内容ですので、記載は省略しますが、全体の開示としてはレベルが低いというか、詳細不明といったところですね。事業等のリスクをあまりに詳細に記載すると競合他社に弱みを握られるという課題があるのは良く理解していますが、この程度の開示だと、投資家から見ると何が本当の事業等のリスクであるのか良く分かりません。

丹青社の同業ですと、乃村工藝社(9716)とスペース(9622)がありますので、各社の有報の開示も確認したところ、丹青社と同様のレベルでした。各社とも2019年度の有報記載の改正に十分な対応が出来ていない様子の開示ですが、1つだけ分かるのは、景気変動をリスクの最初に掲げており、乃村工藝社は「特に重要なリスク」としています。空間ディスプレイは景気の変動に大きく左右されることが最大のリスクということは理解できます。

しかしながら、景気の変動に大きく左右されるのは、他の業界(小売り、外食等)も同じですので、もう少し踏み込んだリスクを開示して欲しいところです。

有価証券報告書の「事業等のリスク」の開示 - リスクを開示するだけでは不十分です

9月25日の日経新聞東証1部の中、1,300社について有価証券報告書(有報)のリスク情報の開示調査結果の記事が掲載されていました。

有報の「事業等のリスク」とは企業が事業活動を行う上での事業上のリスクを開示する箇所ですが、記事によると、サイバー攻撃をリスクとして言及した企業が前年度に比べて大きく増加したということです。ただ、欧米企業に比べて、サイバーリスクの認識程度がまだ小さいということです。

この「事業等のリスク」の箇所は、2019年度の有報の大きな改正事項の1つです。これまでは、各社ともリスクと考えられる事項を沢山列挙していましたが、これではリスクが広すぎて本当のリスクが分からないということで内閣府令が改正され、重要性の高いリスクを分かりやすく開示せよというのが改正内容です。

従来は、「為替変動のリスク」「原料確保のリスク」「コンプライアンス違反のリスク」など当たり前のことが、抽象的な内容で開示されており、具体的なリスクが不明でした。それが改正されたということです。

しかしながら、今回の有報を見ると依然として、従来の開示と何ら変わり映えせず、つらつらとリスクが並べてあるだけの企業が多いですね。私の投資先銘柄など、中小型銘柄ということもあり、開示にあまりリソースをかけていない企業がかなり多いので、全くもって開示のレベルが「お子様」です。

投資先銘柄のリスクを見る場合、決算説明会に参加できない個人投資家は有報のこの箇所しか見るべき手段はないのです。従来と同じ開示をしている企業は、来年の有報からは大きな見直しを検討する必要があると思います。この点、金融庁が開示の好事例集を出しており、事業等のリスクの開示が良い例として、味の素、日本郵船ほかをあげています。

個人投資家の方は、これらの有報を一度眺めた後に、自分の投資先銘柄の有報の事業等のリスクの書きぶりを見比べてみて、「良く分からない」ということであれば、IR部門などに質問をしてみると良いかも知れません。そして大事なのは、リスクを明確に理解した後、そのリスクの回避又は低減について企業がどのような方策を考えているかを確認することです。従い、投資先企業に聞く際には、次の4点がポイントになるかと思います。

  • 当該企業の事業領域の参入障壁は何であるのか(参入障壁の高さの確認)?
  • その参入障壁を毀損するリスクは何であるのか?
  • 当該リスクの発生頻度及び発生した場合の影響度はどの程度か?
  • 当該リスクの回避施策、又は発生の際の影響の低減施策は何であるか?

ということで、本日は、私は重点投資銘柄の本年度の有報の事業等のリスクの確認作業をしています。

 

MBO(上場廃止)のすすめ

日経新聞朝刊の「私の履歴書」に引越会社のアートコーポレーション名誉会長の寺田千代乃さんが現在掲載されています。寺田会長は一代でアートコーポレーションを創業された方で、オーナー社長経験者の書く履歴書は大変面白く、寺田会長の記事も毎回読んでいます。

寺田会長の話の中で、MOBの話がありました。私は知りませんでしたが、アートコーポは過去に上場していたようですが、途中でMBOで上場廃止をし、その理由について寺田会長が書いています。ポイントをあげると次のような内容です。

  1. 新規事業として保育事業を考えたが、機関投資家から収益性という点で好感されなかった。IR説明会では、会社の将来を長い目で見て頂くのは難しいと思うことが多かった
  2. 上場後、幹部や社員が夢を語らなくなった。予算で少し背伸びをしたような数字が上がってこない。大きな目標を掲げて皆で走っていくという雰囲気が薄れた
  3. 株式市場での資金調達はしていない
  4. 上場で会社の社会的信用や就職人気に大きな変化があったわけでない
  5. 上場維持の費用はかさむ

以上が上場廃止の理由として書かれています。大変参考になるかと思います。今、東証の上場区分の見直しの議論が進んでいます。東証1部に相当するプライム市場は、たしか時価総額100億円以上とするが100億円なくとも現在の東証1部上場企業はプライム市場に残れるというような方向かと思いますが、この機会に時価総額の小さい企業は、上場廃止を真剣に検討してもよいのではないかと私は思います。

「上場する意義は?」と問われると上場で社会的信用や良い学生を採用できるということをあげる上場会社は多いです。しかし、寺田会長の話では、上記4のとおり大きな変化はないということです。

ミレニアム世代やその後に続く世代の方は、必ずしも上場の有無で会社を選ぶことはないように思います。勿論、メガバンク三菱商事三井物産という一部の超一流企業には、東大、京大、一橋大出身の頭脳の優秀な学生が競って入るでしょうが、それ以外の上場企業を選ぶ多くの一般大学の学生は、必ずしも上場という点のみにこだわることはないのだと思います。特に、時価総額が数百億円以下の小さい上場企業に限定すると、上場であることが偏差値の高い優秀な大学生を集めるのに有利かと言えば、それほど有利ではないように思います。

一方、上場のデメリットは上記5のとおり、上場維持のコストがばかにならないという点です。上場維持するということは、経理部門、IR部門、総会担当部門などを充実させる必要があり、相当の人件費がかかっています。

決算数値の集計などは将来はAIが代替する典型的な単純業務に過ぎないのですが、完全にAIが代替するのはまだ当分先であり、現在は、四半期決算のたびに経理の多くの方が手作業で集計マシーンと化し、決算をこなしているかと思います。しかし、これは完全に季節労働ですので、四半期決算が終わるとその後は暫く暇という状態になります。現在では、多くの上場企業の経理部は、四半期決算が過ぎるとテレワークとする方がかなり増えているのだと思います。これは、決算が終わった後は仕事がないので、テレワーク推奨ということもあり、会社でパソコンを開いて仕事をするふりをするのではなく、自宅で過ごしているのです。IR部門なども同様の季節労働かと思います。

このような実情に鑑みると、時価総額の小さい上場企業は上場を廃止してはいかがでしょうか。上場廃止すれば、アクティビストが出現して株式を取得して、経営陣に「ROEを向上させよ」「事業ポートフォリオを考え直せ」「株価をあげろ」などと難癖をつけられ、面倒な対応をする必要はゼロになり、また、世間を気にせず、自由に経営が出来るのです。

上場廃止しても最低の法規制は遵守する必要が勿論ありますが、上場していると「お行儀良く」する必要がありますが、上場廃止すれば「お行儀」など気にせず、世間から批判されることもないのです。社員にチェレンジブルな過大な収益目標を課したりしてもマスコミから批判されることはないのです。時間外労働や社員に過大な営業目標を課すなど非上場の中小企業のほとんどがしていますが(中小企業ですのでそれをしないと生き残れないからです)、上場企業がそれをするとマスコミに面白く記事に書かれ、世間から批判されます。

従い、時間総額が数百億規模、特に200~300億円を下回るような小型銘柄の企業には、MOBをおすすめします。MOBをすると株主はプレミアムを乗せた価格で保有株式を売却でき、経営陣及び株主ともに大きなメリットがあるかと思います。

議決権不適切集計が連日報道 ー アクティビストの指摘が企業統治を改善

連日大きく報道されていますが、三井住友信託銀行株主総会の議決権行使の集計について不適切であった結果を昨日公表し、1,000社で誤りがあり、過去20年間続いていたということです。

本日の日経新聞1面では、みずほ信託銀行も不適切な集計があったことが掲載されています。議決権の集計事務において、三井住友信託のグループ会社である日本株主データサービスに委託しており、この会社が集計作業を誤っていたので、みずほ信託も不適切な集計をしていたということです。

先日のブログでも記載しましたが、決議取り消しの訴えを不適切集計のあった企業の株主が提起しようとしても、行使期限が切れているほか、そもそも軽微な瑕疵として裁判所により裁量棄却されますので、株主は法的な対応を求めることは出来ません。1990年代後半頃であれば、総会屋が大騒ぎをする事件ですが、現在は総会屋はいませんので、結果として、本件報道を受けて企業としては大きく慌てる必要はないと思います。ただし、総会の議決権行使結果は臨時報告書で開示しているので、その数値に誤差があったということで何らかの対応は必要かも知れませんが、大問題というものではないかと思います。

法的な知識が乏しい総務担当役員などは、今回の問題を受けて「大変だ」「顧問弁護士に相談しなければ」ということで大慌てするのも必ずいるかと思いますが、このあたりの本質をきっちりと理解しておく必要があります。

この問題の背景は、6月末に総会が集中するため、事務処理が膨大なことにありますので、問題の解決として今後は総会の電子化や総会の分散が進むように思います。分散が進むとこれまで以上に多くの株主が総会に出席することになるので、企業は十分な総会対策をする必要が出てきます。

この問題は東芝の株主であるアクティビストが指摘したことが契機になっています。先日、経産省が公表した事業再編に関する実務指針においても、「企業はアクティビストの提案や指摘を真摯に受け止めるべき」ということが明記されています。今回の企業統治の根幹を揺るがしかねない問題はアクティビストが指摘したことが契機となっており今後、アクティビストを肯定する流れが益々強まるかも知れません。アクティビストが今回指摘をしなかったら、この不適切な集計が今後も続いたのでしょうが、それをアクティビストが止めたということです。

企業はアクティビスト対策(敵対的買収対策ではありません)を真剣に考える必要があるかも知れません。

TOB(株式公開買付)のポイント解説 - DCMによる島忠へのTOBのケースを想定して

昨日は祝日でしたが、私は1日中オフィスで仕事をしていましたが、本日はその代わりに1日年休を取得して(一定日数の年休消化の義務もあり)、近い将来の副業開始の諸々の準備と投資候補銘柄の情報収集・整理を淡々としています。

さて、先日、DCMによる島忠へのTOB報道をブログで掲載しましたが、DCMが次のとおり、9月18日にプレスリリースを出していました。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/3050/tdnet/1884206/00.pdf

「様々なM&Aの可能性を検討している」ということですので、TOBも予定どおり実施されるのでしょうが、島忠の本日の株価は、前日比+502円の3,380円でストップ高です。TOBでのプレミアムがつくことを市場が期待してのことです。ここで2点、TOBについて留意点を記載します。

まずは、TOBのプレミアムはどの程度が相場でしょうか?伊藤忠商事によるファミマへのTOBでファミマがプレスリリースに記載していますが、2010年以降に発表された非公開化を目的とした買付規模が500億円以上のTOBにおけるプレミアムの水準は、次のとおりとなっています。

  • 公表日の前営業日比36.9%
  • 直近1ヶ月間の終値単純平均比39.2%
  • 直近3ヶ月間の終値単純平均比39.0%
  • 直近6ヶ月間の終値単純平均比36.8%

要するに、40%近いプレミアムが乗るということです。島忠の個人株主の方はDCMによるTOBの公表が大変待ち遠しいかと思います。このプレミアムを下回るTOB価格をDCMが提示した場合、島忠の株式を保有するアクティビストが騒ぎ出し、結果、TOB価格が引き上げられる可能性もあります。

次に、TOBで留意すべきべきポイントは、TOBでの取得予定株数です。DCMが島忠の上場を維持したいと考える場合、TOBでの取得株数の上限は50%程度になると思います。とすると、TOBでの取得予定株数である50%を超える応募があった場合、DCMは応募株式の全部を取得する義務はないということになります。仮に10,000株を保有する島忠の株主が、TOBに応募しても全株をDCMが取得してくれない場合もあるということです。

TOBの報道があった時点でまた触れたいと思います。

丹青社(9743)の第2四半期決算説明会のQ&A

先日、空間ディスプレイの丹青社(9743)の第四半期決算発表について次のとおりブログで掲載いたしました。

http://keieikikaku.hatenablog.com/entry/2020/09/12/090538

その後、同社の決算説明会のQ&Aが公表されました。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/9743/announcement/60970/00.pdf

「 足元の受注環境は、リーマンショック時と比べてどうか」との質問に対しては、「緊急事態宣言等により受注活動は一時停滞した時期もあり、価格競争が激しくなっている分野も出てきている。しかしながら、経済活動に再開の動きがみられることから、新型コロナウイルス感染症の収束時期にもよるが、リーマンショック時と比べると受注の戻りは早いのではないかと見ている。」とのことのようです。

本日から新型コロナに伴うイベント開催の制限が緩和されますので、今後は回復を期待したいと思います。

TOBとなると島忠(8184)の株価は更なる上昇が期待できますー海外のアクティビストが島忠株を保有しています

9月18日に四季報の秋号が出ました。私の場合は四季報オンラインを利用しているので、本日は保有銘柄のアップデート作業をしています。

さて、本日の日経新聞にホームセンターのDCMホールディングス(3050)が島忠(8184)に対するTOBを検討している旨の記事がありました。

両社が正式に公表したものではないので、この手の記事に対してはお決まりの「正式に決まったものではない」というコメントが出ていますが、数日後に正式に公表されるのが常ですので、TOBは確実に実施されるのでしょう。

このTOBは島忠の取締役会の同意を得た友好的なTOBであるのか、それともコロワイド大戸屋に対するTOBのような敵対的TOBであるのか不明ですが、新聞記事の書きぶりからすると友好的な印象を受けます。

TOBとなると現在の島忠の株価にプレミアムが乗ることになりますが、島忠の昨日9月18日の終値は2,878円でした。島忠の直近の有報では、外国人株主が37.3%保有しており、金融機関29.2%、個人23.2%などとなっています。ご存じの方も多いと思いますが、島忠にはアクティビストが投資しており、香港のオアシスマネジメントが6%近くを保有しています。

となると、今後のTOB価格はそれなりのプレミアムが乗ると思います。仮にプレミアムが低くても、アクティビストがTOBに応じず揉めて、TOBの後にTOB価格アップをDCMは打ち出すようなことも考えられます。DCMにとってはそれなりの資金の準備が必要になりますが、島忠の株主にとっては、保有株式が高値で売却できる絶好の機会です。

NHKでも本件は報道されたようですが、報道時間は昨日の16時過ぎで、株式市場が閉まった後ですので、昨日の島忠の株価には.変動はありませんでしたが、先ほど島忠のPTS株価を見たところ3,378円(前日比+500円)と大きく上昇しています。

週明け月曜日には島忠の株価は大きく上昇します。島忠の個人株主の方は、500円も株価が上昇すれば売却したい衝動に駆られると思いますが、TOBの際のプレミアムが仮に40%とすると、昨日の終値をベースにすると4,000円になります。TOBでは過去数ヵ月平均の株価をベースに算定されるのが常ですので、ベース株価は昨日の終値というわけではないですが、いずれにせよ3,378円以上の価格でのTOBがある可能性が高いと言えます。

島忠の個人株主の方は、ここは売りたい衝動を抑え、もう少し保有継続というスタンスが良いのだと思います。本件、株価の行方も含め、ウォッチしていきたいと思います。

個人投資家のための投資先銘柄の役員報酬の見方

本日の日経新聞で「役員報酬開示 なお限定的」との記事がありました。改正で役員報酬の開示を拡充する企業が増えたが、開示のレベル感に差があるということです。

役員報酬の開示についは、2018年度以降の有価証券報告書(有報)から開示が大きく変わりました。前にもブログで書いたことがありますが、開示項目の充実が求められ、その内容は次のとおりです。観点としては、報酬プログラム、報酬実績と業績との関連性、報酬決定プロセスです。

  • 業績連動報酬と業績連動報酬以外の報酬の支給割合の決定方針(方針を定めているとき)の開示
  • 業績連動報酬にかかる指標と当該指標の選定理由、支給額の決定方法の開示
  • 最近事業年度の業績連動報酬にかかる指標(KPI)の目標及び実績
  • 「報酬の決定に関する方針」の決定権限を有する者の氏名・名称、権限の内容・裁量範囲
  • 「報酬の決定に関する方針」の決定に関与する任意の報酬委員会等が存在する場合における手続の概要

ポイントは、世の中の動向にあわせて業績連動報酬を採用する企業が増えてきたが、その内容が抽象的なケースが多いので、何に連動するのかの指標を開示すること、その指標との連動の結果を開示せよということであるかと思います。

新聞報道によれば、好事例として、三菱商事セガサミーホールディングがあげられています。これ以外にも好事例とされている企業例は実は結構あり、これについては、金融庁が有報開示の好事例集を次のURLのとおり公表しています。これによれば、味の素、三菱UFJ日本電産伊藤忠商事などがあげられています。

金融庁 https://www.fsa.go.jp/news/r1/singi/20191220.html

なお、海外では、報酬について相当に詳細な開示をするケースも多く、報酬は投資家にとっての大きな関心事項です。米国では経営トップが巨額の数十億円という報酬を得るケースも多く、それだけ報酬制度に投資家の関心が高くなるのは当然と言えば当然かも知れません。

個人投資家の方は、自社の投資先銘柄の有価証券報告書を一度読んでみて、「役員の報酬は固定報酬だけになっていないか?」(固定報酬だけはダメなケースです)、「業績連動の割合はどの程度か?」「業績連動の指標は何を採用しいるのか?」「本年の指標と業績の連動は適切であるか?」という視点からじっくり読み、読んだだけではわからない場合、その開示は不親切ということですので、企業のIR部門に質問をするとよいかも知れません。

東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドが業績不振を理由に役員報酬の削減をするようですが、オリエンタルランド有価証券報告書の報酬設計なども眺めて見るとよいかも知れません。

89歳で上場企業の取締役はNGか?-株主総会での賛成率を見て判断しましょう  

先日の日経新聞ウシオ電機の創業社長であった牛尾治朗という人が取締役を退任したという記事がありました。

ウシオ電機は牛尾氏の創業した企業として勿論社名は知っていましたが、私の保有銘柄でもないので、財務や役員状況は全く知りませんでしたが、2019年度の有価証券報告書を見ると、この方は、1964年に社長に就任して以来、長年に亘って取締役をされていたようです。

とすると、普通に考えると「老害の極み」のように思う方も多いと思います。この方の息子さん(1968年生まれ)が取締役をしており、一方、社長はサラリーマンです。創業オーナーとその息子の役員の前では、サラリーマン社長は、ヒラの取締役と実質においては同じ立場ですので、コーポレートガバナンス上の問題などは一切言えなかったのだろうとサラリーマンの方であれば普通に想像すると思います。

では、89歳の取締役に対して株主はどう見ていたのでしょうか。株主がどう判断したかは、株主総会での取締役選任議案での賛成率を見て判断することになります。

EDINETでウシオ電機の臨時報告書を見れば分かりますが、2020年のウシオ電機株主総会での取締役の各人別の賛成率が掲載されており、牛尾治朗の賛成率は92.50%となっています。つまり、多くの株主の賛同を得て選任されています。

同社の2020年3月末の株主構成を見ると、外国人(=海外機関投資家)が32%です。そして、安定株主比率も高くはないようです。安定株主(安定株主とは会社議案に無条件で賛成する属性の株主)比率が高くない中、多くの株主から賛同を得て選任されていることになります。つまり、89歳という高齢で取締役に就任することに対して、ウシオ電機ステークホルダーは「何ら問題なし」と判断したと言えます。

ではなぜでしょうか。創業オーナーとしてやはり取締役会への貢献があったのだと思います。そして、それを機関投資家とのエンゲージメントで説明して機関投資家が納得していたのだと思います。機関投資家は議決権行使基準で取締役の在任期間が長期にわたる場合(オーナーの場合と思います)には反対方針とするところも多いのですが、合理的な説明がつけば必ずしも行使基準から形式的に判断するだけではないと言えます。

そのためには、会社サイドとしては、機関投資家とのエンゲージメントであったり、取締役会での議論の状況などの積極的な開示に努めることが重要と思います。

空間ディスプレイ銘柄の丹青社(9743)が第2四半期決算を発表

本日も毎週の習慣にしている今週1週間の保有銘柄などの株価の動きの分析、新聞等での周辺情報の整理をしています。昨日、空間ディスプレイ銘柄の丹青社(9743)の2020年度の第2四半期決算と通期の業績見通しの公表がありましたので、これについて触れたいと思います。

丹精社は、私の保有銘柄の1つですが、以前にブログで次のように空間ディスプレイ銘柄は買い推奨ということを書かせていただきました。http://keieikikaku.hatenablog.com/entry/2020/08/09/190347

1月期決算のため2月~7月期の決算発表となりますが、①5月-7月の3ヵ月(Q2) ②2月ー7月期の1H(「ワンハーフ」といい、6ヵ月の意味です) ③通期(予想)のそれぞれの売上高、営業利益及び経常利益について前年同期との増減を比較すると次のとおりになります(Q2の数値自体は決算短信には書かれていないので、計算する必要があります)。

  • 売上高  Q2 +  6.5% 1H:+   0.1%  通期:-13.6%
  • 営業利益 Q2 +141.0% 1H:+38.2% 通期:-34.8%
  • 経常利益 Q2 +142.5% 1H:+36.4% 通期:-35.3%

Q1は売上高は前年同期比で5%減でしたが、Q2はプラスとなっています。ただし、通期見通しは、前年比でマイナスとなっています。コロナの第2波、第3波の可能性もあるので、下期の見通しを厳し目に見ているのだと思います。

ここで、同業を見る必要があります。同業大手は、乃村工藝社(9716)ですが、9月10日に通期の業績見通しを公表しましたが、前年度比で売上高は-16.5%、営業利益は-55%でしたが、翌日の株価を見ると+37円の806円となっています。市場は、見通しを保守的と受けとめているのか、今期は厳しくても来期以降に期待しているように思います。

丹青社の株価は1月21日(株式市場がコロナを意識しはじめた日)より前は1,300円でしたが、昨日の終値は747円です。日経平均が16,000円になった3月19日時点は557円でした。

コロナにも世間は徐々に慣れてきており、東京五輪も中止はないような意見も出ています。大阪万博も控えています。空間ディスプレイ銘柄は今後確実に上昇が見込まれる気がします。まだバーゲン価格である今が買い増しをする絶好のチャンスと思います(丹精社はネットキャッシュの状態にあり、財務は健全です)。

個人株主の株式保有額は300万円未満が6割 – これでは株式投資でのリターンは期待できないはずです

株式投資をしていて、一体世の中の個人投資家は、どの程度の金額を株式投資に費やしているのだろうかと前々から思っていましたが、先日、たまたまこれが分かる資料を見つけました。

日本証券業協会が出しているレポートで「個人投資家の証券投資に関する意識調査報告書」(2019年2月)です。全国の個人投資家で20 歳以上の5,000 人を対象に調査をした結果が細かく書かれています。次のような内容になっています。

  • 年齢は 70歳以上が 3割近い(27.8%)。60 代が 2 割強(23.8%)。過半数(51.6%)を 60 代以上が占める
  • 株式保有額は、「100~300 万円未満」が 22.0%と最も多く、「300 万円未満」が約 6 割(60.1%)を占める。 推計の平均保有額は 660万円で、前回調査の 683 万円から若干減少
  • 保有株式の種類は、国内の証券取引所に上場されている国内株が 95.8%
  • 金融に関する教育を「受けたことがある」が 10.2%、「受けたと思うが、あまり覚えていない」(6.4%) を合わせると、合計は 16.6%。前回調査とほぼ同様。
  • 金融に関する知識は、問題の難易度が高くなるにつれて正答率が落ち、3問目「金利が上がったら、通常、債券価格は下がる」の正答率は 49.3%

 ここから分かることは、個人投資家には60代以上の高齢者が多く、しかも、彼らは、金融教育を受けておらず、詳しいことが分からないまま投資をしている素人ということです。ここまでは予想どおりです。投資をしていながら、「金利が上がったら、通常、債券価格は下がる」の正答率はが49.3%とは、どれだけレベルがいかに低いか分かります。おおかた株式雑誌を見て、「チャートから見てこの銘柄が期待大!」「今後伸びるテーマ!」という記事を見て株式を購入しているのだと思います。

私が気にしていた個人投資家の株式保有額ですが300万円未満が6割を占めているということです。「たったこれだけの金額で投資しているの?」とかなり驚きました。

300万円でも1銘柄に限定して集中投資すれば株価の値上がりで、一定の儲けは期待できますが、恐らく300万円で株式投資をしている方は、金融知識や財務会計知識もなく投資をしているので、何となく「株価が下った時が怖い」と考え、1銘柄当たり数百株程度で分散投資をしているケースが多いのだろうと想像します。

とすると当然のことながら、株価が値上がりしても保有株数が小さいので、儲けは小さいということです。もちろん株価が下った時のリスクも小さいですが。株価800円の株式を400株購入したとします(32万円の投資)、これですと株価が仮に300円上がっても12万円の儲けしかありません(売却したとして税金を引くと10万円程度です。)。一方、株価800円の株式を4,000株購入(320万円の投資)すると株価が300円上がると120万円の儲けです。

私の場合、株式投資をはじめた当初は、企業の財務会計も全くわかっておらず、200株、300株でちょこちょこ買っており、株価が上がっても投資金額が少ないので、全然儲けになりませんでした。その後、投資の考えを変えて分散投資では、貧乏人は貧乏人のままに終わるなと思い直した次第です。

富裕層(金融資産1億円以上)でない一般人は投資金額が小さいので、分散投資をすると株価が上がっても儲けが出ないということになりますが、では、一般人である個人投資家はどうすべきかですが、利益を上げるには、①投資する絶対金額を増やす②分散投資をやめ、銘柄数を絞り1銘柄当たりの投資金額を増やすということになります。

今は東証が投資単位を引き下げているので100株でも株式は購入できますが、これは東証が、個人株主の投資を促進するため1990年代後半に投資単位を引き下げたためであり、私が社会人になった時は1,000株が投資単位でした。株価500円の銘柄を買うとすると最低50万円が必要だったのです。

株式投資をするということは、最低1,000株がマーケットの本来の考えと言えます。私など当然ですが、富裕層では全くないので、投資金額に限界がありますが、1,000株が投資の最低ラインと考えています(800円であれば最低80万円の投資)。望ましいのは、1銘柄5,000株以上の投資、理想は1万株超なのだろうと強く思います。となると、おのずと投資銘柄は中低位株となります。

ただ、1,000株を超えると、銘柄が大きく売られ、株価が下るとそれなりに結構大きな含み損が出るので、かなり気が滅入ることもあるかと思います。が、そこは自分が分析をして投資をした銘柄ですので、銘柄を信じ、株価が下がった時は絶好のチャンスと考え、買い増す精神力が投資には必要なのだろうと思います。

学習塾関連銘柄の成長の基本視点 - 「私の課長時代」の早稲田アカデミー社長の記事より

本日の日経平均株価終値は23,274円で前日比+184円と好調です。私の保有銘柄も株価は上昇トレンドにありますが、1月21日前の時点の株価を下回っている保有銘柄もまだ多く、上昇トレンドの中、買い増しをするチャンスの終盤かなと考えたりしています。

さて、今回は、本日付けの日経新聞に「私の課長時代」ということで学習塾の早稲田アカデミーの社長の記事がありましたが、この社長が学習塾の成長のポイントとして、次のことをあげていますので紹介します。

  • 学習塾は無形サービスで講師など人材が全て。良い授業を提供すれば生徒が集まるが、そのためには優れた人材を採用し育てる必要がある
  • 授業の質を高めるべく、講師を集めて模擬授業を繰り返し、仲間同士で切磋琢磨できる雰囲気つくりを心がけた
  • 塾の目玉になるカリキュラムを作成した。早稲田実業中学の合格実績でナンバー1になることを掲げた
  • 学習塾の運営で大切なのは教室の空気。講師が熱を伝えることが重要になる

受験をしてきた社会人の方は、塾や予備校で授業を受けたことがあるかと思います。上に掲げたことは、自身の子供時代を思いだすと、いずれも「その通り」と感じることばかりだと思います。

学習塾はサービス業ですので、サービスを提供する講師がいかに顧客の満足度を高めるかが重要であり、そのためには、塾がサービスを提供する講師の満足度をあげる取り組みをしていく必要があります。この典型が東京ディズニーランドと言われています。

学習塾関連銘柄の成長性を考える場合、その企業(学習塾)が講師の育成にいかに力を入れているかが中長期での成長のポイントになりますので、その点に注目して銘柄を探すと良いかも知れません。この観点からは、東京個別指導学院は期待できる銘柄のように私は考えています。

書籍紹介「NO.1アナリストがいつも使っている投資指標の本当の見方」(日本経済新聞出版社) - 株式投資指標の整理にかなりお薦めです

前回に続いて株式投資関係の書籍を1冊紹介します。週末にブックオフに行き3冊ほど書籍を購入したのですが、その中の1冊がこの本です(時々私が週末に車で行くブックオフは大型店で、10年以上前の色々なジャンルの良書もおいてあり、結構気にいってます)。

さて、この本は、2015年5月に出版されたもので、著者は吉野貴晶氏という方(1965年生まれ)で、大和証券チーフクオンツアナリストで日経ヴェリタス人気アナリストランキング・クオンツ部門で2002年から2015年まで連続1位を獲得している方のようです。

投資指標ということで、ROE、PER、PBRといったお決まりの投資指標が書かれていますが、それぞれの指標について、投資銘柄を選別するという視点から一歩掘り下げて解説がされています。

世に出ている投資指標の本は、指標の単純説明ばかりで、どういう局面でどの数値を用いて、どのように活用すればよいのかが一切触れていないケースがかなり多いかと思います。特に大学教授、公認会計士あたりが書いた本にその傾向が強いです。

基本的な例でいうとPERの分母の利益には、「当期利益を使います」という程度の財務会計を勉強した大学生でも分かるような解説で終わり、「予想数値を使う必要はないの?」「税引後経常利益の数値を使わないでよいの?」などの銘柄スクリーニングをする際に一番知りたい点が一切触れられていないケースが多いです。

その理由は簡単で、大学教授、公認会計士などは株式投資という目線で企業を分析するプロではなく、つまり投資の素人であり、教科書的なことは言えるものの(私でもすらすら言えます)、株価を踏まえた実務に踏み込んでの厚みのある説明が全く出来ないのです。ゆえに、個人投資家の初心者から見ても、とてもうすっぺらい内容の本が多いのです。

しかし、この本は株式投資実務で使えるよう必要最低限のことが分かりやすく書かれています。著名なアナリストが書いているから当然と言えば当然とも言えますが。株価の割安度を判断する指標の例にPERと株価キャッシュフロー倍率がありますが、PERをより重視すべき理由であったり、株価キャッシュフロー倍率を使う場合のキャッシュフローはいつ時点のものを使うのかなどが整理でき、読んだ後にすっきりしました。

投資指標にある程度精通して株式投資をしている方であれば、1時間から1時間30分もあれば、全部読めるかと思います。

プロの投資家である運用会社の方には百も承知のことばかりでしょうが、そうでない方、例えば上場企業のIR部門の部長の方(私の経験上、商社やメガバンク等の金融系を除き、製造業や小売りなどの一般事業会社のIR部長は、営業出身の方も結構多く、このようなバックグランの方は投資指標などを理解されていない人がとても多い)や個人投資家の方にお薦めの本かと思います。

書評「村上世彰、高校生に投資を教える」(角川書店 / 村上世彰)

前回の投資に関する本に続いて、先週、この書籍が本屋で目にとまりましたので、購入しました。著者は、有名な村上ファンド村上世彰氏です。

大きな企業で勤務しているような社会人の方であれば、著者のことを知らない人の方が少ないと思いますが、東京大学法学部を卒業、経済産業省で官僚としてコーポレートガバナンスの普及などに従事した後、独立して村上ファンドを設立した方です。最近では、芝浦機械へのTOBで久しぶりにマスコミの注目を浴びましたが、過去には物言う株主として、投資先企業に様々な提案をしてきました(今でも、自己資金で色々と水面下で物言う株主の活動をしています)。

著者は「生涯投資家」という書籍を数年前に出しており、過去の昭栄や東京スタイルに対する敵対的TOBの背景などが書かれており、興味深い内容でしたが、今回の書籍はタイトルのとおり高校生に「株式投資とは何か?」を教える内容になっています。

財務を理解して株式投資をしている方には、初歩的な事項ばかりで「こんな初歩的なこと知っているよ」ということで、あえて購入するまでの必要はないと思いますが、株式投資をしたことのない社会人の方には、一読の価値がある書籍と思います。

ROE、PERといった極めて初歩的な用語の解説から、投資の基本的姿勢が素人向けに書かれています。株式投資を全くやったことがないという社会人の方も世の中には意外に多く(こういう方は、資産数億円以上の富裕層でもない限り、投資に無縁の状況でどうやって資産を増やすつもりなのか疑問ではあります)、投資を考えるのに最初に読むのに良い本だと思います。

書籍の後半では、日本では金融教育がされておらず、結果、金融リテラシーの乏しい社会人が多くなっていることが問題と書いてありました。私の経験上、株式投資に詳しい方は、経済情勢を良く理解していると思われる方が多い印象を持ちます。理由は単純で、経済情勢や個別企業(業界)の業績に精通しないと投資で金儲けが出来ないため必然的にこの手の情報に精通するということです。

おそらく高校生の頃から、「金融」「株式投資」といったことについて真剣に教育の場で教える(高校の学校教員は金融リテラシーはゼロですから、投資家(運用会社)が講師となり学校で教えるのでしょう)ことが、日本の資本市場の発展には重要なのだと思います。

金融や株式投資などの金融リテラシーのあるお父さんまたはお母さんのご家庭であれば、高校生や大学生のお子さんにこの本を買ってあげて、読んだ後、家族で株式投資のについて会話をするとお子さんの金融知識の教育にもなるかなと思いました。

東証が少数株主保護の在り方等に関する中間整理を公表 - 今後は上場子会社の上場廃止が着実に増えるので、個人投資家には大きなチャンス

本日の日経平均株価終値は23,465円で前日比+218円とコロナ前の水準を上回りました。新型コロナ用ワクチンの開発期待、景気や企業業績の改善の期待が背景にありますが、今後は株価の上昇トレンドにあるように思います。

さて、昨日の日経新聞東証の少数株主保護の研究会が中間提言を公表した旨の記事がありました。東証は9月1日付で「支配株主及び実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社における少数株主保護の在り方等に関する中間整理」を公表しています。

東証は、 従属上場会社における少数株主(=親会社以外の株主ということです)の保護の在り方等に関する研究会を設置し、1月から8月までの合計4回にわたり、支配株主・実質的な支配力を持つ株主(支配的な株主)と少数株主との間の利害調整の在り方、投資家が安心して投資に参加するために必要な少数株主保護の枠組み等について議論をしてきましたが、今回、中間整理の報告ということです。

少数株主をどのように保護するかの詳細は、今後、研究会で議論して決めていくということですが、中間整理では、今後の検討すべき論点として、情報開示、手続き、ガバナンスの3つがあげられており、簡単に内容について触れますと次のとおりです。

  • 情報開示:親会社等の支配株主における少数株主利益への配慮を促し、少数株主や投資者の予見可能性を高めるとともに十分な情報に基づいた投資判断のできる環境を整備していく
  • 手続き:支配株主が上場子会社の上場廃止を目的としたTOBを行う際の少数株主保護の枠組みについて検討を継続する
  • ガバナンス:独立社外取締役の選任等について今後研究していく

いずれの項目もまだまだ抽象的で、具体的内容は今後研究会で議論、決定していくことになっていますが、この中で情報開示について、少し補足します。中間整理の中では、上場子会社の持株比率の維持や買増し、株式の売り渡しに関する事項等について親会社と子会社で合意している事項の開示、上場子会社の運営の考えや方針の開示を求めていくようです。親会社にとって開示の負担が増えます。

上場子会社は、海外の機関投資家が理解できない日本の制度であり、そのような中で、こういう開示が義務化されると、合理的な説明が出来ない場合、親会社は、アクティビストや資本市場関係者から色々と指摘を受ける可能性が今後出てきます。ということを考えると、上場子会社の非上場化は今後確実に加速する方向にあると思います。

上場子会社をなくそうというのは、東証に限らず、経済産業省金融庁の意向であり、国の考えに反して上場を維持し続けるというのは、なかなか難しいかと思います。TOBとなると市場株価に30~40%のプレミアムを乗せて株式を売却できるのですから個人株主の方にとっては絶好のチャンスですね。

私の場合、上場子会社銘柄では、東京個別指導学院(4745)、ジオスター(5282)、パスコ(9232)を持っていますが、これらの親会社であるベネッセホールディング、日本製鉄、セコムが遠くない将来にこれらの銘柄の上場廃止をしてくれることをひそかに期待しています。

そういえば、中間整理の報告書の最後のページにこの研究会のメンバーの所属と氏名が記載されていますが、民間では、日本製鉄の取締役がメンバーになっています。研究会のメンバーですので、自社の上場子会社をどうするかなど今後検討していく可能性もあるように想像します。日本製鉄の子会社のジオスター(5282)は低位株(本日の終値325円 / 時価総額102億円)ですので、将来に期待して買い進めておく意義があるかも知れません。