中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

MBO(上場廃止)のすすめ

日経新聞朝刊の「私の履歴書」に引越会社のアートコーポレーション名誉会長の寺田千代乃さんが現在掲載されています。寺田会長は一代でアートコーポレーションを創業された方で、オーナー社長経験者の書く履歴書は大変面白く、寺田会長の記事も毎回読んでいます。

寺田会長の話の中で、MOBの話がありました。私は知りませんでしたが、アートコーポは過去に上場していたようですが、途中でMBOで上場廃止をし、その理由について寺田会長が書いています。ポイントをあげると次のような内容です。

  1. 新規事業として保育事業を考えたが、機関投資家から収益性という点で好感されなかった。IR説明会では、会社の将来を長い目で見て頂くのは難しいと思うことが多かった
  2. 上場後、幹部や社員が夢を語らなくなった。予算で少し背伸びをしたような数字が上がってこない。大きな目標を掲げて皆で走っていくという雰囲気が薄れた
  3. 株式市場での資金調達はしていない
  4. 上場で会社の社会的信用や就職人気に大きな変化があったわけでない
  5. 上場維持の費用はかさむ

以上が上場廃止の理由として書かれています。大変参考になるかと思います。今、東証の上場区分の見直しの議論が進んでいます。東証1部に相当するプライム市場は、たしか時価総額100億円以上とするが100億円なくとも現在の東証1部上場企業はプライム市場に残れるというような方向かと思いますが、この機会に時価総額の小さい企業は、上場廃止を真剣に検討してもよいのではないかと私は思います。

「上場する意義は?」と問われると上場で社会的信用や良い学生を採用できるということをあげる上場会社は多いです。しかし、寺田会長の話では、上記4のとおり大きな変化はないということです。

ミレニアム世代やその後に続く世代の方は、必ずしも上場の有無で会社を選ぶことはないように思います。勿論、メガバンク三菱商事三井物産という一部の超一流企業には、東大、京大、一橋大出身の頭脳の優秀な学生が競って入るでしょうが、それ以外の上場企業を選ぶ多くの一般大学の学生は、必ずしも上場という点のみにこだわることはないのだと思います。特に、時価総額が数百億円以下の小さい上場企業に限定すると、上場であることが偏差値の高い優秀な大学生を集めるのに有利かと言えば、それほど有利ではないように思います。

一方、上場のデメリットは上記5のとおり、上場維持のコストがばかにならないという点です。上場維持するということは、経理部門、IR部門、総会担当部門などを充実させる必要があり、相当の人件費がかかっています。

決算数値の集計などは将来はAIが代替する典型的な単純業務に過ぎないのですが、完全にAIが代替するのはまだ当分先であり、現在は、四半期決算のたびに経理の多くの方が手作業で集計マシーンと化し、決算をこなしているかと思います。しかし、これは完全に季節労働ですので、四半期決算が終わるとその後は暫く暇という状態になります。現在では、多くの上場企業の経理部は、四半期決算が過ぎるとテレワークとする方がかなり増えているのだと思います。これは、決算が終わった後は仕事がないので、テレワーク推奨ということもあり、会社でパソコンを開いて仕事をするふりをするのではなく、自宅で過ごしているのです。IR部門なども同様の季節労働かと思います。

このような実情に鑑みると、時価総額の小さい上場企業は上場を廃止してはいかがでしょうか。上場廃止すれば、アクティビストが出現して株式を取得して、経営陣に「ROEを向上させよ」「事業ポートフォリオを考え直せ」「株価をあげろ」などと難癖をつけられ、面倒な対応をする必要はゼロになり、また、世間を気にせず、自由に経営が出来るのです。

上場廃止しても最低の法規制は遵守する必要が勿論ありますが、上場していると「お行儀良く」する必要がありますが、上場廃止すれば「お行儀」など気にせず、世間から批判されることもないのです。社員にチェレンジブルな過大な収益目標を課したりしてもマスコミから批判されることはないのです。時間外労働や社員に過大な営業目標を課すなど非上場の中小企業のほとんどがしていますが(中小企業ですのでそれをしないと生き残れないからです)、上場企業がそれをするとマスコミに面白く記事に書かれ、世間から批判されます。

従い、時間総額が数百億規模、特に200~300億円を下回るような小型銘柄の企業には、MOBをおすすめします。MOBをすると株主はプレミアムを乗せた価格で保有株式を売却でき、経営陣及び株主ともに大きなメリットがあるかと思います。