中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

本には書かれていない株主提案への実務対応の考え方➀ ー 株主提案って何?

上場企業では株主提案の数がここ数年で大きく増えているかと思います。けど、株主提案って何?という方も多いと思います。会社法などの本を読むとつらつらと文章が書いてありますが、読みにくいですよね。それに会社法の本は法的なことが細かく書かれていますが(当然ですが)、実務についてほとんど記載がないのが企業の実務担当者の悩みかと思います。特に、これまで株主提案の経験のない企業の担当者は不安なことも多いと思います。

ついては、今回から、書籍に書かれていない事項を中心に株主提案の実務について記載したいと思います。なお、会社法に書かれている細かい法的な事項には触れず、コーポレートガバナンス、資本市場の観点を踏まえての実務の考え方を大きな観点から書いていきますので、その前提でお読み頂ければと思います。

まずは、株主提案とは何でしょうか?簡単に言いますと、株主提案とは株主が会社に対して、株主総会の議題を提案する権利です。つまり、自分が保有する会社の株主総会で「取締役A氏を候補者に選任せよ」「定款の一部変更をせよ」というような権利です。では、誰でも言えるのでしょうか。例えば、会社の株を100株買った方がいて、この方が提案できるのかということです。

結論はNOですね。それが出来たら、100株程度しか保有していない「面倒な個人株主」が気の向くままに自由に提案をして、会社が困ってしまいますよね。総会の時期に面倒な個人株主から膨大な株主提案があったりして、総会実務担当者は徹夜が続き、倒れてしまうなんてことがおきます。

まず要件ですが、株数の要件があります。総株主の議決権の1%以上の議決権、または300個以上の議決権を持つことです。1単位100株の企業が多いかと思いますので、株数でいうと30,000株ですね。株主提案の対応には会社はコスト(人件費や招集通知の作成、法律事務所の起用など)がかかるので、提案をする株主もそれなりの株数を持つ株主に限定したということかと思います。

とはいえ、30,000株とはハードルは低いですよね。株価の低い企業であれば30,000株程度を保有する個人株主も当然いると思いますし、そもそも機関投資家は普通に30,000株以上は有するところです。株価が500円とすると30,000株を取得するには1,500万円あれば足ります。1銘柄に1,500万円は、お金に少し余裕のある個人であれば比較的容易に買える金額と思います。他にも6カ月前から有することも必要です。

では、この株主提案が出来る株主が出現した場合、会社はどうすればよいでしょうか?面倒な個人株主であったり、アクティビストが出現したケースです。ここは次回説明をしたいと思います。

政策保有株式の縮減は企業にとって困るのでしょうか?

10月16日の日本経済新聞に政策保有株式に関して次の記事が掲載されていました。

政策保有株の売却2.3兆円、東証再編で最大に 22年3月期: 日本経済新聞

2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、上場企業各社では政策保有株式の縮減が進んでいるところかと思いますが、一方、そろそろ「岩盤かな」と考えている企業も多いかと思います。「岩盤」=「これ以上は縮減が困難」という意味です。はじめて聞いたという方は、是非、覚えておくと良い言葉かと思います。

政策保有株式の縮減において企業が懸念することは何でしょうか?それは安定株主が減るということです。けど、これは本当に懸念すべきことなのでしょうか?

株主が企業に投票するのは、通常は年1回の定時株主総会の時ですね。この定時株主総会に上程される議案の賛成率はどの程度かといいますと、各社によって異なりますが、概ね80%台から90%台であることが一般的かと思います。高い賛成率ですね。

賛成率が高い理由としては、機関投資家は基本的には会社提案議案に賛成するということがあります。機関投資家は議決権行使基準を有しており、この基準に抵触しない限りは賛成票を投じます(海外機関投資家の場合には、議決権行使助言会社の推奨基準をそのまま採用するケースもあり)。そして、この機関投資家の議決権行使基準は基本的に緩いのです。これをしっかりと理解しておく必要があります。

例えば上場企業には、ROE8%以上が伊藤レポートで求められていますが、機関投資家が総会議案に反対をするのは、ROE5%未満が過去数年続くといった例外的な場合です。そもそも、その企業の経営方針であったり、将来性に期待して投資をしているのですから、反対するのが例外的なわけですね。

ということを考えますと、安定株主が存在しないことで株主総会の議案が否決されるというリスクは、現実にはかなり低いのです。会社が普通に利益を出す事業運営をしている状態においては、安定株主などいなくても困らないのであり、であれば政策保有株式の縮減などどんどん進めてよいように思います。

そうしないとアクティビストに目をつけられ、急遽、政策保有株式の売却を加速し、その売却代金の全額を株主還元せざるを得ないといった事態に陥るリスクがあります。普段から縮減を進めていれば、売却資金を設備投資等に利用できたのに、急遽アクティビストにつつかれ、結果、アクティビストに株主還元する羽目になってしまうのです。

安定株主などに頼ることなく、機関投資家や個人株主の賛同を得られる経営を行うことに注力した方がよいと思います。それが今の時代の上場企業の経営のあるべき姿かと思います。

社外取締役のメッセージの発信はどういう態様が良いでしょうか?

本日はブログの文字の形態を変えてみました。他の方のブログを見ると、太字に黄色やピンクのハイライトが付されており、見やすいなと前から思っていたので、ネットでやり方を調べて変えてみました。これまでは、強調すべき箇所は太字だけでしたが、太字の箇所に蛍光ラインが付いているかと思います。けど、PCやiPadから見るとたしかにそのように表示されるのですが、何故かiPoneから見ると蛍光ラインが表示されず。別の方法があるのかも知れません。

さて、前回、社外取のメッセージの発信が重要であることを書きましたが、このメッセージをどのような態様で統合報告書等で発信すればよいでしょうか?

まず普通に考えられるのは、各社外取のメッセージをそれぞれ掲載するということがあります。社外取のA氏、B氏、C氏がそれぞれ独立したメッセージを掲載します。けど、これはあまり好ましくないように思います。この場合、お決まりの言葉が並ぶことが多く、本音が見えてこないケースが多いからです。

そこで、お薦めは複数の社外取の座談会形式です。先ほどのA氏、B氏、C氏が座談会形式で語る態様です。これに座談会の様子の写真を加えます。身振り、手振りを交えて議論が白熱している写真であることが重要です。これにより、本音で意見交換をしている様子が見てとれます。

社外取以外に経営トップなどの社内取締役が座談会に参加している会社の統合報告書も時々見ますが、個人的には、社内の人は登壇しない方が良いような気がします。経営トップなどが座談会に参加すると、その方に遠慮して社外取は発言内容を選択しているような印象を与えてしまいます。

また、例えば、コーポレートガバナンスに精通した専門家や大学教授が司会として座談会に参加する統合報告書もたまに目にします。しかし、これも、個人的な意見になりますが、社内のことが良く分からない人が司会に入ると、議論がどうしても形式的な印象を与えるような気がします。「コーポレートガバナンスのあるべき姿とは・・」といった学問的な議論に流れる印象を受けます。司会の方が社内のことに精通していないのがその理由です。

このように、複数の社外取での座談会形式でのメッセージの発信が機関投資家にアピールする上では望ましい気がします。

社外取締役からのメッセージを機関投資家は期待しています!

先日、敵対的買収における社外取締役(以下、社外取といいます)の役割について書きましたが、今回も引き続き、社外取について書きたいと思います。

その前に1つ。「ブログの文章をがかたいですね」「専門的な知識がないと難しいところが時々ある」という指摘が私のブログを見ている知り合いの方からありましたので、今回から、ブログの文章を平易かつ少し砕けた内容にします。ので、ブログをご覧になられている方で(大変ありがたいことです)、コーポレートガバナンスに関心があるが勉強を開始したばかりのお知り合いの方などがいらっしゃれば、是非ともこのブログを紹介頂ければ幸いです。話の性質上、真面目かつお堅い文章の場合もありますが、市販の本には書かれていない実務や新聞記事について、なるべく分かりやすい解説をすることを心掛けるつもりです。

さて、本題ですが、皆さんの企業では社外取との面談を求める機関投資家は増えておりますでしょうか? 「ウチはそんな声は聞いたことはない」という企業もあるかも知れませんが、この数年、社外取との面談を求める機関投資家は増えています

理由は単純で機関投資家としては、自分たち少数株主の利益の代弁者である社外取の意見を聞きたいのです。というと少し難しく聞こえますが、ひらたく言うと、会社について社外取が思うところの率直な意見を聞きたいということです。何故、社内取締役(社内取といいますね)の意見では駄目なのでしょうか?

社内取は会社からの報酬(報酬と言うとコンサルタントのようにカッコいいイメージがありますが、お給料のことです)が生活の糧ですので、自分と家族の生活を守るため、属する会社の悪口を馬鹿正直に外に言う人はいないかと思います。そもそもそういう自由人は、いくら上司にゴマをすり、出世してきたとしても、さすがに取締役にはなれないでしょう(まあ、取締役と言っても総合商社やメガバングなどのエリートが沢山いる超一流企業と、そうでない大多数の企業の取締役には色々な観点で非常に大きな開きがあるので、一概には言えませんが)。社長を除く取締役は、従業員とは法的に身分が異なりますが、所詮は、意識においては、部長クラスと同じく上司の顔色をうかがい生活をするサラリーマンに過ぎません。少し言葉は悪いですが。

自分の生殺与奪権、つまり1年でクビになるかどうかは上司である社長が握っているのですから、会社のことを投資家ごときに馬鹿正直に語った日には「こいつは駄目だ」ということで1年後にクビです。任期途中に解任すると会社のイメージが非常に悪いので、「クビ=1年の任期終了で再任されない」ということです。

なお、今の時代は社長が人事権を持つのではなく、指名委員会だという意見の方もいると思います。けど、指名委員会に社長が委員に入っている企業は多く、仮に社外取のみで委員会が構成されるとしても、会社のことを詳しく知らない社外取が取締役候補者を一から決めることなどまずあり得ず、社長がドラフトを作成して、それを指名委員会が追認するというケースが多いのではないでしょうか。これは私の想像ですが。

そこで、社外取の出番となります。社外取の出番は多いですね。会社から独立した立場で、客観的な意見が言えるわけです。つまり社長をトップとしたサラリーマン組織のピラミッドから外れた立場にあるので、バイアスがかからず率直な意見を言えるということです。また、社外取は、細かい実務をするわけではなく、中長期の戦略策定であったり、戦略の進捗をモニタリングしたり、社内取とは違う視点で意見を言うことが期待されています。そのあたりの本音を投資家は聞きたいというところかと思います。

「実は当社は戦略が弱いんだよ」「戦略の進捗管理が出来ていなくてね」といった本音を聞きたいということです。投資家が「社外取と面談させてくれ」「面談においては、社内の人は同席しないでいいから」ということになります。社内の人が出ると社外取の本音が聞けない可能性が大だからです。社外取が調子に乗って、何かヤバいことを話す様子が見て取れた時には、社内の方が「えーと、その点は私から説明いたします!」となる訳です。

けど、問題は社外取の方々は、忙しい人が多いということです(暇な人もいるのかも知れませんが)。他の仕事もあるわけですから、ちょくちょく面談が出来ないということが多いかと思います。また、忙しくなくても、社外取を面談に出すと、自由におしゃべりをされるリスクがあるとも言えます。そこで、社外取との面談に代わるのが、開示媒体、つまり統合報告書などで社外取のメッセージを発信することです。

では、どういう形式でメッセージを発信すればよいでしょうか?つまり、機関投資家が関心を持つにはどういう様式でメッセージを発信すればよいのかです。少し長くなりましたので、これは週末に書きます(本日はこれから某投資先企業のIR部門に質問のメールを書く作業に入ります)。

敵対的買収において社外取締役の持つべき視点

昨日の日経新聞朝刊の社説に「企業は敵対的買収から逃げず価値向上」というタイトルの次の記事が掲載されていました。

[社説]企業は敵対的買収から逃げず価値向上を: 日本経済新聞

最近は敵対的買収の案件が増えており、新聞記事にも書かれているとおり経営戦略の1つとして定着してきた感があります。数年前には考えられませんでした。この敵対的買収において企業の取締役会はどういう判断をすべきでしょうか?

買収をされると経営陣がクビになるので、自分たちを守るために、有事型の買収防衛策等で排除したいという気持ちになるでしょう。サマリーマンの夢である取締役として、自分の働く会社の中においては「偉い人」になれたわけですので、その地位を守りたいという考えも当然と言えば当然です。

しかし、取締役は会社に対して忠実義務・善管注意義務を負っており、自身のサラリーマンとしての利益よりも、委託関係にある会社(委任者)の利益を優先させるべき立場にあるのです。ここを十分に理解する必要があります。とすれば、取締役は敵対的買収についても企業価値向上の観点から判断すべきという結論になるのです。

しかし、前述のとおり社内取締役はサラリーマンの憧れのポストである取締役の地位に固執したいので、冷静な判断はまずできません。いかに敵対的買収者を排除するかという視点しか持てません。

そこで登場するのが社外取締役です。社外取締役は少数株主の利益の代表者の立場にあるのです。従って、公正中立な第三者的な立場から、敵対的買収を冷静に判断し、それが企業価値向上に資する場合には敵対的買収を促進するよう社内取締役を説得するようなことが必要になります。これが機関投資家から期待されているのです。社外取締役には独立性が必要と言われますが、それはこういった敵対的買収の際に求められるのだと思います。とすると皆さんの社外取締役の方は、こういう判断が出来る人で構成されているでしょうか?企業価値を向上できる布陣となっているか自社の取締役会の構成をあらためて考えることが大事かと思います。

【株式投資】久しぶりに訪日外国人数を確認しました

本日は久しぶりに訪日外国人の数のデータを確認しました。最近、通勤途中で山手線内で外国人を時々見かけるようになり、外国人の数がどの程度増えているのかと少し気になり調べてみました。訪日外国人と言えば、日本観光局がデータを公表していますね。

https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/20220921_monthly.pdf

22年8月が直近の数値ですが、訪⽇外客数は169,800人と5ヵ月連続で10万人を上回ったようですね。けど、コロナ前の2019年8月の数値は2,520,134人ですので、コロナ前との比較では低迷したままですね。訪日外国人が大きく増えないのは、日本での半強制的なマスクのせいだと思います。多くの方もそう考えているかと思います。

休日に外を歩いていてもマスクを着けている人がかなり多いのですが、空気感染をしないのに、かつ人と触れ合う距離でもないのに、何故に未だに日本人はマスクを着けているのでしょうかね?人の目を人一倍気にする、横並び意識強い日本人の特徴ですね。

100年後の日本の小中学生の社会の教科書には、「海外と比べて、コロナ感染者が圧倒的に日本では少ないのに、人々は人の目を気にして、外を出た瞬間にマスクを着用して日々を過ごした」ということがマスク着用した写真と一緒に掲載され、それを見た100年後の日本の子供たちは、「100年前は医療知識が乏しかったんだね」として現代の我々は、確実に嘲笑されるのだと思います。

本来であれば円安なので、訪日外国人が増えてよいところなので、いい加減にマスク生活とはおさらばした方が、外国人観光客を増やし、日本経済発展のために大事かと。

飲み会では、密集した空間でマスクを外して、大きな声でサラリーマンは会話をしているのに、飲み屋を一歩出た瞬間、いそいそとマスクを着けて道を歩く姿を見ますが、これはどう考えてもおかしいのでは?

中小型株の上場企業の企業統治の規律 ー 個人投資家の出番です!

本日は、経済産業省が本年7月19日に公表した改訂CGSガイドラインを読み込みました。多くの企業の来年6月の定時株主総会での株主提案を考え、9月はアクティビスト(物言う株主)が株式を取得する時期かと思います。そして、10月以降は、投資先企業をじっくりと分析を開始することになるかと思いますが、その際にこのCGSガイドラインはアクティビストの武器の1つになります。個人投資家の方も自分の投資先企業への株主提案、質問をする材料としてこのガイドラインをしっかりと読む込むと良いと思います。次回から、ブログではCGSガイドラインの改訂のポイントを複数回にわたり非常に分かり易く説明をして行きたいと思います。

さて、本日は新聞記事を1つ紹介します。10月3日の日経新聞に掲載の「企業統治の論点(下)」です。

成長につながる規律 必須 企業統治の論点 :日本経済新聞

中小型株の上場企業経営者の企業統治改革が進んでいない理由が分かりやすく掲載されている点が興味深いです。中小型株は機関投資家の投資の対象外であり、資本市場からの資金調達は難しいも、上場しているため金融機関からの資金調達が容易であり、機関投資家のモニタリングは緩やかで、最低限の議決権行使基準を充たせば足るといった趣旨で。私も全くそのとおりと前から考えていました。

中小型株の企業はコーポレートガバナンスを真剣に考えている企業は少ない印象を持ちます。万年、割安株状態の中で株価を向上させようとする強い意思が感じられないケースが非常に多いです。資本市場からの資金調達の予定がないにもかかわらず、新卒学生の採用や社員のプライドのためだけに上場している中小型企業は多いのが現実です。うるさい機関投資家が株主にいないので、コーポレートガバナンス・コードや株価向上にもほとんど関心を払っていません。この手の企業はIR開示にも消極的であったります。こんな企業が上場していることは問題かなと思います。「規律が乱れている」状態と言えます。

だからこそ、中小型株の企業には、個人投資家コーポレートガバナンスに精通して、機関投資家に代わって企業統治の改善・改革を促すことが大事になります。そうすることで、投資先企業の中長期的な企業価値が期待できます。

個人投資家の皆さんは、しっかりとコーポレートガバナンス・コードを読み込み、各原則・補充原則の内容と趣旨を一度じっくりと勉強されるとよいかと思います。自分の強みを高めることになります。その上で、株主として、投資先企業のIR部門に質問・提案をする、株主総会に出席して議長に質問をするなどのアクションをとるべきと思います。そうすることで、投資先企業のコーポレートガバナンスが改善され、中長期での企業価値が向上していくはずです。

来年の株主総会に向けての準備 ー 機関投資家が議決権行使基準の例外扱いをするには?

今週は後半が非常に慌しい1週間でした。前半は暇だったのですが、後半からかなり忙しくなり、あっという間でした。20代の頃に最初の勤務先で商事法務を担当、株主総会事務を3年程度経験したことがありますが、あの当時は4月下旬から6月下旬まで連日、退社時間が夜11時を過ぎ(その後に直属の上司と2人で軽く飲んだりして)、また、午前0時過ぎまでオフィスで仕事をしたりすることも多々あり、その場合にはタクシーチケットで西新宿から首都高で帰宅していましたが(オフィスが西新宿の某超高層ビルの50階でした。夜にオフィスの会議室から見る夜景が少しだけ疲れを癒したものです。懐かしい・・)、あの当時は1日、1週間が非常に短く感じた記憶があります。「もう1週間が終わり?」という感覚です。当時のような忙しさは、若くはないので今は耐えられないですが、いずれにせよ忙しいということは、充実しているということなのだと思います。

さて、どうでもよい前置きが長くなりましたが、前回の続きです。「機関投資家がROE等の業績基準に基づき、経営トップの取締役選任議案に反対することになりそうだ」というときにどうすべきかということですが、基本的に抵触する場合、賛成を得るのは困難ですが例外もあります。そのためには、まず機関投資家の議決権行使の流れから考えます。

機関投資家は、議決権行使基準で投資先企業をスクリーニングします。例えばROE5%未満が2年続く投資先企業を機械的にリストアップするわけです。そして、次にその企業について、今後の業績予想や業績低迷の理由などを担当のアナリストに確認します。「ここ2年ROEが低迷しているけど、この先どんな感じ?」といったようなイメージかと。そして、アナリストの意見も踏まえて、最終的に反対する否かを決定するわけです。全ての機関投資家がこのようにやっているかは何とも言えませんが、機関投資家の方の話を聞くと、概ねこのような判断をしているようです。

とすると、企業の今期の業績予想であったり、今後の見通しが肝になるわけです。例えば、この企業は最近はROEが低迷しているが、これから上向くということをアナリストや責任投資部の方が判断すれば、例外的に議決権行使で賛成とする可能性もゼロではないということです。

では企業がすべきこと何かといいますと、アナリストが前向きの心証を持つように今後の自社の事業展開、業績の大きな動きなどを非財務情報を交えて、詳しく説明することにつきるではないでしょうか。勿論、文章で開示するということもあるかとは思いますが、文章での開示は詳細は難しく、またそもそも文章では伝わりにくいところもあります。従い、機関投資家と対話、つまりエンゲージメントで十分に説明したり、深い意見交換をすることが大事になります。勿論、通常のIR取材もとても大事です。

ただ、注意すべきは、機関投資家もアセットオーナーに対する説明義務があるわけですから、議決権行使基準の例外的扱いをする場合は限定されると思います。そもそも議決権行使基準は、機関投資家が企業に求めるミニマムの要請であり、それをクリアーしていない企業を救うわけですから、かなり例外になることは当然です。ということで、来年の株主総会に向けた準備をする上で、企業によっては、下期において機関投資家との取材、対話に中長期の戦略の話を交えて、丁寧な説明が大事になります。

個人投資家の方も、機関投資家の議決権行使基準を見て、自分の投資先企業の株主総会で賛否をどうすべきか考えてみるとよいかなと思います。「プロの機関投資家はこういう視点で投資先企業の経営陣の適格性を判断しているのか」などコーポレートガバナンスの視点の力が養われると思います。

個人投資家の方で、機関投資家の議決権行使基準について勉強したい、自分の投資先企業の議決権行使をどう考えたらよいのかなどの素朴な疑問などあれば、是非ご連絡頂ければと思います。私も全部理解しているわけではないですが、自分の知識と経験の範囲内でアドバイスをさせて頂ければと思います。

来年の株主総会に向けての準備 ー 低ROE企業の経営トップに機関投資家は反対します

多くの上場企業は、来年の株主総会の準備を12月又は年明け頃から開始をするのだと思いますが、本日は来年の総会に向けての準備という視点から機関投資家の議決権行使について記事を書きます。

機関投資家株主総会で議決権行使をする際、当然ですが議決権行使基準に従います。議決権を行使する中でも重要なのは、経営トップの選任議案に対する議決権行使かと思います。この際に「反対」するということは、その会社の経営トップは不適任という意思表明していることを意味します。まずは、企業はここを明確に意識する必要があります。機関投資家は、企業の株式を数万株から数百万株を保有していますが、これは投資先企業の経営に賛同している、すなわち経営の舵取りをしている経営トップを信頼して船の進む方向に満足しているから保有しているとも言えます。従って、機関投資家が経営の舵取りを行う経営トップに反対するということは、一大事なわけです。

では、どういう場合に機関投資家は反対するのかといいますと、機関投資家によって基準に違いはあるのですが、業績不振が3年連続かつ業種で下位にある場合には、反対する傾向が強いと言えます。業績不振とはROE5%未満ということが多いです。ROEが単年度で5%を下回ることは許されても、さすがに3期連続は許されないというのが機関投資家のスタンスです。国内の機関投資家の議決権行使基準は、各社のホームページで詳細が開示されているので、ご確認頂ければと思います。

機関投資家は、資金の出し手であるアセットオーナーから委託を受けて資金の運用をしており、アセットオーナーに対して説明責任があります。業績がいつまでも改善しない企業に投資するとアセットオーナーに「どうしてそんな企業に投資しているの?」「経営トップに反対してトップの交代を促すべきでは」と言われるわけですね。

けど、私は機関投資家は画一的な判断をしている傾向が強い印象を受けます。機関投資家は中長期視点で投資をするわけですので、企業としては、もう少し長期で見て欲しいというのが正直なところかと思います。特に2020年度はコロナ禍で大打撃を受けた企業も多く、最近ではウクライナ問題もありインフレにより利益が毀損しているなど、企業の自助努力では何とも出来ないところもあるかと思います。そういう個別事情を考慮して欲しいというところです。数値で画一的に判断されるとなると、業績が悪くてもなんとかROEを改善しようとして、配当増や自己株式取得をせざるを得なくなるわけです。

では、企業としては、ROEの低迷が続く場合、どうすればよいでしょうか?機関投資家が賛成してくれることはないのでしょうか?続きは次回、紹介したいと思います。

【中長期株式投資】投資家「人的資本」見極め ー けど人材投資は昔からやっています

中長期での株式投資の視点として気になる新聞記事を取り上げて行きます。本日の日経新聞の記事になります。

〈人への投資 開示始動〉(下)投資家「人的資本」見極め: 日本経済新聞

最近、機関投資家と会話をすると人的資本への関心も昨年と比べて高まってきているとは感じますが、一方、まだまだ手探りという感も強いです。「企業は人なり」とは昔から言われている言葉であり、企業は人的資本への投資は昔から実施しているところかと思います。

だから、個人的には人的資本の充実など今更何故?と思います。難しく考える必要はなく、20年前に比べて転職に抵抗のない若手が多い今の世の中で、優秀な人材に企業で長きにわたり働いてもらい、企業業績の向上に資するためには、従業員のモチベーションを如何に高める労働環境にしているかということだと多います。

そして、モチベーションを高めるということは、自分の仕事にやりがいを感じることに他なりません。やりがいが高いと企業の業績が高まるというのは至極当然かなと思います。というシンプルなことを考えておけばよいのではないでしょうか。

ところで従業員意識調査で従業員の「働きやすい」という評価が高い企業は、投資先としては注意する必要があるかも知れません。「働きやすい」=「ストレスがない」ということだと思いますが、ストレスのない会社が従業員のモチベーションを高めるということとは違うと思います。

【株式投資】原子力政策に関する政府の検討状況

先日、「決戦 株主総会 LIXIL死闘の8ヵ月」(文藝春秋)という本を買いました。少し前になりますが、LIXILで創業家と雇われ社長が争った内容がドキュメントで書かれており、これが面白いです。まだ途中ですが、コーポレートガバナンス上の問題やお家騒動の経緯などが細かく記載されております。

さて、本日は、簡単な情報を1つ紹介します。

原子力放射性廃棄物関連で日本の原発政策の情報には注視しているところで、数日前の日経新聞にも政府が原発の利用促進に向けて動きだすといった記事がありました。ベースになっているのは、経済産業省総合資源エネルギー調査会原子力小委員会の議論かと思います。直近ですと9月22日に開催されており、資料は次のとおりです。

この会議は、議論の様子も視聴でき、先日2時間かけて聞きました。資料の内容をコンパクトに説明してあり、また委員からの意見も出ていますので、資料を一から読むよりも先に視聴した方が短時間で理解が進むかも知れません。

事前警告型の買収防衛策を廃止する際のポイント(その2)

前回、9月4日に「その1」の記事を書いてから時間が経ってしまいましたが、本日は続きを書きたいと思います。なお、前回の記事は次のとおりです。

前回、いざという時のために、有事導入型の買収防衛策をきっちりと社内で議論・整理した上で廃止することが大事だと書きました。「有事の時に法律事務所を使えばいいので、今はプレスリリースにうたっておけばいいや」は駄目ですということです。というか、廃止する企業でなくともこれだけアクティビストの動きが活発であったり、事業会社の敵対的買収が普通になっている時代ですので、全ての上場企業が検討すべき事項であるのですが。

では、有事型の準備以外に廃止する際に注意すべきことは何でしょうか? それは、廃止後に機関投資家との非財務情報の対話を継続して実施することだと思います。「なんだそんなことか」「そんなのはIRが決算説明会をやっているよ」「IR取材を受けている」といった意見をお持ちの方が多いかと思います。

それはそれで勿論大事ですが、大事なのは、通期決算の今期見通しを語るのではなく、3年以上の期間での自社の中長期な企業価値向上成の施策を機関投資家と議論することであり、それが非財務情報の対話です。

敵対的買収が起きた時には、短期保有機関投資家は買収価格が市場より高い場合には直ぐに売却します。この場合でも保有を継続してくれる、つまり会社をサポートする株主は誰かというと中長期保有機関投資家になります。ちなみに、現状、個人投資家は中長期保有の「投資家」ではなく「投機家」(=企業の財務など理解しないまま株を少額で買ってる人々)です(この個人投資家の方々に、コーポレートガバナンス等も理解頂きたくて、私はブログやツイッターで記事を書いています)。

機関投資家に中長期保有の投資家となって貰うには、彼らが中長期でも株式保有を継続したいという意思を持たせることが必要です。そのためには、先ほどの3年を超える期間での自社の企業価値向上に向けた取り組みについて会話をすることが大事になるわけです。1~3年は中期経営計画期間ですので、この中期経営計画を超える期間での持続的成長かつ中長期での企業価値向上を語ることが大事です。この対話を継続して、会社の理解を深めてもらうことで、有事の際には会社をサポートして貰うのです。

この際、対話に参加する企業サイドの人は経営トップ又はこれに極めて近いポジションの役員の方であることが大事です。常務クラスの役員では駄目です。「なんちゃって役員」の執行役員(=法的な役員でない)、それ以下のIR部長などの部長クラスは100%論外でNGです。だって企業の中長期の話をするわけですので、その方針を決める責任者である経営トップに語ってもらいたいと機関投資家は考えています。担当役員や部長クラスで足る業績説明や通常のIR取材とは次元が違います。

かなり前にも非財務情報情報に関する機関投資家との対話のすすめのような記事を書いたことがありますが、この対話がつくづく大事かなと感じます。私も4~5年前には、対話って何をやるのだろうかと手探りでしたが、最近はこの非財務の対話の重要性をあらためて感じます。

「中小型株に仕込みの秋」 ー 時価総額1000億円以下の企業は万一に備える必要あります

今週は連日忙しく、ブログの記事の十分な更新ができませんでした。経産省のCGSガイドラインのポイント解説と事前警告型の買収防衛策を廃止する際のポイントの続きの記事を書く予定でしたが、投資先企業のIR部門とのメール交信での質疑応答で時間がとられてしまいました。ちなみに、この企業はIR部門の方が毎回、丁寧なメール回答をしてくれており、こういう対応をして頂ける企業には、個人投資家としては中長期で株式を保有して応援したい気持ちが強くなります。一方、2週間以上も回答をくれない某空間ディスプレイ銘柄の企業もありますが。

さて、昨日の日経新聞に次の記事が掲載されていました。

中小型株に「仕込みの秋」: 日本経済新聞

アクティビスト(物言う株主)が株主提案をするためには6カ月以上前から継続して一定数の株式を保有する必要があり、6月末総会の場合、10月中下旬が株式取得のリミットで、実際は時間的余裕をもって進めるため、9月中に株式を取得するアクティビストが多いという内容です。

アクティビストがターゲットにするのは、日本企業の場合、株式時価総額100億円~1000億円クラスが過半数を占めます。ご存じの方も多いとは思います。

問題はこの規模の企業は、アクティビストに狙われるリスクが大であるにも関わらず、人的リソースが十分でないため、コーポレートガバナンス対応が不十分な状況にあることが多いということです。コーポレートガバナンスを整備しても、直ちに収益に直結するものではないため、そんなことに時間をかけるより、目先の売上を伸ばそうと考えることが多いと思います。けど、それが危険です。

アクティビストに株を取得されると、経営が混乱し、アクティビスト対応にかなりの時間を費やすことになります。であればこそ、平時からコーポレートガバナンス対応をしっかりやっておくことが重要なのです。株主総会対策は10月から始まっていると言ってよいかと思います。

引き続き、ブログでもコーポレートガバナンスについて、上場企業の経営トップやご担当の方に有用な実務家目線での記事を掲載して行きます。まずは、この3連休に、CGSガイドラインのポイント解説と事前警告型の買収防衛策を廃止する際のポイントの記事を書きたいと思います。

【株式投資】自動車生産台数データ の収集

9月16日に四季報データが更新されたこともあり、投資先銘柄の決算情報の整理と各企業の経営環境に係る周辺情報の収集・分析を行っており、その過程で昨日は1社のIR部門にメールで質問しました。

そういえば、投資先銘柄の1つである某銘柄(中小型株)に情報開示のあり方について、ホームページから9月9日にメールで質問をしたのですが、先週は回答がありませんでした。株主の質問の重要性が分かっていないようで、週明けにメールで催促をして、場合によってはIR部門に電話をして「どうなっているの?」と質問する予定です。要は、この銘柄は株主総会の様子などを動画拝見していますが、総会動画などは投資家にとってあまり意味はなく、投資家にとって一番大事な決算説明の動画を配信していないため、今後は「配信を検討してはいかがか?」ということをIR部門に注文したわけです。この銘柄は、検討題材の1社として、諸々開示情報を分析して、コーポレートガバナンス・コードに照らして、少し理論的な提案をしてみたいと思います。

さて、前置きがだいぶ長くなりましたが、久しぶりに株式投資に関連する情報をブログで紹介します。私の投資銘柄の1つに国内の自動車の生産台数の影響を受ける銘柄があり(自動車産業は裾野が広いですね)、自動車生産台数を時々確認するのですが、有用なデータとして以下があります。  https://www.marklines.com/ja/

自動車メーカー、自動車部品メーカー等の自動車関連業界にいる方には、とても有名な会社かと思います。有料データだとより詳細なデータの提供を受けられるのですが、無料の範囲でも一定程度は有用なデータが拾えるかと思います。個人投資家には十分かと思います

また、自工会もデータを公表しています。

JAMA - データベース

これらのデータをもとに、あとは投資先企業に質問をすれば、自分なりに自動車業界の動向が整理できるように思います。大きなマクロレベルの情報は自分で収集して、そこから先の詳しい情報は投資先企業に直接質問をして収集するというのは、中長期投資の鉄則かなと私は考えています。そうすることで、企業側に「この投資家は勉強しているな?あなどれないな」という印象を与えることが出来ます。

また、トヨタ、日産、ホンダはじめ各自動車メーカーもホームページでグローバルでの自動車の生産・販売台数をエクセルで細かく公表していますので、こちらも有用かと思います。

ジャフコグループとシティインデックスイレブンスの攻防 ー シティの保有割合が増加

今週金曜日は四季報秋号の発売ですね。週末は更新された四季報データを読み込む予定です。先週末から仕事がかなり多忙で、週末に買収防衛策を廃止する企業のポイントの記事を書くことができませんでした。今週は平日は纏まった記事を書く時間がないため、あらためて今週末に記事を書く予定です。

さて、ジャフコですが、シティインデックスイレブンスが大量保有報告を出しており、保有割合が11.78%となったようですね。以下は株探のニュースです。  

ジャフコGについて、シティインデックスイレブンスは保有割合が増加したと報告 [変更報告書No.5] | 株探ニュース

ジャフコは8月15日に有事導入型の導入を取締役会決議し、臨時株主総会を今後開催する可能性があることも公表しています。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/8595/tdnet/2174167/00.pdf

https://ssl4.eir-parts.net/doc/8595/tdnet/2174169/00.pdf

ところで、この後出しジャンケンの有事導入型は完全にプラクティスとして定着しつつありますね。2005年頃の経済産業省企業価値研究会の時代には、有事型などは「もってのほか!」ということで事前警告型が大前提で、それがこの10年以上続いたのですが。

資本市場関係者は自社の投資先企業が敵対的買収となった場合、新株予約権の無償割当を行う、正確にはその時に開催される株主総会で判断し可決された場合に割当を行う、ことは当然のこととして見ているのかも知れません。

一方、事前型も有事型も反対という機関投資家(リソースの小さい機関投資家だったりしますが)もわずかにいますが。最近の有事型の案件増や裁判例を考えると、経済産業省法務省あたり(金融庁も?)が買収防衛指針であったりTOB規制の見直しを検討した方が良いのではないでしょうか? 東京機械製作所最高裁が認めたMOM要件の適用範囲も明確にしないと、有事型を検討する企業も色々と悩ましいところがあるかと思います。そもそも2008年頃の買収防衛ガイドラインは今の現状に鑑みると、どこまで意味を持つのか疑問があるところですし。