中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

来年の株主総会に向けての準備 ー 機関投資家が議決権行使基準の例外扱いをするには?

今週は後半が非常に慌しい1週間でした。前半は暇だったのですが、後半からかなり忙しくなり、あっという間でした。20代の頃に最初の勤務先で商事法務を担当、株主総会事務を3年程度経験したことがありますが、あの当時は4月下旬から6月下旬まで連日、退社時間が夜11時を過ぎ(その後に直属の上司と2人で軽く飲んだりして)、また、午前0時過ぎまでオフィスで仕事をしたりすることも多々あり、その場合にはタクシーチケットで西新宿から首都高で帰宅していましたが(オフィスが西新宿の某超高層ビルの50階でした。夜にオフィスの会議室から見る夜景が少しだけ疲れを癒したものです。懐かしい・・)、あの当時は1日、1週間が非常に短く感じた記憶があります。「もう1週間が終わり?」という感覚です。当時のような忙しさは、若くはないので今は耐えられないですが、いずれにせよ忙しいということは、充実しているということなのだと思います。

さて、どうでもよい前置きが長くなりましたが、前回の続きです。「機関投資家がROE等の業績基準に基づき、経営トップの取締役選任議案に反対することになりそうだ」というときにどうすべきかということですが、基本的に抵触する場合、賛成を得るのは困難ですが例外もあります。そのためには、まず機関投資家の議決権行使の流れから考えます。

機関投資家は、議決権行使基準で投資先企業をスクリーニングします。例えばROE5%未満が2年続く投資先企業を機械的にリストアップするわけです。そして、次にその企業について、今後の業績予想や業績低迷の理由などを担当のアナリストに確認します。「ここ2年ROEが低迷しているけど、この先どんな感じ?」といったようなイメージかと。そして、アナリストの意見も踏まえて、最終的に反対する否かを決定するわけです。全ての機関投資家がこのようにやっているかは何とも言えませんが、機関投資家の方の話を聞くと、概ねこのような判断をしているようです。

とすると、企業の今期の業績予想であったり、今後の見通しが肝になるわけです。例えば、この企業は最近はROEが低迷しているが、これから上向くということをアナリストや責任投資部の方が判断すれば、例外的に議決権行使で賛成とする可能性もゼロではないということです。

では企業がすべきこと何かといいますと、アナリストが前向きの心証を持つように今後の自社の事業展開、業績の大きな動きなどを非財務情報を交えて、詳しく説明することにつきるではないでしょうか。勿論、文章で開示するということもあるかとは思いますが、文章での開示は詳細は難しく、またそもそも文章では伝わりにくいところもあります。従い、機関投資家と対話、つまりエンゲージメントで十分に説明したり、深い意見交換をすることが大事になります。勿論、通常のIR取材もとても大事です。

ただ、注意すべきは、機関投資家もアセットオーナーに対する説明義務があるわけですから、議決権行使基準の例外的扱いをする場合は限定されると思います。そもそも議決権行使基準は、機関投資家が企業に求めるミニマムの要請であり、それをクリアーしていない企業を救うわけですから、かなり例外になることは当然です。ということで、来年の株主総会に向けた準備をする上で、企業によっては、下期において機関投資家との取材、対話に中長期の戦略の話を交えて、丁寧な説明が大事になります。

個人投資家の方も、機関投資家の議決権行使基準を見て、自分の投資先企業の株主総会で賛否をどうすべきか考えてみるとよいかなと思います。「プロの機関投資家はこういう視点で投資先企業の経営陣の適格性を判断しているのか」などコーポレートガバナンスの視点の力が養われると思います。

個人投資家の方で、機関投資家の議決権行使基準について勉強したい、自分の投資先企業の議決権行使をどう考えたらよいのかなどの素朴な疑問などあれば、是非ご連絡頂ければと思います。私も全部理解しているわけではないですが、自分の知識と経験の範囲内でアドバイスをさせて頂ければと思います。