中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

物言う株主(アクティビスト)の視点からのコーポレートガバナンス・コードの読み方(第5回)ー 政策保有株式に対する議決権行使は適切か?

前回(第4回)では、政策保有株式の保有の合理性について物言う株主(アクティビスト)として企業との攻防の際の考え方を説明しました。第4回の記事は最後に再掲しています。

今回は、政策保有株式について物言う株主が指摘する視点として、「①政策保有株式を縮減せよ」「②保有する場合には保有に合理性あることを開示せよ」「③保有する場合、議決権行使基準を策定して、その基準に即した適切な議決権行使をせよ」の3つのうち、3つ目の議決権行使について解説をしたいと思います。

まずコーポレートガバナンス・コードの規定を再度確認します。物言う株主にとっての武器がコードの規定ですので、ここをしっかり認識することが何より大事です。

【原則1-4.政策保有株式】 (途中省略)上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。 

政策保有株式の株主総会の議案について議決権行使をする際には、議決権行使基準を予め策定し、開示した上で、行使基準に即した権利行使、つまり議案への賛成又は反対の行使をせよということを上記のコードはいっています。

ポイントは、議決権行使基準の策定と開示です。政策保有株式の問題の1つは、少数株主の意思が経営に反映されないことにあります。分かりやすくいうと、ある企業の業績が低迷している場合、経営トップは交代して欲しいと思うのが投資家の合理的な意思ですが、政策保有株主が会社提案議案に対しては常に賛成というスタンスでいると少数株主の利益が阻害されることになります。それが問題とされてます。そこで、公正な議決権行使基準を策定せよといっているわけです。

では、どういう議決権行使基準の策定が必要になるのでしょうか?

ここで参考にすべき視点は、機関投資家の議決権行使基準です。各社とも公表しているので一度見て頂きたいのですが、結構細かいです。ROEが過去3年間5%を下回る場合には経営トップに反対する、不祥事のあった企業の経営トップには反対するなどの厳しい議決権行使基準を定めています。政策保有株主は機関投資家ではありませんが、株主の投資したお金を事業の成長に投資するのではなく、株式に投資しているのですから、機関投資家と同じような立場ともいえます。そこで、これに準じた厳しい議決権行使を策定することが本来求められます。

では、多くの事業会社はこの議決権行使基準を制定しているのでしょうか? 答えはNOです。理由は簡単です。投資先企業の株主総会議案に賛成することが当然のことと考えているからです。そりゃそうですよね。政策保有株主=安定株主=会社議案には必ず賛成をする株主という構図が、30年、40年と続いてきたわけですから、反対の議決権行使をするなどというのは企業にとってはこれまで考えられないことでした。だから、コーポレートガバナンス・コードが2018年に改訂されても議決権行使基準を真面目に考える企業は少ないのです。

けど、時代が変わりました。また政策保有株主も自社の株主に対する説明責任もあります。投資先企業の業績が数期にわたって低迷している、今後の挽回策が明確でない、低ROEが継続している、不祥事があったような企業の株式を保有する政策保有株主に対しては、会社提案に反対しなければならない場合も出てくるのです。そこで、物言う株主として、次の4点を投資先企業に質問・追及をするとよいかと思います。

  1. 議決権行使基準を策定しているか
  2. 行使基準の具体的内容を教えて欲しい。特に投資先企業の経営トップの反対基準、株主提案があった場合の株主提案議案への賛成基準はどうなっているか
  3. 議決権行使基準に従い投資先企業に対する議決権行使実績は
  4. 議決権行使の判断に当たってはどのような社内手続きを経ているか

つまり投資先企業に遠慮して、少数株主の利益に反するような不適切な議決権行使はしていませんよねということを企業にちくちく追求するのです。なお、4について補足すると、担当者、つまり経理部長や財務部長クラスあたりの一般社員が単独で判断しているのはマズイです。少なくとも、財務担当取締役が判断に関与していることが必要だと思いますし、更に言えば、やはり議決権行使という企業の意思決定への関与ですので、財務担当取締役も参加する会議体で会社毎にかつ議案毎に議決権行使の意思決定をするということが重要になると思います。上記4つが、物言う株主として投資先企業との攻防の際の視点になります。