中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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政策保有株式の縮減は企業にとって困るのでしょうか?

10月16日の日本経済新聞に政策保有株式に関して次の記事が掲載されていました。

政策保有株の売却2.3兆円、東証再編で最大に 22年3月期: 日本経済新聞

2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、上場企業各社では政策保有株式の縮減が進んでいるところかと思いますが、一方、そろそろ「岩盤かな」と考えている企業も多いかと思います。「岩盤」=「これ以上は縮減が困難」という意味です。はじめて聞いたという方は、是非、覚えておくと良い言葉かと思います。

政策保有株式の縮減において企業が懸念することは何でしょうか?それは安定株主が減るということです。けど、これは本当に懸念すべきことなのでしょうか?

株主が企業に投票するのは、通常は年1回の定時株主総会の時ですね。この定時株主総会に上程される議案の賛成率はどの程度かといいますと、各社によって異なりますが、概ね80%台から90%台であることが一般的かと思います。高い賛成率ですね。

賛成率が高い理由としては、機関投資家は基本的には会社提案議案に賛成するということがあります。機関投資家は議決権行使基準を有しており、この基準に抵触しない限りは賛成票を投じます(海外機関投資家の場合には、議決権行使助言会社の推奨基準をそのまま採用するケースもあり)。そして、この機関投資家の議決権行使基準は基本的に緩いのです。これをしっかりと理解しておく必要があります。

例えば上場企業には、ROE8%以上が伊藤レポートで求められていますが、機関投資家が総会議案に反対をするのは、ROE5%未満が過去数年続くといった例外的な場合です。そもそも、その企業の経営方針であったり、将来性に期待して投資をしているのですから、反対するのが例外的なわけですね。

ということを考えますと、安定株主が存在しないことで株主総会の議案が否決されるというリスクは、現実にはかなり低いのです。会社が普通に利益を出す事業運営をしている状態においては、安定株主などいなくても困らないのであり、であれば政策保有株式の縮減などどんどん進めてよいように思います。

そうしないとアクティビストに目をつけられ、急遽、政策保有株式の売却を加速し、その売却代金の全額を株主還元せざるを得ないといった事態に陥るリスクがあります。普段から縮減を進めていれば、売却資金を設備投資等に利用できたのに、急遽アクティビストにつつかれ、結果、アクティビストに株主還元する羽目になってしまうのです。

安定株主などに頼ることなく、機関投資家や個人株主の賛同を得られる経営を行うことに注力した方がよいと思います。それが今の時代の上場企業の経営のあるべき姿かと思います。