中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

安田倉庫が買収防衛策を継続 ー けど色々と考えると平時型はお薦めできないかな

安田倉庫が平時型の買収防衛策の継続を公表していますね。本年の株主総会で議案を上程するようです。

https://www.yasuda-soko.co.jp/Portals/0/images/info/pdf/info_230508-3.pdf

現行スキームとの大きな変化点としては、次のくだりですね。

本継続に伴い、株主共同の利益の確保・向上の観点から、以下のとおり対抗措置発動の是非に関して株主意思を直接確認することが適切と判断するときには、株主総会で株主の皆様の意思を確認するものとするほか、形式的な語句の修正や文言等を変更しております。
・独立委員会から、対抗措置を発動するか否かにつき株主総会に諮るべきである旨の勧告を受けた場合において、当社取締役会が、株主意思を直接確認することが適切と判断するときには、当社取締役会は、株主総会の招集を決議し、対抗措置発動の是非に関する株主の皆様の意思を確認するものとします。

経産省の公正な買収の在り方の研究会での指針案にも記載されているように、買収防衛策の発動においては、株主総会で株主の賛同を得ることが今後は肝になりますので、安田倉庫はそれを踏まえての修正をされたのかと思います。

平時導入型の買収防衛策について批判は色々とありますが、平時導入型が法的に駄目ということではなく、ようは株主の賛同が得られれば良いわけですので、安田倉庫の株主が賛同をするか否かが全てです。安田倉庫の2022年3月期の有価証券報告書の大株主欄を見ると、相当数の安定株主比率になるような気がするので、株主総会で買収防衛策議案は過半数の株主の賛同を確実に得られるため、継続更新の判断をされたのだと思います。

ちなみに、安定株主とは、会社の議案に対して賛成をする株主のことをいい、取引先や商業銀行等の株主がこれに該当します。安定株主が保有先企業の総会議案に「絶対に反対しないのか?」と言われると断言はできませんが、普通は反対することはまずありません。安定株主が会社提案の総会議案に「反対」をしたら、「反対」をされた企業は社長以下、社内は大騒ぎになるのは必至です。安定株主=総会議案には賛成というのは基本的な構図です。

ところで、安田倉庫のPBRは株探を見ると本日1倍割れであり、また、有価証券報告書で過去のROEの推移を見ると5%を下回っていますね。経産省の研究会の会議でも、「ROEの低い企業が平時型の買収防衛策を導入している企業が多い」という批判が委員から出ています。

ここからは、安田倉庫のことではなく、一般論として話をしますが、安定株主でがっちりと株主陣を固めていれば、企業の業績や経営指標などどうであろうと総会の議案でも何でも可決できますが、問題は物言う株主に一定比率の株式を取得された場合です。

物言う株主コーポレートガバナンスを武器に、企業の課題・弱点を1つずつ指摘して他の機関投資家の賛同を得ながら、投資先企業に圧力をかけてきます。PBR1倍割れ、低ROEの企業で安定株主比率が高かったり、政策保有株式を潤沢に保有している企業、買収防衛策を平時から導入している企業は、物言う株主からの恰好のターゲットです。

物言う株主に指摘される前にリスクとなる材料はつぶしておき、平時から機関投資家の対話を行い、良好な関係を構築しておくのが今後は大事になります。そういう観点から私は事前警告型の買収防衛策などを導入しておくと、将来マズイことになる可能性が高いと思います。機関投資家と対話をすると、保有しているだけでかなりネガティブな意見が出ます。特にROEが低い状況下で平時導入型を保有していると機関投資家から一段に厳しく見られます。これが現状ですから、平時導入型の買収防衛策を保有するということは、企業にとってはリスク(=物言う株主が指摘をするというリスク)を抱えていることと同じかなと私は思います。