中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

【決算説明会資料の読み方】PBR向上に向けた施策の開示 ー 長期の株価向上のためには自社株買いだけでは効果が小です

上場企業各社の通期決算が本格化してきました。東証からの要請である株価向上に向けた施策についても今回の通期決算のタイミングで開示する企業が多いのかなと思っており、自分の仕事とも大いに関係があるので、本日から日経新聞に掲載された主要企業、特に従前より開示に力を入れている企業の決算説明会資料に目を通す予定です。

そのような中、たまたま東亜建設工業が開示した「PBR向上に向けたアクションプラン」資料を目にしました。

https://pdf.irpocket.com/C1885/bU43/CZZy/c0mE.pdf

施策として、次の3つが掲載されています。「①中期経営計画を着実に遂行することで営業利益を伸ばし、ROE8%以上を持続的に堅持する ②自己株式の取得上限を 70 億円に変更することで 11株当たりの価値を更に向上させる ③情報開示を一層充実させ、体制を整備しながらIR活動を強化する」

PBR=ROE×PERですので、肝はROEを向上させることです。ROEを向上させるには、利益率を向上させること、株主資本を減らす(=適正な水準にする)ことがポイントになります。一方、PERを向上させるには、将来の成長戦略を示して市場の理解を得ることがポイントになります。その点からは、上記開示内容は妥当かなとは思います。

企業のPBR改善を目的としたROE向上施策の開示で注意しなければならないのは、自己株式取得(=自社株買い)の効果は中長期では株価向上には響かない可能性が大ということです。自社株買を発表する企業も最近かなり増えており、発表の前後で株価は一時的に大きく上がりますが、数日から数週間もすると株価は元に戻るケースが多いです。これは自社株買いは所詮は一時の施策だからです。増配をすれば別ですが、自社株買いは、来年実施することまでは企業は約束をしていないわけですので。

となると、やはり一番大事なのは、利益率をどう向上させて行くかの具体的な戦略を資本市場に示すことです。そして、IR活動やSR活動を充実させ、投資家への理解の浸透を図ることです。中期経営計画で営業利益率の向上を示す企業は非常に多いのですが、単に示すだけでは駄目です。①中期経営計画を達成するための具体的な戦略・施策の内容、②具体的戦略・施策の現状の進捗の2点を示すことが大事になります。個人投資家・株主の方も投資先企業に対して、この点を質問してみるととよいかと思います。