中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

東証市場区分フォローアップでの委員の意見 ー 株価向上の開示は「創意工夫」が大事です

2月15日に東証の市場区分のフォローアップ会議の第8回会議が開催され、今年の春にPBR1倍を意識した開示のあり方が公表される予定ですが(前回のブログを最後に再掲します)、本日は2月15日の議事録を業務上の必要もあるため、読んでみました。上場企業の株価意識に関して各委員から色々と意見が出ております。議事録は次のとおりですが、この中から参考になる意見をいくつかピックアップします。

https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/follow-up/nlsgeu000006gevo-att/cg27su0000001fjd.pdf

今回の施策は単なる開示要請ではなく、企業行動の抜本的な再考を促すものであるという東証の考え方を誤解のないよう、グリップを利かせた形で伝えることが極めて重要です。更に踏み込んで申し上げれば、企業の財務担当者がトップに忖度して、諫言することを回避する可能性がございますので、トップ経営者にまで届くような、強力かつ丁寧な情報発信が不可欠。加えて、上場企業だけではなく企業を取り巻く投資家、証券会社、コンサルティング会社などにも、東証の考え方を正確にしっかりと伝える取組に細心の注意を払うべき

次はPBR改善の「計画策定・開示」に関する意見になります。

「計画策定・開示」の中で気になる点がございます。「計画策定」、「計画期間」という言葉は硬直的になりがちで、日本流中計のようなイメージがされてしまって、形式的な対応に陥る危険があります。特に、“いつまでに”、“いくら”といったような時間と金額水準の計画が示されがちなのですが、そうした計画は達成が困難で、結果的に未達が続くと市場評価が落ちるといったような悪循環に陥ります。むしろ海外では、ROEやEPSの成長率を何%とするといったような変化率の軌道を示しており、それを継続することが重要となります。こうした変化率の指標はバリュエーションに直結するものであり、投資家も読み取りやすいです。企業がやるべきはこうした変化率の軌道に乗るために、どんな改革をするべきか、何をいつまでに実行するかというアクションを示すこと

 日本企業は中計でもやたらと数値を示しますね。けど3年後の業績数値を示したところで未達に終わるケースも結構多く、かつ、それに対して経営トップが責任をとることもないです。未達の場合の経営トップの責任が明確であれば、数値も意味を持つのですがそうでない限り、数値など参考の意味しかないです。であれば、具体的な数値など示さずとも、成長率等を示すべきという意見はあるところです。次も同じ委員の意見です。

「フォーマット」という言葉は誤解を招く恐れがある表現だと思います。その点、グロース市場で導入されている「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示は非常に良いと思っております。特に、PBR1倍割れというときに、議論がROEと株主資本コストの話に集中しがちで、成長可能性の重要性が見過ごされがちだと感じています。そういった意味でも、グロース市場向けに提示されている内容の開示は有用だと思います。ただし、プライム市場やスタンダード市場の上場会社においては、成熟した旧来のビジネスがあることが多いと思いますので、そうするとグロース市場向け提示されている内容に加えて、サステナビリティの視点も非常に重要であると考えます

フォーマットというのは東証が企業に示すことを考えている株価向上施策に関する開示のフォーマットのことをいいますが、これについては委員各位から否定的な意見が出ています。

「フォーマット」という表現は気を付けたほうが良いと思います。詳細なテンプレートを示す形になると要請自体の意味がなくなる恐れがあり、上場会社が自主的にしっかり考えるような促し方をしていくことが大事だと考えます。また、業界が横並びで同じような開示を出してくることも非常に危惧しております。こうしたことが無いように、しっかりと取締役会で考えて開示するということが大事だと考えております。数値に過度にコミットすると、却って自社株買いや配当などの短期的な対応に走る会社が出てくることが懸念されます。そうしたことが無いように、しっかりと要請の意味することを伝えていく、例えばアクションにコミットして、その進捗を取締役会でしっかり確認のうえ、開示していくことが大事

次はそもそも企業は成長戦略を示せという意見です。もっともかと思います。

基本的に素案に賛成します。そのうえで、いくつか申し上げたいと思いますが、日本株がなぜ割安なのかと考えたときに、海外の投資家からすれば、成長のイメージがないということなのではないかと思っています。あくまでも長期的に成長していくという前提のもとで資本効率や収益性を求めていくというストーリーを打ち出していただかないと投資家には響かないのではないか、単純に効率性を追求するというだけでは駄目なのではないか、と思っています

これ以外にも色々と意見が出ています。いずれにせよ、ボイラープレートのような開示は避ける必要があります。開示となると「他社はどうしている?」ということを未だに気にする企業の担当者は多いと思います。私のまわりでもそういう声をたまに聞きますが、そういう意見ばかり気にする担当者は、かなり能力・意識の欠落する人が多いかなと思っています。そんな開示姿勢でいると今後はアクティビストや物言う株主の恰好のターゲットになり、市場も全く評価しないと思います。特にPBR1倍割れ企業こそ開示に創意工夫が必須と思います(昔、伊丹十三監督の「マルサの女2」で地上げ屋三國連太郎)が配下のヤクザに「創意工夫が大事」と喝を入れているシーンがあり、それ以来、この創意工夫という言葉は私は大好きです)。