最近機関投資家と会話をすると、依然として政策保有株式の縮減の継続を求める声が強いと感じますが、その一方で、なかなか難しいという理解もしてきている印象を一部受けます。
2018年にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、政策保有株式の縮減が規定され、この数年間で企業各社の縮減が進んだのは事実です。けどその一方で、完全な解消は難しいのだとこの3年を見て思います。
通常のビジネスと株式取得はセットではないことは分かりますが、一方で、日本では何十年と長年の商慣習としてそれが継続されてきたのです。いわば、「株式の保有は取引の一部を構成する」とも言えるのです。
それをこの数年間でその商慣習をなくせということ自体が少々無理があるのです。企業間の商慣習の現場の実務は、機関投資家にはなかなか肌感覚として理解して頂くのも難しいのだと思います。事業会社の企画部門や財務部門は、商売の現場を知らない人も多いので、あっさりと「縮減すればよいでしょう」という意見を言う人もいますが、交渉をするのは現場、つまり、営業部門が先方の調達部門に伝えるのです。
長年の商慣習でやっているところで、かつ商売も順調に進んでいるところに、マイナスになる要因は出来るだけ除きたいというのが担当者の本音です。調達部門の方が政策保有株式の縮減に関する世の中の動きを十分に理解していれば、話は違うかも知れませんが、理解されていない方の方が多いのではないでしょうか?
「日本企業は遠慮の精神が強いのが問題」ということをある機関投資家の方が本で言っていましたが、商売をするということは、必ずしも全て単純かつ合理的に進むべきものではなく、遠慮の精神が必要なのです。だから、一律に取引と株式保有は別次元の話であるので、縮減を一気に進めよというのは少々無理があるのです。
とは言え、世の中も変わり、また政策保有株式を潤沢に持つというのは資産効率の点からも問題とは言えます。また、縮減を進めないと機関投資家から評価されず、株価が低迷し、結果、買収リスクも出てくるとも言えます。ので、ある程度までは縮減を進め、諸々の事情があって削減が出来ない企業は保有を継続し、その代わりに、有報で保有目的についてより一歩踏み込んだ開示にするというのが企業のとるべき施策のように私は感じます。つまり、岩盤まではなるべく縮減を進め、岩盤にたどり着いた後は、その岩盤が必要な理由を正々堂々と開示するのです。
ひとまず純資産の10%を下回る水準まで保有の削減を目指すといったところでしょうか。そうすれば、保有していても、株主総会で取締役選任議案で経営トップに反対という事態は避けられると思います。