中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえた個人株主のアクティビズムの可能性(2)

今回より、個人株主の株主アクティビズムに関して、改訂コーポレートガバナンス・コード(改訂CGコード)との関係について検討をはじめたいと思います。

まずは、今回の改訂CGコードにおいては、14の原則及び補充原則の修正・新設がされていますが、該当する内容を要約すると次のとおりになります。

1 政策保有株式の縮減方針の開示

2 取締役会での政策保有株式の個別銘柄の検証及び検証結果の開示

3 政策保有株式の議決権行使基準の具体内容の開示

4 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮

5 後継者計画に対する取締役会の関与・監督

6 経営陣の報酬について客観性・透明性ある手続による具体的報酬額の決定

7 CEOの選任・解任手続の整備

8 任意の指名・報酬委員会等の設置活用

9 十分な人数の社外取締役の選任

10 ジェンダーや国際性の面を含む取締役会の構成

11 資本コストの的確な意識の上での経営戦略の策定

12   事業ポートフォリオの見直し、設備投資、R&D投資等を含む経営資源の配分

上記の中で、まずは、投資先企業に対して、一番主張しやすいのは、政策保有株式関係の1~3の事項になります。

政策保有株式とは、バランスシート上の固定資産の中、「投資その他資産」にある投資有価証券の中で、企業が純投資以外の目的で保有する株式になります。

政策保有株式は、取引面などから真に必要不可欠なものを保有し、それ以外の保有の合理性ないものは売却・縮減をせよというのが改訂CGコードの内容になります。また、合理性があり保有するとしても、投資先企業に対しては、株主総会において適切な議決権行使をすることが求められています。では、株主アクティビズムの関係では何が言えるでしょうか。

バランスシート上、現預金と政策保有株式の金額が大きい企業に対しては、政策保有株式の売却によるキャッシュの創出と、元々保有する現預金とともに創出したキャッシュの株主還元の増加が主張できます。改訂CGコードでは、政策保有株式については、基本的に縮減を求めているわけですから、政策保有株式は原則として余剰資産となり、余剰資産は、株主に還元しなさいということになります。

政策保有株式の金額が多く、これに現預金を加えた金額から有利子負債を引いた金額であるネットキャッシュが潤沢にある場合には、このように株主還元を主張できます。ネットキャッシュが潤沢であるかどうかは、ネットキャッシュの株式時価総額に占める比率、ネットキャッシュの総資産に占める比率などが1つの目安になります。

ぱっと思いつく範囲で、改訂CGコードの政策保有株式関係で、個人株主が主張できる内容を論理立てて、かつシンプルにあげると次のようなところでしょうか。

①ネットキャッシュ(現預金+政策保有株式-有利子負債)が株式時価総額対比でXX%、総資産額対比でXX%と大きい。政策保有株式は、保有の合理性がある場合を除いて縮減することが改訂CGコードの趣旨であるが、合理性があって保有しているのか

②(合理性あって保有しているとの企業側の回答に対して)本当にそうか。改訂CGコードでは、個別銘柄について取締役会での保有の意義の検証が求められているが、取締役会における全銘柄の検証結果について開示・説明をせよ
③(検証結果が不十分と判断する場合)保有に合理性があるとは思えないので、政策保有株式を速やかに売却をして、売却代金を株主価値向上に使用すべきである。つまり、剰余金の配当を増やすべきである

シンプルですが、改訂CGコードに即して主張を考えると、このような順番になるかと思います。

実際には、株主提案を行う上では、①②の点について、投資先の企業に対して書面で質問をし、その結果、十分な回答が得られない場合には(十分な回答は得られないと思いますが)、③について、剰余金の配当増の株主提案を行う流れになると思います。

このように政策保有株式の縮減は、余剰資金の還元という観点で企業に提案するに極めて分かりやすい提案材料になると思います。勿論、株主提案を行うには、他の株主の賛同を得るために、より緻密に具体的な数値に落とし込んで分析して、その内容を踏まえて書面で提案をする必要があることは言うまでもありませんが、基本的な考えは上記のとおりです。

次回は、政策保有株式以外の改訂事項(一番上の「4企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮」よりあとの項目)について、株主アクティビズムの観点から説明したいと思います。