コーポレートガバナンス、株式投資、企業価値、IRなどに関する投資家目線での実務ニュース ー 強い意志のある投資を目指して

コーポレートガバナンス、中長期での株式投資、企業分析、企業価値評価、IR等について、新聞記事を中心に投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

株式の持ち合いは解消しても困るケースは実は少ない

最近の新聞報道を見ると政策保有株式の解消を時々目にします。

トヨタ自動車などは政策保有株式の解消を積極的に進めているようで、2018年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードで政策保有株式の保有の合理性の検証の開示、有価証券報告書における保有の理由の開示等などもあり、縮減を進めている企業も多いかと思います。一方、JRは株式の持ち合いを増やしています。理由は良く分かりませんが、安定株主を増やしたいということかと思います。

さて、株式の持ち合いは本当に必要でしょうか。持ち合いによるメリットは安定株主の確保です。では、安定株主はどの局面で必要になるのでしょうか?

安定株主が必要になるのは、毎年の定時株主総会のケースです。取締役選任議案、剰余金の処分議案などは定時株主総会で議案として上程されますが、安定株主は議案の賛成率を高めることに貢献します。「安定株主=会社提案議案に賛成」ですから、賛成率が高まるのです。

しかし、ここは良く考える必要があります。仮に安定株主比率が20%あったとして、これがない場合に議案が否決されるケースは普通は考えられません。不祥事のあった企業は別ですが、そうでない企業の取締役選任議案であれば90%を超える賛成率が普通あるかと思いますが、安定株主分の20%をマイナスしても議案が否決されることにはなりません。

機関投資家はアセットマネジャーとして適切に議決権を行使しており、コーポレートガバナンス上、投資先企業がおかしなことをしていない以上、機関投資家は基本的に会社提案議案に賛成するのであって、安定株主の持分20%が仮に機関投資家に異動したとしても、賛成率は安定株主がいた場合とで大きく異ならないのです。

このように突き詰めていくと安定株主がいなくても困ることはなく、なんとなく安定株主がいると安心ということで持ち合い株株式の解消に躊躇する企業が多いと思います。今まであったものがなくなるのは、誰でも不安になるので、持てるなら持っておこうというものです。

政策保有株式はこれまでの日本の企業文化の1つであり、一気に解消するのは難しいですが、企業の有価証券報告書を見ると着実に毎年削減をしている企業もあり、こういう企業は、経営トップ・経営陣がコーポレートガバナンスをしっかりと理解している企業なのだと思います(私の投資銘柄には、政策保有株式を60銘柄をも保有し、この3年を見ても全く縮減してしない中小型銘柄もあり、何も理解していないのだろうなと思うことがあります)。

なお、企業の経営権が争われるケースでは安定株主の存在が肝になります。最近ですとコクヨぺんてるを買収しようとしたケースや、旧村上ファンドグループが芝浦機械をTOBしようとしたケースなどがありますが、このような場合には、安定株主の存在が買収の是非を左右することになります。こういうケースを想定すると「安定株主は必要ではないか」と言われると、たしかにその通りです。

しかし、このようなケースは、会社にとっては数十年に1度あるかないかであり、そこまで心配する必要はなく、また、先ほど言ったように機関投資家は合理的に判断するのであり、会社の考えに合理性があると判断する場合には賛同するので、万一、このような局面になっても、資本市場の声を反映した合理的な経営がなされているのであればそれほど心配する必要はないということかと思います。