中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

上場企業が物言う株主から自社を守るための武器(第1回) ー 対話ガイドラインにおける政策保有株式の記載

今回から「上場企業が自社を物言う株主から守る武器」として、いくつか重要と思われる論点を掲載したいと思います。企業が物言う株主から自社を守るには、経営トップはじめ経営陣が物言う株主の立場になり、先んじて検討・対策をすることが何より重要です。備えないまま攻められると右往左往するだけですが、①論点を認識し、②各論点について資本市場は何を求めているか、③自社としては各論点についてどういうスタンスとするのかの理論武装をしておけば、物言う株主に株式を持たれても対等に戦えます。「用意周到、準備万端」が肝要かと思います。

本日は第1回目ですが、先日、ゼネコンの政策保有株式について記事を書きましたので、政策保有株式について説明します。

今回の改訂コーポレートガバナンス・コード(CGコード)では、政策保有株式に関する補充原則の改訂はありませんでした。その一方で、投資家と企業の対話ガイドライン(対話ガイドライン)において、政策保有株式について改訂がありました。対話ガイドラインは、投資家が投資先銘柄と対話をする際に留意すべきという点を金融庁が整理したガイドラインで、2018年に制定されたものです。対話ガイドラインの該当箇所は以下のとおりで、今回改訂された箇所を太字でハイライトします。

4-2-1 政策保有株式について、それぞれの銘柄の保有目的や、保有銘柄の異動を含む保有状況が、分かりやすく説明されているか。個別銘柄の保有の適否について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、取締役会において検証を行った上、適切な意思決定が行われているか。特に、保有効果の検証が、例えば、独立社外取締役の実効的な関与等により、株主共同の利益の視点を十分に踏まえたものになっているか。そうした検証の内容について検証の手法も含め具体的に分かりやすく開示・説明されているか。

簡単にいいますと、保有が本当に必要なものか否か社外取締役も関与させて検証しているか、また、検証の方法を具体的に有価証券報告書はじめ他の媒体で開示しているかが求められています。背景には、勿論、政策保有株式の縮減があります。これはガイドラインですが、次回の3年後のCGコードの改訂においては、今回のガイドラインの改訂を踏まえた更に強い縮減がCGコードに盛り込まれるであろうとも言われています。

対話ガイドラインというと「所詮、ガイドラインだろう」と軽視する上場企業の経営陣の方も非常に多いかと思います。しかし、これは、本来は今回のCGコードで改訂されてもおかしくなかったところ、たまたま、今回改訂は見送られたに過ぎないと考えておくことが必要です。3年後には更に政策保有株式の縮減が求められるということを上場企業は考えて、今から対応することが必要です。

政策保有株式の売却は、結構時間がかかります。個人株主が持つようにわずか数百株程度の株式を保有しているケースは普通なく、最低でも数万株を有するかと思います。とすると、流通株式の少ない銘柄であれば、一気に数万株など市場で売却すると株価が暴落して、相手に多大なる迷惑をかけるので、少しづつ売却し、売却完了まで数ヵ月から半年以上かかるケースも多いと思います。つまり売却すると決めてから、売却が完了するまで結構時間がかかると思います。

政策保有株式の保有の合理性について、機関投資家の納得を得るのはほぼ不可能です。「海外では政策保有株式がなくても、ビジネスが行われているのですよ」というのが機関投資家の意見です。政策保有株式というと「安定株主として確保したい」と考える経営トップも多いとは思いますし、この気持ちも非常に良く分かります。しかし、安定株主は本当に必要なのでしょうか?

結論からいいますと、必要な企業も勿論ありますが、多くの企業では安定株主は実は不要なのだと思います。この点があまり理解できていない上場企業の経営トップの方は意外に多いのではないかと思いますので、これは次回記事を書きたいと思います。