中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

機関投資家との対話では何をアジェンダにすればよいのか? - 機関投資家の関心事項は

数年前から機関投資家との対話(エンゲージメント)という言葉が良く聞かれますが、「当社もそろろそろ機関投資家との対話を実施しようか」と考えている上場企業も多いかと思います。

しかし、一方で、「機関投資家と対話をするにしても決算の話以外に何の話をすればよいか分からない」「株主総会の議題も決まっていないのに何を話せばよいのか」ということでアジェンダの設定に悩む企業も意外に多いと思います。本日はこれについて説明したいと思います。

この悩みに対する回答はシンプルで、要は機関投資家は何について企業と対話することを求めているかを考えればよいのです。 スチュワードシップ・コードという言葉はご存じでしょうか?

スチュワードシップ・コード(以下「SSコード」といいます)とは、機関投資家が対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど、受託者責任を果たすための原則をいいます。企業サイドではコーポレートガバナンス・コードがありますが、機関投資家サイドにあるのがSSコードです。名前は知っているけどSSコード自体はじっくり読んだことのない事業会社の方は多いと思います。

このSSコードの中で 「スチュワードシップ責任」という言葉が使われてます。これは、機関投資家が投資先企業やその事業環境に応じたサステナビリィ(ESG 要素 を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく建設的な目的を持った対話などを通じて、企業企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、顧客や受益者の中長期的な投資リターン拡大を図る責任を意味します。機関投資家にはこのような責任があるのです。

SSコードは機関投資家が企業と対話をする上での機関投資家の拠り所となるわけですが、この中で企業と対話すべき事項が明確に記載されています。まず、原則3の箇所で次のような記載があります。

3-2.機関投資家は、投資先企業の状況把握を継続的に行うべきであり、実効的な把握ができているかについて適切に確認すべきである

3-3. 把握する内容としては、例えば、 投資先企業のガバナンス、企業戦略、業績、資本構造、事業におけるリスク ・収益機会 (社会・環境問題に関連するものを含む)及びそうしたリスク・ 収益機会への対応など、非財務面の事項を含む様々な事項が想定が想定されるが、 特にどのような事項に着目するかについては、機関投資家ごとに運用戦略には違いがあり 、また投資先企業ごとに把握すべき事項の重要性も異なることから、機関投資家は、自らのスチュワードシップ責任に照らし、自ら判断を行うべきである。その際、投資先企業の企業価値を毀損するおそれのある事項については、これを早期に把握することができるよう努めるべき

 また、原則4では、次の記載があります。

 4-1.機関投資家は、中長期的視点から投資先企業の企業価値及び資本効率を高め、その持続的成長を促すことを目的とした対話を投資先企業との間で建設的建設的に行うことを通じて、当該企業と認識の共有を図るよう努めるべきである。なお、投資先企業の状況や当該企業との対話内容等を踏まえ、当該企業の企業価値が毀損されるおそれがあると考えられる場合には、より十分な説明を求めるなど、投資先企業と更なる認識の共有を図るともに、問題の改善に努めるべき

これを読むと、機関投資家が企業と何を対話することが求められているか分かると思います。 「投資先企業のガバナンス、企業戦略、業績、資本構造、事業におけるリスク ・収益機会(社会・環境問題に関連するものを含む)及びそうしたリスク・収益機会への対応」の把握が求めれられているのです。これが対話のアジェンダです。

大事なのは、機関投資家は中長期的な企業価値の向上のための対話をするわけですから、当期や来期の業績はあまりテーマの中心にはなりません。これでは通常のIRの決算説明のレベルの対話になってしまいます。あくまで長期(5年以上)での企業の成長に関わるテーマが対話のポイントになるので、企業側としてもこの点を語るようにする必要があります。

というと難しく考えがちですが、あまり深く悩むことなく、まずは自社の長期での事業の方向性及び参入障壁の持続性、これらについての取締役会の議論状況、特に社外取締役からのアドバイス内容、また、長期的な投資のリスクとなる環境規制への対応状況、品質不正・不祥事等の防止体制などを語ることから始めればよいかと思います。

こういう対話を継続することで、究極的には敵対的買収の提案があった場合でも機関投資家が「準安定株主」として株式の保有を継続してくれることにつながるのだと思います。また、中長期目線での対話をすることで、短期で見ればPLにマイナスの影響となる研究開発費も長期投資の先行投資と機関投資家は考え、一時的なPLの悪化でも株価の大きな下げを避けることが出来るのだと思います。