中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

経産省が事業再編実務指針を公表 – 所詮ガイドラインではありますが、上場企業は事業のコングロマリットディスカウントの有無には今後注意を払う必要があります

少し前の話になりますが、7月31日に経産省が「事業再編実務指針」(以下「ガイドライン」)を策定・公表しました。

自社が当該事業の「ベストオーナー」か否かという観点から事業ポートフォリオの見直しを行うことを上場企業の経営陣、取締役会に求め、事業ポートフォリオ見直しに関するアクティビストからの株主提案・株主意見も、それが合理的なものである場合、取締役会で真摯に検討すべしといったことがガイドラインで規定されました。 

このガイドラインは、2019年6月に経産省が策定した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を踏まえ、事業の切り出しにフォーカスして、促進の方策・ベストプラクティスを深堀りしたものとされています。

詳細な規定は、経産省のホームページにガイドラインがあるので見て頂ければとは思いますが、事業再編を促進するため①経営陣 ②取締役会(社外取締役)③投資家(エンゲージメント)の3つのレイヤーを通じて、コーポレートガバナンスを機能させるための方策が整理されています。特に、②と③が重要かなと私は思いますが、ポイントは次のとおりです。

 (取締役会について)

  • 機関設計の如何にかかわらず、事業ポートフォリオに関する基本方針の決定及びその基本方針に基づく経営陣の職務執行の監督は、取締役会の重要な役割
  • 取締役会は、年1回は定期的に事業ポートフォリオに係る基本方針の見直しを行うべき
  • 社外取締役には、事業ポートポートフォリオに関する検討への積極的な関与が期待され、事業評価の仕組み構築や取締役会での議論を促すことも重要な役割
  • 社外取締役が投資家との対話をし、結果を取締役会にフィードバックすることは有意義
  • 取締役会の実効性評価においても、事業ポートフォリオに関して役割を果たしているか評価することが重要

 (対投資家)

  • 投資家に対して、事業ポートフォリオに関する基本方針、取締役会における検討状況等について具体的に説明することが求められる
  • 情報開示の充実が重要。事業セグメント毎にROIC等について、定義の上、実績値と目標値を開示するのが望ましい
  • 事業ポートフォリオに関する株主提案、株主意見があった場合、会社は真摯な提案には真摯に対応すべき。合理的根拠ある株主提案・意見は、原則として取締役会で取り上げ、真摯な検討を行うことが望ましい など

このガイドラインにより、企業には今後どういうリスクがあるのかというと、不採算事業を持つ場合、機関投資家がこのガイドラインを根拠に会社に事業の切り出しを迫り、それに対して、他の機関投資家が賛同することが考えられます。

では、それに対して企業はどう準備しておくかですが、必要になるのは自社がコングロマリットディスカウントにあるか否かの確認です。複数事業を有していても、結局、コングロマリットディスカウントの状況にない場合には、何ら危惧する必要はないと思います。問題は大きなコングロマリットディスカウントが生じている場合です。

コングマリットディスカウントを判断する手法には、企業価値評価手法のうち、マルチプル法により行う「Sum of the parts」があります。各事業の同業他社のEV/EBITDAマルチプルをベースに自社の各事業の事業価値を算出し、それを足し合わせる等して理論株価を算出し、それに比べて自社の市場株価が低いか否かを判断するのです。

市場株価の方が大幅に低い場合、ディスカウントが生じていると言えます。このような状況である場合には、その乖離を埋めるための方策や考え方の整理をしておく必要はあるかと思います。

企業価値の算定って何?」「企業価値って株価でしょう?」「マルチプルでの価値算定って何?」という上場企業は、この機会に企業価値ということをあらためて勉強する必要があるかと思います。