4月4日の日本経済新聞に「物言う株主、改革のバネに」というタイトルでソニーについて書かれていました。
ソニーはコングロマリットディスカウントの状況にある(2+2が3になるということ)という内容で、事業セグメントが5つある中で企業価値は本来10兆円あるところ、市場では7兆円にしか評価されていないということです。つまり、事業ポートフォリオが良くないとうことです。
事業ポートフォリオの在り方については、現在、経済産業省が、事業再構築研究会を本年1月に立上げ、現在第4回まで開催され、議論が進められています。事業再構築研究会は、本年6月末にガイドラインを公表するようですので、後日、進捗等も含め研究会のことはブログでも紹介したいと思いますが、経済産業省が旗振りしていることもあり、事業ポートフォリオの見直しの動きは今後益々強まります。
ところで、記事にあるソニーの企業価値が10兆円とはどういうことでしょうか?
記事によれば、仮に事業部門ごとに会社として上場し、同業他社と同水準に評価されているとした場合、各部門の企業価値を積み上げると10兆円になると書かれています。算定方法については記事には書かれていませんが、おそらくSum of the partsによる手法と思います。分かりやすい例にして説明いたします。
- Ⅹ社という東証1部に上場する株式時価総額が100億円の会社があります
- Ⅹ社はA事業、B事業、C事業の3つの事業セグメントで構成されており、EBITDA(=営業利益+減価償却費)は、A事業:20億円 B事業:10億円、C事業:5億円となります。そして、現金が30億円、有利子負債が80億円あるとします
- この場合、A事業、B事業、C事業の各事業の競合他社(上場会社)の平均EV/EBITDA倍率を調べたところ次のとおりとします。A事業:10倍、B事業:8倍、C事業:13倍
さて、ここから数値を算定します。この場合、X社の理論上の事業価値(EV)は、345億円(=20億円×10倍+10億円×8倍+5億円×13倍)となります。そして、株式価値=事業価値+現金-有利子負債となりますので、Ⅹ社の株式価値は295億円(=345億円+30億円―80億円)となります。
Ⅹ社の発行済株式総数を仮に1,000万株とすると、市場株価は1,000円(=100億円÷1,000万株)ですが、理論株価は2,950円(=295億円÷1,000万株)となります。
つまり、市場株価が理論株価より低いのですが、この理由はコングロマリットディスカウントにあるといえます。他の事業とのシナジー効果のない低収益事業を抱えている結果、強い事業に十分なリソースを割けず、市場で低く評価されているということです。
こんな単純手法でよいのか?という意見もあります。しかし、簡易的に企業価値を分析する場合には、この手法は良く用いられていますので、意味のある手法です。
今回のコロナが終息した後で、企業に対する市場評価はより厳しいものになると思います。つまり低収益の事業はより課題が浮き彫りになるうような気がします。一方、政府では事業ポートフォリオの見直を企業に求める動きにあります。
物言う株主であるアクティビストは、株価の低い今、かなりの銘柄を取得しています。大量保有報告書が毎日定期的に配信されてくるので分かります。
このような状況ですので、上場企業のマネジメントの方は、少なくともこういう手法があり、この手法によると自社の企業価値、株式価値がどうなるかを理解しておく必要があるかと思います。「こんな単純に理論株価など算定されてたまるものか」と怒る方もいると思いますが、それは世の中のことを良く分かっていないだけです。
個人投資家の立場に立つと、株主総会前にこの手法で投資先銘柄を分析して(投資先銘柄の各事業毎の競合他社を調べるなど面倒なので、「俺は株主なので、当社の競合他社はどこになるのか教えてくれ」ということで投資先銘柄のIR部門に電話すればよいかと)、株主総会で質問すると面白いかと思います。