中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

アクティビスト(物言う株主)の行動によって一般株主が潤う

5月21日にアクティビスト(物言う株主)であるストラテジックキャピタルが、新日本空調株式会社(証券コード1952)に対する本年4月24日付けの株主提案を取り下げる旨の公表がありました。

新日本空調が5月14日に公表した剰余金の増配決定の公表を受けての取り下げとのことです。本件を少し整理してみたいと思います。

<4月24日付の株主提案のサマリー>
・ 改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえて新日本空調の定款に、今後3年以内に政策保有株式を売却することを規定することを求める。そして、政策保有株式の売却資金は、株主価値向上に使うこと
・ 2017年12月31日現在における新日本空調の現預金は約73億円、投資有価証券は約211億円あり、一方、有利子負債は約98億円。3年後は上記1の投資有価証券を売却して現金に換えた場合、税引後で約188億円の手取金となる
・ 新日本空調は2018年3月期の1株当たり年間配当は40円を公表しており、2018年2月には1年間で取得総額10億円となる自己株式取得を公表。年間配当金の支払額と自己
株式取得総額の合計は20億円となり、2018年3月期の予想当期純利益の約66%に相当
・ 3年後には政策保有株式の売却に伴う手取金が約188億円になるので、現預金は
非常に潤沢になる
・ そこで、2019年3月期からの今後の3期については、総還元性向を100%以上になるようにして欲しい

 これを受けて、新日本空調は、5月14日に増配の決定・公表をしております。

5月9日公表の2018年3月期の期末配当予想は30円としておりましたが、14日公表では、5円増配し、1株当たり35円になっています。2018年3月期の年間配当は、45円(第2四半期10円、期末35円(普通配当30円、特別配当5円))となり、これを受けて、ストラテジックは株主提案を取り下げたことになります。

アクティビスト投資ファンドが増配を要求したことを受けて、会社が一定の増配を行うということは良くあることです。

ストラテジックは、株主提案が株主総会で通ることは当初から考えていないと想定します。本当の狙いは、株主提案をして、会社側に増配という一定の譲歩をさせることにより一定程度の利益を得るのが狙いです。

2017年10月23日にストラテジックが公表した大量保有報告書によれば、新日本空調の発行済株式数は、25,282,225株でストラテジックの保有比率は4.82%となっています。この保有割合から保有株数を算出すると保有株数は12,186,032株となります。今回の株主提案で5円増配を勝ち取ったわけですから、ストラテジックは、約6,000万円の配当アップを獲得したということになります。

本件で重要なのは、ストラテジックが株主提案を行ったことにより、個人株主など他の株主も増配の利益を享受できたという点です。例えば、5,000株を持つ個人株主がいるとすると、会社の当初予定である1株当たり40円ですと20万円の配当となるところ、ストラテジックのお陰で5円増配により25,000円増えることになるのです。

つまり、一般株主、特に個人株主にとっては、ストラテジックは自分たちを潤してくれる非常に頼もしい味方ということになります。