中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

①自社株買いの狙いと②投資候補企業のROEの留意事項について簡単に紹介します

本日は、自社株買いと投資候補企業のROEの読み方の留意事項について紹介します(この2つのテーマはそれぞれ別の話です)。

先日の日本経済新聞で米国において自社株買いを規制する議論が起きているという記事がありました。詳しくは読んでいないのですが、米国では所得の上位1%が富の25%を保有するということで、自社株買いが富裕層との格差に拍車をかけるというような記事でした。

最近、自社株買いを公表する企業を良かけますが、本日は、自社株買いの狙いについて基本的なところを簡単に紹介したいと思います。概ね次の3つかなと思います。

1 株主還元の増加

  • 日本企業の配当性向は約30%といわれ、海外企業と比較して低いといわれています。アクティビストから増配の要求がなされているところも新聞報道のとおりです。しかし、企業としては増配をすると(増配とは、仮にこれまで1株当たり50円であった配当を、1株当たり70円にするといったように配当を増やすことをいいます)、その後、業績が低迷して配当を減らすことになった場合には、減配となり非常に資本市場での評価が悪くなります。このため、自社株買いをして株主にお金を還元することで、配当と同様の効果を得ることが出来、このような目的で行うことがあります。

2 EPSの増加による株価上昇の期待

  • EPSとは1株当たり当期純利益で、当期純利益÷発行済株式数で算出されます。自社株買いにより市場で流通する発行済株式数は減少しますので、EPSの算出式の分母の数値が減少し、結果、EPSは増えることになります。
  • 少々補足しますと、当期純利益とは、企業が事業活動を行う上で発生する税金、仕入先への代金、従業員への給与等の諸々の費用を控除した後の利益で、株主に帰属する利益のベースです。それを発行済株式数で割ることで株主に帰属する1株当たりの理論上の利益ということになり、これが増えるということを意味します。株主にとっては喜ばしいことですよね。
  • そして、株価=EPS×PERになります。PERとは、株式時価総額÷当期純利益ですので、自社株買いによってPERが一定とする場合、EPS増加の結果、株価は上昇するということになります。

3 ROE向上

  • 自社株買いを行うと取得した自己株式は純資産でマイナス計上されます。結果、純資産が減るので、ROEが増加します。ご存知のとおりROEは株主が投資した資本が効率的に活用されているかどうかの指標ですので、ROEが高いと評価されることになります。

以上が自社株買いの狙いかと思います。

なお、話は変わりますが、投資候補企業のROEの読み方について次に紹介します。

先日の日本経済新聞で、ROEの高い企業であっても機関投資家は選別する動きにあるという記事がありました。ブログでも何回か書いていますが、ROEは3つに分解されますが、機関投資家ROEが高い場合、その要因が何かを見て投資の是非を判断するということです。

財務レバレッジが高いがゆえにROEが高い企業より、利益率が高いがゆえにROEが高い企業に投資するということのようです。当然といえば当然ですが、個人投資家などはROEが高い企業は良い企業ということだけで選別しているケースも多いかと思いますが、ROEが高い場合には、その企業の営業利益率が過去どの程度で推移しているかを見ないと、ROEは高いが、機関投資家の関心の低い銘柄で株価があがらないということになるので、要注意と思います。

個人投資家などは投資先の選定において四季報オンラインなどでスクリーニングをする際には、ROE8%などと設定するのと併せて、営業利益率について一定の下限数値を設定すると良いかもしれません。