中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

東証が改訂コーポレートガバナンス・コードを公表

6月1日に東証が改訂コーポレートガバナンス・コード(改訂CGコード)を正式に制定・公表しました。

本年6月1日からの適用で、上場企業各社は、準備出来次第速やかに対応し、遅くとも本年12月末まで対応することとされています。3月30日に金融庁が公表した案とほぼ同内容となっています。

また、パブコメに関する東証の考えも併せて公表されておりますが、改訂CGコードや投資家と企業の対話ガイドラインの解釈について東証の考えが示されている箇所もあり、参考になる東証の主な考えについて、以下紹介します。

<資本コスト> 

・把握する資本コストに加えて、資本コスト算出の背景にある考え方などについても、投資家と上場会社との間で建設的な対話が行われることを期待

<政策保有株式>

・個別の政策保有株式について、取締役会において保有の適否を検証するに際して、執行側において一定程度の準備作業を行うことも想定されるが、そうした場合であっても、実質的に取締役会自らが個別の銘柄について検証を行うことが必要

・必ずしも個別の銘柄ごとに保有の適否を含む検証結果を開示することを求めるものではないが、「検証の結果、全ての銘柄の保有が適当と認められた」といった一般的な開示ではなく、取締役会における検証に際し、コードの趣旨を踏まえた、次のような具体的開示が行われることを期待
① 保有の適否を検証する上で、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを含めどのような点に着眼し、どのような基準を設定したか
② 設定した基準を踏まえ、どのような議論を経て個別銘柄の保有の適否を検証したか
③ 議論の結果、保有の適否について、どのような結論が得られたか

・ 政策保有株式の縮減に関する方針・考え方については、政策保有に関する投資家と上場会社との対話をより建設的・実効的なものとするため、自社の個別事情に応じ、例えば 保有コストなどを踏まえ、どのような場合に政策保有を行うか、 検証結果を踏まえ、保有基準に該当しないものにどのように対応するか等を示すこと

以上になりますが、これらは一例であり、他にもパブコメに対する東証の考えが示されていますが、今後の実務指針になる記述もいくつかあります。

政策保有株式以外にも、指名委員会等設置会社でない監査役設置会社では、社外取締役を主要な構成員とする任意での指名・報酬委員会の設置が求められています。今回の改訂CGコードへの対応は、コーポレートガバナンスにこれまで割ける人的リソースの小さい企業には、負担は重くなると思います。

ただし、金融庁東証も何度も繰り返し言っていますが、CGコードは必ずしも全ての事項についてコンプライが求められるものではなく、エクスプレインすることでもよいとされています。

エクスプレインというのは、コンプライ(=遵守)が出来ない場合には、自社の実態や考えを踏まえ、遵守できない理由を説明することです。

例えば、取締役会の構成で、改訂CGコードでは、ジェンダーや国際性が求められることになりますが、女性の取締役を入れる必要がない、また、ビジネスが国内が主なので国際性は不要という場合には、不要である旨のエクスプレインをすれば良いのです。
イギリスでは、CGコードについて、エクスプレインしている企業も多くあると聞いていますが、日本企業は真面目なので、コンプライすることが多いですが、この点は、企業は何ら躊躇することなく、コンプライできない事項は、エクスプレインをすればよいと思います。

一方、エクスプレインの理由が難しい箇所もあると思います。

CEOの解任手続きなどはその1つと思います。改訂CGコードでは、業績等を鑑みたCEOの解任手続きの設定が求められていますが、オーナー企業などはコンプライは難しいのではないでしょうか。

オーナー企業では、子息や親戚が後継者になるのはあたり前ですが、業績評価等を踏まえた解任基準を設けることについては「何これ?」といった感覚と思います。後継者計画の策定も同じと思います。
しかし、オーナー企業だからオーナーの子息が当然に社長になるというのは、資本市場から見た場合には説明はつかないと思います。

オーナー企業であっても上場している以上は「公器」であるという認識をあらためて持ち、機関投資家が納得する対応をする必要があります。機関投資家は、CEOがオーナーの子息であろうが、サラリーマン上がりあろうが、企業価値を高めるCEOに関心があるのです。オーナー経営者は、きちんとした後継者計画を策定し、自分の子息がその計画の基準を充足する資質を持てるよう育成することが必要になってきます。

12月末まで上場企業は対応でバタバタすることになるかと思います。

そもそも、前にもブログで書きましたが、市場での資金調達の必要性がない上場企業は、上場の本来の意義がないので、改訂CGコードなどの面倒なことで手を煩わせることになるのであれば、これを契機におもいきって上場を廃止するということも真剣に考えてよいのかもしれません。廃止することによって、資本市場関係者の対応などを気にすることなく自由に経営できる上、経理の決算担当部門やIR部門など収益を生まない部門の人員を大幅にリストラすることで利益アップも期待できます。

日本企業の海外M&Aに関する意識・実態調査結果

先日の日本経済新聞に掲載されていましたが、日本企業の海外M&Aに関する意識・実態調査結果についてデロイトトーマツが公表しました。

「日本企業の海外M&Aは上達しているのか?」というタイトルで、日本企業の海外M&Aに関する意識に関する実態調査です。13ページほどのレポートになりますが、海外M&Aの成功率は約37%程度とのことです。

このレポートの中で、以前に経済産業省が公表した「海外M&Aを経営に活用する9つの行動」の紹介があり、ディール(デューデリジェンス~クロージング)の前後を含めた、M&Aによる成長サイクル全体を通して経営トップが特に意識すべき視点が記載されており、「9つの行動」があげられています。

1. 「目指すべき姿」と実現ストーリーの明確化
2. 「成長戦略・ストーリー」の共有・浸透
3. 入念な準備に「時間をかける」
4. 買収ありきでない成長のための判断軸
5. 統合に向け買収成立から直ちに行動に着手
6. 買収先の「見える化」の徹底(「任せて任さず」)
7. 自社の強み・哲学を伝える努力
8. 海外M&Aによる自己変革とグローバル経営力強化
9. 過去の経験の蓄積により「海外M&A巧者」へ

いずれも内容自体は当たり前のものかと思います。当たり前のことですが、実施するにはなかなか難しいことと思います。要は買収した企業の一番の資産は人ですが、海外という日本と異なる文化・価値観を持つ人を、それも買収されたということで買収者である日本企業に少なからず敵対心を有する人をマネージするのは難しいことと思います。日本電産の永守会長が、以前にPMIには海外では地域にもよるが数年かかるといっていました。

日本企業による海外M&Aの成功件数が少ないとは従前より言われていることですが、成功率が37%ということは、「失敗した」との明確な回答はしたくないというインセンティブを持つ上での企業各社の回答ですから、成功例は本当は30%を下回ると推定されます。

経産省がCGS研究会(第2期)の中間整理について公表

5月18日に経済産業省が、CGS研究会(第2期)の中間整理について公表しました。

経産省は、昨年3月、コーポレートガバナンスの取組みの深化を促す観点から、企業において検討することが有益と考えられる事項を盛り込んだ「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)を策定しました。その後、CGSガイドラインのフォローアップとして、CGS研究会(第2期)を立ち上げ、コーポレートガバナンス改革の現状評価と実効性向上に向けた課題について検討を行ってきましたが、今回、中間整理を公表しています。

本年の夏頃を目途にCGSガイドラインの改定版を公表するということですが、改訂の方向性を示す中間整理の大きな内容は、次のとおりです。

1 社外取締役の活用
- 社外取締役としての役割を果たす上での最低限のアベイラビリティーやコミットメントが求められること、社外取締役を総体して捉えて、取締役会全体として必要な資質・能力を備えることの整理
- 社外取締役による監督の実効性確保の観点から、指名委員会において社外取締役の「選任・再任」の基準の設定が望ましい

2 指名委員会・報酬委員会の活用
- 委員会の構成や運営方法などについて、議論の対象や企業の置かれた状況による差異に応じ、場合に分けてベストプラクティスを整理すること

3 後継者計画のあり方
-「指名・再任プロセス」の客観性・透明性の確保や後継者計画の実効性確保において企業が参照できるベストプラクティスを示す

4 経営陣幹部の報酬・業績評価等
- 役員報酬の方針やベストプラクティスについて整理。報酬方針・設計の在り方のベストプラクティス(例:グローバル事業の展開企業におけるグローバル経営人材確保をする場合の役員報酬設計を行う際の留意点)の整理

5 取締役会の議長
- どのような企業が社外取締役が議長を務めるのが望ましいかを整理

大きくポイントと思われる事項は、上記のとおりかと思います。

上記5などは、現在は上場企業の約80%超は取締役会議長=CEOとなっていますが、指名委員会等設置会社など取締役会を戦略的議論の場とする企業は、社外取締役を議長にするというのが今後の流れになるような様相です。

もうすぐ確定する改訂コーポレートガバナンス・コードは金融庁の管轄で、こちらの改訂CGSガイドライン経産省の管轄ですが、経産省の担当者もフォローアップ会議にオブザーバーとして参加しており、コーポレートガバナンス・コードと同じ方向での改訂となります。

本夏に改訂CGSガイドラインが公表されましたら、またブログでポイントを整理したいと思います。

アクティビスト(物言う株主)の行動によって一般株主が潤う

5月21日にアクティビスト(物言う株主)であるストラテジックキャピタルが、新日本空調株式会社(証券コード1952)に対する本年4月24日付けの株主提案を取り下げる旨の公表がありました。

新日本空調が5月14日に公表した剰余金の増配決定の公表を受けての取り下げとのことです。本件を少し整理してみたいと思います。

<4月24日付の株主提案のサマリー>
・ 改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえて新日本空調の定款に、今後3年以内に政策保有株式を売却することを規定することを求める。そして、政策保有株式の売却資金は、株主価値向上に使うこと
・ 2017年12月31日現在における新日本空調の現預金は約73億円、投資有価証券は約211億円あり、一方、有利子負債は約98億円。3年後は上記1の投資有価証券を売却して現金に換えた場合、税引後で約188億円の手取金となる
・ 新日本空調は2018年3月期の1株当たり年間配当は40円を公表しており、2018年2月には1年間で取得総額10億円となる自己株式取得を公表。年間配当金の支払額と自己
株式取得総額の合計は20億円となり、2018年3月期の予想当期純利益の約66%に相当
・ 3年後には政策保有株式の売却に伴う手取金が約188億円になるので、現預金は
非常に潤沢になる
・ そこで、2019年3月期からの今後の3期については、総還元性向を100%以上になるようにして欲しい

 これを受けて、新日本空調は、5月14日に増配の決定・公表をしております。

5月9日公表の2018年3月期の期末配当予想は30円としておりましたが、14日公表では、5円増配し、1株当たり35円になっています。2018年3月期の年間配当は、45円(第2四半期10円、期末35円(普通配当30円、特別配当5円))となり、これを受けて、ストラテジックは株主提案を取り下げたことになります。

アクティビスト投資ファンドが増配を要求したことを受けて、会社が一定の増配を行うということは良くあることです。

ストラテジックは、株主提案が株主総会で通ることは当初から考えていないと想定します。本当の狙いは、株主提案をして、会社側に増配という一定の譲歩をさせることにより一定程度の利益を得るのが狙いです。

2017年10月23日にストラテジックが公表した大量保有報告書によれば、新日本空調の発行済株式数は、25,282,225株でストラテジックの保有比率は4.82%となっています。この保有割合から保有株数を算出すると保有株数は12,186,032株となります。今回の株主提案で5円増配を勝ち取ったわけですから、ストラテジックは、約6,000万円の配当アップを獲得したということになります。

本件で重要なのは、ストラテジックが株主提案を行ったことにより、個人株主など他の株主も増配の利益を享受できたという点です。例えば、5,000株を持つ個人株主がいるとすると、会社の当初予定である1株当たり40円ですと20万円の配当となるところ、ストラテジックのお陰で5円増配により25,000円増えることになるのです。

つまり、一般株主、特に個人株主にとっては、ストラテジックは自分たちを潤してくれる非常に頼もしい味方ということになります。

株主資本配当率(DOE)の開示

先日の日本経済新聞の記事に株主資本配当率(DOE)の記事が出ていました。DOEとは、Dividend on equityの略で、次のとおり算出されます。

DOE=配当金額 ÷ 当期末の株主資本

配当に関する指標には、配当性向があります。良く耳にする言葉かと思います。

配当性向は、配当金額 ÷ 当期純利益(%)です。つまり、会社が1年間で儲けたお金(当期純利益)からどれだけ配当金として株主に還元されるかを示す指標です。配当方針として、「配当性向20%以上」「配当性向30%以上」といったことを公表する企業も多いと思います。

新聞報道によれば、配当性向を目安にする企業は、純利益が減ると連動して減配となる可能性があると書いてあります。

これはどういうことかといいますと、仮にある企業が配当性向30%を公表しています。この企業の今期の純利益が100とした場合、配当金額は30(=100×30%)となります。しかし、来期は、当期純利益が50と減益になった場合、配当金額は15(=50×30%)となり減ることになります。配当金額を発行済株式数で割ることで1株当たり配当金額となりますが、配当総額が減ることで減配となります。

一方、DOEは、利益を積み上げた株主資本に対してどの程度を配当に回すかを示す指標で、株主資本は変動は少ないため、より安定的に株主に還元する姿勢を市場に示すことができるとされています。

新聞報道では、資生堂ファンケル、JAJがDOEを基準にしているとのことでしたので、インターネットで「資生堂 DOE」といったキーワード検索をしたところ、次のような内容が開示されていました。

資生堂:DOE 2.5%以上を目安とした長期安定・継続増配

ファンケル:連結配当性向40%程度及びDOE5%程度を目途に配当金額を決定

JAL:配当性向 親会社株主に帰属する当期純利益から法人税等調整額の影響を除いた額の30%程度を目安とし、DOEは 維持すべき株主資本利益率ROE)の水準10%と上述の配当性向を勘案し、3%以上となるように努める

こういった開示を市場は評価し、資生堂ファンケルともに株価が上がったとのことのようです。

ところで、話は変わりますが、配当性向を20%又は30%といった数値基準を掲げる企業もありますが、それで本当に十分なのでしょうか。

配当の原資は、基本的にバランスシートの株主資本の部にある繰越利益剰余金になります。正確には、繰越利益剰余金が100あっても現金が50しかないと現実には50しか配当出来ませんので(借入をして配当原資を増やすということも一応ありますが)、繰越利益剰余金の金額を上限として、その上で更にバランスシート上の現預金を上限とする範囲で配当が出来るということかと思います。

個人株主は、素人ですから、自分の投資先企業が配当性向30%で安定配当をしているということで満足している方も多いと思いますが、バランスシートを見て、配当の余力はもっとあるのではないかと疑って見る必要があります。

企業が使わないキャッシュを溜め込んでいるのであれば、つまりM&Aや設備投資でキャッシュを使う具体的な予定がないのであれば、株主はそれは還元せよといえる権利があります。

最近、2018年3月期決算企業の決算の発表が続き、個人的な株式投資の目的で、週末に自宅で四季報オンラインで、低PBR、ネットキャッシュ大、外国人株主比率が10%超などの一定の基準で中小型銘柄のスクリーニングをしているのですが、明確な配当方針やキャッシュの使途の公表もないままキャッシュをかなり溜め込んでいる企業がこの規模の企業では散見されます。要するに、上場していながらも、コーポレートガバナンスの意識が低い企業ということです。

こういった中小型銘柄の企業は、個人株主もしっかりと理論武装をすれば、株主としての権利を行使できるネタが沢山あると最近つくづく感じています。

サム・オブ・ザパーツ(Sum of the parts)による理論株価のバリュエーション

本日は、企業の理論株価分析として、サム・オブ・ザ・パーツについて説明します。

複数の事業セグメントを持つ企業の理論株価を分析するバリューエーション方法になります。具体例をあげて説明します。

甲会社という上場企業があり(株価800円、発行済株式数 7,000万株)、甲会社は電子部品事業と診断薬事業の2つの事業セグメントがあり、各事業のEBITDAは次のとおりとします。

電子部品事業 EBITDA 100億円(=営業利益60億円+減価償却費40億円)
診断薬事業  EBITDA 40 億円 (=営業利益30億円 +減価償却費10億円)

複数の事業セグメントを持つ企業は、有価証券報告書において、事業別の売上高、営業利益、減価償却費が開示されていることが多いと思います。

ここで、電子部品事業と診断薬事業のそれぞれのくくりでマルチプル法でそれぞれの事業価値を算出します。電子部品事業の業界には、競合他社が5社存在、一方、診断薬事業には、競合他社が7社存在するとします。

EV / EBITDA倍率が、電子部品事業の5社平均では7倍、診断薬事業は10倍とします。EV=株式時価総額+ネットデットで、EV / EBITDA倍率 = EV ÷ EBITDAの算式より算出します。次のとおりになります。
電子部品事業  EV= 100億円 ×   7倍=700億円
診断薬事業   EV=   40億円 × 10倍=400億円

よって、甲会社のEVは合計して1,100億円となります。

そして、ここから理論株式価値を算出します。EV=株式時価総額(株式価値)+ネットデットより、株式価値=EV-ネットデットになります。

ここで、甲会社のネットデット(=有利子負債-現預金)が仮に400億円とすると、株式価値=1,100億円-400億円=700億円になります。

そして、発行済株式数7,000万株であるため、1株当たりの株式価値=1,000円(700億円÷7,000万株)となります。とすると、甲会社の市場株価は、現在800円で、理論株価より200円低いことになります。これがサム・オブ・ザ・パーツによる理論株価算出の考え方になります。

この方法によると、複数の事業セグメントを持つ企業の理論株価が比較的簡単に算出できることになります。ただし、よく言われることですが、次のような課題(欠点)もあると思います。

1.競合会社の株価が全体的に低くても、将来業績への市場の期待から株価が非常に高い企業が1社含まれるような場合、倍率(マルチプル)が異常値になる
2.同じ業界の上場企業が少ないと評価が難しい

上記のような欠点があると甲会社の理論株価の説得度が低くなりますので、サム・オブ
・ザ・パーツによって理論株価を算出するには、異常値の競合他社の数値は除くなどの作業が必要になります。

そうしないと、理論株価と市場株価の乖離を投資先企業に指摘しても、反論を受けることになります。

買収防衛策の廃止の動きの増加

本年の定時株主総会終結の時をもって買収防衛策の更新期限を迎える企業が買収防衛策を廃止する動きが強まっています。

本年に入ってから、比較的名前の知っている上場企業ですと、クラレ、ダイワボウ、日本ハム、ワコール、京浜急行電鉄阪和興業帝人、ワコール、日本曹達理研機器などが廃止を発表しています。

背景としては、各社プレスリリースに色々と書いてはいますが、要するに本音は、議決権行使助言会社が買収防衛策に対する反対を一層強めたこと、また、国内機関投資家も昨年以上に反対を強めているため株主総会で買収防衛策議案の賛成率を獲得することが困難となっていることにあります。

ちなみに、上に記載した各社の直近(2017年3月期)の有価証券報告書に記載の外国人株主比率を見ると、クラレ 37.73%、ダイワボウ 28.05%、日本ハム 32.16%、ワコール 19.35%、京浜急行電鉄 15.10%、帝人 36.09%などとなっています。有価証券報告書では、国内機関投資家保有比率は明示されていませんが、いずれの企業も外国人株主比率が高い状況にあることが分かります。

買収防衛策廃止に当たって、廃止企業は次の点を考えることが必要になります。
1 廃止する理由について株主への説明
株主総会で株主の承認を得て、これまで継続更新をしているので、今回、継続更新しない、つまり廃止するということは、買収防衛策を廃止しても、買収防衛策導入の目的を達成できるということを説明することが必要になります。

2 安定株主比率の低下の中、アクティビストの出現リスクに対する対抗策の準備
買収防衛策が廃止されるということは、アクティビストにとってのハードルは低くなるといわれています。大量の株式取得をする場合、買収防衛策がある場合、買収防衛策の発動を嫌ってアクティビストは株式の大量買付けに進むことを躊躇するケースがありますが、廃止することでアクティビストにとってのハードルが低くなります。

廃止企業としては、アクティストを跳ね返せる理論武装と長期保有機関投資家を自社の味方とする準備が必要になります。

日本の上場企業全体(コーポレート・ジャパン)に占める外国人株主比率は約30%ですが、今後、政策保有株式の解消により、その解消分の株式を国内機関投資家及び外国人株主が引き受けることになりますが(個人株主は資金が乏しいので、保有できる株式数には所詮限界があります)、今後のアクティビストの出現に備えた十分な対応が必要になるのではないでしょうか。

勿論、上場企業約3700社のうち、買収防衛策をそもそも導入していない企業が約80%超になるわけですから、その他多くの上場企業と同じ立場になったことから、あまり気にする必要はないと考えることも一応いえます。しかし、これは「赤信号、皆で渡れば怖くない」の発想と同じで、「赤信号を渡る」(=買収防衛策を廃止する)ことで「自動車にぶつかる」(=アクティビストに狙わわれる)リスクは全員にあるということですす。

改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえた個人株主のアクティビズムの可能性(4)

 改訂コーポレートガバナンス・コード(改訂CGコード)について、残りの資本コストと事業ポートフォリオについて纏めてみます。

今回の改訂CGコードについては、4月29日までを金融庁パブリックコメントの締め切りとし、その後、経団連、経営法友会、消費者庁などが意見を公表しています。現時点では、改訂CGコードはまだ確定はしていませんが、今回の改訂における大きな点は政策保有株式が1つありますが、資本コストと事業ポートフォリオの改訂も大きな点になるかと思います。

<改訂CGコード>
(1)資本コストの的確な意識の上での経営戦略の策定
(2) 事業ポートフォリオの見直し、設備投資、R&D投資等を含む経営資源の配分

まず資本コストですが、だいぶ前にもブログで書きましたが、資本コストとは会社に資金を拠出する債権者と株主に対して企業が負担するコストをいいます。つまりこれは債権者と株主から見れば、投資による期待収益率(リターン)のことをいいます。

負債コストと株主資本コストを加重平均して資本コストを出します。そして、(1)と(2)は別々ではなく、セットで捉える必要があります。

つまり、(2)の意味は、(1)の資本コストである投資家の期待収益率を上回る収益を生まない事業は企業は見直しをせよ、簡単にいうとカーブアウト(事業売却)せよということです。

収益性の有無の判断基準は色々ありますが、複数事業を営む企業であれば、ROICが指標になるかと思います。ROICとは、投下資本利益率になります。例えば、ある企業がA事業、B事業の2つの事業セグメントを持つとすると、A事業のROICは次のとおり計算します。

ROIC=A事業の営業利益÷(A事業の現金+A事業の運転資本+A事業の有形固定資産)×100%

これがこの企業の資本コストを下回るのであれば、カーブアウト等を検討せよということですが、これを個人株主アクティビズムに結び付けて考えたいと思います。

まず資本コストを把握する必要があります。資本コストは、ファイナンスの専門家であっても数値(より正確には株主資本コストのβ値)にばらつきがあり、個人の方が正確に計算するのは、少し難しいですが、ブルームバーグを利用すれば株主資本のβ値は出てくるので、それを使えばよいかと思います。

次に考えるのは、前述のとおりA事業のROICを算出することです。これが重要です。では、どうやって数値を拾えばよいでしょうか。

結論からいうと株主が得られる情報は企業の開示情報しかないので、正確な算出は難しいです。なぜならば、企業は、事業別の現金、運転資本、有形固定資産までは開示していないのが通常だからです。そこでざっくりとしたレベルで計算せざるを得ません。

分子であるA事業の営業利益は開示されています。問題は分母の数値ですが、A事業とB事業の構造が大きく異ならないのであれば、バランスシートに掲載されているこの企業の全体の現金、運転資本、有形固定資産の数値を、A事業の売上構成比で按分することになります。

つまり、A事業とB事業の売上高構成比がA事業40%、B事業60%となっているとすれば、バランスシート上の現金、運転資本、有形固定資産の各々の40%をA事業のROICの分母とするのです。ただし、A事業とB事業の事業内容が大きく異なるのであれば、例えば、A事業が半導体製造、B事業が小売といった場合には、按分比率は極めて不正確なもになります。

これにより算出したROICが資本コストを下回るようであれば、事業のカーブアウトを提案するという流れになります。ごくシンプルに考えるとこのような内容になります。

もっともこれは極めてざっくりとした分析ですので、最初から「A事業のROICは資本コ
ストを下回るので事業売却をしろ」との株主提案をするのは正確性が欠けるので、他の
の株主の賛同を得るのはまず難しいでしょうから、まずは株主総会に出席して、事前に自分で算出した数値を手許に持って、これに関するを投げかけることになるのでしょう。

株主総会においては、取締役・監査役は総会議題と関係のない質問の回答は法的に拒絶できますので、株主としては、上手く事業報告と絡めて質問をすることになるとは思います。

その上で、再度、数値の正確度を高めて、株主提案をしていくというステップになるのだろうと思います。このような事業のカーブアウトの提案は、M&Aアクティビスムということになります。

M&Aアクティビスムは、株価に与える影響が大きいと思います。というのも営業利利益率の低迷事業を切離せば、営業利益が改善され、企業の業績見通しの変化も大きいので、株価向上への効果大です。しかし、実際には M&Aアクティビスムの難易度は高く、精度を高めるには、場合によっては戦略コンサルなどの外部業者を使うほか、A事業の外部環境分析などのマクロ分析も緻密に行うことが必要になると思います。

M&Aアクティビズムの根本的な考え方はシンプルと私は思いますが、個人株主が事業のカーブアウトを提案して、他の株主の賛同を得るのは、なかなか難しいところがあるかとは思います。

初心者の経済学(ミクロ経済・マクロ経済)の効果的な勉強法

ゴールデンウィーク休暇期間中は、改訂CGコードと株主アクティビズムに関連する資本コストと事業ポートフォリオについて書くことができませんでしたが、これは今週中に出来れば書く予定ですが、本日は、休暇中に気付いた経済学の勉強方法について記載したいと思います。

私は法学部出身で学生時代にミクロ経済学マクロ経済学をきちんと勉強をしたことはありませんでしたが、ミクロ経済学マクロ経済学は体系的に一度きちんと勉強したいと前から思っていました。もちろん日経新聞やビジネス週刊誌などを読んでいれば、マクロ経済学に関連するGDP、GNPや金利などの基本的知識は、常識のレベルでは理解できるのですが、体系的に理解していないとどうしても弱いなと前々から思っていました。

以前から経済学の書籍は、1、2冊読んだりしていたのですが(途中挫折も多いのですが)、経済学の初心者の方にお勧めの書籍を本日は紹介したいと思います。書籍の名前は、次の2つになります。

「試験攻略入門塾 速習 ミクロ経済学中央経済社)」

「試験攻略入門塾 速習 マクロ経済学中央経済社)」

著者は石川 秀樹氏という方で、同氏は、上智大学法学部、ロンドン大学を卒業後、新日鐵住金勤務を経て、独立し、現在は石川経済分析代表をされている方になります。昭和38年生まれの方なので、54歳になります。

書籍自体は、知っている方も多いかも知れませんが、公務員試験、証券アナリスト中小企業診断士不動産鑑定士といった各種資格試験取得向けの基礎的内容ですが、この書籍の何がお勧めかといいますと、経済学の基礎的なことが分かりやすく纏まっているほかに、この書籍にそった講義内容が、You tubeで石川氏が講義をしていることです。勿論You tubeなので無料です。

つまり、予備校の講義と同じようにこの書籍の内容にそってYou tubeの動画で学習できます。この書籍は1年ほどに私は買い、時々読んでいたのですが、You tubeでの動画はこれまで見ておりませんでしたが、この長期休暇中にYou tubeを初めて見て、感動しました。

資格試験向けの内容ですが、経済学の初心者の方には非常にお勧めです。

経済学のうち、ミクロ経済学は、あまりに現実離れをした内容で正直実務では使うことはないと思いますが、マクロ経済学は、学問として体系立てて勉強しておくことで、新聞記事や株式投資関係の記事・書籍への造詣も深まると思います。古典派やケインズ派の考え方などを直接実務で使うことはないとは思いますが、学問として体系的に理解しておくことはとても有用かと思です。ミクロ経済学も理解しておくと何かの役に立つかも知れません。

ということで、経済学の初心者の方で、お金をかけずにこれから体系的にミクロ経済学マクロ経済学の初歩から勉強したいと思う方は、この書籍を買って、You tubeで勉強すると良いと思います。勿論、エコノミストなどの経済分析を専門にしていく方には、これでは全く足りませんが、企業で普通に働く方には十分な内容と思います。

そもそもGDPやGNPといった言葉自体は知っている人は多いのですが、この中身の詳細や両者の違いを知っている人は、実は少ないのではないでしょうか。これらの用語などはマクロ経済学の最初に出てくる初歩的な単語ではありますが、このような単語について初歩的なことも理解できていない方が世の中の大部分と思います。そういう観点からは、この書籍と講義動画で勉強すれば、初歩的理解というよりも、一歩進んで中級クラスまでの理解が出来ると言える気がします。

本日は、経済学の初心者にお勧めの本について休暇中に気付いた勉強法として書いてみました。

改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえた個人株主のアクティビズムの可能性(3)-2

改訂CGコードと事業ポートフォリオ、資本コストの話題について、ブログで触れる前に先日の5月1日にソレキア株式会社(9867)に対して、個人株主が株主提案をした旨をソレキア東証に開示していました。

株主提案を行った方がこれまでのように投資ファンドではなく、個人株主であり、その提案内容がまさに私がブログで書いているところでもありましたので、本日は、これについて紹介したいと思います。

いくつか株主提案がありますが、その中で3つほど紹介します。

1.総還元性向100%とする剰余金配当の株主提案
2.ROE8%以上を目標にして、その実現に向けて取締役は最善の努力を払う旨の定款
変更の株主提案

3.政策保有している上場株式を第61期中に全て売却する旨の定款変更の株主提案

以上になります。ソレキアは、東証JASDAQスタンダード上場の時価総額約40億円程度の電子部品商社です。

2018年5月1日付けのソレキア東証開示文によりますと、株主提案を行使したのは、1名の個人株主ですが、この方は、ソレキアの2017年3月の有価証券報告書の大株主状況を見る限り上位10名には名前がありません。

2018年3月末現在での株式所有比率は分かりませんので不明ですが、ソレキアは1単位300株ですので、株主提案には最低300単位必要なので、少なくとも30,000株は保有する株主と言えます。

各提案の詳細について、ソレキアの5月1日開示の東証開示文から一部を抜粋すると次のとおりです。

まず、株主提案の上記1については、「貴社の平成30月期第3四半期決算短信によれば、平成29年12月31日現在の連結貸借対照表上、貴社が保有する現預金は約36億円、投資有価証券は3億円以上あります。また、貴社が現在行っている事業は、生産装置を更新する等の設備投資や研究開発に大きな資金を必要とするものではなく、現在の保有現預金等で十分な必要運転資金が確保されているはずです。」と記載されています。

次に株主提案の上記3については、「今年3月末に公表されたコーポレートガバナンス・コード改定案「原則1-4」では、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容を開示すべきであるとされています。このコード改定案「原則1-4」の精査・検証が、一般の株主に対して、誠実に行われるならば、現在の政策保有を正当化できる株式は貴社には一つもないという結論になるはずです。(貴社が政策保有している株式は、その発行会社の規模と比べて非常に少ない株数なので、保有に伴う便益などあるはずがないというのが主な根拠です。)しかし、長年、業績及び株価を低迷させているにもかかわらず、居座り続ける取締役にとっては、政策保有株式は保身のための株式の持ち合いという側面が強く、自らの地位を危うくする持ち合い解消を決断することは難しいと思いますので、定款に本条文を加え、政策保有株式の売却を確実にするべきと考えます。また、ROE 向上を目指す観点からも収益につながらない遊休資産を現金化し、収益性の高いプロジェクトへの投資を検討するべきであり、仮にそのような経営計画・投資案件が全くないのであれば、自社株買い等で株主に還元するべきです。」と記載されています。

いずれの内容も最近の投資ファンドが、企業に対して株主アクティビズムで主張する内容と同じ視線の提案になります。

ただ、上記1及び3の株主提案ともに提案の理由が、だいぶ定型的な内容であり、他の株主の賛同を得るには、このソレキアという企業の財務を含む企業分析をして、より踏み込んだ提案理由にしないと、賛同を得ること困難だろうと思います。この提案内容では、機関投資家も賛同票を投じるまでの判断には至らないのではないでしょうか。

提案内容は不十分であるとしても、私がこれまでブログで書いてきたように個人株主が最近のコーポレート・ガバナンス改革の流れに沿った株主提案を行った一例と言えます。ファイナンスコーポレートガバナンスの不備・課題を指摘するプロである投資ファンドの提案に比べるとまだまだ素人的な提案内容ではありますが、一応の理論武装をした提案ということになります。

気になったニュースでしたので、前回のブログの続きとして掲載しました。次回は、資本コストと事業ポートフォリオについて記載したいと思います

改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえた個人株主のアクティビズムの可能性(3)-1

前回、改訂CGコードの観点から個人株主によるアクティビズムについて、取締役会の多様性の側面から記載しましたが、4月25日に株式会社フェイス(4295)に対してアールエムビー・ジャパン・オポチュニティー・ファンドから株主提案があり、それについてフェイスが開示を行っています。

フェイスは、5月1日時点で時価総額約155億円程度の中小型銘柄の企業です。

開示を見ますと、各事業分野に関連する多種多様な専門的知見や経験を有する取締役を経営陣に参加させ、その資質に裏付けられた視点を事業活動に反映させるということで、取締役1名の選任を提案しております。

なお、5月1日時点でのフェイスの株価情報によれば、PBRが1倍を下回っております。株価が割安に評価されている、最近のコーポレートガバナンス改革でいう問題のある企業といえます。

今回の株主提案は、推測ですが、株価が割安のため適切な能力を有する取締役を経営陣に加えることで、企業価値向上を図るということが主張の背景にあると思います。株主提案での選任候補者は、野村證券出身で、RMBキャピタルのパートナーの方となっています。

ちなみに、フェイスの2017年3月期の有価証券報告書で取締役構成を見ますと、社外監査役に弁護士・公認会計士の方が各1名おりますが、監査役は監査を業務とするので、企業経営に口を挟む役割はなく、そもそもそのような能力・経験もないので、企業価値向上を図る上では適任者とは言えません。

これを先日のブログに絡めて考えますと、今回の改訂CGコードでは、取締役の多様性として、ジェンダーと国際性を持つ人材の登用を求めており、今回の提案の方の経歴は、米国の投資会社ということで国際性のあるファイナンスのプロフェッショナルと言えます。株主提案による取締役の選任では、黒田電気に対して、村上ファンドが元経産省の方を取締役に選任する株主提案を行い、それが株主総会で可決されたことは記憶に新しいかと思います。

ごく一般の個人株主が、個人的なコネクションで、今回のフェイスのようなファイナンスのプロを提案することは困難かと思いますが、今回のケースのように株主アクティビスの手段としては有りうるということです。フェイスの2017年3月期の有価証券報告書を見ますと、外国人株主は18%となっていますので、株主提案がどの程度まで賛成率を集めるのか興味深いところです。

次回は、改訂CGコードの原則5-2で指摘されている資本コスト、事業ポートフォリオ
の見直しについて、このGW休暇中に出来れば書いてみたいと思います。この原則5-2がM&Aアクティビズムにおいて、今後、プロの投資ファンドが力を入れる可能性があり、個人株主も丁寧に投資先企業を分析すれば、株主提案をし得る余地もあるかと思います。

改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえた個人株主のアクティビズムの可能性(2)

今回より、個人株主の株主アクティビズムに関して、改訂コーポレートガバナンス・コード(改訂CGコード)との関係について検討をはじめたいと思います。

まずは、今回の改訂CGコードにおいては、14の原則及び補充原則の修正・新設がされていますが、該当する内容を要約すると次のとおりになります。

1 政策保有株式の縮減方針の開示

2 取締役会での政策保有株式の個別銘柄の検証及び検証結果の開示

3 政策保有株式の議決権行使基準の具体内容の開示

4 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮

5 後継者計画に対する取締役会の関与・監督

6 経営陣の報酬について客観性・透明性ある手続による具体的報酬額の決定

7 CEOの選任・解任手続の整備

8 任意の指名・報酬委員会等の設置活用

9 十分な人数の社外取締役の選任

10 ジェンダーや国際性の面を含む取締役会の構成

11 資本コストの的確な意識の上での経営戦略の策定

12   事業ポートフォリオの見直し、設備投資、R&D投資等を含む経営資源の配分

上記の中で、まずは、投資先企業に対して、一番主張しやすいのは、政策保有株式関係の1~3の事項になります。

政策保有株式とは、バランスシート上の固定資産の中、「投資その他資産」にある投資有価証券の中で、企業が純投資以外の目的で保有する株式になります。

政策保有株式は、取引面などから真に必要不可欠なものを保有し、それ以外の保有の合理性ないものは売却・縮減をせよというのが改訂CGコードの内容になります。また、合理性があり保有するとしても、投資先企業に対しては、株主総会において適切な議決権行使をすることが求められています。では、株主アクティビズムの関係では何が言えるでしょうか。

バランスシート上、現預金と政策保有株式の金額が大きい企業に対しては、政策保有株式の売却によるキャッシュの創出と、元々保有する現預金とともに創出したキャッシュの株主還元の増加が主張できます。改訂CGコードでは、政策保有株式については、基本的に縮減を求めているわけですから、政策保有株式は原則として余剰資産となり、余剰資産は、株主に還元しなさいということになります。

政策保有株式の金額が多く、これに現預金を加えた金額から有利子負債を引いた金額であるネットキャッシュが潤沢にある場合には、このように株主還元を主張できます。ネットキャッシュが潤沢であるかどうかは、ネットキャッシュの株式時価総額に占める比率、ネットキャッシュの総資産に占める比率などが1つの目安になります。

ぱっと思いつく範囲で、改訂CGコードの政策保有株式関係で、個人株主が主張できる内容を論理立てて、かつシンプルにあげると次のようなところでしょうか。

①ネットキャッシュ(現預金+政策保有株式-有利子負債)が株式時価総額対比でXX%、総資産額対比でXX%と大きい。政策保有株式は、保有の合理性がある場合を除いて縮減することが改訂CGコードの趣旨であるが、合理性があって保有しているのか

②(合理性あって保有しているとの企業側の回答に対して)本当にそうか。改訂CGコードでは、個別銘柄について取締役会での保有の意義の検証が求められているが、取締役会における全銘柄の検証結果について開示・説明をせよ
③(検証結果が不十分と判断する場合)保有に合理性があるとは思えないので、政策保有株式を速やかに売却をして、売却代金を株主価値向上に使用すべきである。つまり、剰余金の配当を増やすべきである

シンプルですが、改訂CGコードに即して主張を考えると、このような順番になるかと思います。

実際には、株主提案を行う上では、①②の点について、投資先の企業に対して書面で質問をし、その結果、十分な回答が得られない場合には(十分な回答は得られないと思いますが)、③について、剰余金の配当増の株主提案を行う流れになると思います。

このように政策保有株式の縮減は、余剰資金の還元という観点で企業に提案するに極めて分かりやすい提案材料になると思います。勿論、株主提案を行うには、他の株主の賛同を得るために、より緻密に具体的な数値に落とし込んで分析して、その内容を踏まえて書面で提案をする必要があることは言うまでもありませんが、基本的な考えは上記のとおりです。

次回は、政策保有株式以外の改訂事項(一番上の「4企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮」よりあとの項目)について、株主アクティビズムの観点から説明したいと思います。

改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえた個人株主のアクティビズムの可能性(1)

4月17日に改訂コーポレートガバナンス・コード案(改訂CGコード)に対する経済団体連合会経団連)の意見が経団連のホームページで公表されました。

改訂CGコードは、4月下旬締め切りでパブリックコメントを募集していますので、これに基づく意見になります。

経団連の意見の内容を見ますと、政策保有株式、企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮、CEOの選解任などについて変更を求める提案をしております。

経団連のホームページで一度見て頂ければと思いますが、企業で実務を行う私としては、いずれの意見も実務に即した合理的な意見と感じています。

今回のフォローアップ会議のメンバー構成についても意見が出ており、フォローアップ会議の討議が、コンサルや大学教授等が中心になっており、上場企業の実務メンバーが入っていないことが課題であるので、企業サイドの委員も入れるようにとの内容です。少し乱暴な言い方をすると、企業実務を知らないメンバーだけで議論して、方向違いの方針を決定することは非常に問題であるいう不満かと思います。

しかし、経団連の意見は出されてはおりますが、改訂CGコードは東証から3月30日に公表された案で決定するように思えます。パブリックコメントが4月末までの募集とされていますが、その一方で、既に改訂CGコードで東証による企業向けの説明会が開始されているからです。

企業の実態に即していないという経団連の意見があるにせよ、上場企業は改訂CGコードに向けた対応が今後必要になります。

ここから本題に入るのですが、今回の改訂CGコードは、個人株主にとっても企業に対するアクティビズム活動をする大きな材料になっていくかと思います。

株主アクティビズムとは、企業に直接働きかけて改革を促すことで、株主リターンの向上を狙うことをいいます。より端的にいうと、企業に不採算事業の分離を迫り利益率改善による株価向上や政策保有株式の解消によるキャッシュの株主還元を提案してインカムゲインの向上を目指すといったようなことです。

今回の改訂CGコードでは、企業の配当性向を「〇〇パーセントにせよ」といったようにそれ自体が直ちに株主リターン向上に直結する改訂は入っていませんが、いずれの改訂事項も株主リターンに間接的には結びついていく内容と思います。そもそも改訂CGコードの前提として、上場企業の約700社がPBR1倍割れという現状の課題の改善があるかと思います。つまり企業の時価総額向上(=株価向上)を目指したものです。

改訂コードの十分な対応が出来ていない企業に対しては、個人株主も、有価証券報告書コーポレートガバナンス報告書、事業報告書などの開示書類から対応不十分な点を洗い出し、対応改善と企業価値向上を絡めて論理的に整理して株主提案をすれば、他の株主の賛同を得て、株主リターンの向上も期待し得ると言えます。

株主提案には、300単位の株式(1単位100株の企業の場合、30,000株です)が必要ですが、時価総額の小さい中小型銘柄企業の株式は、個人株主も複数名でお金を出し合えば、300単位を取得することもそれほど高いハードルではないと思います。

これらの企業は、必ずしもガバナンス体制に関する意識が高いわけでもないので、コーポレートガバナンス体制の整備も今後必ずしも十分には出来ないものと予想します。結果、政策保有株式なども特段の意識なく従来どおり保有継続する、または、意識はあるが対応の取り組みを行わないなどの結果、株主アクティビズムの材料を抱えることになります。

株主の立場の目線から、今回の改訂コードをもとに改訂コードの主な項目と株主リターンの向上の提案をどう結びつけることが出来るかの大まかな考え方を今週末を目途に、ブログで掲載してみたいと思います。

逆に上場企業サイドからいうと、特に中小型銘柄企業にとっては、このようなリスクが現実のものとしてあるということを認識して、しっかりとした対応を考える必要があると思います。

日立製作所が800社を超えるグループ会社の約4割を今後削減する方向

4月14日の日本経済新聞に「日立製作所が2021年度を目途にグループ会社を約4割を削減する方針」との記事がありました。

800社程度ある傘下のグループ会社を統廃合して、500社程度にまで削減するということです。日立製作所は800社もグループ会社があるということがそもそも驚きです。

日立製作所に限らず、伝統のある日本の大手企業は、多くのグループ会社を抱えていることが多いかと思います。グループ会社を保有する理由には、雇用の継続という大きな狙いが1つあるかと思います。

つまり、親会社本体で役職定年を迎えた社員の受入先としていることがあります。親会社で一定年齢を超えた社員を本体から子会社であるグループ会社に出向又は転属させて、給与を下げ、子会社で部長又は役員の役職を与えて雇用するというのは、伝統的な大手日本企業の慣行かと思います。

今回の日立のグループ再編では、間接部門を抱えて効率の悪さが目立っていたとのことで、これを解消することが狙いとあります。

機関投資家から見た場合には、役職定年後の50半ば過ぎの高齢社員をグループで雇用するためにグループ会社を持つということは、とんでもないという意見が出そうですが、この意見もどうかなとは思います。

そもそも企業の役割の1つは「人の雇用を継続する」ということがあります。企業の存続の根本は、従業員の雇用にあり、従業員のために存続するのが企業です。日本電産の永守会長も、雇用の場を提供するのが企業の役目ということを前に言っていたのを何かの記事で読んだ記憶があります。であれば、雇用を継続するため、本体から外してグループ会社で採用するということも一理あるようにも思えます。

しかし、上場企業の場合、コーポレートガバナンス改革の動きの中、株主の声が最近は非常に強く、株主価値向上、つまり利益増加にプラスにならないことは許されないというのが最近の風潮です。

日立の営業利益率は18年3月期には7.1%の見込みですが、海外の競合会社並の10%を目指すということのようです。

不採算事業の再編、カーブアウトは昨今のコーポレートガバナンス改革の目玉であります。不採算事業を抱えるということは、この事業の営業利益率の低さが会社全体の営業利益率に悪影響を与え、ひいては、ROEといった経営指標にもマイナス影響を与えます。

日本企業にはPBRが1倍を下回る企業は約700社存在するといわれており、これが問題であると言われています。投資家から見た場合、株価が低いので問題ということです。

PBR=ROE×PERで、ROEの構成要素の1つが売上高当期純利益率ですので、利益率の悪い事業を抱えるということは、ROEにマイナス影響を与え、PBRにも影響を及ぼすことになります。

改訂コーポレートガバナンス・コードでは、資本コストに見合った利益を生み出せない事業の撤退を検討することを促しています。また、経産省が進めているコーポレートガバナンスシステム研究会(第2期)では、グループとしての管理体制の見直しが検討されています。

日立がグループ企業の大幅削減を決定した背景は、新聞報道以外には分かりませんが、これらの最近のコーポレートガバナンス改革の動きも背景にあるように思えます。

不採算事業を抱えることは、アクティビストからもつつかれるリスクを抱えることになりますので、株主総会シーズンに入るこのタイミングで、将来、アクティビストが「物言う」に先立ち(アクティビストである投資ファンドが日立の株式を保有しているかどうかは私は知りませんが)、会社としてグループ会社の削減を公表したということであるかも知れません。

 

 

オーナー企業は一般企業(サラリーマン社長の会社)より収益性などが高い

4月14日号の週刊ダイヤモンドに「外国人投資家が熱視線 オーナー社長」とのタイトルの記事がありました。

さらっと読んだところ、海外機関投資家日本株投資では、オーナー社長を高く評価しているということです。

オーナー社長の反対語がサラリーマン社長ですが、記事では、日本経済大学大学院の後藤俊夫氏(聞いたことのない大学ですが、後藤氏は、東京大学ハーバード大学卒のようです)という大学教授の調べた結果として、上場企業の約6割がオーナー企業であり、比率でいうと、同族経営53%、単独経営10%、一般企業37%ということになっています。単独経営とは、創業社長以外に経営に関与しているファミリーがいない企業をいい、そして、一般企業の社長がサラリーマン社長ということです。

オーナー社長とサラリーマン社長の違いは、記事にも書かれていますし、誰でも常識的に知っていることですが、事業戦略、事業撤退といった大胆な戦略を策定・実施できるか否かが両者の大きな違いになります。

サラリーマン社長はどうしても任期があるので、OBなどに配慮して大胆な戦略を打ち出すことが出来ないが、オーナー社長は自分の思い通りの行動がとれるということです。本や雑誌に書かれていることで、特に目新しいことではないかと思います。

それよりも、この記事を見て少し驚いたのは、オーナー企業の方が、ROAROE流動比率といった点で一般企業を上回るというデータがあるという点です。

ROAとは総資産事業利益率であり、バランスシートの資産をいかに効率良く活用して利益を上げているかの指標になります。この数値が高いほど良いと言われています。

この明確な理由は、たしか記事には書いてありませんでしたが、オーナー企業の方が、不採算事業をカーブアウトするなどして、資産効率の改善を図ることが比較的容易にできる一方、サラリーマン社長である一般企業は、カーブアウトといった大胆な施策が打てないため、ROAも低いままにあるといったことが理由でしょうか。

コーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議では、不採算事業のことをゾンビ事業と指摘されている委員もいましたが、このゾンビ事業をなかなか切り離せないのが、一般企業であるということになるのかも知れません。

しかし、今は事業撤退といった事業ポートフォリオの見直しについて経産省金融庁
など政府が促進する動きにあります。であれば、一般企業であっても、この政府の後押しもあり、オーナー企業と同じように大胆な事業撤退、事業ポートフォリオの組み替えなどが今後は進んでいくのかも知れません。