今回からコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」といいます)の第4章「取締役会の責務等」について個別論点の解説に入りたいと思います。CGコードでは、取締役会の役割として企業戦略等の大きな方向性を示すことが求められています。
では、この具体的内容は何かといいますと、1つには中期経営計画があります。中期経営計画については多くの上場企業が策定しており、この先3年程度の業績の見通しですね。日本企業の場合、業績の見通しとして売上高、営業利益の具体的数値を開示しているケースが多いです。ファンダメンタル投資をされている個人投資家の方であれば見たことも多いかと多います。ここで問題が1つあります。
それは具体的数値を掲げるのは良いのですが、中期経営計画の数値が達成できずに未達に終わる場合が結構多いという点です。つまり、3年後の実績値が当初の見通しの数値を達成できずに終わる場合です。結構多いですよね。このような場合についてCGコードでは、補充原則4-1②に次の規定があります。
4-1② 取締役会・経営陣幹部は、中期経営計画も株主に対するコミットメントの一つであるとの認識に立ち、その実現に向けて最善の努力を行うべきである。仮に、中期経営計画が目標未達に終わった場合には、その原因や自社が行った対応の内容を十分に分析し、株主に説明を行うとともに、その分析を次期以の計画に反映させるべきである。
ポイントは太字の箇所です。会社は、中期経営計画が未達に終わった場合、株主にその理由を説明する必要があるのです。本来、当然と言えば当然ですよね。だって投資家は、中期経営計画に基づく企業業績に期待をして、現在の株価が割安と判断して株式投資をしているわけですので、それが未達となると投資の前提が大きく崩れることになり、つまり会社に裏切られたことになります。
しかも、個人投資家の場合には、機関投資家のように経営トップとの対話やIR取材の機会もなく、中期経営計画の進捗を確かめる場がないのです。機関投資家であれば、「この会社の中期経営計画は未達になりそうなだな」ということが企業との会話で判断できますが、個人投資家にはこのような機会や情報はほぼゼロです。であればこそ、未達の場合には企業は株主に対して、詫びるとともに未達の理由を説明する必要が本来あるのです。株式を買ってくれた株主に対するマナーとも言えます。
このように、CGコードでは、株主への説明が企業には求められているわけですので、株主としては、投資先企業の中計経営計画の数値が未達に終わった場合、その理由を投資先企業に質問してみてはいかがでしょうか。
欧米においては、数値が未達の場合には投資家からの訴訟リスクがあります。このため欧米企業は明確な業績予想値は示さず、「売上高XX%の成長」等のガイダンスを開示するケースが多いです。この点、日本企業は、訴訟リスクがないためか数値未達に対する責任の意識が乏しいですね。
「CGコードの補充原則4-1①に基づき説明してください」というと、企業の担当者はきょとんとする可能性大ですが(CGコードなど読んだこともないIR担当者はかなり多いので)、株主の正当な正当な権利行使ですので、個人投資家の方は上記の補充原則の規定を武器に企業に是非質問をしてみて下さい。それにより、企業が次の中期経営計画を策定する時の意識も大きく変わると思います。