先日、三ツ星の有事導入型の買収防衛策に基づく対抗措置の差し止めが最高裁でも認められましたね、つまり投資ファンド側が勝訴したということです。事前警告型の買収防衛策を廃止して有事導入型を検討する企業は、有事導入型がどういう場合に使えるのか、つまり裁判になった時に負けないためのスキームに十分に整理しておく必要があると思います。
さて、今回からコーポレートガバナンス・コードの「第4章 取締役会等の責務」について、複数回にわたりポイントを説明します。個人投資家がアクティビストである投資ファンドと同じようにコーポレートガバナンス・コードを自分の武器にして、投資先企業の中長期の企業価値向上に向けた提案をするための視点です。まずは、第4章の出発点であるコーポレートガバナンス・コードの基本原則4について確認します。
【基本原則4】 上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、 (1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと (2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと (3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うことをはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。
この基本原則4から始まる第4章は結構大事ですね。大事というのは、個人投資家にとって投資先企業の中長期での企業価値向上を求めていく上での材料の宝庫ということです。
投資先企業の取締役会が企業価値向上に向けての十分な仕組みを備えていない、または仕組みはあるが運営が十分に出来ていないとして、色々な指摘や提案が出来るネタが沢山あるということです。会社側としては十分な理論武装をしておかないと「ヤバい」ということになります。
取締役会はコーポレートガバナンス・コードの肝の1つでありますが、その理由は何でしょうか? コーポレートガバナンス・コードが制定された背景、趣旨から考える必要があります。文章で書くと長くなるので、以下、箇条書きで紹介します。
- 日本企業の生産性は低く、これが日本経済全体の足を引っ張っている
- 日本企業の「稼ぐ力」、つまり中長期的な収益性・生産性を高めて、果実を広く国民にいきわたらせる必要がある
- そのためには経営者のマインドの変革、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しする仕組みの強化が重要
- 内部留保を貯め込むのではなく、新規の設備投資、大胆な事業再編、M&Aを積極的に活用すべき
- このようにして企業の「稼ぐ力」の向上を進めるには、社外取締役の積極的な活用を経営戦略の進化に結び付け、取締役会が実効的に機能する必要がある
上記内容は、2014年の日本再興戦略の記述の一部を私の方で少し表現を変えましたが、平たく言えば、社外取締役を取締役会に招聘して、多様性を持った取締役会で戦略を立案し、その下でCEOがリスクテイクをし、それが適切になされているかをモニタリング(監督)するのが取締役会のあるべき姿であり、こうすることで中長期的な企業価値を向上させるといったところかと思います。まずはここをしっかり理解する必要があります。
取締役会の役割・機能はコーポレートガバナンスの肝であり、第4章では色々なことが原則、補充原則で規定されています。まずはこれを念頭に置いて、どういう材料がこの第4章でちりばめられているのか、個人投資家はどういう視点で投資先企業のコーポレートガバナンスを見ればよいのか、次回からじっくり見ていきたいと思います。