中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

買収防衛策の有効期間満了前の廃止 ー 稲畑産業が22年6月の前に廃止決定

本日の日経平均株価終値は前日比909円安の28,608円と結構大きく下げ、私の保有銘柄も軒並み大きく下げました。本来であれば、この下げ局面で買い増しをすべきですが、本日は仕事が忙しく、昼休みに買い注文を出す余裕が全くありませんでした。先日、アマゾンで注文した米投資家のブーン・ピケンズが1987年に書いた「ブーン わが企業買収哲学」(早川書房)が本日届きましたので、週末に読み進めたいと思います。

本題ですが、本年の定時株主総会終結の時をもって買収防衛策の更新期限が到来する企業の中で廃止を決定する企業が増えていますが、本日は稲畑産業時価総額:約1,000億円)が買収防衛策の廃止を公表しました。興味深いのは、この会社の買収防衛策は2022年7月末までが有効期間なのですが、本日時点をもって廃止することを決めたようです。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/8098/tdnet/1963462/00.pdf

買収防衛策を廃止する企業のほとんど全てが更新期限の到来に伴い廃止しているのですが、稲畑産業は1年以上の有効期限を残して廃止しました。こういう企業もいずれ出てくるかなと思い、昨年のこの時期も廃止企業のプレスリリースを時々見ていたのですが、昨年は目にしませんでしたが、とうとう出てきたかという感じです。廃止の理由として、プレスリリースに次の記述があります。

更に、新しい中期経営計画NC2023のスタートに伴い、当社を取り巻く経営環境の変化や買収防衛策に関する近時の動向、そして何より国内外の株主及び投資家の皆様のご意見を考慮し、本対応方針の在り方について慎重に検討した結果、株主共同の利益確保における本対応方針の必要性が相対的に低下したものと判断し、本対応方針の有効期限を待たずに、本日をもって廃止することといたしました。なお、当社は、本対応方針の廃止後において、当社株式に対して大規模買付行為が行われた場合には、当該行為の是非を株主の皆様が適切に判断するための十分な情報及び検討のための時間を確保するよう努めるなど、金融商品取引法会社法等の関係諸法令の許容する範囲内において、適切な処置を講じてまいります。

太字の箇所は私がハイライトしたのですが、ここが廃止の理由の肝です。つまり、機関投資家の買収防衛策に対する批判的意見が非常に高くなっています。機関投資家と対話をしている企業はご存じですが、「買収防衛策は廃止しないのか?」「どういう条件になったら廃止するのか?」という質問が多くの機関投資家から出ます。知り合いの複数の機関投資家の方と話をしたところ、買収防衛策を有する企業と対話をする場合には、必ず聞くようにしているということでした。このような状況なので、買収防衛策はESGの中の「G」の評価にネガティブ影響を及ぼす可能性もあり得ます。もっとも今のところ買収防衛策があるため、投資を引き上げたという話は聞いたことはありませんが、近い将来、そういう話に発展する可能性もゼロではないと言えます。

買収防衛策は経営陣の保身のためではなく、十分な情報と時間を確保するためのものであるというのは機関投資家も百も承知ですが、それでも「廃止せよ」というのは、機関投資家にお金の運用を委託しているアセットオーナーからの廃止の声が強いからです。

株式の持ち合いの解消が進む中、敵対的買収も増え、これに賛同する伝統的な機関投資家が確実に増えており、買収防衛策の必要性も従来と比較して格段に高まっているのは事実です。しかし、その一方、実際に上場企業3,700社の中、買収防衛策を有する企業は1割もいないという事実があります。また、機関投資家は企業の重要なステークホルダーであるところ、買収防衛策に反対する機関投資家の声を全く無視することも出来ないという事実もあります

こういう環境下で企業としてどう判断すべきかは非常に悩しいところかと思います。TOBルールの不十分なところもあります。従い、法改正であったり、有事導入型の買収防衛策について、そろそろ経済産業省法務省あたりが検討を開始してくれると本当はよいのですが、そういう流れにはまだ向かわないのでしょうか?