株主総会シーズンということで日経新聞で「コロナと総会」というタイトルで株主総会関連記事が掲載されていますが、6月16日の記事でスキルマトリクスについて書かれていました。
取締役のスキルマトリクスとは、事業報告の取締役一覧や総会招集通知の取締役選任議案において、その企業の取締役全員の名前が縦軸にあり、横軸に専門分野として、営業、購買、財務などが書かれ、該当に「〇」が記載された一覧表をいいます。
新聞報道では、2019年はおおよそ20社がスキルマトリクスを開示していたが、本年6月には48社に増加しているようです。このスキルマトリクスが増えている理由は何でしょうか?
それは機関投資家からの強い要望です。欧米企業ではスキルマトリクスを開示している企業が多いと言われております。一方で、日本企業の場合は、取締役選任理由において、取締役の経歴がつらつら書いてありますが、結果として、文章が長いだけで、どの候補者も同じような選任理由の場合がとても多いです。そうであれば、ぱっと見て専門性がすぐに分かるマトリクスを作成してほしいということです。
機関投資家は株主総会シーズンには、数百社の投資先銘柄の招集通知を見て、議決権行使をするため、なるべく効率的かつ短時間で招集通知を見て判断したいと考えています。私も投資先銘柄の招集通知をいくつか眺めると、「この取締役の専門分野は何?」ということがほとんどです。
一方、企業がスキルマトリクスに躊躇する理由は、スキルマトリクスだとあまりに単純化されて見られてしまうことを懸念しています。会計士、経営コンサルタントなどのプロファッショナルと異なり、サラリーマンの場合は、専門的な分野はあっても、取締役になる過程で、腰掛け程度であっても、いくつかの部門を経験することが多いと思いますが、スキルマトリクスにするとどこまでを専門分野にすべきか判断に迷うところでしょう。スキルとして「購買分野:〇」とした場合、それ以外の分野は専門分野でないとみられることが気になるのだと思います。また、横軸の専門分野をどこまで詳細にすべきかも迷うところです。
普通の事業会社のサラリーマンには、弁護士、公認会計士、外資系の投資銀行マン、エコノミストのような高度のプロフェッショナルな知識・経験は求められていないのだから、そんなことまで気にする必要はないと機関投資家は思うのでしょうが、企業サイドは気にするのだと思います。小さいレベルの話かも知れませんが、いずれにせよ、機関投資家の要望は強くなっているので、今後はスキルマトリクスは益々増えていくように思います。