中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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京セラがISS社への反論を掲載 ー 政策保有株式の保有の合理性を機関投資家に説明する際のポイントは? 

先週新聞報道もありましたが、議決権行使助言会社のISS社が京セラの社長選任議案に対して反対推奨を出していますが、これに対して京セラが反論のプレスリリースを次のとおり公表しています。

https://www.kyocera.co.jp/ir/news/pdf/230607_letter.pdf

ISS社は企業からの反論に対して一切コメントをすることはなかったかと思いますので、今回もこれに対する回答は当然しないかと思います。京セラとしては、折角反論をしても機関投資家に反応してもらわないと徒労に終わってしまうので、国内外の機関投資家に対しては、個別に説明をするのかも知れません。

京セラの反論のポイントの1つは、政策保有株式の縮減を進めていることを強調している点です。これはどこの企業もやっているので目新しい主張ではないかと思います。それよりも興味深いのは、KDDIの株式の点です。該当箇所をプレスリリースから抜粋します。

 当社は、「人類、社会の進歩発展に貢献すること」という経営理念のもと、戦略的かつ社 会的な事業投資として第二電電株式会社(現 KDDI 株式会社)を設立して以来、同社株式を保有しており、同社の事業発展に伴い同社株式の価値が増加した結果、当社の現時点における連結純 資産額に占める割合は増加しております。 従いまして、当社は、同社株式を相互保有や持合いを目的として保有しておらず、また、同社との取引を目的として保有しているものでもないため、ISS 社がその英文レポート上で「CROSSSHAREHOLDINGS(株式相互保有)」と称している点は明らかに該当しないものと判断しております。 また、当社は、取締役会において保有の適否を検証した結果、同社は当社の持続的な成長戦略 において重要な役割を果たすパートナーであり、現時点では中長期的な企業価値の向上に向けて 同社との戦略的連携を追求するとともに、当社の持続的成長に必要となる投資資金の調達に活用 するためにも、同社株式の保有を維持するとの考えに至っております。

一見するとなるほどとは思います。ただ、私がもし機関投資家であれば、政策保有株式を保有する理由としてはこの記述では納得はしないと思います。政策保有株式が多いということは資産が重くなるということです。これはROEにマイナスの要因になります。投資家に示すべきは、ROEを犠牲にしてまでも政策保有株式を保有することの合理性です。。京セラは色々と検討の上でこういう表現にしたのだと思いますが、KDDI株式の保有によりROEが向上するか、つまり資産が重たくなる一方で保有により営業利益率にどの程度プラスに寄与しているかを説明しないと機関投資家はなかなか納得しないかなと私は感じます。これは政策保有株式を潤沢に保有する多くの企業についても言えることだと思います。

企業各社の株主総会が今週から始まりますが、政策保有株式の多い企業に対しては、政策保有株式の保有の合理性について上記のような視点から質問をすると面白いと思います。個人株主・投資家の方は保有先銘柄の総会で質問してみて下さい。機関投資家株主総会には参加できませんが(名義株主でないため)、機関投資家と対話をすると政策保有株式は大きな関心事項の1つですので、個人投資家の方も関心を持つべき事項かなと思います。