中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

物言う株主(アクティビスト)の視点からのコーポレートガバナンス・コードの読み方(第7回) ー 有事導入型の買収防衛策は?

前回の第6回で事前警告型の買収防衛策の問題についてお話をいたしました。その際に最近は有事導入型が増えていることに触れましたが、今回はその有事導入型についてお話をしたいと思います。

有事導入型とは、平時には導入していないところ、株式の大量買付者が出現した時に取締役会の決議で急遽、買収防衛策を導入することです。大量買付者にとっては不意打ちとなるため、少し前までは「後出しジャンケン」と言われたりしていました。最近、この有事型の導入・発動の案件が増えています。背景は何でしょうか?

敵対的買収の増加が背景にあります。以前には、敵対的買収はこの15年ほど極めて少なかったのですが、ここ最近は増えています。敵対的買収でアドバイザーを引き受ける証券会社も増え、また、スチュワードシップ・コードで議決権行使結果の個別開示が求められ、敵対的買収に対しても機関投資家は、経済合理性に基づき議決権行使をすることが求められていることがその背景です。

敵対的買収の増加にあって、事前警告型を導入していない企業が企業防衛をするには有事導入型しかないというわけです。

買収防衛策は平時に株主総会で株主の賛同を得ておくべきというのがこの10年の実務でしたが、この1年間で有事導入型の有効性を認める裁判例も出てきました。詳しいところは、「旬刊商事法務」という法律雑誌に大手法律事務所の弁護士や会社法専門の大学教授が記事を書いているのでそちらを読んで頂ければと思いますが、ごく簡単にいうと、取締役会決議で導入した後に、速やかに株主総会を開催して、そこで買収防衛策の導入と対抗措置の発動について株主の過半数の賛同が得られた場合には、裁判になっても対抗措置発動が有効とされることが多いです。

最近の例ですと、富士興産とアスリードキャピタルの事例、東京機械製作所アジア開発キャピタルの事例などで有事導入型で会社が勝訴しています。いずれも、有事に導入した後に株主総会で株主の賛同を得ております。

では、有事導入型については機関投資家はどう判断するのでしょうか?事前警告型には反対だから有事導入型にも反対なのでしょうか?

全ての機関投資家の議決権行使基準を見たわけでないのですが、有事型はケースバイケースで判断する機関投資家が多いと思います。つまり、その事案毎に敵対的買収者の提案に合理性があれば、総会での買収防衛策議案には反対し、会社側の企業価値向上施策に合理性があると判断すれば、買収防衛策議案に賛成するということです。

「有事導入型の有効性も認められているのだから、事前警告型は不要ではないか」という意見も機関投資家からは出ています。けど、会社側としてはその時になってみないと勝つか否か分からないと有事型は不安ですよね。そういうことを考えると、有事でない平時の場合にとりあえず買収防衛策を導入しておきたいということになります。気持ちは非常に良く分かります。けど事前警告型は批判が強いのです。

では、企業はどうすべきかというと、2つあると思います。

1つ目は何が何でも、極端な話、総会での議案賛成率が51%であっても事前警告型を導入しておくということです。50%台の賛成率を恥と考える上場企業の経営トップは非常に多いと思います。それが普通の感覚だとは思います。けど、そんなことは気にしないのです。過半数あれば法的には何の問題もないのですから。という精神で可決することに注力するということがあります。

2つ目は、有事の際に備えて、有事導入型を発動できるよう準備をするとともに、常日頃から自社の中長期保有機関投資家とコミュニケーション(エンゲージメント)を密にとっておくことです。そうすることが、有事型の場合に、企業側の企業価値向上施策に機関投資家が賛同を示す可能性を高めることに繋がります。常日頃から会社の事業の現状や見通しについて、理解して貰うということです。個人的には2つ目の施策をお薦めします。以上で買収防衛策のお話はこれで終わりになります。