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2019年6月以降に発行される上場企業の有価証券報告書の見るべき改正箇所-第2回

前回の更新日からだいぶ日が空いてしまいましたが、本日は、有価証券報告書の記載の改正箇所の中、政策保有株式について紹介いたします。

従前より、有価証券報告書コーポレートガバナンスの概要の箇所においては、政策保有株式の概要を記載することになっており、おおまかに言いますと、政策的に保有する上場会社株式について大きい順に上位30銘柄を記載せよというものです。これが本年3月期からの有報証券報告書では、次のように改正されます。

  •  純投資と政策投資の区分の基準や考え方の開示
  • 政策保有に関する方針、目的や効果、保有の合理性を検証する方法や取締役会等における議論の状況 
  • 開示基準に満たない銘柄も含め、売却したり、買い増した政策保有株式について、減少・増加の銘柄数、売却・買い増した株式それぞれの合計金額、買い増しの理由等
  • 個別の政策保有株式の保有目的・効果について、提出会社の戦略、事業内容及びセグメントと関連付けた定量的な効果の説明
  • 個別銘柄の開示対象を30から60に拡大
  • 提出会社が政策保有株式として株式を保有する相手方による当該提出会社株式の保有の有無

 大きな改正かと思います。

開示銘柄数が60銘柄に増えることも大きいですが、4つ目にある「個別の政策保有株式の保有目的・効果について、提出会社の戦略、事業内容及びセグメントと関連付けた定量的な効果の説明」と6つ目にある「提出会社が政策保有株式として株式を保有する相手方による当該提出会社の保有の有無」が対応が苦慮されると思います。

 4つ目の方ですが、定量的な効果の開示が求められておりますが、そもそも政策保有株式は定性的な理由から保有しているケースが圧倒的に多いのが現状かと思います。

政策保有株式の保有の合理性については、昨年6月に改訂のコーポレートガバナンス・コードに基づき、一応、上場企業は、定量面と定性面の両面から保有の合理性を検証していますが、この2つの中で各社が重視しているのは「定性評価」です。

定性評価とは、要するに数値以外で評価するわけですから、過去の保有の経緯や取引の重要性などの「ふわっとした」理由から総合的に考慮して「保有の意義がある」とするものです。

昨年の12月までに改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえたコーポレートガバナンス報告書を見ると、検証の内容があまりに抽象的な企業がほとんどです。

私が投資している時価総額120億円のある銘柄のコーポレートガバナンス報告書を見ると、「保有株式については、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかなど、取締役会で定期的かつ継続的に検証し、その結果に基づいて政策保有株式の継続または縮減を決定します。」とあります。

 どういう検証をしたのか不明で、意味不明です。

中小型銘柄で政策保有株式を潤沢に保有するコーポレートガバナンス報告書を見ると、ほとんどの企業の開示が、これと大差ないものばかりです。

政策保有株式などは過去の経緯があり保有している、または保有させられているのですから(中小型銘柄企業の場合には保有させられているケースの方が圧倒的に多いでししょう)、保有の合理性などはなく、検証など出来ないことは当然と言えば当然ではあります。今後は、定量的に効果を開示しろということになるので非常に開示の内容が悩ましいかと思います。

次に6つ目ですが、これも大変に悩ましい対応が求められると思います。開示自体は、保有の有無を記載すれば足ります。問題は次のステップです。

保有の意義を投資家から説明が求められた場合、互いの企業の説明に齟齬があると、「保有の意義はあるの?」という指摘を受けることになります。従い、双方の企業間で、保有の意義について一定程度の擦り合わせをしていないと、政策保有株式の解消を目論むアクティビストなどが攻撃をしてくる場合には、耐えられません。

かといって細かい擦り合わせをするのも大変でしょうから、結局は、「取引の重要性に鑑み保有」などといった「ふわっとした」回答をすることになるのだと思います。

 このように今回の改正では、政策保有株式を保有し続けることのハードルが一段と高くなってきていると思います。

 政策保有株式は現金と同じに見られるため、ネットキャッシュが大きい場合には、政策保有株式は売却して、キャッシュは株主に還元せよという株主提案が株主からあった場合、機癇投資家もこれに賛同せざるを得なくなるという流れが益々加速するように思います。

 次回は、政策保有株式と同じく19年3月期の有価証券報告書から適用される役員の報酬について紹介します。