コーポレートガバナンス、株式投資、企業価値、IRなどに関する投資家目線での実務ニュース ー 強い意志のある投資を目指して

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2019年6月以降に発行される上場企業の有価証券報告書の見るべき改正箇所 - 第1回

2019年1月31日に企業内容等の開示に関する内閣府令の改正があり、有価証券報告書での開示事項が改正されました。

今回から数回に分けて、株主・個人投資家の方が、本年6月下旬以降に発行される(3月末決算期の場合)投資先企業の有価証券報告書の見る上での参考になればと思い、改正概要及びポイントについて紹介します。

本日は、まずは概要について紹介します。主な改正事項は、次の6つです。

(2019年3月期から強制適用)

  • 主要な経営指標等の推移(株主総利回り(TSR)、株価推移)を記載
  • 役員報酬に係る情報:経営陣の報酬内容、報酬決定プロセス、業績連動報酬の指標等を記載
  • 政策保有株式(株式の保有状況):個別の政策保有株式の保有目的・効果、合理性検証の取締役会の議論の状況等を記載

(2020年3月期から強制適用)

  • 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 :企業構造、市場状況、競合他社との競争優位性、顧客基盤等について記載
  • 事業等のリスク:主要リスクについて、当該リスクの顕在化する可能性の程度・時期、当該リスクが顕在化した場合の経営成績等の状況に与えるリスク、当該リスクへの対応策等の具体的かつ分かりやすい記載
  • 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A):経営方針・戦略等の内容のほか他の記載項目の内容と関連づけて記載する

2020年3月期の改正についていいますと、要するに各社の現状の開示がひな型的かつ形式的な内容になっており、具体性が欠けているので、それをより投資家に分かりやすい具体的な開示にせよというものです。

「事業等のリスク」などは、投資家にとって自分の投資先企業のリスクで重要な情報かと思います。しかし、多くの企業の現在の開示内容を見ますと、為替リスク、テロのリスク、訴訟リスク、貸倒リスクなどが非常に沢山、かつ、つらつらと書かれています。

そもそも、テロなどは、いち民間企業が対応できるリスクの範疇を超えており、また、貸倒リスクなどは現金商売でもしていない限り、全ての企業が抱えるリスクです。

そんなものを有価証券報告書のリスクにあげている真意は不明ですが、とりあえず、リスクと思われるものは何でも書くことで、万一、リスクが発生しても「当社は有価証券報告書にリスクとして開示していました。その上で投資されたんですよね」とリスク回避の反論をしたいのかも知れません。

いずれにせよ、ここを真剣に読んでいる投資家などいないのが現状かと思います。私も自分の投資先企業のこの箇所の記述について真剣に見たことはありません。

ちなみに、良い開示例をしている企業として、金融庁が2019年3月19日に「記述情報開示の事例集」を公表しています。それによると「事業等のリスク」の開示については、次の企業が良い事例としてあげられています。 

三菱商事ソニー日本郵船日本航空日本たばこ産業三井化学住友化学三井物産カゴメ、キリンホールディングなど」

 私は、個人的には、改正事項の中で、役員報酬の開示と政策保有株式の開示が非常に企業に影響が多いように感じています。

政策保有株式の開示の改正については、企業の安定株主の解消が一層進む気がしますし、役員報酬の開示の改正については、業績低迷する役員の報酬に益々厳しい目が向けられることになるかと思います。

機関投資家及び個人投資家の双方にとって、投資先企業の今後の在り方を把握する上で、また、その上で株主として投資先企業に質問や法的な提案をする上でも、有用な材料かと思います。

 次回、政策保有株式と役員報酬の箇所の改正について、詳しく紹介したいと思います。

 ところで、有価証券報告書の改正の話をしても、肝心の有価証券報告書を読んだことがないという人には全く意味不明の内容になります。今週末から10連休に入る方も多いと思いますので、この連休中に自分の投資する企業の直近の有価証券報告書を一度じっくり読み、どういうことが記載されているのかを理解すると改正内容もよく分かると思います。