物言う株主であるオアシス・インベストメンツがGMOインターネット株式会社(以下「GMO」)の定時株主総会で株主提案を行い、結果としてGMOでの株主総会では否決されたことは以前にブログで書いていますが、4月6日にGMOのホームページで熊谷社長が総会当日に株主総会で行ったプレゼン資料及び動画がアップロードされました。
買収防衛策の株主提案は、否決はされたものの高い賛成率であったことから、機関投資家の買収防衛策に対する反対姿勢が非常に高まっていることが判明した案件ですが、指名委員会等設置会社への移行の株主提案もあり、結果としてはこれも否決されたのですが、熊谷社長の説明を聞いて気付いた点があります。
指名委員会等設置会社とは、執行と監督を分離して、社外取締役を中心にした機関設計ですが、これをオアシスは提案していました。これに対して、熊谷社長のコメントは、次のような内容になっています。
<GMOの3月12日の定時株主総会での熊谷社長のコメント(GMOのホームページからの一部抜粋)>
「2017年3月31日に経済産業省が公表した「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務方針」などの、いわゆるガバナンスの教科書には、監督と執行の分離、即ち執行部門の責任者が取締役になるのは望ましくないと書かれています。しかしながら、変化の激しいインターネット業界において「勝つ」ためには、その環境の変化に応じて猛スピードで意思決定を行い、猛スピードで組織として自走しないと勝てないと考えています。当社グループは上場9社、連結104社からなるグループ経営を行っています。各分野のプロフェッショナルが集まり、権限を分散して競合よりすばやく意思決定し、実行に移しています。仮に監督と執行機能を分離した場合、社外取締役だけでこの速い業界の迅速な意思決定ができるでしょうか。変化の激しいインターネット産業と当社グループの強み、この両方を知り尽くしている社外取締役は、残念ながら私にはどうしてもイメージが沸きません。教科書に書いてあることが、すべての企業に当てはまるとは限りません。実績の出ている組織や仕組みを、「教科書と違う」ということだけで否定し、壊すことは避けなければならないと強く思っています。」
私はこれを読んでなるほどと思いました。
米国型のコーポレートガバナンス体制を最近の日本のコーポレートガバナンス改革では採用を促進するような風潮もあり、取締役会は、戦略的意思決定及び監督機能の強化に注力すべきであり、そのためには社外取締役を増員し、その関与度合いを強くせよというのが最近の動きです。
しかし、GMOのようにインターネットという非常に事業のスピードの速い業界では、社外取締役は必要かというと「必ずしも必要ではない」と思いました。
インターネット関連企業の成長は、時代の先を読む能力に非常に長けた経営トップに依存するところが大きく、いわゆる重厚長大型の企業とは大きく産業構造が異なります。このような中で、事業経験のない者、大学教授などが社外取締役に入っても、「本当に効果があるの?」と思ってしまいます。また、他業界の大手企業の経営トップの元経営者であっても、そもそも年齢も高齢の上、事業スピードの全く異なる業界の経験者などでは、ほとんど役に立たないというの現実かと思います。
とすれば、GMOといった業種には社外取締役が入ることは、事業のスピードを遅くすることにつながり、かえって弊害が多く、事業戦略の立案に全く寄与しないことになると思われます。
この熊谷氏のコメントを見て、私はなるほどと納得しましたが、同じように事業環境の変化の早い業界も他にあるかと思います。こういう企業では、異業界の大手企業の元経営トップが社外取締役に入ったような場合、とんちんかんな発言をするとスピードある経営判断に支障をきたします。人は、自分の存在意義を示すために自分の得意領域に議論を持っていく傾向があると良く言われますが、特に地位やプライドの高い人であれば、そのような傾向が強いのではないでしょうか。
要は、社外取締役が戦略策定において有用であれば増やせばよく(重厚長大産業の大手企業のように事業基盤がしっかり出来ていて、更なる業務管理の改善やコーポレートガバナンス体制の充実に取り組む企業など)、そうでなければ、会社法で定める最低限の人数を置いておけばよいのです。
自社が社外取締役に何を期待し、その期待を果たせる能力・経験のある人がいれば積極的に起用すれば良く、いなければその理由をきちんと機関投資家に説明すれば、資本市場関係者の理解は得られはずです。
もっとも、とりあえず世間の動きに合わせるために無難に社外取締役の数だけを増やしておこうという考えも1つあるかと思いますが、この場合には、「意識の高い元気な方」などを間違って起用しないよう注意する必要もあるかと思います。