コーポレートガバナンス、株式投資、企業価値、IRなどに関する投資家目線での実務ニュース ー 強い意志のある投資を目指して

コーポレートガバナンス、中長期での株式投資、企業分析、企業価値評価、IR等について、新聞記事を中心に投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

ESGアクティビズムの動き

2月6日付の日本経済新聞で「ESGアクティビズム」の記事がありました。
 
ESGアクティビズムとは、特に正式な法律用語などではなく、ESG情報をベースに上場企業にアクティビズム活動、つまり物言う株主として提案をすることをいいます。
 
記事によれば、米アップルの取締役会に「子供がスマートフォンをしすぎて勉強しないので規制などの対策が必要」との提案をしたとのことです。そして、この提案をしたのが、物言う株主であるジャナ・パートナーズとカルフォルニア州教職員退職年金基金のカルスターズとのことで、公的年金とアクティビストが歩調を揃えている点が非常に注目すべき事項とのようです。

公的年金は、ヘッジファンドと異なり長期で企業の株式等を保有することになりますが、長期保有においては、単に目先の業績だけでなく長期に亘って企業の成長を見る必要があります。「ESG投資」はリターンとの関連性はないというのが多くの機関投資家の意見であるかと思いますが、一方、「ESG情報」自体は企業の長期での成長においては、土台となる非財務情報になります。公的年金は超長期で資金を運用する機関投資家ですので、超長期の株式運用では、ESG情報に当然ながら関心があります。
 
要するに、アクティビストに運用資金を委託するアセットオーナーである公的年金は長期での運用を志向しており、アクティビストは、この公的年金の後ろ盾もあり、ESGに関する要求をしながら、この「要求の箱」の中に事業のカーブアウトや株主還元など色々と企業をつつくネタを入れてきて、要求を通すということになるかと思います。さらにESG投資をさらに後押しするのが、ミレニアム世代といわれています。
 
ミレニアム世代とは1980~2000年生まれの世代をいいますが、この世代は物事を金銭価値の側面だけで見るのではなく、企業に透明性をより強く求める傾向が強いと言われています。企業の透明性を見る上では、ESG情報といった非財務情報はベースの情報になり、ミレニアム世代はESGの考えに親和性をもっているので、公的年金のいうESGの意見とベクトルがあっています。

ESGという言葉を懐疑的に見ており、「ESG情報の開示など関心なし」と見ている企業も大変多いと思います。しかし、この点はあらためて、きちんと考え直す必要があります。
ESG情報の開示とは何も新しい取り組みをする必要はなく、企業で日常当然のこととして扱っている非財務情報を開示すればよいのではないでしょうか。これらの情報は、社内では当り前の情報ですが、社外の投資家から見た場合には、分からないのです。つまり情報の非対称性が大きいということです。
 
このあたり前の情報を開示しないと、アクティビストが変な要求をしてきて、企業で想定していないような社会問題・環境問題対応を企業は迫られるリスクがあります。
以前には、米エクソンモービルに対するアクティビストによる「気候変動の規制の業績に対する影響を開示せよ」との株主提案に対して、株主の62%の賛同を得たということもあります。
 
この事例の詳細まではわかりませんが、ここから言えることは、投資家が必要とする情報を開示していない場合、株主から提案があると他の株主も何も情報がないため、勢い賛成にまわってしまうということが言えるのではないでしょうか。「何だか分からないけど、とりあえず『環境について開示せよ』との株主提案であるので、とりあえず賛成しておくか」ということです。
アクテビストの意見に株主が賛同する前に、企業は資本市場で求められていることを察知し、アクティビストに先んじて必要な情報を日常から開示しておくのが大事になると思います。
 
ESG情報の開示に過度に力を入れる必要もないのですが、上場企業は、ESGといった非財務情報についてどのような開示や取り組みが資本市場で求められていることをきちんと把握し、この資本市場での要求を充足する必要最低限の開示対応をしておくことは、必須になるのではないでしょうか。